俺の部屋はニャンDK 

白い黒猫

文字の大きさ
上 下
23 / 62

路の上にいたもの……

しおりを挟む
  暴力的な暑い夏の後、夏の名残を残し半袖でも過ごせた秋を一月ほど続いていた。しかしその後にいきなり身体を震わせる凍える冬がきた。
 バイトを終え寒さに身体を震わせながら早足で帰る。そして俺はアパート前の道で蹲っている猫の姿に気が付いた。
 丁度街灯も灯ってない場所でその猫が誰か分からないなにか黒っぽいモノの横に蹲っている。
 顔を何かに埋めるように動かしている。
 ゴミを漁っているのだろうか?  おかしな物を食べてお腹を壊したら大変である。
「モノ?」
 疑問形になったのはモノっぽいが、少し柄が違って見えたから。前足やお尻の部分など黒い部分が多い。
 アパートの外で、しかも路の真ん中で座り込む事があまりないから。サバ程でなくても、モノも警戒心は強い猫。

  その猫は俺の声に顔を上げ俺を見て、小さくウニャ~ンと鳴く。声の感じもモノだ。しかし顔も何かで汚れているようで口の周りも黒く見えた。
「モノ、またそんなに汚して何しているんだよ」
  話しかけて近付き、俺はモノを抱き上げると、何とも言えない不快な感触がする。
 モノは酷く汚れていたようで、手についたベッタリとした液体に顔を思わず顰めた。
 そして下を見てモノが擦り寄っていた黒い物体の正体に気がつき、俺の身体中の血が凍りつく。
 身体も思考も凍結したように固まっているのに、吹き上がってくる強すぎる感情が対処出来きない。
 ソレを悲鳴として口から放出するしかなかった。

「ウヮァァァァォア」

 それは自ら流した血の水溜まりの中にいるサバだった。暗くて状況はハッキリとは見えないが、足が有り得ない方向に曲がっているのは分かる。

「サ、サバ? な、なんで? どうしたの? 何があったの?」

 意味の無いことを、話しかけながらモノを抱きしめたまま身体を屈め、サバに恐る恐る触る。
 身体はまだ温かかった。その身体が上下している。とは言え、まだ生きてい事に喜べる状況ではとてもない。
 意識もなくグッタリとして触っても反応もない。しかも片方の後ろ足は捩れ異様に長くなっている。

「トラ! どうした!  ウッ」

 俺のあげた悲鳴を聞き飛び出してきてくれたシングが近付いてきて、サバを見て同じように声をあげる。
 後から出てきたスアさんが慌てて階段をあがり二階のジローさんを呼びにいった。その音でタマさんとシマさんも出てくる。

 スアさんが持ってきてくれたタオルに二匹を包みそれぞれダンボールにそっと入れる。
 ジローさんが連絡した知り合いの動物病院に運ぶ為に。心配する住人に見送られながら、ジローさんと二匹を病院に連れていった。

 血まみれに見えたモノだったが、怪我はまったくなかった。
 サバを舐めて手当することで血で汚れただけという。しかしサバは重体だった。車か何かに轢かれたようだ。
 左後ろ足の骨は折れて、骨の一部が皮膚を突き破り外に飛びだしていた。どのくらいあの状況でいたのか分からないが出血がひどいため意識が混沌としている。
 あの太々しい生意気さは影もなく、サバがグッタリとして台に横たわる姿に言葉もない。

 医者というより大工の棟梁と言った方がシックリくる、ガッシリした体格と厳つい顔の医者は大きく息を吐く。
 優しさ柔らかさが一切ない表情で俺とジローさんをジロリと睨むように視線を向けてきた。

「で、治療するのか?
 それとも安楽死させるのか?」

 詳細を聞き呆然としていた俺達に医者は衝撃的な質問を投げかけてきた。

「は?」

 医者の言っている言葉が理解出来ず、思わず聞き返す。
 治療しに貰いに来て、何故殺す相談をしてくるのか。俺は医者を思わず睨んでしまったのは仕方がないと思う。
「この猫は地域猫だよな? それにお前らは安くはない治療費を払って治療をする気か? この猫は助けると言っても断脚することになる。
 そんな状況でまた野良生活に戻すのか? もし自己満足な人間のエゴだけで助けるというのならやめろ」
 医者の言葉にガツンと後頭部を激しく殴られたような衝撃をうける。助ける事がエゴなのか? 身体から力が抜けるのを感じた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

処理中です...