俺の部屋はニャンDK 

白い黒猫

文字の大きさ
上 下
16 / 62

猫が山盛り〜♪

しおりを挟む
 猫山盛り~♪ 何が山盛り~?
 メシが山盛り~? ニクが山盛り~?

 チャウチャウ、ネコが山盛り!

 何処で山盛り~? 猫が山盛り?
 塀で山盛り~♪ 柵で山盛り~♪

 とこもかしこも 猫が山盛り~♪ 
 そんな街の名は? ねっこやまもり♪

 猫が雨宿り~! 寺で雨宿り~♪
 軒で雨宿り~♪ 小屋で雨宿り~♪

 あちらこちらで 猫が雨宿り~♪

 俺は商店街に流れるこの曲を聴きながら溜息をつく。
 まさか俺がウッカリ『この町の名前面白いですよね~【猫が山盛り】みたいで!』とお酒の席で漏らしたことで、こんな恐ろしい曲が産まれるなんて思いもしなかった。
 何故恐ろしいかって? 一度聞いたら最後、しばらく頭から離れないのだ。
 それはLINEグループの壽樂荘のメンバーで、例の飲み会での出来事。集まったのは現住民は三宅さん以外。
 ジローさん、スアさん、シング、タマさんと、シマさんの六人。そしてOBは前一○三号室のキティーさんと、元二○一号室の黒根哲クロネコテツさんと元二○二号室の白音小太郎シロネコタロウさんの三人。
 大家さんが最初だけ来て旧メンバーとの会話を楽しみ、大量の唐揚げとコロッケを置いて帰っていった。
 LINEでは軽く若い口調のクロネコさんが、髭をセンス良く生やした四十代くらいのちょいワルオヤジ風なカッコイイ大人の男性である事に驚いた。
 そしてクロネコさんの言葉にいつも絶妙なツッコミを入れているシロネコさんも年は同じだとか、長髪で細身のジーンズに派手なジャケットという出で立ちが格好がよい。
 四十超えて二人のように格好いい大人に自分がなれるとは思えない。
 というかもう出発点からして違うからこういう大人には俺はなれないだろう。
 そのイケてる大人な雰囲気にひたすら感心するしかなかった。
 二人は元々親友でプロのミュージシャンを目指し、このアパートで共にパンドで頑張っていたらしい。
 現在クロネコさんはスタジオミュージシャンをしていて、シロネコさんはライブハウスのオーナー。普通に会社勤めしているようではなく、なんとも只者では無い雰囲気にも納得である。

 そんな二人のいる飲み会で、ここのLINEグループの会話は猫が井戸端会議しているように見えるとか、町名も【猫山盛】にしたら良いのにと洩らしてしまったら皆のツボにハマったのか大ウケした。
 まあ、俺以外は皆酔っ払いなので基本何か言ってもウケる状況ではあった。しかしその盛り上がりがよく分からない創作意欲に火を付けてしまったようだ。
 元バンドマンである二人の才能に、更にお笑い芸人コンビであるタマさんとシマさんも歌詞作りに参加し、この曲はあっという間に出来上がってしまった。
 普通はお酒の席の楽しい余興で話は終わるのだが、ここに根古山森町商店街で役員をしているジローさんがいたから話は壽樂荘から飛び出してしまったようだ。
 ようだと言うのは俺は飲み会までの流れしか知らずに、ある日商店街を歩いていたらスピーカーから【猫山盛りソング】が流れていて愕然として、さらにこの曲に脳が感染して大変な事になっているのが今の状況。
 新たに「笑顔山盛り、旨さ山盛り、それが根来山森商店街~♪」といった歌詞が加わり商店街ソングっぽく仕上がっでいるが、【ネコヤマモリ~♪】というパートのインパクトが生半可なく、そこの部分のメロディーが頭に染み付いて離れないのだ。
 しかもこんな惚けたコメディーソングを、あの渋いロックスターな風貌の二人が演奏して歌っていると思うと表現しがたい不思議な気持ちにもなる。

 俺どころか一日聞き続けている商店街の皆さんはもっと大変な事になってるようだ。
 刷り込まれてしまっているのか、八百屋さんのオジさんも【猫山盛りソング】を口ずさみながら野菜を並べていたりする。
 そういう俺も重症で、部屋に漫画読みに来ているシングに「トラまた歌っているぞ。
 その曲お気に入りのようだな」と笑われてしまう。気に入っているというのではないのだが……。

 そして今も通学中もつい口ずさんでいたようだ。歌っていた自分に気が付きハッと周りを見渡すと、眼鏡をかけた女の子がこちらを見てクスクス笑っている事に気がつく。
 相手はコンビニから出てきて自転車に乗ろうとしていたところで、俺がその横を歌いながら横を通ったという状況なのだろう。
 歌を聞かれた事に恥ずかしくなる。
 笑い声に反応して俺が顔を向けてしまった事で、その子とシッカリ目があってしまう。
 丸顔で丸眼鏡の子で俺と同じくらいの年齢だと思う。目があってしまったので俺を丸い目でジッと見つめ返す事になる。
 気まずい空気が流れる。
「……わ、分かります。それ耳に残りますよね。私も気がつけば歌っていて……」
 女の子は困ったような顔をしてそう言葉を掛けてきて、目をそらす。
 そして誤魔化す為だろうニッコリ笑い頭をペコりと下げて自転車に乗り去っていった。
 そして顔を赤くしたままの俺だけが道に残った。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

吾輩は野良の猫である

シュンティ
現代文学
野良の猫の吾輩が書いた短編集である。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

処理中です...