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とある夏の日の残像
世界の終わりのラジオ
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『人生なんて、所詮死ぬまでの暇潰し』
実相寺 昭雄の言葉。映画監督であり、脚本家であり、演出家であり、小説家でもある実相寺氏。多彩な人物ではあるもののかなり変わり者でもあったようだ。
電車に乗った時は、車窓から見える景色の中にある気に入らないぶっ壊したい建物の数を数えて記録していたり、ショッピングモールなどに置いてある子供用のサービスとして用意されている塗り絵の用紙を持ち帰り、感性の赴くままにソレを塗り上げる。など暇潰しの名人ではあったようだ。
一方俺は、終わってしまった後の世界で暇潰し作業に勤しんでいる。
この世界で生活し続けて、出した結論がある。
俺がいる世界で既にディスティニー・テーラー、日廻永遠、佐藤宙は亡くなっている。
という事は俺も、先の時間のルーパーから見たら死んでいる。
しかも俺が、この時間に閉じ込められてかなりの年月が経っている。そんな状態で俺がどう生き返られるというのか?
既に死んでいるのと考えることが自然。
俺たちルーパーは、ある夏の日の残像にしかすぎない。
だからといって悲観なんて全くしてない。俺はその事で自由を手に入れたのだから。
最低最悪の兄の永留の事は、アドバイス通り忘れる事にした。
佐藤宙さんの言う通り、俺には何の意味も価値もない存在。
赤の他人よりも遠く、俺にはゴミよりも不要なモノ。
親も同様、今の俺は何の役にも立たない。
愛情どころか何の感情を持つことも、心を僅かでも動かすことも無い存在。
俺はこの世界にきたことで、佐藤宙さんという、優しくて素敵な兄を手に入れたから、実の家族なんてどうでも良い。
既に死んでいる事を嘆く必要も、全く無い。今の俺は人生で最も幸せな時を過ごしているのだから。
最高の家族同然の理想の兄がいて、他人とは程よい望んだ距離感で気楽に付き合える。完璧な世界。他に何を望む?
そんなこの世界に必要不可欠なモノが一つある。それは、暇潰しのネタ。
鈴木や高橋のように破壊的でも、攻撃的でもない良識的な人間だと自負しているから、今の自由を履き違えたりするような愚か者ではない。
人を傷付けたり、悲しませたりする暇潰しなんて、自分が胸糞悪い気持ちになるから、やるだけ無意味。
俺がそんなことしたら宙さんが哀しむから、絶対やらない。
哀しむといったら、俺達がとっくの昔に死んでいるのでは? という意見も、大好きな宙さんに訴えるつもりもない。
希望をもって頑張っている宙さんにそんな事を言ってどうなる? 宙さんを苦しめ悩ませるだけだ。
そもそも俺よりも頭が良い宙さんが、俺でも気がついているような結論を考えてないとは思えない。
多分、彼も無意識ではあるものの、自分が死者だと気がついている。
過去や未来のルーパーと交流する事で気持ちを誤魔化し、前向きに生活する糧としているのだろう。
俺にとっても、キラキラした未来を信じる良い感じの希望は今を健全に過ごすための糧であることは同じなので、ソレを否定する気は全くない。
むしろ俺も喜んで付き合って行く。
俺は共に脱出を目指す仲間として、そしてもしかして打開する鍵になるかもしれない人物としての役割を演じつつ、宙さんとの時間を楽しむ。それだけ。
世界の謎を解く。それはそれで楽しい暇潰しにはなるし、俺の最高に好きな宙さんとの暇潰しの時間。
ルーパーは皆、退屈しているのだろう。
俺が宙さんの死後発表された作品のデータを送るととても喜んでくれる。
宙さんもその前のルーパーに同じような事をしていたので、俺の渡したデータは彼らにも転送されている。
この生活では、暇つぶしのネタは何よりも重要だから。
飛行機の連中は俺達と違って、行動の自由があまりない。そのことは可哀想で同情するしかない。
彼らは、宙さんにとって大切な仲間だから一緒に守ってあげないといけない。
彼らに何かあったら、優しい宙さんが悲しむから。これ以上、毀してしまう訳にはいかない。
俺が死んで、もうかなりの年数経ってしまった。この忌々しい連鎖はさらに進んでしまっているだろう。
俺の一年後にこの現象に巻き込まれる事になる人物は、かなりの過去に巻き込まれており、回避させて救うにはもう遅すぎる。
しかし新しい仲間を見つけるという事は楽しそうだなと思い始めた。
俺が無為の年月過ごしただけ、ルーパー仲間が増えているということになる。
「俺は宙さんや日廻さんのようにそんなに色々な物を作ってないので、次のルーパーって、どう考えてもニシムクサムライに絞られると思うんですよね」
俺は今日も佐藤さんと対策会議を楽しんでいる。
「その可能性は高いよね。しかしニシムクサムライは十一店舗あるからそのどこで現象が発生してしまうのか予測が難しいよね」
楽しんでいるとはいえ、新しい仲間に俺も逢いたいから真剣に勤しんでいる。
「今までの流れを考えると沖縄にある十一号店が怪しいけど、そこで誰がとなると」
「でもニシムクサムライって十一時半開店という事は、店内にいる人は限られるような……」
そんな話し合いをしていて、ふと一つ思いつく。
「俺も宙さんのようにラジオ始めてみようかな? 偶然聞いてもらえる可能性は低くても。
アプローチは多いにこしたことないですよね!」
「確かにそうだね。
それに俺のラジオが廻くんしか聞けないという事が分かったから、もっとストレートな言葉で発信してもいいかもしれない」
そうして俺もウェブラジオを始める事にした。
番組タイトルは【七月十一日十一時十一分十一秒から始まった現象について】
[こんにちは、聞こえていますか
俺の名前は土岐野廻。
この放送が聞こえたならレターの方に連絡を下さいーー]
コレはゾンビが蔓延る世界の終わりで、生存者から生存者に向けて放送ではない。
終わった世界で、ゾンビからゾンビに向けての放送。
世界の終わりで、俺の声が未来の仲間に届来ますように。
ハローハロー聞こえていますか?
映画のように呼びかけ続けた。
実相寺 昭雄の言葉。映画監督であり、脚本家であり、演出家であり、小説家でもある実相寺氏。多彩な人物ではあるもののかなり変わり者でもあったようだ。
電車に乗った時は、車窓から見える景色の中にある気に入らないぶっ壊したい建物の数を数えて記録していたり、ショッピングモールなどに置いてある子供用のサービスとして用意されている塗り絵の用紙を持ち帰り、感性の赴くままにソレを塗り上げる。など暇潰しの名人ではあったようだ。
一方俺は、終わってしまった後の世界で暇潰し作業に勤しんでいる。
この世界で生活し続けて、出した結論がある。
俺がいる世界で既にディスティニー・テーラー、日廻永遠、佐藤宙は亡くなっている。
という事は俺も、先の時間のルーパーから見たら死んでいる。
しかも俺が、この時間に閉じ込められてかなりの年月が経っている。そんな状態で俺がどう生き返られるというのか?
既に死んでいるのと考えることが自然。
俺たちルーパーは、ある夏の日の残像にしかすぎない。
だからといって悲観なんて全くしてない。俺はその事で自由を手に入れたのだから。
最低最悪の兄の永留の事は、アドバイス通り忘れる事にした。
佐藤宙さんの言う通り、俺には何の意味も価値もない存在。
赤の他人よりも遠く、俺にはゴミよりも不要なモノ。
親も同様、今の俺は何の役にも立たない。
愛情どころか何の感情を持つことも、心を僅かでも動かすことも無い存在。
俺はこの世界にきたことで、佐藤宙さんという、優しくて素敵な兄を手に入れたから、実の家族なんてどうでも良い。
既に死んでいる事を嘆く必要も、全く無い。今の俺は人生で最も幸せな時を過ごしているのだから。
最高の家族同然の理想の兄がいて、他人とは程よい望んだ距離感で気楽に付き合える。完璧な世界。他に何を望む?
そんなこの世界に必要不可欠なモノが一つある。それは、暇潰しのネタ。
鈴木や高橋のように破壊的でも、攻撃的でもない良識的な人間だと自負しているから、今の自由を履き違えたりするような愚か者ではない。
人を傷付けたり、悲しませたりする暇潰しなんて、自分が胸糞悪い気持ちになるから、やるだけ無意味。
俺がそんなことしたら宙さんが哀しむから、絶対やらない。
哀しむといったら、俺達がとっくの昔に死んでいるのでは? という意見も、大好きな宙さんに訴えるつもりもない。
希望をもって頑張っている宙さんにそんな事を言ってどうなる? 宙さんを苦しめ悩ませるだけだ。
そもそも俺よりも頭が良い宙さんが、俺でも気がついているような結論を考えてないとは思えない。
多分、彼も無意識ではあるものの、自分が死者だと気がついている。
過去や未来のルーパーと交流する事で気持ちを誤魔化し、前向きに生活する糧としているのだろう。
俺にとっても、キラキラした未来を信じる良い感じの希望は今を健全に過ごすための糧であることは同じなので、ソレを否定する気は全くない。
むしろ俺も喜んで付き合って行く。
俺は共に脱出を目指す仲間として、そしてもしかして打開する鍵になるかもしれない人物としての役割を演じつつ、宙さんとの時間を楽しむ。それだけ。
世界の謎を解く。それはそれで楽しい暇潰しにはなるし、俺の最高に好きな宙さんとの暇潰しの時間。
ルーパーは皆、退屈しているのだろう。
俺が宙さんの死後発表された作品のデータを送るととても喜んでくれる。
宙さんもその前のルーパーに同じような事をしていたので、俺の渡したデータは彼らにも転送されている。
この生活では、暇つぶしのネタは何よりも重要だから。
飛行機の連中は俺達と違って、行動の自由があまりない。そのことは可哀想で同情するしかない。
彼らは、宙さんにとって大切な仲間だから一緒に守ってあげないといけない。
彼らに何かあったら、優しい宙さんが悲しむから。これ以上、毀してしまう訳にはいかない。
俺が死んで、もうかなりの年数経ってしまった。この忌々しい連鎖はさらに進んでしまっているだろう。
俺の一年後にこの現象に巻き込まれる事になる人物は、かなりの過去に巻き込まれており、回避させて救うにはもう遅すぎる。
しかし新しい仲間を見つけるという事は楽しそうだなと思い始めた。
俺が無為の年月過ごしただけ、ルーパー仲間が増えているということになる。
「俺は宙さんや日廻さんのようにそんなに色々な物を作ってないので、次のルーパーって、どう考えてもニシムクサムライに絞られると思うんですよね」
俺は今日も佐藤さんと対策会議を楽しんでいる。
「その可能性は高いよね。しかしニシムクサムライは十一店舗あるからそのどこで現象が発生してしまうのか予測が難しいよね」
楽しんでいるとはいえ、新しい仲間に俺も逢いたいから真剣に勤しんでいる。
「今までの流れを考えると沖縄にある十一号店が怪しいけど、そこで誰がとなると」
「でもニシムクサムライって十一時半開店という事は、店内にいる人は限られるような……」
そんな話し合いをしていて、ふと一つ思いつく。
「俺も宙さんのようにラジオ始めてみようかな? 偶然聞いてもらえる可能性は低くても。
アプローチは多いにこしたことないですよね!」
「確かにそうだね。
それに俺のラジオが廻くんしか聞けないという事が分かったから、もっとストレートな言葉で発信してもいいかもしれない」
そうして俺もウェブラジオを始める事にした。
番組タイトルは【七月十一日十一時十一分十一秒から始まった現象について】
[こんにちは、聞こえていますか
俺の名前は土岐野廻。
この放送が聞こえたならレターの方に連絡を下さいーー]
コレはゾンビが蔓延る世界の終わりで、生存者から生存者に向けて放送ではない。
終わった世界で、ゾンビからゾンビに向けての放送。
世界の終わりで、俺の声が未来の仲間に届来ますように。
ハローハロー聞こえていますか?
映画のように呼びかけ続けた。
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