世界終わりで、西向く士

白い黒猫

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世界の終わり方

明日へつながる眠り

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 目をさますと夕方だった。
 頭はスッキリしたが、傷の痛みは増していた。俺はキッチンにいきコップに水道水を入れて痛み止めをのむ。
 会社支給のスマホとプライベートスマホを確認すると着信履歴が並んでいる。
 珍しく母親が俺にかけてきていたようだ。
 まず会社スマホの方から対応する事にする。
 代表電話ではないからか、意外にすぐにマネージャーとつながった。
「申し訳ありません。薬を飲んだせいか眠くなって寝ていました。
 そちらは大変な状況ですよね? 大丈夫ですか?」
 ハァ
 ため息をつく音が聞こえる。
「お前の方だろ!
 大丈夫か? と心配されるのは。
 現場は色々調査が入るということで、今は俺たちも立ち入れないからやることもそんなにないから気にするな」
 呑気に寝ていた事を咎められた訳ではなかったようだ。
「でも、俺は動くことは問題ないですよ」
「今、会社の前にマスコミがはっている。怪我しているお前が来たら、囲まれて面倒な状況に巻き込まれるだけだから一週間休め。
 労災の手続きもしておくから。
 こっちは雑務だけで、今お前がやらなければならないことはないから。
 まずは傷を治すことを優先しろ。
 あとお母さんから会社の方に連絡きていたぞ。ニュース見て心配していたようだから連絡してあげなさい」
 身体は痛いが、こんな会社が大変な時に何もできないということは辛いものである。
 深呼吸してから引き続き母親にも電話をかける。
「廻! 大丈夫なの? 遥ちゃんから貴方が大怪我を負ったと聞いて」
 従兄弟の遥が余計な連絡を母親に入れてしまったようだ。
「大怪我は大袈裟だよ、十一針縫っただけだから」
「そうなの良かった。もう何ともないのね。そうだと思ったのよ。心配して損したわ」
 もしコレが兄だったら、母は一針どころか血を流しただけでも大騒ぎするのだろう。そんなどうでも良い事を考えてしまった。
「びっくりしたんだけど、なんか今ニュースでやっている事故のあった会社貴方の会社だったのね」
 俺はそんな母親の言葉に、ため息をつきたくなるが耐える。
 母親が俺にあまり興味ないのは、今に始まったことではない。
 愛されてないわけではないだろうが、俺はほっといても問題なく大丈夫と思われていて、あまり気にかけてないところがある。
 兄が先天性の骨疾患「骨形成不全症」で昔から手もかかってきた。
 さらに兄は過保護に育てられた分我儘。家では兄は王子様で母親は専任の召使い状態。
 そのため俺は昔から放任されて過ごしていた。
 伯父家族の元で生活していたこともありそちらの方が家族らしい付き合いをしている。
 電話かけている後ろで、兄が何か要求しているようで怒鳴っている声が聞こえる。
「ごめん、心配をかけて。俺は本当に大丈夫だから」
 今までそうしてきたように、明るくそんな感じの言葉を返して電話を切った。
 多分会社に安否確認の連絡を入れたのは、母ではなく伯母か遥だろう。
 案の定伯母に電話したら、泣かんばかりの対応で、俺の無事を喜んでくれた。
 怪我した身体で過ごすの大変だろうから家に来ないかとか、従姉妹の遥はウチに世話しに行くとまで言ってくれたが、俺は礼だけを返して断ることにした。
 とりあえず電話を返さないとダメなところには返し、今日何度目か分からないため息をつく。

 今度はLINEの連絡をチェックする。するとよく分からない冷やかしてきているようコメントが多い。
 どうやら、俺がミライを庇った動画がアップされていたようで、ちょっとしたヒーロー扱いになっていたからのようだ。
 下手にその前にマスコミにも顔出していたのが不味かったようで、俺の顔写真も拡散されている。
 全部に返すのは面倒なので、LINEのトップとフェイスブックに無事であることだけを伝えるコメントを置いておいた。

【お前ってヘラヘラしながらいつも要領良く美味しいところだけ持っていく。
 ホント最低なイヤな奴だよな。
 いい気になるなよ!
 死ねば良かったのに。
 今からでもシネ! クソが!】

 スマホが震えて着信を伝えてくる見る。
 兄からのそんなコメントが来ていて、俺は大きくため息をつく。

 既読をつけてしまったがスルーする事にした。
 兄は俺が何をしていても気に食わない。そういうところがあった。
 同じ家で生まれたのに自分は不自由な障害を持って生まれ、俺は何も問題がない。
 そのことからして気に食わないのだろう。だからと言って誰が悪いわけでもない。
 母が大変だからと兄の看護を手伝っていたこともあるが、ある日から兄は俺をことごとく俺を拒絶するようになった。
 俺は兄の嫌悪の対象で、存在そのものがストレスしか与えないものだったようだ。
 だから小学校高学年から同じ県に住む伯父の家でお世話になり、中学から寮のある学校を選び家から離れて過ごした。
 偶に帰っても兄は大音量で音楽をかけて部屋に引きこもって出てこない。
 そして母をどうでも良い事で呼びつけ、色んな事をさせていた。
 俺が代わりにしようとするとキレて暴れる。
 そういう事もあり家に寄りつけなくなった。そのほうが家は平和だから。

 俺は頭をふり今更のことを考えるのを止めた。
 今一番気にかかることは……夢と言うにはリアル過ぎる、デジャブと表現するには長すぎる。予めに体験したようにすら感じた今日の事。

 恐らくあの俺は死んだ。だとしたら今の俺は何なのか? 
 今の傷とは違う、欠けたビルの装飾品が身体に刺さる痛みを感じる。痛みの記憶すらも生々しい。
 身体が震えてくる。その震えを抑えるように自分の身体を抱きしめる。

 良いように解釈すれば、最悪の死の結果を自分で回避するために時間が戻って救われた。
 それならば悩むことも無く喜ぶべき事のようにも思える。

 そう、俺は今こうして生きているし、これから何でも出来る何の問題もないでは無いか! そう考える事にした。

【世間をこんな形でお騒がせして申し訳ありません。
 怪我をした社員もいずれも軽傷です。営業時間ではなかった事でお客様に被害が出なかった事は幸いでした。
 このアクシデントに負けず、会社として皆様に喜びと笑顔を届けられるサービスが出来るように頑張ります努力していきたいと思います】
 四時頃にサムライの社長らが会見を開きコメントを発表していた。その言葉の通り起こってしまったことは仕方がない、コレから頑張るしかない。
 俺はそう思い切り替えることにした。

【ゴメンなさい、色々騒がれて土岐野さんが大変な事になってるみたいで】
 夜にもミライからそんなLINEがくる。
【いえ、ヒーロー扱いは照れ臭いですが、引きこもり待機命令を受けている俺には何の問題もないですよ】
 直ぐに反応が帰ってくる。
【ヒーロー扱いでは無く、土岐野さんは私のヒーローですよ!】
 こんな会話を続けるのは少し恥ずかしい。
【ミライさんの方は大丈夫だった? マスコミとかから囲まれたりとか困った事になっていない?】
【はい! 今は私もホテルで待機になっています。しばらく自宅ではなくコチラでの生活になりそうです。
 でも明日のお仕事はする事になりそうかな~元気で無事な所見せないと行けないし】
 芸能人の仕事というのも大変そうだ。
【大変だね。怪我はなかったとはいえ、あんな事があった後だから、無理はしないで】
 俺は目を見開き落下物に串刺しになった俺を見つめていたミライの姿を思い出す。
 自分も傷ついていっているのに、ただ俺の方を呆然と見つめ続けていた。
 状況が認識出来たことで俺の名前を叫んでいたミライ。
 目の前で人が死ぬ。そんな恐ろしいモノを見せずに済んだ事は良かった。
【土岐野さんのエールで頑張れます! 
 明日お昼の情報番組に出る予定なので見て戴けますか?】
【お休みだから是非楽しませていただきます】
【あ! 敬語になっている】
【え?】
【友達になったんだから、敬語は止めて!
 なんかね、芸能界関係なくこんな感じで他愛ない感じで話せる友達欲しかったの!
 だからこうしている時はフランクでいいから】
 そんなので良いのかな友思ったが、色々ありすぎた日だっただけに、ミライとのそんな無邪気な会話に癒された。
 しばらく会話を楽しんでから、疲れていた俺は早めに眠りについた。
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