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道は同じ 17話
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野本に報告するのは1月10日を予定していたけど、願書の受付を終えた野本に、気晴らしに遊びに行こうと誘われて、1日後ろにズレることくらいはいいかと思い、決行日を1月11日に決めた。
その当日。僕は隣町にある大型のショッピングセンターに野本と一緒に来ていた。
「久しぶりに自由に動ける」
「まだ願書の受付が終わっただけじゃないか。試験はこれからだよ」
「もう、本当のこと言わないで。今だけは現実逃避をしているんだから」
逃げられない現実はすぐに迫ってきていると言うのに。
「それで今日は何するの? 参考書?」
「だから今日は現実逃避の日。甘いものをいっぱい食べるの」
またカフェか。どれだけ甘いもの好きなんだ。僕は君のせいで甘いもの苦手なんだ。
三矢先でも行った、全国チェーンのカフェにまた訪れた。野本はまたしてもサンドウィッチとパフェを頼んでいた。僕はカルボナーラを1つと、コーヒーを1杯。野本のせいで食欲がないからこれくらいでちょうどいい。
さて、どのタイミングで話を切り出そう。せめて野本が食べ終わってからだな。話せば絶対に機嫌を損ねるからできれば帰り際みたいなのが1番いいが、そんな別れ方をすれば野本からの反感を買うかもしれないから早めで別れ話にはならない方向で。
野本がパフェを食べ終えたその時僕は覚悟を決めた。
「あの、大事な話があるんだ」
「嫌だ聞きたくない」
何を悟れれたのか、野本は猿のように耳を塞いだ。
「わかった。それならまた今度にする」
僕がコーヒーを1口、口にすると耳を塞いでいた手を下ろして僕にこう言った。
「やっぱり気になる」
どっちなんだよ。
「本当に話してもいい?」
「……うん。別れ話でないのなら」
それに近い話になるのだが、別れ話ではないからいいだろう。
「実はさ、まだ親と先生しか知らないんだけど、小さい頃からの夢があって、それで、ずっと考えていたんだ。夢を追いかけるのか諦めるのか。でもようやく決心がついたんだ。若いうちは夢を諦めないでいようって」
野本はまた耳を塞いだ。
「君にはちゃんと聞いてほしい」
「嫌だ。それ以上は聞きたくない」
ここまで聞いておいて今更やめろとか、僕の方ができないわ。
「それで、僕の好きな漫画を描いている先生が講師をしている学校を見つけたんだ。だから、ごめん。僕はその学校に行きたい」
野本は何も聞いていませんと言いたそうに、顔を外に向けて遠くのメニュー表でも見ていた。野本が何も言わないから、僕は野本の意見を聞くこともせずに話を進めた。
「それで、その学校が三矢先県にあるんだ。こっちにある漫画学科でもよかったんだけど、尊敬している人がいる学校の授業を受けたいと思って」
「遠距離なんて嫌だ。颯太が県外に行くのなら私も付いて行く」
初めからそれを言うと思っていた。
「それはダメだよ。これは僕のわがままだし。君にそこまでの負担をかけたくない。それに、君の親は許してくれないだろ。だから、今だけ別れてほしい」
カフェの中なのに、野本は立ち上がった。
「嫌だ嫌だ。颯太と別れるのなんて嫌だ。なんで遠くにいっちゃうの。ずっと一緒にいるって言ったじゃんか」
「待って一旦落ち着いて」
人目もあるから声のボリュームを下げて座ってほしいのだけど。
「落ち着いてなんていられないよ。なんでそんなこと言うの」
「わかったから一旦座ろう。そうだ、ケーキを奢るから好きなもの選んで」
野本は座って、メニュー表を開いた。
「チーズケーキ」
「わかった買ってくる」
チーズケーキを野本に渡して、まだ食べているけど、僕は話を続ける。口に何か含んでくれている方が、大きな声を出せないから都合がいい。
「別れるって言ったのは建前みたいなものだよ。漫画家って、忙しくて、売れるまでは大変だから、君に苦しい思いをしてほしくないんだ。それに専門学校に通っている間は漫画のことだけに集中したいんだ。だから今よりもメッセージのやり取りは減るし、電話もする時間が短くなる。君には我慢ばかりを強いることになるから、それならいっそのこと別れてもいいかなって。でも最初に言ったようにこれは建前。専門学校で2年漫画について学んで、その後はどうなるのかわからないけど、早いうちに大成できるように頑張るから、その時には君を迎えに行くから。だからそれまでの間だけ別れてほしいんだ。あ、でも、君が僕よりいい人を見つけたら、その時は言ってくれれば、本当に別れたことにするからね。安心して」
「そんなことしない。颯太以外にいい人なんていないから。わかったよ。でも電話もたまにだったらいい?」
「ああ、たまにだよ。毎日だったら、漫画が進まないかもしれないから」
「うん。颯太こそ、彼女作らないでね」
「それは大丈夫だよ。僕が通う専門学校、男ばかりみたいだから、悲しいけど」
「『悲しい』ってどう言うこと?」
「ごめん。間違えた……」
「何をどう間違えたのかな?」
「いや、だから、その……」
野本に頬を全力で摘まれた。刺されたわけじゃないけど、相当痛かった。
これ明日口内炎できないかな。心配だ。
「ねえ。たまには遊びに行ってもいい?」
「いいけど、お金は大事に使ってよね。去年旅行に行ったから大体どれくらいのお金がかかるか知っているでしょ」
「う、うん……約束する」
「ホテルもちゃんと取ってね」
「なんで? 颯太の部屋に泊まらせてよ」
「専門学校が男ばかりだから見つかったら面倒だから、ホテルの代金くらいなら僕が出すからそれだけはお願い」
頼むから僕の部屋に来ないでくれ。見られたくないものがたくさんあるから。
「それもそうだね。わかったよ。前回泊まったホテルにでも泊まるよ」
よかった。ここで無理を言われたらそうしようかと思ったけど、物分かりのいいやつでよかったよ。
その当日。僕は隣町にある大型のショッピングセンターに野本と一緒に来ていた。
「久しぶりに自由に動ける」
「まだ願書の受付が終わっただけじゃないか。試験はこれからだよ」
「もう、本当のこと言わないで。今だけは現実逃避をしているんだから」
逃げられない現実はすぐに迫ってきていると言うのに。
「それで今日は何するの? 参考書?」
「だから今日は現実逃避の日。甘いものをいっぱい食べるの」
またカフェか。どれだけ甘いもの好きなんだ。僕は君のせいで甘いもの苦手なんだ。
三矢先でも行った、全国チェーンのカフェにまた訪れた。野本はまたしてもサンドウィッチとパフェを頼んでいた。僕はカルボナーラを1つと、コーヒーを1杯。野本のせいで食欲がないからこれくらいでちょうどいい。
さて、どのタイミングで話を切り出そう。せめて野本が食べ終わってからだな。話せば絶対に機嫌を損ねるからできれば帰り際みたいなのが1番いいが、そんな別れ方をすれば野本からの反感を買うかもしれないから早めで別れ話にはならない方向で。
野本がパフェを食べ終えたその時僕は覚悟を決めた。
「あの、大事な話があるんだ」
「嫌だ聞きたくない」
何を悟れれたのか、野本は猿のように耳を塞いだ。
「わかった。それならまた今度にする」
僕がコーヒーを1口、口にすると耳を塞いでいた手を下ろして僕にこう言った。
「やっぱり気になる」
どっちなんだよ。
「本当に話してもいい?」
「……うん。別れ話でないのなら」
それに近い話になるのだが、別れ話ではないからいいだろう。
「実はさ、まだ親と先生しか知らないんだけど、小さい頃からの夢があって、それで、ずっと考えていたんだ。夢を追いかけるのか諦めるのか。でもようやく決心がついたんだ。若いうちは夢を諦めないでいようって」
野本はまた耳を塞いだ。
「君にはちゃんと聞いてほしい」
「嫌だ。それ以上は聞きたくない」
ここまで聞いておいて今更やめろとか、僕の方ができないわ。
「それで、僕の好きな漫画を描いている先生が講師をしている学校を見つけたんだ。だから、ごめん。僕はその学校に行きたい」
野本は何も聞いていませんと言いたそうに、顔を外に向けて遠くのメニュー表でも見ていた。野本が何も言わないから、僕は野本の意見を聞くこともせずに話を進めた。
「それで、その学校が三矢先県にあるんだ。こっちにある漫画学科でもよかったんだけど、尊敬している人がいる学校の授業を受けたいと思って」
「遠距離なんて嫌だ。颯太が県外に行くのなら私も付いて行く」
初めからそれを言うと思っていた。
「それはダメだよ。これは僕のわがままだし。君にそこまでの負担をかけたくない。それに、君の親は許してくれないだろ。だから、今だけ別れてほしい」
カフェの中なのに、野本は立ち上がった。
「嫌だ嫌だ。颯太と別れるのなんて嫌だ。なんで遠くにいっちゃうの。ずっと一緒にいるって言ったじゃんか」
「待って一旦落ち着いて」
人目もあるから声のボリュームを下げて座ってほしいのだけど。
「落ち着いてなんていられないよ。なんでそんなこと言うの」
「わかったから一旦座ろう。そうだ、ケーキを奢るから好きなもの選んで」
野本は座って、メニュー表を開いた。
「チーズケーキ」
「わかった買ってくる」
チーズケーキを野本に渡して、まだ食べているけど、僕は話を続ける。口に何か含んでくれている方が、大きな声を出せないから都合がいい。
「別れるって言ったのは建前みたいなものだよ。漫画家って、忙しくて、売れるまでは大変だから、君に苦しい思いをしてほしくないんだ。それに専門学校に通っている間は漫画のことだけに集中したいんだ。だから今よりもメッセージのやり取りは減るし、電話もする時間が短くなる。君には我慢ばかりを強いることになるから、それならいっそのこと別れてもいいかなって。でも最初に言ったようにこれは建前。専門学校で2年漫画について学んで、その後はどうなるのかわからないけど、早いうちに大成できるように頑張るから、その時には君を迎えに行くから。だからそれまでの間だけ別れてほしいんだ。あ、でも、君が僕よりいい人を見つけたら、その時は言ってくれれば、本当に別れたことにするからね。安心して」
「そんなことしない。颯太以外にいい人なんていないから。わかったよ。でも電話もたまにだったらいい?」
「ああ、たまにだよ。毎日だったら、漫画が進まないかもしれないから」
「うん。颯太こそ、彼女作らないでね」
「それは大丈夫だよ。僕が通う専門学校、男ばかりみたいだから、悲しいけど」
「『悲しい』ってどう言うこと?」
「ごめん。間違えた……」
「何をどう間違えたのかな?」
「いや、だから、その……」
野本に頬を全力で摘まれた。刺されたわけじゃないけど、相当痛かった。
これ明日口内炎できないかな。心配だ。
「ねえ。たまには遊びに行ってもいい?」
「いいけど、お金は大事に使ってよね。去年旅行に行ったから大体どれくらいのお金がかかるか知っているでしょ」
「う、うん……約束する」
「ホテルもちゃんと取ってね」
「なんで? 颯太の部屋に泊まらせてよ」
「専門学校が男ばかりだから見つかったら面倒だから、ホテルの代金くらいなら僕が出すからそれだけはお願い」
頼むから僕の部屋に来ないでくれ。見られたくないものがたくさんあるから。
「それもそうだね。わかったよ。前回泊まったホテルにでも泊まるよ」
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