合同会社再生屋

倉木元貴

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道は同じ 15話

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 「な、なんでいるの?」
 
「なんでって。逆になんで言ってくれなかったの? 私も颯太と旅行に行きたかった」
 
 僕が行きたくなかったから誘わなかったのに。誰から聞いたんだ。クラスの誰にも旅行に行くことは言わなかったのに。SNSにだって見つかると面倒だから上げてないのに。カレンダーやメモにも何も残していない。検索履歴には残っていたかもしれないけど、ここ数日野本は僕のスマホを確認していない。履歴を見た形跡はないのに。どこからその情報を調べ上げた。野本には無理なはずだが。
 
「2人で行くのはさ。仮卒業とかの期間でもいいじゃない。今は勉強も忙しいし迷惑かけたくなかったから。それに家族旅行だから、恥ずかしいくて言いづらくて」
 
「2年も付き合っているのだから恥ずかしいものなんてないでしょ。隠しごとはなしって言ったでしょ」
 
 それはずっと言っているがそれだけはできないんだ。自分を殺す犯人に、将来殺されるとは言えない。
 
「それよりも誰から聞いたの。君こそ、来る
のなら言ってくれればよかったのに」
 
 まさか朝からつけられていたとかじゃないよな。僕が下宿先を回っている後ろをずっとつけていたとか。また1から探さなくなるからやめてくれ。
 
「颯太のお母さんから聞いたの。今度家族で旅行に行くって。颯太を驚かせようとして黙ってきちゃった」
 
 母さんめ余計なことを。なんで野本に言うのかな。てか、いつの間に連絡先を交換していたの。怖いんだけど。
 でも1つだけよかったことがある。やっぱり親に進学先を変更することを言わなくてよかった。野本と繋がりがあるのなら、いつ言われてもおかしくはなかった。これから先も野本に伝える前日くらいがいいのかもしれない。そうなると今度は、親の説得に時間をかけることができないのが問題だな。また面倒なことになった。どうしていつもいつもいい方向へ進まないんだ。
 
「いつから来ていたの?」
 
「ついさっきだよ。流石に朝イチの新幹線は取れなくて、2番目の新幹線できたからこの時間になってしまったの。ここ遠いね」
 
 よかった。それなら、僕の下宿先回りは見られていないのか。あれを見られていたら、疑いの目をかけれていたに違いない。
 
「それで、颯太は何をしてたの? お母さんたちとは一緒にいないんだ」
 
「ああ、両親は神社巡りをしているよ。姉と妹は2人でどっかに行ったから1人でぶらぶらしていたんだよ。さっきまでそこの科学館を一通り回ってね」
 
 嘘だけど。吐ける嘘がそれくらいしかない。
 
「へえ、そうなんだ。私も科学館行こうかな」
 
「僕にまた入れと勘弁してくれよ。結構子供向けの科学館だったから、2回目はないよ」
 
 写真を見ただけだから展示物については何も知らない。だけど、子供が一緒に写っている写真が結構あったから、多分子供向け。
 
「そっかー。それじゃあ、別の場所にしようかな」
 
 そうしてくれ。できれば全く知らない場所で。
 
「この辺でのんびりできるとこ知らないかな?」
 
「知らないよ。僕だって来るのは初めてだから」
 
「だよねー」
 
 そう思っていたのだったらなぜ訊いた。長くは滞在できないから僕だってある程度しか調べてないぞ。
 
「この辺の観光スポットはもう閉園時間になっているのが多いね」
 
 そりゃそうだろ。なんたってもう17時に向かっている時間。今から開くお店なんて居酒屋くらいしかない。
 
「仕方ない。ここで少し話でもしよ」
 
 シンプルに嫌だよ。なんでここまで来て野本と話なんてしないといけないんだ。と言うかなんでここまで来るかな。積もる話もないのに。
 
「ここ普通のショッピングモールだから、チェーン店しかないよ」
 
「それでいいよ。颯太と話がしたいだけだから」
 
 そんな含みがあるように言わないでよ。何か良からぬことがありそうじゃないか。
 
「そっか。わかった。でも、僕もホテルに帰らないといけないから、そんなに時間はないけどね」
 
 さっさと終わらせて、野本のいない場所に行きたい。
 
「うん。私もチェックインしないといけないし、まあ、ホテルはそこだけど」
 
 ホテルまで一緒じゃなくてよかった。そこまでしたらもはやストーカーだからな。何はともあれ、夜がゆっくりできるってだけでも安心だ。
 僕と野本は、ショッピングモール内にある、全国チェーンのカフェに訪れていた。これから晩御飯だと言うのに、野本はサンドウィッチにパフェを頼んで、足りないのか追加でプリンを頼んでいた。
 
「それで話って何かな?」
 
「話? 私からしたい話なんてないよ」
 
 だったらなぜこの店に入った。入る必要なかったじゃないか。
 
「そっか。それじゃあ、僕は行かせてもらってもいいかな。自分の分はきっちり出すから」
 
「ダメだよ。見知らぬ地に女の子を1人置いていくつもり?」
 
 それが可愛い女の子ならもちろん放ってはおけないよ。でもね。僕は君が死んだって悲しまない。むしろ喜ぶかもしれない。それくらい君のことを恨んでいるんだ。君をこの場に置いていくことになんて躊躇いもないんだよ。まあでも、僕は君の性格をよく知っているから、殺されないように上手く世渡りをすることができるんだ。
 
「わかった。食べ終わるまでは待っているからさ、どうして来たのか、詳しい理由を教えてもらってもいい?」
 
「いいけど。理由はさっき言った通りだよ。颯太と一緒に旅行に行きたくてついてきた。本当にそれだけだよ」
 
 同じ答えにもうため息しか出ない。
 
「わかったよ。そう言うことにしておくよ」
 
「うん。そう言うことだから」
 
 野本との会話はどうしてこうもつまらないんだろう。僕が広げる努力をしていないからか。どうしてだろうな。野本と楽しい話をしたいと脳が思わないんだ。口を滑らせそうだし、言葉数は少ない方がいい。
 
 結局この後の家族旅行には野本が同伴して観光名所を周り、僕としては何にも休めない家族旅行となった。
 目的は果たしたからいいけど、野本め一生恨んでやるからな。
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