合同会社再生屋

倉木元貴

文字の大きさ
上 下
10 / 13

道は同じ 10話

しおりを挟む
 次の日。
 野本は教室で完全に孤立していた。原因は高見さんだった。どうやら高見さんは、昨日の僕らの様子を動画で撮影していたみたいで、それをうちの高校の生徒しかフォローしていないSNSにアップして広めていたとか。初めは僕が疑われていたのに、高見さんが広めた動画を見て、風向きが変わったようだ。みんな野本が嘘をついていると手のひらを返したようだ。
 僕も、登校してから数人のクラスメイトに話をされた。「野本最低だね」とか「面倒なことに巻き込まれたね」とか。初めはみんな睨んでいたくせに。酷い手のひら返しだな。まあ、全て野本の自業自得だ。
 1時間目が終わった休み時間。僕のスマホに知らない人物から登録申請とメッセージが同時にきていた。
 
(やっほー)
(ねえ、野本を追い込むためにもう1つくらいネタが欲しいのだけど、何かない?)
(私高見だよ)
(友達登録よろしく)
 
 僕にはプライバシーというものはないのか。誰がそんなに僕のアカウントを広めているんだ。野本といい。3組にろくな友達なんていないのに。まあ、高見さんはよく知らないから、特に話すこともないし、登録だけはしてもいいかな。
 
(ネタと呼べるかわからないけど、僕のクラスに植田直哉って子がいたんだけど、その子も野本に告白されて振ったら、今回の僕のような噂を流されて学校に来なくなったんだ)
(こんなのでよかったらどうぞ)
(それ以外は知らないから)
 
 本当は知っているけど、話し出したらきりがない。それと、ろくに野本と関係を築いてこなかった僕がなんでそんなことを知っているんだって疑われたくないから。
 
(おっけーおっけー)
(それだけで十分)
(放課後西門前で待ってて)
 
(わかった)
 
 既読がついてから何もこないってことはとりあえず一通りの会話は終わったってことでいいのかな。あまり関わりたくないから、会話は少ない方がうれいい。
 
 放課後、高見さんに呼ばれた西校門前に行くと、相変わらずスマホをずっと触っている高見さんがいた。
 
「お。やっと来たか。遅かったじゃん」
 
 ホームルーム終わる時間そんなに変わらなかったと思うけど、待たせたのなら悪かった。
 
「それで僕を呼び出した用事って何?」
 
 高見さんはスマホをカバンにしまって、代わりにカバンにあった、小さなスナック菓子を取り出した。
 
「お礼にこれ渡したかっただけ。じゃあね」
 
 ……高見さんは去って行った。僕にスナック菓子を手渡して。
 なんだったんだ一体。お礼って言っていたけど、僕大したことしてないのに。それにしても高見さんは植田の件を聞いてどうするつもりなんだろうか。追い込むって言っていたけど……いじめのようなことはしないよな。流石の高見さんでもそれくらいわかっているよな。
 
 次の日の昼休み。
 まだ午後からの授業が残っているというのに、野本がカバンを持って廊下を走って行く姿が見えた。体調不良で早退したのかなと思っていたけど、どうやらそうではなかったみたいだ。
 3組の昼休みまでのことを僕が耳にしたのは5時間目が終わった休み時間だった。僕は何故か根岸に呼ばれて自販機まで一緒に来ていた。そこには、根岸の親友、能見さんがいた。
 
「昼休みに野本がカバンを持ってどこかに行っているのを見ただろ」
 
「ああ、でも体調不良でしょ」
 
「私も初めはそう思ったんだが、そうじゃなかったみたいだ。高見が休み時間になるたびに、野本を糾弾していたらしく、山河内や牧瀬が止めに入ったらしいけど、全然聞く耳を持たなかったらしい」
 
「それじゃあ野本は……」
 
「ああ、高見の糾弾を受けて帰って行ったらしい。こんなのもういじめじゃないか。確かに野本は最低なことをした、だからと言って、その相手をいじめるのは間違っているよ」
 
 根岸顔に似合わず真面目な奴なんだ。前から不良な方の人間だと思っていたから意外だ。僕個人的な意見としては、野本がいじめられてこの学校からさってくれるのは好都合だ。だけど、根岸の意見も尊重はしたい。
 
「確かに高見さんのしていることは間違っているよ。でも、僕らじゃ高見さんをどうにかできないよ。僕が何を言っても聞き流されるだけだし、根岸が言えば新しい争いが起こるかもしれない。山河内さんがどうにかしようとしてできなかったのなら、誰にも止められないよ」
 
 こう言っておけば、根岸のことは責めてなく、かつ仕方なかったで済ますことができる。まあ、根岸が納得してくれたらの話だけど。
 
「それはわかっている。私たちじゃ高見をどうにもできないことは。……私までいじめに加担されたとか思われたくない」
 
 なるほど本音はそっちか。気持ちはわかるよ。誰だって保身に走るのは当然だよ。こういう場合、動画を撮って広めた人間は正義とみられることが多いからな。いじめの主犯は野本と口争いをしていた根岸か、動画の後半で野本の頬をしばいた新島さんになるのだろうな。もし、この動画が先生に見られれば、いじめとみなされてもおかしくはないもんな。ずる賢い奴だな高見さんは。自分は高見の見物ってか。あの動画角度的に根岸の真後ろにいた僕も加害者の1人のように撮られているから、他人事でないんだよな。
 まあ、僕としては死ぬこと以外で野本から逃げられたらなんでもいいけど。最悪退学になっても別の道に進めばなんとかなるし。動画が拡散されることだけはなんとかして避けないと。学校外は炎上問題があるから。
 高見さんに連絡を取ろうと、ズボンのポケットからスマホを取り出して画面をつけて、すぐに消してからまたズボンのポケットにしまった。
 とりあえず高見さんには関わりたくない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ホラー短編集

倉木元貴
ホラー
思い付いた短編ホラーを気が向いた時に更新します。 ※この物語は全てフィクションです。実際の人物、地名、団体、事件等とは一切関係ありません。また、心霊スポットと呼ばれる場所への探索を勧めるものではありません。悪ふざけで心霊スポットと呼ばれる場所へ行くのはおやめください。深夜の騒音は近隣住民の迷惑になります。山へ行く場合も遭難や動物に襲われる危険性もあります。絶対におやめください。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

呪われたN管理局

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

ジャングルジム【意味が分かると怖い話】

怖狩村
ホラー
僕がまだ幼稚園の年少だった頃、同級生で仲良しだったOくんとよく遊んでいた。 僕の家は比較的に裕福で、Oくんの家は貧しそうで、 よく僕のおもちゃを欲しがることがあった。 そんなある日Oくんと幼稚園のジャングルジムで遊んでいた。 一番上までいくと結構な高さで、景色を眺めながら話をしていると、 ちょうど天気も良く温かかったせいか 僕は少しうとうとしてしまった。 近くで「オキロ・・」という声がしたような、、 その時「ドスン」という音が下からした。 見るとO君が下に落ちていて、 腕を押さえながら泣いていた。 O君は先生に、「あいつが押したから落ちた」と言ったらしい。 幸い普段から真面目だった僕のいうことを信じてもらえたが、 いまだにO君がなぜ落ちたのか なぜ僕のせいにしたのか、、 まったく分からない。 解説ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 近くで「オキロ」と言われたとあるが、本当は「オチロ」だったのでは? O君は僕を押そうとしてバランスを崩して落ちたのではないか、、、

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

怪談実話 その4

紫苑
ホラー
今回は割とほのぼの系の怪談です(笑)

怪談実話 その3

紫苑
ホラー
ほんとにあった怖い話…

処理中です...