合同会社再生屋

倉木元貴

文字の大きさ
上 下
10 / 21

道は同じ 10話

しおりを挟む
 次の日。
 野本は教室で完全に孤立していた。原因は高見さんだった。どうやら高見さんは、昨日の僕らの様子を動画で撮影していたみたいで、それをうちの高校の生徒しかフォローしていないSNSにアップして広めていたとか。初めは僕が疑われていたのに、高見さんが広めた動画を見て、風向きが変わったようだ。みんな野本が嘘をついていると手のひらを返したようだ。
 僕も、登校してから数人のクラスメイトに話をされた。「野本最低だね」とか「面倒なことに巻き込まれたね」とか。初めはみんな睨んでいたくせに。酷い手のひら返しだな。まあ、全て野本の自業自得だ。
 1時間目が終わった休み時間。僕のスマホに知らない人物から登録申請とメッセージが同時にきていた。
 
(やっほー)
(ねえ、野本を追い込むためにもう1つくらいネタが欲しいのだけど、何かない?)
(私高見だよ)
(友達登録よろしく)
 
 僕にはプライバシーというものはないのか。誰がそんなに僕のアカウントを広めているんだ。野本といい。3組にろくな友達なんていないのに。まあ、高見さんはよく知らないから、特に話すこともないし、登録だけはしてもいいかな。
 
(ネタと呼べるかわからないけど、僕のクラスに植田直哉って子がいたんだけど、その子も野本に告白されて振ったら、今回の僕のような噂を流されて学校に来なくなったんだ)
(こんなのでよかったらどうぞ)
(それ以外は知らないから)
 
 本当は知っているけど、話し出したらきりがない。それと、ろくに野本と関係を築いてこなかった僕がなんでそんなことを知っているんだって疑われたくないから。
 
(おっけーおっけー)
(それだけで十分)
(放課後西門前で待ってて)
 
(わかった)
 
 既読がついてから何もこないってことはとりあえず一通りの会話は終わったってことでいいのかな。あまり関わりたくないから、会話は少ない方がうれいい。
 
 放課後、高見さんに呼ばれた西校門前に行くと、相変わらずスマホをずっと触っている高見さんがいた。
 
「お。やっと来たか。遅かったじゃん」
 
 ホームルーム終わる時間そんなに変わらなかったと思うけど、待たせたのなら悪かった。
 
「それで僕を呼び出した用事って何?」
 
 高見さんはスマホをカバンにしまって、代わりにカバンにあった、小さなスナック菓子を取り出した。
 
「お礼にこれ渡したかっただけ。じゃあね」
 
 ……高見さんは去って行った。僕にスナック菓子を手渡して。
 なんだったんだ一体。お礼って言っていたけど、僕大したことしてないのに。それにしても高見さんは植田の件を聞いてどうするつもりなんだろうか。追い込むって言っていたけど……いじめのようなことはしないよな。流石の高見さんでもそれくらいわかっているよな。
 
 次の日の昼休み。
 まだ午後からの授業が残っているというのに、野本がカバンを持って廊下を走って行く姿が見えた。体調不良で早退したのかなと思っていたけど、どうやらそうではなかったみたいだ。
 3組の昼休みまでのことを僕が耳にしたのは5時間目が終わった休み時間だった。僕は何故か根岸に呼ばれて自販機まで一緒に来ていた。そこには、根岸の親友、能見さんがいた。
 
「昼休みに野本がカバンを持ってどこかに行っているのを見ただろ」
 
「ああ、でも体調不良でしょ」
 
「私も初めはそう思ったんだが、そうじゃなかったみたいだ。高見が休み時間になるたびに、野本を糾弾していたらしく、山河内や牧瀬が止めに入ったらしいけど、全然聞く耳を持たなかったらしい」
 
「それじゃあ野本は……」
 
「ああ、高見の糾弾を受けて帰って行ったらしい。こんなのもういじめじゃないか。確かに野本は最低なことをした、だからと言って、その相手をいじめるのは間違っているよ」
 
 根岸顔に似合わず真面目な奴なんだ。前から不良な方の人間だと思っていたから意外だ。僕個人的な意見としては、野本がいじめられてこの学校からさってくれるのは好都合だ。だけど、根岸の意見も尊重はしたい。
 
「確かに高見さんのしていることは間違っているよ。でも、僕らじゃ高見さんをどうにかできないよ。僕が何を言っても聞き流されるだけだし、根岸が言えば新しい争いが起こるかもしれない。山河内さんがどうにかしようとしてできなかったのなら、誰にも止められないよ」
 
 こう言っておけば、根岸のことは責めてなく、かつ仕方なかったで済ますことができる。まあ、根岸が納得してくれたらの話だけど。
 
「それはわかっている。私たちじゃ高見をどうにもできないことは。……私までいじめに加担されたとか思われたくない」
 
 なるほど本音はそっちか。気持ちはわかるよ。誰だって保身に走るのは当然だよ。こういう場合、動画を撮って広めた人間は正義とみられることが多いからな。いじめの主犯は野本と口争いをしていた根岸か、動画の後半で野本の頬をしばいた新島さんになるのだろうな。もし、この動画が先生に見られれば、いじめとみなされてもおかしくはないもんな。ずる賢い奴だな高見さんは。自分は高見の見物ってか。あの動画角度的に根岸の真後ろにいた僕も加害者の1人のように撮られているから、他人事でないんだよな。
 まあ、僕としては死ぬこと以外で野本から逃げられたらなんでもいいけど。最悪退学になっても別の道に進めばなんとかなるし。動画が拡散されることだけはなんとかして避けないと。学校外は炎上問題があるから。
 高見さんに連絡を取ろうと、ズボンのポケットからスマホを取り出して画面をつけて、すぐに消してからまたズボンのポケットにしまった。
 とりあえず高見さんには関わりたくない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逢魔ヶ刻の迷い子

naomikoryo
ホラー
夏休みの夜、肝試しのために寺の墓地へ足を踏み入れた中学生6人。そこはただの墓地のはずだった。しかし、耳元に囁く不可解な声、いつの間にか繰り返される道、そして闇の中から現れた「もう一人の自分」。 気づいた時、彼らはこの世ならざる世界へ迷い込んでいた——。 赤く歪んだ月が照らす異形の寺、どこまでも続く石畳、そして開かれた黒い門。 逃げることも、抗うことも許されず、彼らに突きつけられたのは「供物」の選択。 犠牲を捧げるのか、それとも——? “恐怖”と“選択”が絡み合う、異界脱出ホラー。 果たして彼らは元の世界へ戻ることができるのか。 それとも、この夜の闇に囚われたまま、影へと溶けていくのか——。

逢魔ヶ刻の迷い子2

naomikoryo
ホラー
——それは、封印された記憶を呼び覚ます夜の探索。 夏休みのある夜、中学二年生の六人は学校に伝わる七不思議の真相を確かめるため、旧校舎へと足を踏み入れた。 静まり返った廊下、誰もいないはずの音楽室から響くピアノの音、職員室の鏡に映る“もう一人の自分”——。 次々と彼らを襲う怪異は、単なる噂ではなかった。 そして、最後の七不思議**「深夜の花壇の少女」**が示す先には、**学校に隠された“ある真実”**が眠っていた——。 「恐怖」は、彼らを閉じ込めるために存在するのか。 それとも、何かを伝えるために存在しているのか。 七つの怪談が絡み合いながら、次第に明かされる“過去”と“真相”。 ただの怪談が、いつしか“真実”へと変わる時——。 あなたは、この夜を無事に終えることができるだろうか?

怖い話 〜邪神 石薙命〜

まろ
ホラー
私の友達の地元の神社には石薙命という名前の神様が祀られていました。これは、その神様の存在を目の当たりにした友達の体験談です。かなり怖いので是非お読みください!

Error404:NOT FOUND

たぴ岡
ホラー
自称探偵の青年が依頼を受けて、ワケありアパートの一室を調査しに行く話。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

【怖い話】とある掲示板の書き込みpart1【集めてみない?】

市井安希
ホラー
2ちゃんねる風の怪談を投稿していきます。

海淵巨大生物との遭遇

ただのA
ホラー
この作品は、深海をテーマにした海洋ホラーで、未知なる世界への冒険とその恐怖が交錯する物語です。 潜水艦《オセアノス》に乗り込み、深海の神秘的で美しい景色に包まれながらも、 次第にその暗闇に潜む恐ろしい存在とも 遭遇していきます。 ────────────────── オセアノスは、最先端技術を駆使して設計された海底観覧用潜水艦。 乗客たちは、全長30メートルを超えるこの堅牢な潜水艦で、深海の神秘的な世界を探索する冒険に出発する。 艦内には、快適な座席やラウンジ、カフェが完備され、長時間の航行でも退屈することはない。 窓からは、光る魚や不思議な深海生物が観察でき、乗客たちは次々と目の前に広がる未知の景色に驚き、興奮する。 しかし、深海には未だ解明されていない謎が数多く存在する。 その暗闇に包まれた世界では、どんな未知の生物がひそんでいるのか、人々の想像を超えた巨大な影が潜んでいるのか、それは誰にも分からない。 それに故に人々は神秘性を感じ恐怖を体験する^_^

田舎のお婆ちゃんから聞いた言い伝え

菊池まりな
ホラー
田舎のお婆ちゃんから古い言い伝えを聞いたことがあるだろうか?その中から厳選してお届けしたい。

処理中です...