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道は同じ 5話
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清掃活動が終われば、野本との接点はしばらくお預けだ。次が確か、文化祭あたりになるはずだ。体育で一緒になることはないし。ようやく平和な日々が訪れるのか。この時を待っていた。いや、前回もこの時は平和だったのだ。というか、野本《のもと》に殺されるまでずっと平和だったのだ。あいつのせいで全てが変わったのだ。関わるのだけはもうごめんだ。
それからと言うもの。僕は学校でも関わる人間は最低限にし、特に野本のクラスメイトの女子とは誰1人として関わりを持つことをやめた。
友達が少ないやつになってしまったけど仕方ない。僕は未来を知っているから、同窓会だってほとんど集まらなかったし。大人になっても関わりがある人間なんてごく少数だ。どちらかというと、大人になって関わる人が増えたことの方が多い。だから、今関わっても将来にはなんの関係もないことの方が多い。1人ででも勉強をしている方が得策だ。
こうして迎えてしまった文化祭。僕の記憶では野本との接点は、たこ焼きを販売している時にだった。特にときめくようなことはなかったけど、文化祭が終わってから週が明けた火曜日に告白されるんだ。体育館裏に呼び出されて。思い出しただけでも寒気がするよ。
だが、今回の僕は違う。クラスで何をするのか決める時に無理を言って、販売ではなく裏方仕事を担当させてもらうようになった。危なかった。調理が男子なのはいいけど、販売も男子がするみたいな流れがあったせいで、危うく野本との接点を作ってしまうところだった。女子からは反感をかってしまったけど、殺されるよりはなんだってましだ。
「井上。休憩時間同じだから、屋台一緒に回らないか?」
植田や他3人に誘われたが、悪いが断る。
「悪い。人が多いところは苦手なんだ。適当に何か買って人が少ないところで飯は食うから、みんなは好きに過ごしてよ」
「せっかくの文化祭なのに、そんなのでいいのかよ」
「それよりも人混みにいたくないからね」
文化祭回っていると野本に会うかもしれないからな。あいつ、祭りとかのイベント好きだったから、全店舗制覇したいとか言ってそうだ。絶対にそっちには行かないからな。
「文化祭を楽しまなかったら、将来絶対後悔するぞ」
それはごもっともな意見だけど、なんせ僕はもう既に高校3年間の文化祭は満喫しているから、今更楽しみたいとか思わないんだよな。今となってはどれだけ目立たず、野本にも気づかれないかが大事だから、文化祭なんて二の次だよ。
「もういいんだよ」
「“もう”ってどう言うことだよ」
少し本音が出てしまった。これだから長話は嫌いだ。
「中学の3年間で十分に文化祭を楽しんだからさ、もう波風立てずに過ごしたいんだよ」
これは間違いなく本心だ。
「中身おっさんかよ。まあ、井上がそこまで言うのなら、仕方ないな。他のやつと回るわ」
すまないな植田達。お前達のことは嫌いではないんだけど、僕は選択肢を間違えるわけにはいかないから。もう死ぬのだけはごめんだから。あんな痛い思いをして死にたくないから。
植田と別れて、僕は誰もいない校舎裏で洗い物を抱えながら、持ってきていたおにぎりを食べていた。
なんて平和な空なんだ。こんな穏やかな日々がずっと続けばいいのにな。
空を流れる雲を永遠に見ていられそうだった。
このまま誰とも関わることなく高校を卒業できないかな。それが1番いいんだけど。無理か。何かしらの関わりはどうしてもできてしまうのか。そろそろ洗い物でも始めよう。まだ休憩時間だけど、やることがなくて暇だから。
そんな僕の前に1人の女子が現れた。その姿を見た途端、僕は金属製のボウルを地面に落としてしまった。キーンと高い音が響くが、それ以上の盛り上がりを見せている文化祭では気づく人間がいなかった。僕の目の前にいる野本結衣《のもとゆい》以外は。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
ボウルを拾ってこの場を立ち去ろうとした僕を野本は呼び止める。
「ねえ。聞きたいことがあるのだけど?」
僕は生唾を飲んで、野本が何を言うのか見守った。反射している窓越しに。
「何かな?」
「4組のたこ焼きってまだ売っている?」
なんでそれを僕に聞くんだ。たこ焼きを売っている人間に見えるか。裏方だから数なんて知らないよ。とは言えず。
「さあ、どうかな。出店の方に行って確認しないとわからないな」
「そっか。そうだよね。井上君は裏方だもんね」
なんで僕の名前を知っている。関わりなんて今まで1回もなかったはずだぞ。どれだけ僕がお前を避けていたのか知っているか。そのせいで僕の人生はつまらないものになっていることも知っているのか。なんだよ。この世界に神なんていないのか。神なんてやっぱりただの迷信だな。どうして、僕は野本と出会ってしまうんだ。
「じゃあ、そろそろ戻るね。たこ焼きをご所望なら、屋台の方に来てね」
内心はビクビクしていた。何より早く野本から離れないとと思っていた。それから文化祭が終わっても野本と会うことはなかった。
それからと言うもの。僕は学校でも関わる人間は最低限にし、特に野本のクラスメイトの女子とは誰1人として関わりを持つことをやめた。
友達が少ないやつになってしまったけど仕方ない。僕は未来を知っているから、同窓会だってほとんど集まらなかったし。大人になっても関わりがある人間なんてごく少数だ。どちらかというと、大人になって関わる人が増えたことの方が多い。だから、今関わっても将来にはなんの関係もないことの方が多い。1人ででも勉強をしている方が得策だ。
こうして迎えてしまった文化祭。僕の記憶では野本との接点は、たこ焼きを販売している時にだった。特にときめくようなことはなかったけど、文化祭が終わってから週が明けた火曜日に告白されるんだ。体育館裏に呼び出されて。思い出しただけでも寒気がするよ。
だが、今回の僕は違う。クラスで何をするのか決める時に無理を言って、販売ではなく裏方仕事を担当させてもらうようになった。危なかった。調理が男子なのはいいけど、販売も男子がするみたいな流れがあったせいで、危うく野本との接点を作ってしまうところだった。女子からは反感をかってしまったけど、殺されるよりはなんだってましだ。
「井上。休憩時間同じだから、屋台一緒に回らないか?」
植田や他3人に誘われたが、悪いが断る。
「悪い。人が多いところは苦手なんだ。適当に何か買って人が少ないところで飯は食うから、みんなは好きに過ごしてよ」
「せっかくの文化祭なのに、そんなのでいいのかよ」
「それよりも人混みにいたくないからね」
文化祭回っていると野本に会うかもしれないからな。あいつ、祭りとかのイベント好きだったから、全店舗制覇したいとか言ってそうだ。絶対にそっちには行かないからな。
「文化祭を楽しまなかったら、将来絶対後悔するぞ」
それはごもっともな意見だけど、なんせ僕はもう既に高校3年間の文化祭は満喫しているから、今更楽しみたいとか思わないんだよな。今となってはどれだけ目立たず、野本にも気づかれないかが大事だから、文化祭なんて二の次だよ。
「もういいんだよ」
「“もう”ってどう言うことだよ」
少し本音が出てしまった。これだから長話は嫌いだ。
「中学の3年間で十分に文化祭を楽しんだからさ、もう波風立てずに過ごしたいんだよ」
これは間違いなく本心だ。
「中身おっさんかよ。まあ、井上がそこまで言うのなら、仕方ないな。他のやつと回るわ」
すまないな植田達。お前達のことは嫌いではないんだけど、僕は選択肢を間違えるわけにはいかないから。もう死ぬのだけはごめんだから。あんな痛い思いをして死にたくないから。
植田と別れて、僕は誰もいない校舎裏で洗い物を抱えながら、持ってきていたおにぎりを食べていた。
なんて平和な空なんだ。こんな穏やかな日々がずっと続けばいいのにな。
空を流れる雲を永遠に見ていられそうだった。
このまま誰とも関わることなく高校を卒業できないかな。それが1番いいんだけど。無理か。何かしらの関わりはどうしてもできてしまうのか。そろそろ洗い物でも始めよう。まだ休憩時間だけど、やることがなくて暇だから。
そんな僕の前に1人の女子が現れた。その姿を見た途端、僕は金属製のボウルを地面に落としてしまった。キーンと高い音が響くが、それ以上の盛り上がりを見せている文化祭では気づく人間がいなかった。僕の目の前にいる野本結衣《のもとゆい》以外は。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
ボウルを拾ってこの場を立ち去ろうとした僕を野本は呼び止める。
「ねえ。聞きたいことがあるのだけど?」
僕は生唾を飲んで、野本が何を言うのか見守った。反射している窓越しに。
「何かな?」
「4組のたこ焼きってまだ売っている?」
なんでそれを僕に聞くんだ。たこ焼きを売っている人間に見えるか。裏方だから数なんて知らないよ。とは言えず。
「さあ、どうかな。出店の方に行って確認しないとわからないな」
「そっか。そうだよね。井上君は裏方だもんね」
なんで僕の名前を知っている。関わりなんて今まで1回もなかったはずだぞ。どれだけ僕がお前を避けていたのか知っているか。そのせいで僕の人生はつまらないものになっていることも知っているのか。なんだよ。この世界に神なんていないのか。神なんてやっぱりただの迷信だな。どうして、僕は野本と出会ってしまうんだ。
「じゃあ、そろそろ戻るね。たこ焼きをご所望なら、屋台の方に来てね」
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