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道は同じ 3話
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話しかけてくれた男はキョトンとしていた。何を言っているのかと言いたそうな顔。
いやいや、初対面だから知らないよ。座席表の名前なんていちいち確認してないから。
「ああ、そうだね。自己紹介がまだだったね。僕は植田直哉。出身中学校は城西だよ。よろしく」
「そうなんだ。僕は井上颯太。出身中学校は城東。よろしく」
植田と名乗る男は手を差し出していた。どうやら握手をしたいらしい。こんなところでするもんではないと思うけど、まあいい。悪い気はしないから。
植田直哉か……。
その名前に聞き覚えはあった。ただ、僕は同じクラスになったことがなく、確か、僕の記憶では、2年になる前に退学していたはず。前回の人生では全く関わりがなかったから、植田の情報については何も知らない。というか、名前を聞くまで完全に忘れ去っていた。
同じクラスになったことのない人間と同じクラスになってしまうのは大丈夫なのだろうか。過去変わりすぎではないか。他にも同じクラスでなかったやつが紛れているんじゃないか。でも、なんでだろうか、たったの5年前の話なのに、1年の時のメンバーがわからない。とりあえず確実にいたのは、達川晴翔《たつかわはると》に津川真琴《つがわまこと》。如月歌恋《きさらぎかれん》に相澤一花《あいざわいちか》。加賀屋敬《かがやたかし》に江川陽葵《えがわひまり》。あと同じ部活だった妹尾大地《せのおだいち》も。あとは今はわからない。3年の時のメンバーと言われたらスッと出てくるのに、1番濃かったはずの1年の時のクラスメイトが曖昧だ。他にもいるのだろうか過去に来てしまった人が。まあ、探したら、過去に戻ったことをなかったことにされかねないから、探さないけど。
そう言えば単純に疑問なんだけど、尾形も過去には戻っているのだろうか。過去に戻ったのはいいものの、何をどうしたらいいのかなんて何もわからないから。問い合わせ窓口みたいなものを先に聞いておくのだった。未来を知っているからこそ、普通の生活が難しい。家族ともどう接すればいいのかさえ悩んでしまう。大人なのか子供なのか、線引きが曖昧だ。まあ、今はとりあえず置いといて、現在進行形の話をしよう。
まず僕が過去に戻ってしないといけないことは1つ。それは野本結衣《のもとゆい》との接触をなくすことだ。彼女が全ての元凶で、僕を殺した犯人。今年の11月に告白されて、当時誰でもいいから彼女を作りたかった僕は、何も聞かずに付き合ってしまう。ここで断るのでもいいけど、それ以上に関わりがなければ告白されることもないから、まずはそちらを断ち切る。
そもそも、野本がこの学校にいるのかを確認しないと。隣のクラスには一応、同じ中学の人間はいるだろうけど、過去の通りだったら、相手は女子だ。しかも、ほとんど話したことのない女子。そんな僕が野本のことを聞きに行くのは野本に興味を惹かれるかもしれないから、こっそりと……それもまずいか。できるだけ、野本に見つからないように、野本を見つけないと。確か野本は、書道部だ。書道部の部室は特別棟の1階、左端。頑張れば教室棟の2階から見えなくはない。でも、教室棟2階の廊下は人通りが特に多い場所だ。窓の外を覗いている人がいたらただの不審者だろうな。遅い時間にしても、誰かしらは必ず通る。それ以外に野本を確認できる場所は……靴箱……僕が先にいないと、見つけることは不可能。靴箱に名前を書いているわけじゃないから、靴箱でも判定はできない。自転車で判別するのはどうだろうか。野本の自転車は他の自転車に比べて目立つ自転車だった。確か、派手なオレンジ色と紺みたいな色の自転車。だが、過去も少なからず変わっている。自転車があったからとその自転車が野本のだとは判定ができない。体育は男女別々だし、始まるの来週からだし、このクラスの女子に野本がいないか訊くか。そんなの、野本に自分の居場所を教えているようなもんじゃないか。そんなことできるか。教室を覗くか。野本に見られたら終わりな気がするからやめておこう。他……何かあったか。顔は見なくていいから名前でもあれば……そうだ。あれだ。新入生のしおり。学校掲示用に教師が持っているあれ。3組は4組と何かとイベントごとで同じ集まりになる。だから、掲示物には2クラス分の生徒の名前が書かれていた紙が教室に貼られていた。初めの頃だけ。あれがあれば、名前だけでも確認できる。いるかいないかはとても大事なことだから、いつ貼ってくれんだ。早く貼ってくれ。野本がこの学校にいるのかいないのか。それが何よりも大事なのだ。それで僕の人生は全く違うものになるんだ。
教師が紙を貼るのを待ったが、それよりも先に、トイレに行っている野本を見つけてしまって落胆してしまった僕であった。
野本はこの学校にいた。まだ最悪なことは起きていないけど、やっぱりいるんだ。
野本を見つけたから、次にすることといえば、野本との接触をなくすこと。手始めに、校外清掃を休む。うちの学校では毎年、校外清掃と言って、学校から駅までの約200メートルに及ぶ道の清掃活動をしている。3組は4組の人間と班になって清掃をしていた。前回の人生では、僕はここで野本と初めて会うのだ。今回も野本と接触はしてしまうだろうから、僕が休めば会うことはない。内申点が減ってしまうのは嫌だが、背に腹は変えられない。殺されるくらいなら、内申点なんていくらでもくれてやる。休む口実を考えないと。風邪といえば教師は信用するだろうけど、問題は親だ。仮病で休ませてはくれないだろうな。本当に熱でも出ないと。体温計の偽装工作はできても、もう1回測ってと言われたら終わりだ。それ以外は、吐くか……。自らそんなことをするのは嫌だけど、野本とのことを考えれば安いものだ。油をそのまま幾らかのめば、気分は悪くなるだろう。これが今の所1番いい作戦だな。不本意だけど。
校外清掃が行われる前に油を調達しておかないと。それとお菓子も。ポテトチップスとチョコを今からでもストックしておこう。
いやいや、初対面だから知らないよ。座席表の名前なんていちいち確認してないから。
「ああ、そうだね。自己紹介がまだだったね。僕は植田直哉。出身中学校は城西だよ。よろしく」
「そうなんだ。僕は井上颯太。出身中学校は城東。よろしく」
植田と名乗る男は手を差し出していた。どうやら握手をしたいらしい。こんなところでするもんではないと思うけど、まあいい。悪い気はしないから。
植田直哉か……。
その名前に聞き覚えはあった。ただ、僕は同じクラスになったことがなく、確か、僕の記憶では、2年になる前に退学していたはず。前回の人生では全く関わりがなかったから、植田の情報については何も知らない。というか、名前を聞くまで完全に忘れ去っていた。
同じクラスになったことのない人間と同じクラスになってしまうのは大丈夫なのだろうか。過去変わりすぎではないか。他にも同じクラスでなかったやつが紛れているんじゃないか。でも、なんでだろうか、たったの5年前の話なのに、1年の時のメンバーがわからない。とりあえず確実にいたのは、達川晴翔《たつかわはると》に津川真琴《つがわまこと》。如月歌恋《きさらぎかれん》に相澤一花《あいざわいちか》。加賀屋敬《かがやたかし》に江川陽葵《えがわひまり》。あと同じ部活だった妹尾大地《せのおだいち》も。あとは今はわからない。3年の時のメンバーと言われたらスッと出てくるのに、1番濃かったはずの1年の時のクラスメイトが曖昧だ。他にもいるのだろうか過去に来てしまった人が。まあ、探したら、過去に戻ったことをなかったことにされかねないから、探さないけど。
そう言えば単純に疑問なんだけど、尾形も過去には戻っているのだろうか。過去に戻ったのはいいものの、何をどうしたらいいのかなんて何もわからないから。問い合わせ窓口みたいなものを先に聞いておくのだった。未来を知っているからこそ、普通の生活が難しい。家族ともどう接すればいいのかさえ悩んでしまう。大人なのか子供なのか、線引きが曖昧だ。まあ、今はとりあえず置いといて、現在進行形の話をしよう。
まず僕が過去に戻ってしないといけないことは1つ。それは野本結衣《のもとゆい》との接触をなくすことだ。彼女が全ての元凶で、僕を殺した犯人。今年の11月に告白されて、当時誰でもいいから彼女を作りたかった僕は、何も聞かずに付き合ってしまう。ここで断るのでもいいけど、それ以上に関わりがなければ告白されることもないから、まずはそちらを断ち切る。
そもそも、野本がこの学校にいるのかを確認しないと。隣のクラスには一応、同じ中学の人間はいるだろうけど、過去の通りだったら、相手は女子だ。しかも、ほとんど話したことのない女子。そんな僕が野本のことを聞きに行くのは野本に興味を惹かれるかもしれないから、こっそりと……それもまずいか。できるだけ、野本に見つからないように、野本を見つけないと。確か野本は、書道部だ。書道部の部室は特別棟の1階、左端。頑張れば教室棟の2階から見えなくはない。でも、教室棟2階の廊下は人通りが特に多い場所だ。窓の外を覗いている人がいたらただの不審者だろうな。遅い時間にしても、誰かしらは必ず通る。それ以外に野本を確認できる場所は……靴箱……僕が先にいないと、見つけることは不可能。靴箱に名前を書いているわけじゃないから、靴箱でも判定はできない。自転車で判別するのはどうだろうか。野本の自転車は他の自転車に比べて目立つ自転車だった。確か、派手なオレンジ色と紺みたいな色の自転車。だが、過去も少なからず変わっている。自転車があったからとその自転車が野本のだとは判定ができない。体育は男女別々だし、始まるの来週からだし、このクラスの女子に野本がいないか訊くか。そんなの、野本に自分の居場所を教えているようなもんじゃないか。そんなことできるか。教室を覗くか。野本に見られたら終わりな気がするからやめておこう。他……何かあったか。顔は見なくていいから名前でもあれば……そうだ。あれだ。新入生のしおり。学校掲示用に教師が持っているあれ。3組は4組と何かとイベントごとで同じ集まりになる。だから、掲示物には2クラス分の生徒の名前が書かれていた紙が教室に貼られていた。初めの頃だけ。あれがあれば、名前だけでも確認できる。いるかいないかはとても大事なことだから、いつ貼ってくれんだ。早く貼ってくれ。野本がこの学校にいるのかいないのか。それが何よりも大事なのだ。それで僕の人生は全く違うものになるんだ。
教師が紙を貼るのを待ったが、それよりも先に、トイレに行っている野本を見つけてしまって落胆してしまった僕であった。
野本はこの学校にいた。まだ最悪なことは起きていないけど、やっぱりいるんだ。
野本を見つけたから、次にすることといえば、野本との接触をなくすこと。手始めに、校外清掃を休む。うちの学校では毎年、校外清掃と言って、学校から駅までの約200メートルに及ぶ道の清掃活動をしている。3組は4組の人間と班になって清掃をしていた。前回の人生では、僕はここで野本と初めて会うのだ。今回も野本と接触はしてしまうだろうから、僕が休めば会うことはない。内申点が減ってしまうのは嫌だが、背に腹は変えられない。殺されるくらいなら、内申点なんていくらでもくれてやる。休む口実を考えないと。風邪といえば教師は信用するだろうけど、問題は親だ。仮病で休ませてはくれないだろうな。本当に熱でも出ないと。体温計の偽装工作はできても、もう1回測ってと言われたら終わりだ。それ以外は、吐くか……。自らそんなことをするのは嫌だけど、野本とのことを考えれば安いものだ。油をそのまま幾らかのめば、気分は悪くなるだろう。これが今の所1番いい作戦だな。不本意だけど。
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