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46話
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しばらく人体模型を眺めていると、羽山は人体模型で遊んでいた。内臓を全部取り出して、ひとつひとつを眺めていた。
「何しているの?」
「これって、肝臓って言うのだけど、食肉で言うのならレバーだなって」
人体で表すの地味に気持ち悪いからやめてくれない。
「ハツもあるよ」
だからやめてって。
もう話題を変えるしかないな。
「こんな造形品見ただけで分かるの?」
「うん。勉強しているから。それに、よく読んでいる小説に出てくるの。抉られた腹からは、五臓が血に埋もれながら飛び出している。って」
変える方向を間違えた。
どうしたって物騒な方向に持っていく羽山を褒め称えるしかないな。
それよりも早くこの場から抜け出す方がいいか。そしたら、変な話もされることはない。
「羽山。確認も終わったし、校長室に戻ろうよ」
いち早くこの場から去らなければ、そんな使命感を感じていたけど、羽山は僕の声が聞こえていないのか人体模型をじっと見つめていた。
「羽山?」
声だけでは反応が全くない。
「羽山? 大丈夫?」
そう声をかけながら羽山の肩を揺らした。
身体を揺らされたことによってようやく僕に気づいた羽山は目にゴミでも入ったのか右手と左手でそれぞれ目を掻いて、引き攣った笑顔を僕に見せた。
「どうしたの?」
場所を移動しようかと思っていたけど、羽山が動かないのだったら、そのままでもいいか。
「……いや。何でもない」
僕から話しかけたのに、話すことをやめてしまったから、居心地の悪い間が僕らを埋め尽くしていた。
羽山の目の前には人体模型があるからいいけど、僕の目の前にあるのは古い顕微鏡だ。見つめるにしてはすぐ飽きてしまう。動くにも動きづらいし、他に目線を向ける先がない。
そんな沈黙を破ったのは羽山だった。
「ねえ。大輔君。もう少し理科室探索しない?」
「え? でも親がもう迎えに来ているんじゃないの?」
「うん。もう少し待ってもらう。理科室の後ろの棚ってほとんど触らないから、何があるのか興味ない?」
僕は唾を飲み込んだ。
「めっちゃ興味がある」
と言っても、危険物は鍵が掛かった厳重な金庫に近いロッカーに入れられているから、興味のそそるものは少ない。
そんなことを考えている僕とは裏腹に、羽山は何の躊躇いもなく次々に扉を開けていく。まるで宝探しでもしている子供のように。
「何かいいもの見つかった?」
「全然。さっきから本しか見つからない」
僕も同じだ。
理科で一括りにしてても、分野で言うのならたくさんある。生物、植物、人体、地球、魚類、図鑑のような本から文字時か書かれていない小説のようなものまで無数にあった。
どれだけ探しても同じような本しか見つからない。これは飽きる。羽山はなんでそんな楽しそうな顔をすることができるのだ。
ああ、違うは。探しながら本を楽しく読んでいるのか。僕にはこの本は読めない。文字が多すぎる。
羽山から少し離れて、理科室の左端にある年代ものの書庫の前に立っていた。本体も扉も木製で、上の段は引き違い戸、下の段は引き戸になっている。上の段は鍵があり、開けそうになさそうだ。試しに動かそうとしてみるけど、思っていた通り動かない。下の段は鍵はなさそうだけど、何年も使っていないのか、扉に触れると手には埃を感じていた。
振り払ってもどうせまた付くから仕方ないと思い、振り払うことはせずに、ゆっくりと扉を開いた。
中から顔を見せたのは黒い目をした生物。それを見た瞬間に変な悲鳴を上げながらお尻を使って後ろに下がった。下がった先に机があって頭をぶつけたことで僕は頭を抱えながらその場に倒れ込んだ。
「大輔君大丈夫?」
羽山はニヤけた顔でそんな言葉を呟いていた。多分僕の変な悲鳴を聞いて笑っているのだろう。僕だって、あんな声どこから出たのか自分に聞きたいよ。
頭をぶつけた衝撃で言葉をうまく伝えられそうになかった僕は、無言で書庫の下の段の引き出しを指差した。
何と僕は驚いた衝撃で扉を閉めてしまっていた。
羽山先に謝っとく。ごめん。
羽山も恐る恐る扉に手をかけていた。
その頃僕は羽山の真後ろで寝そべっていた姿勢から身体を起こして座り込んでいた。
「うわっ!」
羽山は悲鳴とともに立ち上がった。そのせいで羽山のお尻が僕の顔面を覆って、足を後ろに下げていたから、僕は頭をもう1度机にぶつけて倒れ込んだ。
流石の羽山も、2回も倒れ込む僕を見て動揺を隠せなかったみたいだ。
「ご、ごめん……大丈夫……?」
大丈夫だったら床に倒れ込んでいない。せっかく痛みが引きかけていたのに全く同じところを打つとは。2回目は本格的に痛い。
羽山はなぜか寝そべっている僕の両肩に手を回して身体を起こした。
無理やり起こされたものだから、まだ頭はクラクラする。
「怪我してない?」
「頭から血が出ていなければ……」
僕がそう言うと、羽山は犬を撫でるように僕の髪をわしゃわしゃと触り出した。
「ちょ、ちょっと何しているの!」
満遍なく触り終えて羽山は手を払った。
ゴミでもついていたのだろうか。そうだったのならごめん。
「大丈夫。血は出てないよ。後頭部がたんこぶになりそうだから、帰ったら冷やしてね」
僕は羽山医師に診察をされていたようだ。それならそうと言ってくれればいいのに、突然頭を触られるから何事かと思ったよ。
「あ、ありがとう」
なんでお礼を言うだけなのにこんなに恥ずかしいんだ。
「いや。私こそ。ごめん……」
僕が変なものを見つけてしまったから、完全にお通やムードだ。
「何しているの?」
「これって、肝臓って言うのだけど、食肉で言うのならレバーだなって」
人体で表すの地味に気持ち悪いからやめてくれない。
「ハツもあるよ」
だからやめてって。
もう話題を変えるしかないな。
「こんな造形品見ただけで分かるの?」
「うん。勉強しているから。それに、よく読んでいる小説に出てくるの。抉られた腹からは、五臓が血に埋もれながら飛び出している。って」
変える方向を間違えた。
どうしたって物騒な方向に持っていく羽山を褒め称えるしかないな。
それよりも早くこの場から抜け出す方がいいか。そしたら、変な話もされることはない。
「羽山。確認も終わったし、校長室に戻ろうよ」
いち早くこの場から去らなければ、そんな使命感を感じていたけど、羽山は僕の声が聞こえていないのか人体模型をじっと見つめていた。
「羽山?」
声だけでは反応が全くない。
「羽山? 大丈夫?」
そう声をかけながら羽山の肩を揺らした。
身体を揺らされたことによってようやく僕に気づいた羽山は目にゴミでも入ったのか右手と左手でそれぞれ目を掻いて、引き攣った笑顔を僕に見せた。
「どうしたの?」
場所を移動しようかと思っていたけど、羽山が動かないのだったら、そのままでもいいか。
「……いや。何でもない」
僕から話しかけたのに、話すことをやめてしまったから、居心地の悪い間が僕らを埋め尽くしていた。
羽山の目の前には人体模型があるからいいけど、僕の目の前にあるのは古い顕微鏡だ。見つめるにしてはすぐ飽きてしまう。動くにも動きづらいし、他に目線を向ける先がない。
そんな沈黙を破ったのは羽山だった。
「ねえ。大輔君。もう少し理科室探索しない?」
「え? でも親がもう迎えに来ているんじゃないの?」
「うん。もう少し待ってもらう。理科室の後ろの棚ってほとんど触らないから、何があるのか興味ない?」
僕は唾を飲み込んだ。
「めっちゃ興味がある」
と言っても、危険物は鍵が掛かった厳重な金庫に近いロッカーに入れられているから、興味のそそるものは少ない。
そんなことを考えている僕とは裏腹に、羽山は何の躊躇いもなく次々に扉を開けていく。まるで宝探しでもしている子供のように。
「何かいいもの見つかった?」
「全然。さっきから本しか見つからない」
僕も同じだ。
理科で一括りにしてても、分野で言うのならたくさんある。生物、植物、人体、地球、魚類、図鑑のような本から文字時か書かれていない小説のようなものまで無数にあった。
どれだけ探しても同じような本しか見つからない。これは飽きる。羽山はなんでそんな楽しそうな顔をすることができるのだ。
ああ、違うは。探しながら本を楽しく読んでいるのか。僕にはこの本は読めない。文字が多すぎる。
羽山から少し離れて、理科室の左端にある年代ものの書庫の前に立っていた。本体も扉も木製で、上の段は引き違い戸、下の段は引き戸になっている。上の段は鍵があり、開けそうになさそうだ。試しに動かそうとしてみるけど、思っていた通り動かない。下の段は鍵はなさそうだけど、何年も使っていないのか、扉に触れると手には埃を感じていた。
振り払ってもどうせまた付くから仕方ないと思い、振り払うことはせずに、ゆっくりと扉を開いた。
中から顔を見せたのは黒い目をした生物。それを見た瞬間に変な悲鳴を上げながらお尻を使って後ろに下がった。下がった先に机があって頭をぶつけたことで僕は頭を抱えながらその場に倒れ込んだ。
「大輔君大丈夫?」
羽山はニヤけた顔でそんな言葉を呟いていた。多分僕の変な悲鳴を聞いて笑っているのだろう。僕だって、あんな声どこから出たのか自分に聞きたいよ。
頭をぶつけた衝撃で言葉をうまく伝えられそうになかった僕は、無言で書庫の下の段の引き出しを指差した。
何と僕は驚いた衝撃で扉を閉めてしまっていた。
羽山先に謝っとく。ごめん。
羽山も恐る恐る扉に手をかけていた。
その頃僕は羽山の真後ろで寝そべっていた姿勢から身体を起こして座り込んでいた。
「うわっ!」
羽山は悲鳴とともに立ち上がった。そのせいで羽山のお尻が僕の顔面を覆って、足を後ろに下げていたから、僕は頭をもう1度机にぶつけて倒れ込んだ。
流石の羽山も、2回も倒れ込む僕を見て動揺を隠せなかったみたいだ。
「ご、ごめん……大丈夫……?」
大丈夫だったら床に倒れ込んでいない。せっかく痛みが引きかけていたのに全く同じところを打つとは。2回目は本格的に痛い。
羽山はなぜか寝そべっている僕の両肩に手を回して身体を起こした。
無理やり起こされたものだから、まだ頭はクラクラする。
「怪我してない?」
「頭から血が出ていなければ……」
僕がそう言うと、羽山は犬を撫でるように僕の髪をわしゃわしゃと触り出した。
「ちょ、ちょっと何しているの!」
満遍なく触り終えて羽山は手を払った。
ゴミでもついていたのだろうか。そうだったのならごめん。
「大丈夫。血は出てないよ。後頭部がたんこぶになりそうだから、帰ったら冷やしてね」
僕は羽山医師に診察をされていたようだ。それならそうと言ってくれればいいのに、突然頭を触られるから何事かと思ったよ。
「あ、ありがとう」
なんでお礼を言うだけなのにこんなに恥ずかしいんだ。
「いや。私こそ。ごめん……」
僕が変なものを見つけてしまったから、完全にお通やムードだ。
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