今日の夜。学校で

倉木元貴

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44話

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「行こうか!」と元気よく意気込んだのなら、先を歩いてくれよ。何で僕はまた盾にされているんだ。もう慣れたから別にいいけどさ、背中を押すのは違うぞ。今の体勢完全に何かあったときに僕を見捨てるつもりのやつだ。せめて隣を歩いてくれないか。服掴まれていたら歩きづらいのだけど。
 僕の思いとは裏腹に羽山は僕の背中に隠れて出てこようとはしていなかった。
 歩いているとたまに羽山の膝が僕の足にあたるのだけど、もしかして身体を斜めにしているのか。後ろから何か来た時に対処してくれるためなのか。それとも、いざという時にいち早く逃げられるようになのか。これは僕の直感だけど、僕は後者だと思っている。だって羽山だもん。
 ステージ下に降りても羽山は僕の背中から離れなかった。
 もし、僕が来た方向を見ようと先に背中を向けたら羽山はどうするんだろうな。ちょっと面白そうだからやあってみよう。
 結果は言うまでもなく。僕の力じゃ羽山には到底勝てるものではなくて、僕は暗闇の一点をただ見つめることしかさせてくれなかった。懐中電灯で辺りを照らしても、物自体が極端に少ない。ほとんど何もなかった。1番に目に留まったのは、いつの時代のだろうか、壊れた跳び箱だった。僕はそれを見つめて、使えないなら捨てろよ。と思った。
 
「特に何もないね」
 
「だね。思っていたよりも狭いし、埃もひどいね。全く掃除がされてない感じだね」
 
 僕もそれは思った。羽山に飛ばされて飛び込んだマットよりも極端に埃がひどい。マスク1つで解決できないくらい煙たい。煙たいと言うのもおかしいことだが、それくらい埃がひどいのだ。
 
「大輔君見て。体育館の床下にも空間があるよ」
 
 羽山とともに体育館床下を懐中電灯で照らすと、そこには空間が広がっていた。ステージよりも低いからかがまないと入れないような空間。間違いなく床下だけど、そこに気になるものが置いてあった。見た目は小さなトロッコ。レールもあるし、何の道具なのか。気になる。
 羽山も好奇心には勝てないようだ。さっきまで僕の背中に隠れていたのに、いつの間にか姿を現せて僕よりも前で先に触っていた。
 
「引っ張ってみようか」
 
「引っ張るしかないよね」
 
 何が出てきても大丈夫なように、僕は逃げ道の確認だけはしておいた。主に障害物がないことを。
 
「それじゃあ、大輔君引っ張って」
 
 何でだよ。
 確かに僕も引っ張ろうと言ったのだけど、手伝いくらいはしてくれよ。
 考えていることが顔に出ていたのか、羽山は僕にこう言った。
 
「大丈夫だよ背中は引っ張ってあげるから」
 
 そうじゃないんだよな。一緒に引っ張って欲しいのは確かだけど、そうじゃないんだよ。このトロッコのようなものを一緒に持って欲しいんだよな。
 僕がそう言っても羽山は聞くことはないだろうから、僕は早々に諦めた。
 
「それじゃあ引っ張るよ」
 
「一思いに行ってね」
 
 言い方。それにまあまあ重たそうなものだから、一思いにはできないと思う。
 
「よっし!」
 
 自分に喝を入れて、トロッコに手をかけた。綱引きの要領で後ろに体重をかけて、引っ張った。レールの上に乗っていたから、強い力で引っ張らなくても軽く動いていたせいで、僕と羽山は後ろに飛ばされた。
 このままでは羽山を踏んづけてしまう。そう思った僕は、倒れながら身体を捻って羽山を踏んづけることを何とか回避したが、手だけはどこかにつかないといけなかって、羽山の身体に手が触れてしまっていた。
 
「……ご、ごめん」
 
 二重の意味で。
 
「ううん。大丈夫だよ。それにしても拍子抜けだったね。まさかこんなにも軽いものだったとは」
 
 本当だ。ごつい格好をしていて中身は空なのか。
 汚れたズボンの埃を払いながら立ち上がって、トロッコの中を2人で覗く。中に入っていたのは、貴重なものでも呪物できなものでもなくて、単なるパイプ椅子だった。
 それを見た羽山は大きな声で笑い出した。
 
「なんだパイプ椅子だったのか。ドキドキして損をしたよ」
 
 笑いすぎて腹でも痛めたのか、笑い終えてからもずっと腹を押さえていた。
 
「卒業式で使うパイプ椅子。今までどこからやってくるのだろうかと思っていたけど、まさかここだったとは」
 
「気にしていなかったから想像もできなかったね」
 
 そうだけど仕方がないことだ。だって、パイプ椅子なんて年間で3回使えば多い方。少ない時には1回しか使わない。頭の片隅にも存在がなかったよ。
 パイプ椅子の乗っているトロッコのようなものを戻して、辺りを見渡す。
 
「他に何もないね」
 
「そう言えば、大輔君前にステージ下に隠し扉があるって言ってなかった?」
 
 羽山に言われて、言ったような記憶があるようなないような。でも、噂では聞いたことがあるから、確かめないわけにはいかない。
 
「よし! 扉探そう!」
 
「おー!」
 
 羽山も乗り気だったけど、探せど探せど扉らしくものは見つからない。
 
「扉ないねー」
 
「扉も迷信だったのかな?」
 
「他の七不思議に比べて怖さが足りないから、本当の話だと思ったのだけどなー。どれだけ探しても扉はないね」
 
 そんなに広くない空間。見つからない方がおかしい。埃に埋もれているかもと思って、壁を触るけど、扉のようなものは出てこない。相変わらず、手は埃まみれになるけど。
 噂は偽物だったことが分かったからいいか。そう思っていたけど、羽山は突然大きな声を出す。
 
「あ! 大輔君これ見て!」
 
 羽山が懐中電灯で照らしていた先を見つめると、他の壁とは明らかに色の違う壁があった。大きさ的に扉のあとだ。
 
「もうすでに埋められていたってことか」
 
「みたいだね。探してもないわけだよ。体育館の検証もこれで終わりだね。残るは理科室。お母さんが迎えにくるまでに全部周ろう」
 
 羽山は僕に催促をして、僕もそれに頷く。
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