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38話
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「そんなわけないじゃん。至って普通の羽山愛だよ」
あのぶっきらぼうな羽山がそんなことを言ったって誰も信じれないって。
もしこの羽山が本当に悪霊に取り憑かれているのだったら、前回僕と駆け回っていた時からだよな。怖っ。でも、あの時はちゃんと人間だった。僕は羽山の体温を覚えているから。
羽山のためにもそろそろ出るか。もう、鼻が限界だ。こっちが本音。
僕は掃除道具入れの内側から全力で扉を押して、外に出た。久しぶりに外の空気に触れて、邪気でも浄化されている気分になっていた。
掃除道具入れから出たのはいいけど、言葉を何も考えていなかった。
ああ、月ってあんなにも明るかったんだな。さっきまで真っ暗なところでいたから、弱い月光でも眩しく感じるな。さて、そろそろ何か変わったかな。
羽山やみんながいる方に視線を向けるが、みんな僕を無言で見ていた。羽山だけは睨んでいるようだった。羽山から視線を逸らした僕は、無言でベランダの方へ歩いた。特に何かしたいってことはなかった。できるだけ羽山から遠い位置がいいのではないかって思ってだ。いつでも逃げられるように、窓でも開けようか。いや、逃げても無駄だ。羽山に必ず追いつかれる。
ああ、月が綺麗だ。半月少し進み、丸みが増している。この状態の月に名前はあるのだろうか。理科の教科書には載ってなかったから、知らないや。
僕が完全に諦めていたその時に、ベランダ側に集められていた机と机の間から、土管から出てきたマリオのように裕介が立ち上がった。立ち上がると同時に深いため息を吐いていた。
「まあ、そう言うことだから」
どう言うことなのだ。僕は全く理解できないぞ。
「じゃ、じゃあ、裕介も大輔も元気ってことなのか?」
そう言ったのは瞬だった。
後のみんなは僕と同じように何が起きているのか理解していないようだった。
「ああ、至って健康体だ。まさか、羽山がここまで動けるとは思ってもいなかったが、羽山も正真正銘の本物だ、今は亡霊も何も取り付いてはいない」
裕介まで羽山が取り憑かれていると思っていたのか。まあ、仕方ないあの羽山だもん。
「そうそう、そう言うことだから。みんなびっくりした?」
びっくりと言う言葉では片付けられないほど、みんな怖がっている。と言うか、みんな羽山に怯えている。まだ信じれないぞって顔をしている人もちらほら。まあ、無理はないあの羽山だもん。こんなことをしでかすとは誰も想像はできなかっただろうな。隣にいた、羽山のことを1番知っている僕でさえこうなるとは思ってもいなかったから。
「あーあ、最後くらい羽山に勝てると思っていたのにな。やっぱ羽山には敵わないや」
「いやいや、曽田君の考えた仕掛けもなかなか怖かったよ」
「謙遜されながら言われても説得力がないよ」
いや、裕介よ。羽山、裕介の仕掛けにめっちゃ驚いていたぞ。もしレコードでもあったのなら、あの驚いた声を録音したかったよ。それを裕介に聞かせたかったよ。なかなかの笑い物だったから。
僕は思い出し笑いで体を震わせていたのか、何故か羽山に睨まれていた。途端に目を逸らして外を眺めていたから、羽山がじっと睨んでいたのかは知らない。
「でも、まさか、脅かす側が脅かされる側になるとは思わなかったよ。よくそんなこと考えたね。そう言えば、いつから僕らがいることを分かっていたの?」
あ、裕介。それは訊いてはいけない。だって全ての犯人が僕だから。
「大輔君と話していると自ずとね。大輔君嘘とか苦手なタイプだから」
なんか上手く誤魔化してくれた。あ、ありがとう羽山。
「そうか。大輔が分かりやすかったのか。もう少しその辺を考慮すれば良かったよ」
そうそう、僕が悪いんだけど。羽山本当にありがとう。何のメリットがあってそうしてくれているのか分からないけど。
「それじゃあ、片付けをして解散しよう」
「ああ、そうだね」
心霊現象を全て終わった。みんな完全に気を抜いていると、僕の目の前に、窓越しではあったけど、長い髪の能面を被った人が斧を振り翳していた。
僕は恐怖で、悲鳴を上げながら腰を抜かしその場に座り込んだ。
僕以外にも何人も、特に女子が教室中に響き渡る。その中で、羽山だけが何食わぬ顔で立っていた。
なんでそんな顔ができるのだ。まさか、あいつに対抗できるって言うのか。
誰しもがそんなことを思っていた。羽山はゆっくりと窓に近づき、斧を振り翳している人がいるのに招き入れるかのように窓を開けた。そしてこう言った。
「校長先生ありがとうございます」
羽山の言葉に誰しもが固まった。僕自身も言っていることがうまく理解できなかった。
斧を振り翳していた人は、お面とかつらを取って、僕らに素顔を晒した。
「こんなに動くのは久しぶりだから、疲れたよ」
それは僕らの知っている校長先生だった。
そう言えば、羽山はそんな事を言っていたな。1階で僕と羽山が対峙しているときに。僕が腹を殴られる前に。聞こえた悲鳴が校長先生のせいで起きていると。校長先生に何やらしているんだ羽山。でも、あの校長先生もお化けの仮装をしてくれるんだな。なんか新鮮だよ。
あのぶっきらぼうな羽山がそんなことを言ったって誰も信じれないって。
もしこの羽山が本当に悪霊に取り憑かれているのだったら、前回僕と駆け回っていた時からだよな。怖っ。でも、あの時はちゃんと人間だった。僕は羽山の体温を覚えているから。
羽山のためにもそろそろ出るか。もう、鼻が限界だ。こっちが本音。
僕は掃除道具入れの内側から全力で扉を押して、外に出た。久しぶりに外の空気に触れて、邪気でも浄化されている気分になっていた。
掃除道具入れから出たのはいいけど、言葉を何も考えていなかった。
ああ、月ってあんなにも明るかったんだな。さっきまで真っ暗なところでいたから、弱い月光でも眩しく感じるな。さて、そろそろ何か変わったかな。
羽山やみんながいる方に視線を向けるが、みんな僕を無言で見ていた。羽山だけは睨んでいるようだった。羽山から視線を逸らした僕は、無言でベランダの方へ歩いた。特に何かしたいってことはなかった。できるだけ羽山から遠い位置がいいのではないかって思ってだ。いつでも逃げられるように、窓でも開けようか。いや、逃げても無駄だ。羽山に必ず追いつかれる。
ああ、月が綺麗だ。半月少し進み、丸みが増している。この状態の月に名前はあるのだろうか。理科の教科書には載ってなかったから、知らないや。
僕が完全に諦めていたその時に、ベランダ側に集められていた机と机の間から、土管から出てきたマリオのように裕介が立ち上がった。立ち上がると同時に深いため息を吐いていた。
「まあ、そう言うことだから」
どう言うことなのだ。僕は全く理解できないぞ。
「じゃ、じゃあ、裕介も大輔も元気ってことなのか?」
そう言ったのは瞬だった。
後のみんなは僕と同じように何が起きているのか理解していないようだった。
「ああ、至って健康体だ。まさか、羽山がここまで動けるとは思ってもいなかったが、羽山も正真正銘の本物だ、今は亡霊も何も取り付いてはいない」
裕介まで羽山が取り憑かれていると思っていたのか。まあ、仕方ないあの羽山だもん。
「そうそう、そう言うことだから。みんなびっくりした?」
びっくりと言う言葉では片付けられないほど、みんな怖がっている。と言うか、みんな羽山に怯えている。まだ信じれないぞって顔をしている人もちらほら。まあ、無理はないあの羽山だもん。こんなことをしでかすとは誰も想像はできなかっただろうな。隣にいた、羽山のことを1番知っている僕でさえこうなるとは思ってもいなかったから。
「あーあ、最後くらい羽山に勝てると思っていたのにな。やっぱ羽山には敵わないや」
「いやいや、曽田君の考えた仕掛けもなかなか怖かったよ」
「謙遜されながら言われても説得力がないよ」
いや、裕介よ。羽山、裕介の仕掛けにめっちゃ驚いていたぞ。もしレコードでもあったのなら、あの驚いた声を録音したかったよ。それを裕介に聞かせたかったよ。なかなかの笑い物だったから。
僕は思い出し笑いで体を震わせていたのか、何故か羽山に睨まれていた。途端に目を逸らして外を眺めていたから、羽山がじっと睨んでいたのかは知らない。
「でも、まさか、脅かす側が脅かされる側になるとは思わなかったよ。よくそんなこと考えたね。そう言えば、いつから僕らがいることを分かっていたの?」
あ、裕介。それは訊いてはいけない。だって全ての犯人が僕だから。
「大輔君と話していると自ずとね。大輔君嘘とか苦手なタイプだから」
なんか上手く誤魔化してくれた。あ、ありがとう羽山。
「そうか。大輔が分かりやすかったのか。もう少しその辺を考慮すれば良かったよ」
そうそう、僕が悪いんだけど。羽山本当にありがとう。何のメリットがあってそうしてくれているのか分からないけど。
「それじゃあ、片付けをして解散しよう」
「ああ、そうだね」
心霊現象を全て終わった。みんな完全に気を抜いていると、僕の目の前に、窓越しではあったけど、長い髪の能面を被った人が斧を振り翳していた。
僕は恐怖で、悲鳴を上げながら腰を抜かしその場に座り込んだ。
僕以外にも何人も、特に女子が教室中に響き渡る。その中で、羽山だけが何食わぬ顔で立っていた。
なんでそんな顔ができるのだ。まさか、あいつに対抗できるって言うのか。
誰しもがそんなことを思っていた。羽山はゆっくりと窓に近づき、斧を振り翳している人がいるのに招き入れるかのように窓を開けた。そしてこう言った。
「校長先生ありがとうございます」
羽山の言葉に誰しもが固まった。僕自身も言っていることがうまく理解できなかった。
斧を振り翳していた人は、お面とかつらを取って、僕らに素顔を晒した。
「こんなに動くのは久しぶりだから、疲れたよ」
それは僕らの知っている校長先生だった。
そう言えば、羽山はそんな事を言っていたな。1階で僕と羽山が対峙しているときに。僕が腹を殴られる前に。聞こえた悲鳴が校長先生のせいで起きていると。校長先生に何やらしているんだ羽山。でも、あの校長先生もお化けの仮装をしてくれるんだな。なんか新鮮だよ。
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