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14話
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部屋の床で勉強もせずにゴロゴロとしていると、お母さんに台所に来るように言われた。
遠くから大声で、はしたない。
台所に行くと、母さんは、黙々と何かの作業をしていた。近づいた僕に気付いてないのか、振り向くのが面倒なのか、背中を向けていた。
「何、母さん?」
「これ貰ったのだけど、そこのお皿の中で種取ってくれない」
お母さんが指差した先には、赤い身をした食べ物かも怪しそうな、いちじくの偽物のようなものが、水の張ってあった皿に沈められていた。中にはいちじくより大きなまるで宝石みたいな赤く輝いている種が無数に付いていた。
「どうやって種を取るの?」
母さんに訊くと、手を止めることなく言った。
「丁寧に手で外すのよ」
種何個あると思っているんだ。1人でするのが面倒だから僕を呼んだな。まあ従うしかないけど。
ほとんど無言のような状態だった母さんが、初めて手を止めて、僕の方を見てこう言った。
「そう言えば大輔って“石榴”好きだったのかい?」
思わず僕も手が止まる。
「え? な、今、何て?」
今、“石榴”って言わなかったか。石榴なんて食べたことない。
「え? だから、大輔って“石榴”好きだったの?」
やっぱり母さんは“石榴”って言っている。何で僕が石榴が好きなんて……と言うか、僕が石榴を食べたことがないのを1番知っているのは母さんな気がするけど。そんなことより、誰がそんな噂を広めた。はじめましての食べ物に好きも嫌いもない。味も何も知らないのに。
雷が落ちたようにピンときた。
この果物、“石榴”の存在を、最近知るきっかけになったことがある。それは隣の席の羽山が読んでいた本だ。その本を今は僕が持っている。読んでいないから、机の引き出しの奥に眠っているが持っている。この石榴がもし羽山からの贈り物だったら……。
「母さん。この石榴誰から?」
「え? 陽子ちゃんからよ。引っ越しをするからって、お菓子をたくさん持ってきてくれたのよ朝に。それで、大輔が好きとかで石榴も一緒に持ってきてくれたの」
陽子ちゃん……校長室で羽山のお母さんのことを確かそんなふうに呼んでいた。やっぱり羽山だったか。だったら、あの手紙の暗号。あれも羽山の仕業に違いない。
「羽山も来ていたの?」
「ええ。愛ちゃんも来ていたけど、用事があるからって急いで帰って行ったのよ」
「その時に郵便ポストに僕宛の手紙が入っていたの?」
「そうよ。差出人不明だし、消印もついていないし、誰が入れたんだろうね」
手紙の差出人は羽山で間違いない。石榴もそう言う意味で持ってきたのだ。
石榴の種をとっている最中だったけど、確認をしないといられなかった。濡れた手のままま、僕は自分の部屋に籠った。母さんが「どこ行くの!」と叫んでいたけど、追いかけてくれなかったから、振り返ることなく自分の部屋に行った。
さすがに濡れた手で本を持つことは許されないだろうから、着ている服で手を拭いて、窓から入ってくる涼しい風で乾かして、机の上に手紙と、机の引き出しに1番奥にあった石榴の本を並べる。
まだ暗号の1番頭の文字は理解していなかったけど、石榴の本を開くと自ずと分かった。簡単に言うと章が分かれていた1~5に。
羽山の手紙にそれを当てはめていく。
まず初めは。
第1章の2ページ目の1行目、17番目の文字。“今”
第1章の3ページ目の10行目、3番目の文字。“日”
第1章の1ページ目の6行目、8番目の文字。“の”
第2章の1ページ目の5行目、3番目の文字。“夜”
第2章の1ページ目の2行目、5番目の文字。“。”
文字じゃない。句読点までするか。
第2章の4ページ目の2行目、11番目の文字。“学”
第3章の7ページ目の9行目、27番目の文字。“校”
第3章の8ページ目の1行目、1番目の文字。“で”
第2章の1ページ目の2行目、5番目の文字。
これはさっきのと同じだ。だから句読点。
次は……。
第4章の1ページ目の5行目、17番目の文字。“1”
数字だ。数字なら数字に変換するのでなくて、そのまま書いてくれればよかったのに。
第1章の3ページ目の1行目、26番目の文字。“8”
第3章の2ページ目の12行目、9番目の文字。“時”
第4章の1ページ目の9行目、16番目の文字。“に”
第3章の11ページ目の5行目、9番目の文字。“待”
ここから5つは繋がっている文字。
“待っている”
羽山の手紙に当てはめた文字を読んでいく。
1・2ー1ー17→今
1・3ー10ー3→日
1・1ー6ー8ー→の
2・1ー5ー3ー→夜
2・1ー2ー5ー→。
2・4ー2ー11→学
3・7ー9ー27→校
3・8ー1ー1ー→で
2・1ー2ー5ー→。
4・1ー5ー17→1
1・3ー1ー26→8
3・2ー12ー9→時
4・1ー9ー16→に
3・11ー5ー9→待
3・11-5-10→っ
3・11-5-11→て
3・11-5-12→い
3・11-5-13→る
“今日の夜。学校で。18時に待っている”
今は14時半まだ間に合う。
慌てた勢いで母さんにも行き先は告げず。僕は家を出て街を駆けた。羽山の手紙と本を片手に。理由はひとつ。羽山のためだ。それ以外にない。
遠くから大声で、はしたない。
台所に行くと、母さんは、黙々と何かの作業をしていた。近づいた僕に気付いてないのか、振り向くのが面倒なのか、背中を向けていた。
「何、母さん?」
「これ貰ったのだけど、そこのお皿の中で種取ってくれない」
お母さんが指差した先には、赤い身をした食べ物かも怪しそうな、いちじくの偽物のようなものが、水の張ってあった皿に沈められていた。中にはいちじくより大きなまるで宝石みたいな赤く輝いている種が無数に付いていた。
「どうやって種を取るの?」
母さんに訊くと、手を止めることなく言った。
「丁寧に手で外すのよ」
種何個あると思っているんだ。1人でするのが面倒だから僕を呼んだな。まあ従うしかないけど。
ほとんど無言のような状態だった母さんが、初めて手を止めて、僕の方を見てこう言った。
「そう言えば大輔って“石榴”好きだったのかい?」
思わず僕も手が止まる。
「え? な、今、何て?」
今、“石榴”って言わなかったか。石榴なんて食べたことない。
「え? だから、大輔って“石榴”好きだったの?」
やっぱり母さんは“石榴”って言っている。何で僕が石榴が好きなんて……と言うか、僕が石榴を食べたことがないのを1番知っているのは母さんな気がするけど。そんなことより、誰がそんな噂を広めた。はじめましての食べ物に好きも嫌いもない。味も何も知らないのに。
雷が落ちたようにピンときた。
この果物、“石榴”の存在を、最近知るきっかけになったことがある。それは隣の席の羽山が読んでいた本だ。その本を今は僕が持っている。読んでいないから、机の引き出しの奥に眠っているが持っている。この石榴がもし羽山からの贈り物だったら……。
「母さん。この石榴誰から?」
「え? 陽子ちゃんからよ。引っ越しをするからって、お菓子をたくさん持ってきてくれたのよ朝に。それで、大輔が好きとかで石榴も一緒に持ってきてくれたの」
陽子ちゃん……校長室で羽山のお母さんのことを確かそんなふうに呼んでいた。やっぱり羽山だったか。だったら、あの手紙の暗号。あれも羽山の仕業に違いない。
「羽山も来ていたの?」
「ええ。愛ちゃんも来ていたけど、用事があるからって急いで帰って行ったのよ」
「その時に郵便ポストに僕宛の手紙が入っていたの?」
「そうよ。差出人不明だし、消印もついていないし、誰が入れたんだろうね」
手紙の差出人は羽山で間違いない。石榴もそう言う意味で持ってきたのだ。
石榴の種をとっている最中だったけど、確認をしないといられなかった。濡れた手のままま、僕は自分の部屋に籠った。母さんが「どこ行くの!」と叫んでいたけど、追いかけてくれなかったから、振り返ることなく自分の部屋に行った。
さすがに濡れた手で本を持つことは許されないだろうから、着ている服で手を拭いて、窓から入ってくる涼しい風で乾かして、机の上に手紙と、机の引き出しに1番奥にあった石榴の本を並べる。
まだ暗号の1番頭の文字は理解していなかったけど、石榴の本を開くと自ずと分かった。簡単に言うと章が分かれていた1~5に。
羽山の手紙にそれを当てはめていく。
まず初めは。
第1章の2ページ目の1行目、17番目の文字。“今”
第1章の3ページ目の10行目、3番目の文字。“日”
第1章の1ページ目の6行目、8番目の文字。“の”
第2章の1ページ目の5行目、3番目の文字。“夜”
第2章の1ページ目の2行目、5番目の文字。“。”
文字じゃない。句読点までするか。
第2章の4ページ目の2行目、11番目の文字。“学”
第3章の7ページ目の9行目、27番目の文字。“校”
第3章の8ページ目の1行目、1番目の文字。“で”
第2章の1ページ目の2行目、5番目の文字。
これはさっきのと同じだ。だから句読点。
次は……。
第4章の1ページ目の5行目、17番目の文字。“1”
数字だ。数字なら数字に変換するのでなくて、そのまま書いてくれればよかったのに。
第1章の3ページ目の1行目、26番目の文字。“8”
第3章の2ページ目の12行目、9番目の文字。“時”
第4章の1ページ目の9行目、16番目の文字。“に”
第3章の11ページ目の5行目、9番目の文字。“待”
ここから5つは繋がっている文字。
“待っている”
羽山の手紙に当てはめた文字を読んでいく。
1・2ー1ー17→今
1・3ー10ー3→日
1・1ー6ー8ー→の
2・1ー5ー3ー→夜
2・1ー2ー5ー→。
2・4ー2ー11→学
3・7ー9ー27→校
3・8ー1ー1ー→で
2・1ー2ー5ー→。
4・1ー5ー17→1
1・3ー1ー26→8
3・2ー12ー9→時
4・1ー9ー16→に
3・11ー5ー9→待
3・11-5-10→っ
3・11-5-11→て
3・11-5-12→い
3・11-5-13→る
“今日の夜。学校で。18時に待っている”
今は14時半まだ間に合う。
慌てた勢いで母さんにも行き先は告げず。僕は家を出て街を駆けた。羽山の手紙と本を片手に。理由はひとつ。羽山のためだ。それ以外にない。
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