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12話
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理科室の扉の前にやって来た僕らは、まず僕が理科室の窓の張り付いて、中を覗いていた。
「うーん。暗くてよく見えないね」
かろうじて見えたのは、教卓と机くらいだ。大体の位置は把握しているから、夜目がきくように感じるけど、実際はほとんど見えていない。
そんな僕の姿を見て羽山はくすくすと笑っていた。
「校長室の電気が付いているから真っ暗な理科室は見えづらいんだよ。懐中電灯でもあれば中は見えるのにね」
懐中電灯……。
そう言えば、職員室で羽山が座っていた席の前に置いてあった。
「羽山。懐中電灯職員室にあったぞ。待ってて取ってくる」
「待って、大輔君。勝手にしたらまた怒られるよ」
「大丈夫だよ。今度の勝手は僕がするから」
職員室に戻ろうとした僕の手を羽山は掴んで、動けないようにしていた。
「ダメだよ。そんなことをしたら、今度は大輔君が怒られるよ」
「ここまできて、もう後戻りはできないだろ」
羽山の手を無理やりほどいて、僕は職員室の懐中電灯を持って理科室に戻った。
「羽山が始めたことだから先に使いなよ」
僕は羽山に懐中電灯を手渡して、それを受け取った羽山はいきいきと理科室の中を照らす。
「人体模型は右後ろだったよね。どこらへんだろ?」
理科室の後ろの方は、貴重な文献や、直射日光を嫌うものが数多く置いてあるとかで、全ての窓、扉にには、カーテンをしてある。おかげで中は真っ暗なのだ。
「あったよ。人体模型!」
僕も羽山の隣で窓から中を眺める。
「あ、本当だ。懐中電灯で照らされているから、余計に不気味だね」
「だね。あの表情はいつ見ても慣れないね。でも、動いてないな」
「まあ、無理もないよ。この学校の人体模型は、上半身だけだし、動ける足がないもん」
ライトで照らすことをやめた羽山は、あからさまに落ち込んでいた。
「やっぱり、全部迷信だったか」
「怖いから全部迷信でいいよ」
「七不思議の検証終わったし、職員室に戻ろうか」
羽山と職員室に入ろうとしたその時、窓の外で、人影が手をっ振っているのが見えた気がした。
羽山は何も言わないから、多分見ていないのだと思う。僕だけ怖い思いをするのは不公平な気がしたから、羽山にさっき見たものを打ち明ける。
「ねえ、羽山?」
「どうしたの?」
「さっき、先生たちの駐車場で、手を振っている人影見えなかった?」
「え? 見ていないけど……」
「……さっき確実にいたよ。僕らに向かって手を振っている人が……」
職員室に入ったのは羽山が先だったから、理科室に行く前に僕が座っていた椅子に羽山が、羽山が座っていた席に僕が座っていた。
そんな怖い話をしているだろうか。羽山は、体を震わせながら、怯えた顔で僕の背後を見ていた。震え続けている手をそっと上げて、「あそこ……」と廊下の方を指さしていた。
羽山が指差していた方に振り返ると、そこには、廊下から身を乗り出して職員室を覗き込んでいた人影があった。
僕は立ち上がり、叫んでしまった。羽山も叫んだことに驚いてか、我慢の限界だったのか、僕の背中に抱きつきながら足を振るわせて立ち上がっていた。
「……って、父さん。何しているの?」
人影の正体は僕の父さんだった。
「……大輔君のお父さん?」
「いや、ごめんね。脅かそうとしたのじゃなくて、話しかけていいのか悩んでて……母さんはどこにいるの?」
全く人騒がせな人だ。
それならそうと早く言ってくれればいいのに、羽山の目の前で叫んでしまったではないか。
「隣の校長室にいるよ。大人同士で話をするからって追い出された」
「そっか。ありがとう」
父さんは、隣の校長室をノックして、頭を下げながら中に入った。
息を整え直して、さっきまで座っていた椅子に座る。
「びっくりしたね。来たならそうと言ってくれればよかったのにね」
「……う、うん」
羽山はまだ怯えていた。身体を震わせて、涙目になっていた。椅子に座っているのに、まだ僕の服を掴んだままだった。
「羽山、大丈夫?」
「……うん、大丈夫だよ」
そう言って向けられた笑顔はぎこちなくて、どことなく顔色が悪そうだった。
あ、もしかして、羽山って、幽霊なんて迷信とか言いながら、怖がっているんじゃないか。だから、まだ震えてて……。
今日散々振り回されたから、どうにも悪知恵が働く。1度くらい仕返しをしてもバチは当たらないはずだ。
校舎の窓と平行に並べられている机、僕が窓の方を見ていると、羽山も窓の方に身体を向ける。窓の外は大きな木しかないから、景色としてはつまらない。僕は、椅子に股をおきく開いて座って、羽山の椅子の脚を軽く蹴る。
「うぎゃ!」
変な声とともに羽山は僕に抱きついた。
なんとか受け止めることができたけど、身構えていなかったら、取り損ねていた。
「は、羽山……大丈夫?」
流石にやりすぎた。まさかここまで怖がっているとは。よくもまあ、これで夜の学校に忍び込んで、七不思議の検証をできたものだ。
「……大輔君ひどいよ。絶対にわざとだよね! なんでそんなことするの!」
羽山は涙を流していた。生まれたての子牛のようにガクガクと脚を振るわせて、腰を抜かしたのか、僕にしがみついていないと立ってもいられない状態だった。
「いや、ごめん……ここまでとは思っていなかったから……」
僕は笑いが堪えきれなくて笑い出してしまった。羽山は悔しいのか、唇を噛んで頬を膨らませていた。薄暗い職員室だから顔色までは見えてなかったけど、きっと、怒りで赤く染めていたに違いない。
「うーん。暗くてよく見えないね」
かろうじて見えたのは、教卓と机くらいだ。大体の位置は把握しているから、夜目がきくように感じるけど、実際はほとんど見えていない。
そんな僕の姿を見て羽山はくすくすと笑っていた。
「校長室の電気が付いているから真っ暗な理科室は見えづらいんだよ。懐中電灯でもあれば中は見えるのにね」
懐中電灯……。
そう言えば、職員室で羽山が座っていた席の前に置いてあった。
「羽山。懐中電灯職員室にあったぞ。待ってて取ってくる」
「待って、大輔君。勝手にしたらまた怒られるよ」
「大丈夫だよ。今度の勝手は僕がするから」
職員室に戻ろうとした僕の手を羽山は掴んで、動けないようにしていた。
「ダメだよ。そんなことをしたら、今度は大輔君が怒られるよ」
「ここまできて、もう後戻りはできないだろ」
羽山の手を無理やりほどいて、僕は職員室の懐中電灯を持って理科室に戻った。
「羽山が始めたことだから先に使いなよ」
僕は羽山に懐中電灯を手渡して、それを受け取った羽山はいきいきと理科室の中を照らす。
「人体模型は右後ろだったよね。どこらへんだろ?」
理科室の後ろの方は、貴重な文献や、直射日光を嫌うものが数多く置いてあるとかで、全ての窓、扉にには、カーテンをしてある。おかげで中は真っ暗なのだ。
「あったよ。人体模型!」
僕も羽山の隣で窓から中を眺める。
「あ、本当だ。懐中電灯で照らされているから、余計に不気味だね」
「だね。あの表情はいつ見ても慣れないね。でも、動いてないな」
「まあ、無理もないよ。この学校の人体模型は、上半身だけだし、動ける足がないもん」
ライトで照らすことをやめた羽山は、あからさまに落ち込んでいた。
「やっぱり、全部迷信だったか」
「怖いから全部迷信でいいよ」
「七不思議の検証終わったし、職員室に戻ろうか」
羽山と職員室に入ろうとしたその時、窓の外で、人影が手をっ振っているのが見えた気がした。
羽山は何も言わないから、多分見ていないのだと思う。僕だけ怖い思いをするのは不公平な気がしたから、羽山にさっき見たものを打ち明ける。
「ねえ、羽山?」
「どうしたの?」
「さっき、先生たちの駐車場で、手を振っている人影見えなかった?」
「え? 見ていないけど……」
「……さっき確実にいたよ。僕らに向かって手を振っている人が……」
職員室に入ったのは羽山が先だったから、理科室に行く前に僕が座っていた椅子に羽山が、羽山が座っていた席に僕が座っていた。
そんな怖い話をしているだろうか。羽山は、体を震わせながら、怯えた顔で僕の背後を見ていた。震え続けている手をそっと上げて、「あそこ……」と廊下の方を指さしていた。
羽山が指差していた方に振り返ると、そこには、廊下から身を乗り出して職員室を覗き込んでいた人影があった。
僕は立ち上がり、叫んでしまった。羽山も叫んだことに驚いてか、我慢の限界だったのか、僕の背中に抱きつきながら足を振るわせて立ち上がっていた。
「……って、父さん。何しているの?」
人影の正体は僕の父さんだった。
「……大輔君のお父さん?」
「いや、ごめんね。脅かそうとしたのじゃなくて、話しかけていいのか悩んでて……母さんはどこにいるの?」
全く人騒がせな人だ。
それならそうと早く言ってくれればいいのに、羽山の目の前で叫んでしまったではないか。
「隣の校長室にいるよ。大人同士で話をするからって追い出された」
「そっか。ありがとう」
父さんは、隣の校長室をノックして、頭を下げながら中に入った。
息を整え直して、さっきまで座っていた椅子に座る。
「びっくりしたね。来たならそうと言ってくれればよかったのにね」
「……う、うん」
羽山はまだ怯えていた。身体を震わせて、涙目になっていた。椅子に座っているのに、まだ僕の服を掴んだままだった。
「羽山、大丈夫?」
「……うん、大丈夫だよ」
そう言って向けられた笑顔はぎこちなくて、どことなく顔色が悪そうだった。
あ、もしかして、羽山って、幽霊なんて迷信とか言いながら、怖がっているんじゃないか。だから、まだ震えてて……。
今日散々振り回されたから、どうにも悪知恵が働く。1度くらい仕返しをしてもバチは当たらないはずだ。
校舎の窓と平行に並べられている机、僕が窓の方を見ていると、羽山も窓の方に身体を向ける。窓の外は大きな木しかないから、景色としてはつまらない。僕は、椅子に股をおきく開いて座って、羽山の椅子の脚を軽く蹴る。
「うぎゃ!」
変な声とともに羽山は僕に抱きついた。
なんとか受け止めることができたけど、身構えていなかったら、取り損ねていた。
「は、羽山……大丈夫?」
流石にやりすぎた。まさかここまで怖がっているとは。よくもまあ、これで夜の学校に忍び込んで、七不思議の検証をできたものだ。
「……大輔君ひどいよ。絶対にわざとだよね! なんでそんなことするの!」
羽山は涙を流していた。生まれたての子牛のようにガクガクと脚を振るわせて、腰を抜かしたのか、僕にしがみついていないと立ってもいられない状態だった。
「いや、ごめん……ここまでとは思っていなかったから……」
僕は笑いが堪えきれなくて笑い出してしまった。羽山は悔しいのか、唇を噛んで頬を膨らませていた。薄暗い職員室だから顔色までは見えてなかったけど、きっと、怒りで赤く染めていたに違いない。
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