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11話
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「えっと……その……」
何を言えばいいんだ。僕は何のために七不思議の検証をしていたんだっけ。なんで夜の学校に来てしまったんだけ。何をしたかったんだろうか、僕は……。
「もういいよ、如月君……校長先生、如月君は私を庇っているのです。全部私が悪いのです」
ソファーから立ち上がった羽山は、校長先生に深く頭を下げていた。
「夜の学校に無理やり私が連れ出して、無理やり七不思議の検証を手伝わせて、全部の責任は私にあります。ごめんなさい」
校長先生は頭を掻いて羽山に座るように言った。ソファーに座った羽山に、続けて言う。
「最後だからいろいろしたい気持ちは汲んでやれるけど、警察沙汰になるのだから勝手に学校に侵入だけはしないでくれ」
「……はい、ごめんなさい」
今にも泣き出しそうな羽山の横で、羽山の母親が頭を撫で、そっと抱きしめる。
静寂に包まれていた校長室。羽山の母親が、羽山を抱きしめる手をほどいて、僕の母親に話す。
「洋子ちゃん。実はね、愛、来月に転校することになったの。それで多分、こんなことをしたんだと思う。大輔君を巻き込んでごめんね」
「陽子ちゃん……そうだったんだね。うちのバカ息子でよかったら、いつでも遊んであげるよ。どうせ夏休みの宿題なんかしないから、毎日暇しているよ」
うちの母親と羽山の母親はやけに親しげだな。同じ名前だし、お互い下の名前、ちゃん付け。と、そんなことよりも、羽山が来月に転校するって? 今夏休みが始まったばかりだから、来月はまだ夏休み中だぞ。そんな噂いっさい聞いてないし、夏休み中に転校したら、お別れ会を開けないじゃないか。どうして羽山はそんな時期に……。もしかして今まで誰とも仲良くしていなかったのは、転校することが初めから分かっていたからなのか。親しい人がいなければ、別れも辛くないと。だから、最後の思い出作りに夜の学校に侵入したってことなのか。七不思議の検証だなんて、本当の理由を隠すためだったのか。
だとして僕は何で呼ばれた?
僕は睨むように羽山を見つめた。目が合った羽山は、申し訳なさそうに俯きながら目を逸らした。流石に大人のいる中で羽山を問い詰めることはできなかった。
大人同士に会話に、子供の僕と羽山はついていけず、僕らはずっと黙って大人の会話を聞いていた。そこに羽山の父が現れた。
自衛隊の人だと言うのは噂で聞いていたけど、目の前で制服を見ると格好いいな。
「愛。大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ、お父さん」
「そうか、よかった。愛、大人同士で話をするから、席を外してくれないか。校長先生もいいですか」
「分かりました。職員室の鍵を渡しておきます」
校長先生は鍵がたくさん付いた板を羽山に渡して、僕と羽山は外に出された。
羽山は職員室の鍵を開けて、1番近くにあった椅子に座った。隣に座ろうかと悩んだけど、気まずさのあまり身体が動かなかった。
「転校するんだって?」
身体は動かなくても口は動かせた。
聞かれたくなかったことなのか、羽山は、何も言わずまた俯いていた。
職員室の電気は付けていないままだから、羽山の顔をしっかりとは見られなかった。でもきっと、しかめっ面しているんだろう。
そんな羽山に僕は追い打ちをかけるように尋ねる。
「どうして言ってくれなかったの?」
羽山はまだ俯いていた。微かに聞こえた羽山の鳴き声で、言いすぎたことに気がついた。
それでも羽山は、ゆっくりと口を開いて、蚊の鳴くような細い声で、つぶやいた。
「……ごめんなさい」
それ以上のことは言わなかった。
言いたくないのはわかっているけど、巻き込まれた身だから少なからずの説明くらいはしてほしい。そうでないとこっちも納得できない。
僕は羽山の隣の椅子に座って、羽山に訊いた。
「いつ行くの?」
羽山は相変わらずの小さな声で答える。
「夏休み明けにはあっちの学校……。いつ引っ越しをするのかはまだ決めていない」
羽山は僕と目を合わせようとはしなかった。
僕も羽山の立場なら、気まずすぎて目を合わせることはできないだろうな。
そんな羽山の手を取って僕は椅子から立ち上がった。
「まだ最後が残っているだろ」
「え……」
「理科室! 行こう。七不思議の検証の続き」
羽山は困惑していた。それを僕が無理やり手を引っ張って理科室に連れて行った。
「大輔君、もういいんだよ。初めから、七不思議の検証が理由じゃなかったんだよ。最後だから、学校の隅々まで回りたかっただけだよ……」
「だったら尚更だよ。学校の隅々まで回りたいんでしょ。それだったら、理科室は外せないでしょ」
「……うん!」
さっきまでは暗い顔をしていた羽山の顔が笑顔に変わった。3年くらい羽山とは学校生活をともにしていたけど、笑顔を向けられたことはなかった。何度見ても羽山の笑顔は可愛いかった。薄暗い廊下なのに直視できないほど眩しかった。
それと、もうこの羽山の笑顔が見れないことが寂しいのか、妙に胸が締め付けられて痛かった。
今日は羽山もおかしいけど、僕もおかしい。なんで羽山にこんな感情を抱いているんだろうか。
何を言えばいいんだ。僕は何のために七不思議の検証をしていたんだっけ。なんで夜の学校に来てしまったんだけ。何をしたかったんだろうか、僕は……。
「もういいよ、如月君……校長先生、如月君は私を庇っているのです。全部私が悪いのです」
ソファーから立ち上がった羽山は、校長先生に深く頭を下げていた。
「夜の学校に無理やり私が連れ出して、無理やり七不思議の検証を手伝わせて、全部の責任は私にあります。ごめんなさい」
校長先生は頭を掻いて羽山に座るように言った。ソファーに座った羽山に、続けて言う。
「最後だからいろいろしたい気持ちは汲んでやれるけど、警察沙汰になるのだから勝手に学校に侵入だけはしないでくれ」
「……はい、ごめんなさい」
今にも泣き出しそうな羽山の横で、羽山の母親が頭を撫で、そっと抱きしめる。
静寂に包まれていた校長室。羽山の母親が、羽山を抱きしめる手をほどいて、僕の母親に話す。
「洋子ちゃん。実はね、愛、来月に転校することになったの。それで多分、こんなことをしたんだと思う。大輔君を巻き込んでごめんね」
「陽子ちゃん……そうだったんだね。うちのバカ息子でよかったら、いつでも遊んであげるよ。どうせ夏休みの宿題なんかしないから、毎日暇しているよ」
うちの母親と羽山の母親はやけに親しげだな。同じ名前だし、お互い下の名前、ちゃん付け。と、そんなことよりも、羽山が来月に転校するって? 今夏休みが始まったばかりだから、来月はまだ夏休み中だぞ。そんな噂いっさい聞いてないし、夏休み中に転校したら、お別れ会を開けないじゃないか。どうして羽山はそんな時期に……。もしかして今まで誰とも仲良くしていなかったのは、転校することが初めから分かっていたからなのか。親しい人がいなければ、別れも辛くないと。だから、最後の思い出作りに夜の学校に侵入したってことなのか。七不思議の検証だなんて、本当の理由を隠すためだったのか。
だとして僕は何で呼ばれた?
僕は睨むように羽山を見つめた。目が合った羽山は、申し訳なさそうに俯きながら目を逸らした。流石に大人のいる中で羽山を問い詰めることはできなかった。
大人同士に会話に、子供の僕と羽山はついていけず、僕らはずっと黙って大人の会話を聞いていた。そこに羽山の父が現れた。
自衛隊の人だと言うのは噂で聞いていたけど、目の前で制服を見ると格好いいな。
「愛。大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ、お父さん」
「そうか、よかった。愛、大人同士で話をするから、席を外してくれないか。校長先生もいいですか」
「分かりました。職員室の鍵を渡しておきます」
校長先生は鍵がたくさん付いた板を羽山に渡して、僕と羽山は外に出された。
羽山は職員室の鍵を開けて、1番近くにあった椅子に座った。隣に座ろうかと悩んだけど、気まずさのあまり身体が動かなかった。
「転校するんだって?」
身体は動かなくても口は動かせた。
聞かれたくなかったことなのか、羽山は、何も言わずまた俯いていた。
職員室の電気は付けていないままだから、羽山の顔をしっかりとは見られなかった。でもきっと、しかめっ面しているんだろう。
そんな羽山に僕は追い打ちをかけるように尋ねる。
「どうして言ってくれなかったの?」
羽山はまだ俯いていた。微かに聞こえた羽山の鳴き声で、言いすぎたことに気がついた。
それでも羽山は、ゆっくりと口を開いて、蚊の鳴くような細い声で、つぶやいた。
「……ごめんなさい」
それ以上のことは言わなかった。
言いたくないのはわかっているけど、巻き込まれた身だから少なからずの説明くらいはしてほしい。そうでないとこっちも納得できない。
僕は羽山の隣の椅子に座って、羽山に訊いた。
「いつ行くの?」
羽山は相変わらずの小さな声で答える。
「夏休み明けにはあっちの学校……。いつ引っ越しをするのかはまだ決めていない」
羽山は僕と目を合わせようとはしなかった。
僕も羽山の立場なら、気まずすぎて目を合わせることはできないだろうな。
そんな羽山の手を取って僕は椅子から立ち上がった。
「まだ最後が残っているだろ」
「え……」
「理科室! 行こう。七不思議の検証の続き」
羽山は困惑していた。それを僕が無理やり手を引っ張って理科室に連れて行った。
「大輔君、もういいんだよ。初めから、七不思議の検証が理由じゃなかったんだよ。最後だから、学校の隅々まで回りたかっただけだよ……」
「だったら尚更だよ。学校の隅々まで回りたいんでしょ。それだったら、理科室は外せないでしょ」
「……うん!」
さっきまでは暗い顔をしていた羽山の顔が笑顔に変わった。3年くらい羽山とは学校生活をともにしていたけど、笑顔を向けられたことはなかった。何度見ても羽山の笑顔は可愛いかった。薄暗い廊下なのに直視できないほど眩しかった。
それと、もうこの羽山の笑顔が見れないことが寂しいのか、妙に胸が締め付けられて痛かった。
今日は羽山もおかしいけど、僕もおかしい。なんで羽山にこんな感情を抱いているんだろうか。
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