今日の夜。学校で

倉木元貴

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8話

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 僕の家庭では、洗わず1週間くらい天日干しをするのが恒例となっているが、「洗うでしょ」と言われて、洗ってないとは言い難く。
 
「……ああ、そうだったね。夏休みだってことをすっかり忘れていたよ」
 
 と言うしかできなかった。
 苦し紛れの言い訳だっただろうか。羽山は、何の反応もない。いつも通りで……はないけど、今日1日の羽山ではあった。そんな細かいことをいちいち気にはしていないのだろう。それよりも、七不思議の検証をしたいのだろう。自由だけど、つっこまれなくてよかった。
 羽山は僕に背を向けて、体育館へと続くコンクリート製の渡り廊下を歩いていた。
 次の目的地は体育館だ。
 体育館の七不思議は、夜中にひとりでに跳ねているボールと体育館下にあると言われている倉庫だ。
 夜中にはなるボールは昔からある七不思議だけど、体育館下にある倉庫は最近噂になり始めているものだ。
 友人に聞いた話によると、体育館の舞台下にある倉庫に、隠されている扉があるのだとか。噂程度ではあるけど、体育の時間でも昼休みでも、舞台上や舞台袖に生徒が入ろうろすると教師は全力で止めにくる。それでこの間も6年生の誰かが怒られて反省文を書かされていた。火のないところに煙は立たないと言う。教師は何かを隠している。それは間違いない。
 1組の中田も入ったことがあるらしいけど、古い体育館だから、舞台袖にも窓は一切なく、舞台下の倉庫も分厚いカーテンで入り口を隠されていて、何も見えなかったそうだ。
 まあ、体育館の鍵なんて屋上よりも開いてないだろうから、確かめようがないけど。
 羽山もそれは最初から分かりきっていたのか、扉を開けようともせず、体育館の扉の窓に張り付いていた。そんなことを言う僕も、羽山の隣で窓に張り付きながら中を見ていた。
 
「体育館の中は見えるけど、特に何も起こってないね。おかしな様子もないし、物が動いた形跡もない」
 
 何もなかっても羽山は落ち込む様子を見せない。逆に何もなかっていきいきしている。幽霊がいるかいないかの検証だから、いない派の羽山にとっては何も起きないことが、いないことの証明に繋がる。
 羽山のおかげで、僕も幽霊を克服できそうだ。
 体育館を後にした僕らは渡り廊下で立ち止まっていた。運動場を走り回る二宮金次郎像の検証をしていた。
 ここからじゃ遠くて二宮金次郎像はよく見えないけど、二宮金次郎像が運動場を走り回っていないことだけは分かった。
 はあー と、がっかりしたため息を吐く羽山に、くだらないことを話した。
 
「そう言えば、二宮金次郎像って右と左で背負っている木の本数が違うんじゃんかった?」
 
 羽山はふらふらと渡り廊下を歩きながら、僕の質問に答える。
 
「あれって、背負っている枝が分かれているからそう見えているだけで……石像を作った人が意図的にしている物だよ……石像でそこまでできるって、すごい技術だよね……」
 
 さすがの羽山も疲れたのだろうか、待ち合わせをしていた時に比べて、随分と覇気がなかった。未だにふらふらと歩いているし、ここまできて何もなかったで終わらせたくないのだろうか。でも、羽山は幽霊を信じていない派だから、何も起きなくていいのでは。
 羽山の行動は謎だ。今更羽山が落ち込むなんて考えられないけど、今の状態はそれ以外にない。
 
「は、羽山。まだ理科室があるじゃないか。そんなに落ち込むなよ」
 
「いや、落ち込んでいないのだけど……」
 
 羽山の状態はさっきから変わらない。落ち込んでいないのなら、答えは何なのだ。どうして急に、そんな素っ気ない態度をとっているんだ。
 僕が羽山の態度に悩んでしまって、僕らは会話を失っていた。
 会話もないまま校舎内に入り、ふらふらと歩く羽山と理科室を目指した。
 西校舎から東校舎に移る廊下を歩いている時だった。
 突然、理科室辺りで電気が付いた。廊下を照らす範囲は狭い。と言うことは、電気が付いたのは校長室だ。
 こんな時間に校長先生が何の用だ。あとは理科室だけだって言うのに、都合が悪すぎる。
 この場所から理科室に行くには2通りの選択肢がある。1つは、このまま真っ直ぐに廊下を突っ切って、校長室の横を通り、理科室に行く方法だ。
 こちらは校長室の目の前を通過するから、校長室にいる人に見つかる可能性が高い。
 もう1つは、西階段から2階に上がり、校舎の左端に設置されてある東階段を使って理科室に行く方法だ。
 こちらは見つかる可能性は低いが、東階段は外に設置されていて、理科室に行くには教員用の出入り口から中に入らないといけない。校長室にいる人はそこの扉から入っただろうから、開けてくれていると中に入ることはできる。だけど、もし鍵を閉められているのだったら、理科室へはいけない。
 
「羽山、どうしよう。校長室の電気が付いているよ」
 
 羽山も焦っているのか、呼吸が速くなって、汗を垂れ流しながら、座り込んでいた。
 
「……どうせ理科室も鍵がかかっているよ……もうそろそろいい時間じゃないかな」
 
 羽山との会話が成立しない。
 この距離の電気の明るさが見えてないわけではないだろ。
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