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第1章
46話
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「ちょっと、神、痛いって!」
神は急に立ち止まり、手を緩めたと思えば急に振り返りこう言った。
「痛いじゃないわ、このばかちんが!」
つまりは怒っているのだ。
「今回ばかりは、俺はそこまで悪くないと思っているけど!」
「はぁ! 何を言っておるのじゃ! お主が100悪いのじゃ! いいか、うるさいから心の中で騒ぐんじゃないぞ!」
そう言って神は家の方へ歩き出した。
俺はそんな神の前に立ちはだかった。
「質問の答えを聞いていない」
「わしがどこにいようと、わしの勝手じゃ。お主に決められる権利はない」
言い返す言葉が思い浮かばなかった。
「じゃあ、訊き直す。ムーとはどんな関係なのだ?」
「お主に話す必要はない」
そう言って1人先に家へと帰ろうと歩いていた。
本来なら引き止めて、もっともっと深く追求したいけど元々の動機が不純すぎて訊くに聞けない。
「神、ちょっと待ってくれ」
「なんじゃ、お主と話すことはもうない」
「ムーに……ムーに俺らの仲のことは何て言えばいいんだ? 正直に神と話して大丈夫なのか?」
神はようやく立ち止まった。
「そんなもん適当に何とでもなるわい。気にすることはない」
はい、そうですか。そう言ってここで引き下がることもできたのだろうが、俺はそうはしなかった。
「神は適当にできたとして、俺は嘘を吐くのもその人に合わせるのも苦手だ。だから、事前に口裏を合わせておくのが安全だと思わないか?」
神は深く考えていた。
これでいい。これでこそ俺の作戦。遠からず外堀から埋めていく作戦。
まだ成果と言えるほどのことは聞き出せていないけど……。
「それもそうじゃな。お主はテストはできてもバカじゃからな……」
よし! この調子でと思っていたけど、俺の思惑は神には通用しなかった。
「とでも言うと思ったか! このバカちんが! お主の思考は全て分かると言っておるだろうが! いい加減学習せい! それと、あやつに嘘をつく必要などない。私が神だと言うことを伏せておく以外にな!」
そう言って神は先に家へと入っていってしまった。
俺の作戦は悉く失敗し唯一得られた情報は、ムーには神だと言うのは言うなと、これだけだ。
神とは一緒に家から出たのに時間差で帰ってきた俺を不思議そうにムーは見つめて、考えるのをやめてニコリと笑った。
「ご飯できましたよ。皆さん揃ってますから早く食べましょう!」
「ああ、そうだな」
そう言えば、俺はお皿を4つ用意させられた。俺とムーと神以外に後1人誰かゲストがいるのだろうか。まぁ、誰がゲストなのか大体想像はつくけど……。
ゲストは俺の予想を全く裏切らなかった。
「がっくん、がっくん。ご飯できているから早く食べよう!」
あんなことがあったから顔を合わせにくいと思っているのは俺だけなのだろうか。
それとも気まずいけど無理に能天気を演じているのか、どちらにせよ今は俺はこいつが大の苦手だ。
「あ、ああ」
俺らの間には重たい空気が広がっていて、神は更に空気を重たくした。
「お主は考えすぎなのじゃ! もっと楽観的に人生を過ごさねばここではやっいけんぞ!これから長いのじゃから楽しいことだけして生きていくのじゃ!」
良い助言であることには変わりはないが、言い方と見た目のせいで俺は何と返すべきか分からなかった。
そんな空気を破れるのは能天気なやつしかいない。
「まぁまぁ、そんなことはいいから早く食べようよ!」
4人掛けのテーブルに俺の正面にはムーが、右隣には勝瑞が、右斜め前には神が座って4人でムーの夕飯を囲った。
ムーのご飯はやはり美味い。
長年作り続けているからなのだろうか、どこか懐かしい味もする。
前の世界の味が恋しくないといえば嘘になるが、ムーのご飯を食べられるならそれで満足だ。
それも後少し、ゆっくりと噛み締めて忘れないようにしたいな。
「あ、あの……」
「どうしたんだい?」
皆静かに食していたが、ムーが震えながら立ち上がった。
それに勝瑞は答えた。
「あの……。こんな時に突然で申し訳ないのですが……私……私も吉野川さんに付いて行きます! 私もこの村から出て行きます!」
突然の告白に俺を含め勝瑞も神も食べる手が止まり、ムーに注視していた。
「と、突然だし、迷惑かもしれないのですけど、私、覚悟は決めました……。この村は私の両親が育った村だし、私もこの村のおかげでここまで生きてこれたのは事実なのですけど……やっぱり、私のことを誰も知らない所で静かに暮らしたいのです……ひ、1人ならこんなことは絶対にしなかったと思うのですけど、吉野川さんがいてくれるなら大丈夫な気がするのです」
俺と勝瑞は固まって何も言えずにいたが、神だけはお腹を抱えながら笑っていた。
「よいぞ、よいぞ。よくぞ言った。フル、その旅楽しそうじゃから、わしも付いて行ってやるぞい」
神のまさかの言葉に勝瑞は箸を落としていた。
「ムーちゃん。覚悟を決めたって言うけど、がっくはお金はないは、運動神経は悪いはで一緒に生活するのは難しいと思うよ」
勝瑞の言っていることは事実。しかし、もう少しオブラートに包むなり言い方というものがあったのではないか?
俺の心には2本の矢が刺さっていた。
神は急に立ち止まり、手を緩めたと思えば急に振り返りこう言った。
「痛いじゃないわ、このばかちんが!」
つまりは怒っているのだ。
「今回ばかりは、俺はそこまで悪くないと思っているけど!」
「はぁ! 何を言っておるのじゃ! お主が100悪いのじゃ! いいか、うるさいから心の中で騒ぐんじゃないぞ!」
そう言って神は家の方へ歩き出した。
俺はそんな神の前に立ちはだかった。
「質問の答えを聞いていない」
「わしがどこにいようと、わしの勝手じゃ。お主に決められる権利はない」
言い返す言葉が思い浮かばなかった。
「じゃあ、訊き直す。ムーとはどんな関係なのだ?」
「お主に話す必要はない」
そう言って1人先に家へと帰ろうと歩いていた。
本来なら引き止めて、もっともっと深く追求したいけど元々の動機が不純すぎて訊くに聞けない。
「神、ちょっと待ってくれ」
「なんじゃ、お主と話すことはもうない」
「ムーに……ムーに俺らの仲のことは何て言えばいいんだ? 正直に神と話して大丈夫なのか?」
神はようやく立ち止まった。
「そんなもん適当に何とでもなるわい。気にすることはない」
はい、そうですか。そう言ってここで引き下がることもできたのだろうが、俺はそうはしなかった。
「神は適当にできたとして、俺は嘘を吐くのもその人に合わせるのも苦手だ。だから、事前に口裏を合わせておくのが安全だと思わないか?」
神は深く考えていた。
これでいい。これでこそ俺の作戦。遠からず外堀から埋めていく作戦。
まだ成果と言えるほどのことは聞き出せていないけど……。
「それもそうじゃな。お主はテストはできてもバカじゃからな……」
よし! この調子でと思っていたけど、俺の思惑は神には通用しなかった。
「とでも言うと思ったか! このバカちんが! お主の思考は全て分かると言っておるだろうが! いい加減学習せい! それと、あやつに嘘をつく必要などない。私が神だと言うことを伏せておく以外にな!」
そう言って神は先に家へと入っていってしまった。
俺の作戦は悉く失敗し唯一得られた情報は、ムーには神だと言うのは言うなと、これだけだ。
神とは一緒に家から出たのに時間差で帰ってきた俺を不思議そうにムーは見つめて、考えるのをやめてニコリと笑った。
「ご飯できましたよ。皆さん揃ってますから早く食べましょう!」
「ああ、そうだな」
そう言えば、俺はお皿を4つ用意させられた。俺とムーと神以外に後1人誰かゲストがいるのだろうか。まぁ、誰がゲストなのか大体想像はつくけど……。
ゲストは俺の予想を全く裏切らなかった。
「がっくん、がっくん。ご飯できているから早く食べよう!」
あんなことがあったから顔を合わせにくいと思っているのは俺だけなのだろうか。
それとも気まずいけど無理に能天気を演じているのか、どちらにせよ今は俺はこいつが大の苦手だ。
「あ、ああ」
俺らの間には重たい空気が広がっていて、神は更に空気を重たくした。
「お主は考えすぎなのじゃ! もっと楽観的に人生を過ごさねばここではやっいけんぞ!これから長いのじゃから楽しいことだけして生きていくのじゃ!」
良い助言であることには変わりはないが、言い方と見た目のせいで俺は何と返すべきか分からなかった。
そんな空気を破れるのは能天気なやつしかいない。
「まぁまぁ、そんなことはいいから早く食べようよ!」
4人掛けのテーブルに俺の正面にはムーが、右隣には勝瑞が、右斜め前には神が座って4人でムーの夕飯を囲った。
ムーのご飯はやはり美味い。
長年作り続けているからなのだろうか、どこか懐かしい味もする。
前の世界の味が恋しくないといえば嘘になるが、ムーのご飯を食べられるならそれで満足だ。
それも後少し、ゆっくりと噛み締めて忘れないようにしたいな。
「あ、あの……」
「どうしたんだい?」
皆静かに食していたが、ムーが震えながら立ち上がった。
それに勝瑞は答えた。
「あの……。こんな時に突然で申し訳ないのですが……私……私も吉野川さんに付いて行きます! 私もこの村から出て行きます!」
突然の告白に俺を含め勝瑞も神も食べる手が止まり、ムーに注視していた。
「と、突然だし、迷惑かもしれないのですけど、私、覚悟は決めました……。この村は私の両親が育った村だし、私もこの村のおかげでここまで生きてこれたのは事実なのですけど……やっぱり、私のことを誰も知らない所で静かに暮らしたいのです……ひ、1人ならこんなことは絶対にしなかったと思うのですけど、吉野川さんがいてくれるなら大丈夫な気がするのです」
俺と勝瑞は固まって何も言えずにいたが、神だけはお腹を抱えながら笑っていた。
「よいぞ、よいぞ。よくぞ言った。フル、その旅楽しそうじゃから、わしも付いて行ってやるぞい」
神のまさかの言葉に勝瑞は箸を落としていた。
「ムーちゃん。覚悟を決めたって言うけど、がっくはお金はないは、運動神経は悪いはで一緒に生活するのは難しいと思うよ」
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