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第1章
44話
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「どうしてって、ムーを探してに決まっているだろ。ムーこそ何でここに?」
言い方がキツかったのか、ムーは黙り込んでしまった。
何か話題をと考えるが疲労困憊で頭は回らなかった。
「そ、そうだムー。村のことだが、今の所は特に問題はない。これからもしかしたら副作用が出る人もいるかもしれないからその時は勝瑞が手伝ってくれるって……」
「……さんは……」
「な、何て?」
「吉野川さんは、どうしてそんなに普通でいられるのですか!」
ムーは泣き怒りながら、鋭い目を俺に向けていた。
何でムーが怒っているのか何となく想像はついた。
「ムー、君の両親は悪くない。そうしなければ……」
ムーは俺の声をかき消すくらい大きな声で言葉をかぶせた。
「私の両親が悪いのです! あの時、霧の大災害を起こさなければ……。私も……」
堪えていた涙が溢れ出し言葉途中で終わったが、次に何を言おうとしていたのかは安易に想像できた。
不器用な俺には慰められる言葉をかけることはできない。本心で……本心で語ることしか俺はできない。
「ムー俺は……前の世界で、人を助ける人の側で働いていた。そこでは毎日のように人が死んでいた。その人たちは人を殺そうだなんて1度も思ってはいなかった。ムーの両親は何も間違ってはいない。こんな時に変な話だが、俺は頭には自信がある。高校の時はずっと2番だったが、考える力はその辺の人よりは持っていると自負している。そんな俺も、ムーの両親と同じ結果を選んだ。俺は自分の行動に後悔はない。こうしなければ、もっとたくさんの人が死んでいた。だから、ムーの両親が霧の大災害を起こしたのは、間違いではない」
ムーの心に響けばいいけど、俺の言葉では届かないだろうな。
「……あの……、1つだけ……1つだけ訊いてもいいですか?」
「あ、あぁ」
熱心に語り過ぎてムーがいつ背中を向けていたのか気づかなかった。そして、その背中越し声は冷たく嘲笑っているように聞こえた。
「吉野川さんは、これからどうするつもりですか?」
「後1週間もすれば俺はこの村を出て行く。それからのことはまだ決めてない」
「やっぱり……そうですか……」
会話というキャッチボールなら俺の番に当たるが、半ギレの「そうですか」を聞いて返す言葉を見つけられずにいた。
その言葉を最後にこの場には無言の空間が広がっていた。
ざわざわと木々が風で揺れて、時折パキパキと木が割れる音が響いた。風の音が途切れたらムーに何かを言って話を繋げよう、そう思ってはいたけど何を言うべきなのか全く頭で整理することができなかった。
「そ、そういえばなんだが……ムーはここで何をしていたんだ?」
唐突に変な質問だったのか、ムーは何も語らなかった。
再びどちらも喋らない、木々が揺れる音だけが響く空間が完成してしまった。
何か会話を繋げられる話題を……。
いくら考えても何て言えばいいのか全くわからなかった。
だけど、その空間も突然笑い出したムーによって終わりを告げられた。
「ふふっ、吉野川さんを見ていたらなんだかどうでもよく思えてきました。帰ってご飯にでもしましょう」
ムーは立ち上がりズボンについた泥を払い、俺と一瞬だけ目を合わせるなりいつも通りに笑い、ゆっくりと山を下りていった。
俺も後を追うが、疲労と元々の運動神経でムーには追いつくことはできなかった。
「ムー! ちょ、ちょっとだけでいいから待ってくれないか?」
「分かりましたー! ここで待ってますね」
と言った先は100メートルくらい離れていて、正確な位置が見えない状態だった。
早く下りなければ、焦る気持ちと疲労で俺は石に足を取られ滑り台の要領で斜面を滑り落ちていった。
そして、その滑り落ちた先にはムーがいた。
「大丈夫ですか?」
そう心配してくれる声は笑いで満たされていて、頑張って耐えていたムーも限界を迎えたのかお腹を抱えながら座り込んでいた。
ムーに起こしてもらうのも悪いから1人で勝手に起き上がり体の隅々に着いた泥や葉草を払い除けた。
「ムーこそ大丈夫か?」
自然とムーに手を伸ばしていたがさっき泥を払ったせいで手が泥だらけになっていて、汚すのも悪いと思い手を下げようとするが、ムーの方が反応が早く手を握られてしまった。
握られてしまっては払い除けるのも失礼だから、ゆっくりとムーを引き上げた。
「私も泥だらけなので、そんなの気にしないでください」
隠していたつもりはないけどバレていた。
短期間しか過ごしていないけどムーが凄く成長している。
嬉しいことのはずなのに何故だか寂しい気持ちが込み上げてきた。
今まで卒業式でも悲しいと思ったことはないのに、こんな短期間一緒に過ごした少女と離れ離れになるのが寂しいのか。
いやいや、そんなことはない。
親しい人間を作ればその分強度が下がる。それに何事も自分で解決するのが1番だ。
言い方がキツかったのか、ムーは黙り込んでしまった。
何か話題をと考えるが疲労困憊で頭は回らなかった。
「そ、そうだムー。村のことだが、今の所は特に問題はない。これからもしかしたら副作用が出る人もいるかもしれないからその時は勝瑞が手伝ってくれるって……」
「……さんは……」
「な、何て?」
「吉野川さんは、どうしてそんなに普通でいられるのですか!」
ムーは泣き怒りながら、鋭い目を俺に向けていた。
何でムーが怒っているのか何となく想像はついた。
「ムー、君の両親は悪くない。そうしなければ……」
ムーは俺の声をかき消すくらい大きな声で言葉をかぶせた。
「私の両親が悪いのです! あの時、霧の大災害を起こさなければ……。私も……」
堪えていた涙が溢れ出し言葉途中で終わったが、次に何を言おうとしていたのかは安易に想像できた。
不器用な俺には慰められる言葉をかけることはできない。本心で……本心で語ることしか俺はできない。
「ムー俺は……前の世界で、人を助ける人の側で働いていた。そこでは毎日のように人が死んでいた。その人たちは人を殺そうだなんて1度も思ってはいなかった。ムーの両親は何も間違ってはいない。こんな時に変な話だが、俺は頭には自信がある。高校の時はずっと2番だったが、考える力はその辺の人よりは持っていると自負している。そんな俺も、ムーの両親と同じ結果を選んだ。俺は自分の行動に後悔はない。こうしなければ、もっとたくさんの人が死んでいた。だから、ムーの両親が霧の大災害を起こしたのは、間違いではない」
ムーの心に響けばいいけど、俺の言葉では届かないだろうな。
「……あの……、1つだけ……1つだけ訊いてもいいですか?」
「あ、あぁ」
熱心に語り過ぎてムーがいつ背中を向けていたのか気づかなかった。そして、その背中越し声は冷たく嘲笑っているように聞こえた。
「吉野川さんは、これからどうするつもりですか?」
「後1週間もすれば俺はこの村を出て行く。それからのことはまだ決めてない」
「やっぱり……そうですか……」
会話というキャッチボールなら俺の番に当たるが、半ギレの「そうですか」を聞いて返す言葉を見つけられずにいた。
その言葉を最後にこの場には無言の空間が広がっていた。
ざわざわと木々が風で揺れて、時折パキパキと木が割れる音が響いた。風の音が途切れたらムーに何かを言って話を繋げよう、そう思ってはいたけど何を言うべきなのか全く頭で整理することができなかった。
「そ、そういえばなんだが……ムーはここで何をしていたんだ?」
唐突に変な質問だったのか、ムーは何も語らなかった。
再びどちらも喋らない、木々が揺れる音だけが響く空間が完成してしまった。
何か会話を繋げられる話題を……。
いくら考えても何て言えばいいのか全くわからなかった。
だけど、その空間も突然笑い出したムーによって終わりを告げられた。
「ふふっ、吉野川さんを見ていたらなんだかどうでもよく思えてきました。帰ってご飯にでもしましょう」
ムーは立ち上がりズボンについた泥を払い、俺と一瞬だけ目を合わせるなりいつも通りに笑い、ゆっくりと山を下りていった。
俺も後を追うが、疲労と元々の運動神経でムーには追いつくことはできなかった。
「ムー! ちょ、ちょっとだけでいいから待ってくれないか?」
「分かりましたー! ここで待ってますね」
と言った先は100メートルくらい離れていて、正確な位置が見えない状態だった。
早く下りなければ、焦る気持ちと疲労で俺は石に足を取られ滑り台の要領で斜面を滑り落ちていった。
そして、その滑り落ちた先にはムーがいた。
「大丈夫ですか?」
そう心配してくれる声は笑いで満たされていて、頑張って耐えていたムーも限界を迎えたのかお腹を抱えながら座り込んでいた。
ムーに起こしてもらうのも悪いから1人で勝手に起き上がり体の隅々に着いた泥や葉草を払い除けた。
「ムーこそ大丈夫か?」
自然とムーに手を伸ばしていたがさっき泥を払ったせいで手が泥だらけになっていて、汚すのも悪いと思い手を下げようとするが、ムーの方が反応が早く手を握られてしまった。
握られてしまっては払い除けるのも失礼だから、ゆっくりとムーを引き上げた。
「私も泥だらけなので、そんなの気にしないでください」
隠していたつもりはないけどバレていた。
短期間しか過ごしていないけどムーが凄く成長している。
嬉しいことのはずなのに何故だか寂しい気持ちが込み上げてきた。
今まで卒業式でも悲しいと思ったことはないのに、こんな短期間一緒に過ごした少女と離れ離れになるのが寂しいのか。
いやいや、そんなことはない。
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