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第1章
35話
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俺は考えた。
変な文字が見えるあの現象を勝瑞に言うべきか。
俺は考えた。
プラノさんの罹っているかも知れない病名を言うべきか。
「少し昔話になるがいいか?」
「簡潔にね」
「あれは俺が学生の頃……」
昔話を懐かしみながら話そうとしていたが勝瑞は俺の言葉を裂くように間に割って入った。
「簡潔に!」
「そこまで長くない話だ聞いてくれ」
納得していなさそうな顔だけど、文句を言うことはなかった。
「俺が学生の頃、1度だけバイトをしてみたんだ。短期だけど調剤薬局で……。初めは薬に触れられると思っていたけど、資格も持ってない奴が薬に触れることもなく、殆どが接客だったんだ。まぁ、それが嫌でやめてしまったんだけど……」
勝瑞はまた間に割って入った。
「がっくんがバイトして辞めた話を聞きたい訳じゃないんだけど」
まぁ、そう怒るなよ。本題はここからだ。
「そのバイトで1度だけ、指導されながらだけど調剤をさせてもらったことがあるんだ。その時の患者で、NSAIDsと言う向こうの世界では一般的な解熱鎮痛薬を処方された患者がいて、俺は普通に対応した。喘息を起こしたことがあるとも聞いていた。だけど、そこの薬剤師の人が、その薬を止めたんだ。そして主治医に電話で確認した。“アスピリン喘息を患ってませんか?”と。俺はその言葉を知らなかった。勉強だけでは足りない部分もあるのだと実感した」
勝瑞はこれだけ話してもまだ不満そうな顔をしていた。
「それで結局、この人はその“アスピリン喘息”だと思うってこと?」
俺は頷きながら答えた。
「その一件から俺は凡ゆる資料をもとにアスピリン喘息について調べたんだ。アスピリン喘息を患っている人は、NSAIDsを服薬後30分から1時間で発症する。そして初期症状は、味覚の低下、鼻詰まり、鼻水、咳……そのことについて1つ訊きたいことがある。前にトラマドールにいいものだとワインを勧められた。この時期はワインが飲むことが多いのか?」
「あぁ、この時期は村のどこでもワインを飲むことができる。も、もしかして、そういうことなのか?」
「もしかしてそういうこと」珍しく焦っているのか間の言葉を俺が補足する。
「アスピリン喘息は、ある果物を摂取することによって症状が出る場合もある。さっき言ったが、初期症状があれだ、花粉症と間違え易いんだ」
そうつまりは、春の病と呼ばれていた花粉症のような症状は実は、アスピリン喘息であったということだ。
まだまだ仮定の段階だが、確定されるのも時間の問題だと思う。
「だったら、まずいかも知れない……」
普段とは打って変わって神妙な面持ちを浮かべていた勝瑞は、そう言って1人走り去ってしまった。
メチコさんに、プラノさんを1日面倒を見ると言ってしまったから、俺はこの場から動くことはできず寝ずに1人プラノさんを見守っていた。
それから勝瑞が帰ってきたのは、夜が明けて日が昇り始めていた頃だった。
「がっくん! そのアスピリン喘息って言うのは、こんな症状も出たりするのかな?」
突然帰ってきてただいまもなく煩い声で質問だけするなどこいつもまだまだだな。
「すまん、勝瑞。俺、字読めない……」
「何でだよ、がっくん!」
「だっ、仕方ないだろ。まだ来て日も浅いんだ!」
と、言い争ってみたものの、お互い今はそうしている場合ではないと気づき、勝瑞は紙に書かれた文字を読み始めた。
「トラマ・ドールの店で葡萄酒とフルーツケーキを食べた人に春の病を発症していないか訊いて回ったんだ。すると、飲食をした35人中、30人が春の病の自覚症状があった」
「やはりアスピリン喘息が1番怪しいか」
「それと……」
何を渋っているのか、言いにくそうな顔を勝瑞は浮かべ、悩みながらも重たい口を開いた。
「ムーの所へ行ってきた……。がっくんのことすごく心配してたよ。それと……、薬の件本人に話してみた。初めは驚いていたけど、それが村の為になるならって泣きながら引き受けてくれたよ……」
言い淀むのも分かるが、俺相手にはそうならないでくれよ。
ムーは俺の恩人だ。もしムーに会っていなかったら俺は知らぬ森でのたれ死んでいただろう。俺もピンチを救ってもらったんだ、少しくさいが今度は俺が救う番ではないか。
「勝瑞! 全て俺が責任取る。ムーには責任は取らせない!」
「ふっ、がっくんやっぱり変わったね。昔はそうではなかったよ。誰よりも先に村から逃げていたと思うよ」
「そ、そそ、そんなことはない!」
俺の視界にはお腹を押さえながら、涙を両目から2滴垂らす勝瑞の姿が写っていた。
こんな景色を見たのはいつぶりだろう?
友人なんていたことないから初めてかも知れない。
こんな年になって初めて友人ができたなんて恥ずかしくて誰にも言えないよ。
それから昼食の時間まで俺達は今後の作戦を立てた。
アスピリン喘息が広がる前にフルテイフォームを大量生産し、村人全員が治療を受けられる体制を整える。薬が間に合わない場合は、アセトアミノフェンを使用し、痛みの緩和を行いアスピリン喘息の誘発物を排除した食生活を実行する。
ただ、後者の方は2人だけでは困難だ。
それと、もう1つ厄介ごとがある……。
変な文字が見えるあの現象を勝瑞に言うべきか。
俺は考えた。
プラノさんの罹っているかも知れない病名を言うべきか。
「少し昔話になるがいいか?」
「簡潔にね」
「あれは俺が学生の頃……」
昔話を懐かしみながら話そうとしていたが勝瑞は俺の言葉を裂くように間に割って入った。
「簡潔に!」
「そこまで長くない話だ聞いてくれ」
納得していなさそうな顔だけど、文句を言うことはなかった。
「俺が学生の頃、1度だけバイトをしてみたんだ。短期だけど調剤薬局で……。初めは薬に触れられると思っていたけど、資格も持ってない奴が薬に触れることもなく、殆どが接客だったんだ。まぁ、それが嫌でやめてしまったんだけど……」
勝瑞はまた間に割って入った。
「がっくんがバイトして辞めた話を聞きたい訳じゃないんだけど」
まぁ、そう怒るなよ。本題はここからだ。
「そのバイトで1度だけ、指導されながらだけど調剤をさせてもらったことがあるんだ。その時の患者で、NSAIDsと言う向こうの世界では一般的な解熱鎮痛薬を処方された患者がいて、俺は普通に対応した。喘息を起こしたことがあるとも聞いていた。だけど、そこの薬剤師の人が、その薬を止めたんだ。そして主治医に電話で確認した。“アスピリン喘息を患ってませんか?”と。俺はその言葉を知らなかった。勉強だけでは足りない部分もあるのだと実感した」
勝瑞はこれだけ話してもまだ不満そうな顔をしていた。
「それで結局、この人はその“アスピリン喘息”だと思うってこと?」
俺は頷きながら答えた。
「その一件から俺は凡ゆる資料をもとにアスピリン喘息について調べたんだ。アスピリン喘息を患っている人は、NSAIDsを服薬後30分から1時間で発症する。そして初期症状は、味覚の低下、鼻詰まり、鼻水、咳……そのことについて1つ訊きたいことがある。前にトラマドールにいいものだとワインを勧められた。この時期はワインが飲むことが多いのか?」
「あぁ、この時期は村のどこでもワインを飲むことができる。も、もしかして、そういうことなのか?」
「もしかしてそういうこと」珍しく焦っているのか間の言葉を俺が補足する。
「アスピリン喘息は、ある果物を摂取することによって症状が出る場合もある。さっき言ったが、初期症状があれだ、花粉症と間違え易いんだ」
そうつまりは、春の病と呼ばれていた花粉症のような症状は実は、アスピリン喘息であったということだ。
まだまだ仮定の段階だが、確定されるのも時間の問題だと思う。
「だったら、まずいかも知れない……」
普段とは打って変わって神妙な面持ちを浮かべていた勝瑞は、そう言って1人走り去ってしまった。
メチコさんに、プラノさんを1日面倒を見ると言ってしまったから、俺はこの場から動くことはできず寝ずに1人プラノさんを見守っていた。
それから勝瑞が帰ってきたのは、夜が明けて日が昇り始めていた頃だった。
「がっくん! そのアスピリン喘息って言うのは、こんな症状も出たりするのかな?」
突然帰ってきてただいまもなく煩い声で質問だけするなどこいつもまだまだだな。
「すまん、勝瑞。俺、字読めない……」
「何でだよ、がっくん!」
「だっ、仕方ないだろ。まだ来て日も浅いんだ!」
と、言い争ってみたものの、お互い今はそうしている場合ではないと気づき、勝瑞は紙に書かれた文字を読み始めた。
「トラマ・ドールの店で葡萄酒とフルーツケーキを食べた人に春の病を発症していないか訊いて回ったんだ。すると、飲食をした35人中、30人が春の病の自覚症状があった」
「やはりアスピリン喘息が1番怪しいか」
「それと……」
何を渋っているのか、言いにくそうな顔を勝瑞は浮かべ、悩みながらも重たい口を開いた。
「ムーの所へ行ってきた……。がっくんのことすごく心配してたよ。それと……、薬の件本人に話してみた。初めは驚いていたけど、それが村の為になるならって泣きながら引き受けてくれたよ……」
言い淀むのも分かるが、俺相手にはそうならないでくれよ。
ムーは俺の恩人だ。もしムーに会っていなかったら俺は知らぬ森でのたれ死んでいただろう。俺もピンチを救ってもらったんだ、少しくさいが今度は俺が救う番ではないか。
「勝瑞! 全て俺が責任取る。ムーには責任は取らせない!」
「ふっ、がっくんやっぱり変わったね。昔はそうではなかったよ。誰よりも先に村から逃げていたと思うよ」
「そ、そそ、そんなことはない!」
俺の視界にはお腹を押さえながら、涙を両目から2滴垂らす勝瑞の姿が写っていた。
こんな景色を見たのはいつぶりだろう?
友人なんていたことないから初めてかも知れない。
こんな年になって初めて友人ができたなんて恥ずかしくて誰にも言えないよ。
それから昼食の時間まで俺達は今後の作戦を立てた。
アスピリン喘息が広がる前にフルテイフォームを大量生産し、村人全員が治療を受けられる体制を整える。薬が間に合わない場合は、アセトアミノフェンを使用し、痛みの緩和を行いアスピリン喘息の誘発物を排除した食生活を実行する。
ただ、後者の方は2人だけでは困難だ。
それと、もう1つ厄介ごとがある……。
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