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第1章
33話
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けど検査も何もできないから俺にできることはここまでな気がする。
それでも諦めるわけにはいかない。
「勝瑞、村の人で他に咳をしている人はいるのか?」
「春の病はこれからだから、これから増えると思うよ。今の所はプラノと果物屋のパキと野菜屋、主にトマトと胡瓜を売っているマイ。そのくらい」
果物屋の若い店主もトマト売りの女性も村を歩くとよく見かけるが、2人に共通点はない。
勿論2人がそう言う仲ならあり得るが、俺が見た限りではそんな様子はなかった。
「果物屋の若造とトマトのお姉さんは付き合っているのか?」
自分でもおかしなことを訊いていると感じたのは勝瑞に言われてからだ。
「どうしたの? がっくん変になったの? でも、2人が付き合っているってのは聞いたことはないかな。2人でこっそり会っている様子もないし、文通のやり取りもない。接点はお互いに店に訪れる時くらいだよ」
俺も気持ち悪い質問をした気でいたけど、勝瑞の答えの方がよっぽど気持ち悪かった。
どれだけ2人のことを見ているだこいつは。
まぁ、勝瑞との話はこのくらいにして、2人に接点がないなら感染の確率は低いか。
でも、たまたま感染した可能性もある。
「プラノさん。最近、俺ら以外に誰かと会ったりしました? 村に出て誰かと話ししたとかないですか?」
答えはNOだった。
こっちに帰ってきてからは、家でぐうたらと過ごしていたらしい。
羨ましい限りだけど、それなら1番接触のあるメチコさんにうつらないのは不自然だ。
それか、メチコさんは既に耐性があり、たまたま薬を買いに来た2人に感染ったとか?
可能性は低そうだ。
「そうだ……」
何かを思い出したような顔を浮かべたのはプラノさんだった。
「咳が出る前の日に2人で“果実酒”を飲んだんよ。この季節しか手に入らない代物で、凄く美味しかったんだけど、飲み続けているうちに味がしなくなったんだよ。これも何か関係あるのだろうか?」
味がしなくなった?
元いた国で流行った某ウイルスの初期症状でも、味覚低下が見られるとよく言っていた。
関係あるのか?
「その時は咳とかありませんでした?」
「あぁ、味がしなくなってすぐに寝たから、これといってなかったと思うな」
咳、味覚低下、鼻閉、鼻汁、これらが当てはまる患者を俺は一度だけ見たことがある。
だけど確信は持てない。
確定するにしても検査をしなければ結果は分からない。
「勝瑞……、この村にキュバールという名の人物はいないか? キュバールがダメならアイロミールでもいい、いないか?」
勝瑞は言葉では言い表せないほど険しい顔をした。
「残念だけど、何方ももういないよ。12年前に死んでしまってね……」
勝瑞は言葉を詰まらせた。
その隙に俺は次の質問を繰り出した。
「フルティフォームという人物に心当たりはないか?」
勝瑞は真っ青な顔をした。
何か知っているのだろうが、何も言わなかった。
俺も深くは追求できなかった。
「俺が今から唱える言葉のやつがいるなら、そいつを呼んで来てくれ」
1番有効だと思われる3つの薬がないなら、他を当たるしかない。
飲み薬になれば効果を発揮するまでに時間を有するだろうが、これも致し方ない。
「アズマネックス」
「聞いたことがない」
「オルベスコ」
「知らないね」
「パルミコート」
「12年前に死んだ」
「フルタイド」
「初めて聞いたよ」
合いの手を打ってほしいとは頼んでいないけど、後々訊き返されるよりはマシだ。
「メドロール」
「知らないね」
「セレスタミン」
「いるけど他国だ」
「プレドニゾロン」
「いるけど王都だ」
王都? そう言えばムーが出会った頃くらいに“ここは薬の国だと”言っていた。
「王都は何処にある? ここから何時間くらいで着く?」
やっと見つけた解決策かも知れない薬がこの世に存在すると聞いて、気付けば俺は勝瑞の胸ぐらを掴んでいた。
「がっくん、落ち着いて! 王都は確かにあるけど、今日はもう無理だよ。今からどんなに早くても、着けば夜中。それに夜の森を進むのは危険だよ」
そう言われて正気を取り戻した俺は、勝瑞の首元から手を離して、今度は自分の頭へ手を持っていった。
頭を掻きむしりながら何度も脳を回転させた。
もう手はない。今できることはこれで精一杯だと。
そんな俺を見かねてか、勝瑞は大きな溜息を吐いた。
「はぁー。がっくんに言っていいのか、本人に聞くべきなんだろうけど、緊急事態だからいいかな……」
勝瑞は、俺以上に頭を悩ませて重い口を震わせながら開いていた。
「はぁー、プラノさんも知ってるし、いいか。がっくんが初めの方に言った人物に心当たりはある。この村にいる。だけど、まだ薬を作れるかどうかそれは、僕には分からない。その子は僕が名前を無理矢理変えて、今は別の名前を名乗っているから……」
俺は……。この村に来てまだ日は浅いが、偽物の名前を名乗っている人物を1人だけ知っている。
まだ仮説の段階ではあるが、点と点が線で結ばれる様にあることが思い浮かんだ。
「ムーか。ムーがそうなのか?」
勝瑞は何も言わずに大きく頷いた。
そんなことを聞いてしまった俺は、衝動的にムーの所へ走ろうとしたが、それは勝瑞によって止められた。
「がっくん! それだけは、もう少し待ってくれないか?」
「もう少しと言うことは、何かあるのか?」
勝瑞は頷いた。
「もう少しすると、王都の方から人が来る。それも公賓級の人物……」
そう言った途端、扉をノックする音とメチコさんの声がした。
それでも諦めるわけにはいかない。
「勝瑞、村の人で他に咳をしている人はいるのか?」
「春の病はこれからだから、これから増えると思うよ。今の所はプラノと果物屋のパキと野菜屋、主にトマトと胡瓜を売っているマイ。そのくらい」
果物屋の若い店主もトマト売りの女性も村を歩くとよく見かけるが、2人に共通点はない。
勿論2人がそう言う仲ならあり得るが、俺が見た限りではそんな様子はなかった。
「果物屋の若造とトマトのお姉さんは付き合っているのか?」
自分でもおかしなことを訊いていると感じたのは勝瑞に言われてからだ。
「どうしたの? がっくん変になったの? でも、2人が付き合っているってのは聞いたことはないかな。2人でこっそり会っている様子もないし、文通のやり取りもない。接点はお互いに店に訪れる時くらいだよ」
俺も気持ち悪い質問をした気でいたけど、勝瑞の答えの方がよっぽど気持ち悪かった。
どれだけ2人のことを見ているだこいつは。
まぁ、勝瑞との話はこのくらいにして、2人に接点がないなら感染の確率は低いか。
でも、たまたま感染した可能性もある。
「プラノさん。最近、俺ら以外に誰かと会ったりしました? 村に出て誰かと話ししたとかないですか?」
答えはNOだった。
こっちに帰ってきてからは、家でぐうたらと過ごしていたらしい。
羨ましい限りだけど、それなら1番接触のあるメチコさんにうつらないのは不自然だ。
それか、メチコさんは既に耐性があり、たまたま薬を買いに来た2人に感染ったとか?
可能性は低そうだ。
「そうだ……」
何かを思い出したような顔を浮かべたのはプラノさんだった。
「咳が出る前の日に2人で“果実酒”を飲んだんよ。この季節しか手に入らない代物で、凄く美味しかったんだけど、飲み続けているうちに味がしなくなったんだよ。これも何か関係あるのだろうか?」
味がしなくなった?
元いた国で流行った某ウイルスの初期症状でも、味覚低下が見られるとよく言っていた。
関係あるのか?
「その時は咳とかありませんでした?」
「あぁ、味がしなくなってすぐに寝たから、これといってなかったと思うな」
咳、味覚低下、鼻閉、鼻汁、これらが当てはまる患者を俺は一度だけ見たことがある。
だけど確信は持てない。
確定するにしても検査をしなければ結果は分からない。
「勝瑞……、この村にキュバールという名の人物はいないか? キュバールがダメならアイロミールでもいい、いないか?」
勝瑞は言葉では言い表せないほど険しい顔をした。
「残念だけど、何方ももういないよ。12年前に死んでしまってね……」
勝瑞は言葉を詰まらせた。
その隙に俺は次の質問を繰り出した。
「フルティフォームという人物に心当たりはないか?」
勝瑞は真っ青な顔をした。
何か知っているのだろうが、何も言わなかった。
俺も深くは追求できなかった。
「俺が今から唱える言葉のやつがいるなら、そいつを呼んで来てくれ」
1番有効だと思われる3つの薬がないなら、他を当たるしかない。
飲み薬になれば効果を発揮するまでに時間を有するだろうが、これも致し方ない。
「アズマネックス」
「聞いたことがない」
「オルベスコ」
「知らないね」
「パルミコート」
「12年前に死んだ」
「フルタイド」
「初めて聞いたよ」
合いの手を打ってほしいとは頼んでいないけど、後々訊き返されるよりはマシだ。
「メドロール」
「知らないね」
「セレスタミン」
「いるけど他国だ」
「プレドニゾロン」
「いるけど王都だ」
王都? そう言えばムーが出会った頃くらいに“ここは薬の国だと”言っていた。
「王都は何処にある? ここから何時間くらいで着く?」
やっと見つけた解決策かも知れない薬がこの世に存在すると聞いて、気付けば俺は勝瑞の胸ぐらを掴んでいた。
「がっくん、落ち着いて! 王都は確かにあるけど、今日はもう無理だよ。今からどんなに早くても、着けば夜中。それに夜の森を進むのは危険だよ」
そう言われて正気を取り戻した俺は、勝瑞の首元から手を離して、今度は自分の頭へ手を持っていった。
頭を掻きむしりながら何度も脳を回転させた。
もう手はない。今できることはこれで精一杯だと。
そんな俺を見かねてか、勝瑞は大きな溜息を吐いた。
「はぁー。がっくんに言っていいのか、本人に聞くべきなんだろうけど、緊急事態だからいいかな……」
勝瑞は、俺以上に頭を悩ませて重い口を震わせながら開いていた。
「はぁー、プラノさんも知ってるし、いいか。がっくんが初めの方に言った人物に心当たりはある。この村にいる。だけど、まだ薬を作れるかどうかそれは、僕には分からない。その子は僕が名前を無理矢理変えて、今は別の名前を名乗っているから……」
俺は……。この村に来てまだ日は浅いが、偽物の名前を名乗っている人物を1人だけ知っている。
まだ仮説の段階ではあるが、点と点が線で結ばれる様にあることが思い浮かんだ。
「ムーか。ムーがそうなのか?」
勝瑞は何も言わずに大きく頷いた。
そんなことを聞いてしまった俺は、衝動的にムーの所へ走ろうとしたが、それは勝瑞によって止められた。
「がっくん! それだけは、もう少し待ってくれないか?」
「もう少しと言うことは、何かあるのか?」
勝瑞は頷いた。
「もう少しすると、王都の方から人が来る。それも公賓級の人物……」
そう言った途端、扉をノックする音とメチコさんの声がした。
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