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第1章
16話
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こちらの世界の朝は早い。
俺の家ならば、窓にはカーテンがあり日の出が1番に入ってくることはない。
だが、ここの世界にはカーテンというものがない。窓が1つあるだけだ。なので、俺は眠いにもかかわらず、初日の出(こちらの世界の)に起こされてしまったのだ。
目を覚ますと、眩しすぎてもう1度目を閉じたくなるくらいに直射日光が差し込んでいた。
清々しい朝だ。太陽の位置はまだ低い。時計がないので正確には時間は分からないが、感覚的には7時頃だと思う。
こんな日の朝は、バターでも塗ったトーストを食べたいものだ。
そんな思いを持ちながら一階に降りた俺は、あることに気が付いた。
それは、こちらの世界では文明が発達しておらず、冷蔵庫と言う物は存在していなかった。
つまり、俺の朝食は用意されていないということだ。
突然こちらの世界に来たのだから仕方ないが、パンの1つでも置いていって欲しかった。それか、朝ごはんのこと‘ない’と言ってほしかった。
そんな中、救世主は突然現れたのだった。
コンコンと扉を叩く音が聞こえて、驚きで少し飛び跳ねたが、来客があったのだとすぐに気づき、恐る恐る扉を開けると、そこには初めて会った時の様にバスケットを片手に持ったムーが立っていたのだ。
「吉野川さん、おはようございます。朝ご飯まだだと思いましたので、パンを持ってきました」
そう言った時の笑顔と背後から差し込んでいる太陽の光が後光に見え、まるでそこには神か天使でもいる様であった。
固まっていた俺とは正反対に、ムーは表情をコロコロと変えて一礼し、別荘の中へと入って行った。
来たことあるのか、ちゃんと靴は玄関で脱いでいた。
「スープ作りたいのでキッチン借りますね」
「あ、あぁ」
突然の出来事すぎて、俺はまだ玄関で扉を持ちながら立ち尽くしていた。
ふと我に返ったのは、キッチンの方でトントンと何かを切る音が聞こえてきてからだった。
扉を優しく閉めてキッチンの方へ行くと、ムーが緑色の草の様な物をナイフを使って小さく切っていた。
「あ、座って待っていてください。後少しで出来上がりますよ」
そう言われたからリビングの椅子に座って、ムーが料理を作る姿を見ていた。
昨日と同じ様にニコニコ笑いながら料理を作っていた。
昨日のことなんて何もなかったかの様に。
少し待っていると、茶色い木の深皿に入れられたスープをムーが持って来てくれた。
それと同時に、木のスプーンと平皿に乗せられた拳大の円形のパン、木のコップに入ったホットミルクも持って来てくれた。
「どうぞ召し上がってください」
そう言われたので、まずは温かいスープをスプーンでひと口掬い口に入れた。
見た目はほうれん草のスープに見えたが味は全く違って、苦味は全くなく逆に砂糖でも使った様な甘みがあった。
パンにはバターやジャムは付いていなく、素で食べるのだと思っていたがムーは、パンをスープに浸して食べていた。
こちらではそう食べるのか。そう言うことならとパンをスープに浸して食べると、目を輝かせたくなるくらいに美味かった。
「ムー、これ美味い。すごく美味い」
興奮したあまり咄嗟に声が出たが、ムーはすごく喜んでくれていた。
言ったばかりの時は恥ずかしさが込み上げていたが、蕩けそうな笑顔を見ているとそんなものは知らぬ間に消え去っていた。
朝食を終えるとムーは、洗い物をしてこの別荘を後にした。
俺も早速、服の皺を手で伸ばし広げ、村長の所へ向かう準備をした。
相変わらず何も持っていないから、手荷物はなしで身体1つだけしか用意するものはないけど、身だしなみを整えるのは社会人の基本。
髪は寝癖をある程度は整えて、髭は剃る方法がないから口周りが青いがそのままで、靴は山道を歩いたせいで泥汚れがこれも致し方ない。
中途半端だけど準備は整った。
後は村長の家へと向かうだけだったのだが、よく考えてみろ、俺は昨日フラフラの状態で松明の明かりを頼りに山道を歩いて来た。
即ち、道が分からん。
頼れるのはムーしかいないが、村には入れない。村長息子が近くを通ればいいが、結構な距離があったからその可能性は低い。
詰んだ。この状況完全に詰んでいる。
そうだ! 俺にはもう1人頼れるかは微妙だけど、役には立つかも知れないのがいる。
「おーい! 神! 聞こえているか? 聞こえているなら姿を見せてくれ!」
叫んでも心の中で呟くだけでも変わらない筈だけど、大きな声を出す方が神の心には届く気がした。
「うるさいわ! そんなに大きな声を出さんでも全部聞こえておるわ!」
神は、背後に生えていた大きな木の枝に座っていた。
やっぱり大きな声の方が神様には届く様だ。
「そんなもん変わりある訳ないじゃろう。願いなど神に祈るのではなくて、自分で叶えるものじゃぞ!」
何で信仰の対象とされる神に俺は諭されているのだ?
まぁ、神の言っていることが正論だ。
「そんなことより、お願いがあるんだ。村長の家までの道のりを教えてくれ」
神は睨む様な目をした後に外方を向いた。
「神様、お願いします。村長の家までの道のりを教えてください」
土下座まではしたくなかったから深々とお辞儀をすると、神は上機嫌になっていた。
「まぁ、そこまで言うのなら言ってあげてもいいだけどな~」
それはまるで、お菓子で釣られている子供の様に甘く、ちょろかった。
俺の家ならば、窓にはカーテンがあり日の出が1番に入ってくることはない。
だが、ここの世界にはカーテンというものがない。窓が1つあるだけだ。なので、俺は眠いにもかかわらず、初日の出(こちらの世界の)に起こされてしまったのだ。
目を覚ますと、眩しすぎてもう1度目を閉じたくなるくらいに直射日光が差し込んでいた。
清々しい朝だ。太陽の位置はまだ低い。時計がないので正確には時間は分からないが、感覚的には7時頃だと思う。
こんな日の朝は、バターでも塗ったトーストを食べたいものだ。
そんな思いを持ちながら一階に降りた俺は、あることに気が付いた。
それは、こちらの世界では文明が発達しておらず、冷蔵庫と言う物は存在していなかった。
つまり、俺の朝食は用意されていないということだ。
突然こちらの世界に来たのだから仕方ないが、パンの1つでも置いていって欲しかった。それか、朝ごはんのこと‘ない’と言ってほしかった。
そんな中、救世主は突然現れたのだった。
コンコンと扉を叩く音が聞こえて、驚きで少し飛び跳ねたが、来客があったのだとすぐに気づき、恐る恐る扉を開けると、そこには初めて会った時の様にバスケットを片手に持ったムーが立っていたのだ。
「吉野川さん、おはようございます。朝ご飯まだだと思いましたので、パンを持ってきました」
そう言った時の笑顔と背後から差し込んでいる太陽の光が後光に見え、まるでそこには神か天使でもいる様であった。
固まっていた俺とは正反対に、ムーは表情をコロコロと変えて一礼し、別荘の中へと入って行った。
来たことあるのか、ちゃんと靴は玄関で脱いでいた。
「スープ作りたいのでキッチン借りますね」
「あ、あぁ」
突然の出来事すぎて、俺はまだ玄関で扉を持ちながら立ち尽くしていた。
ふと我に返ったのは、キッチンの方でトントンと何かを切る音が聞こえてきてからだった。
扉を優しく閉めてキッチンの方へ行くと、ムーが緑色の草の様な物をナイフを使って小さく切っていた。
「あ、座って待っていてください。後少しで出来上がりますよ」
そう言われたからリビングの椅子に座って、ムーが料理を作る姿を見ていた。
昨日と同じ様にニコニコ笑いながら料理を作っていた。
昨日のことなんて何もなかったかの様に。
少し待っていると、茶色い木の深皿に入れられたスープをムーが持って来てくれた。
それと同時に、木のスプーンと平皿に乗せられた拳大の円形のパン、木のコップに入ったホットミルクも持って来てくれた。
「どうぞ召し上がってください」
そう言われたので、まずは温かいスープをスプーンでひと口掬い口に入れた。
見た目はほうれん草のスープに見えたが味は全く違って、苦味は全くなく逆に砂糖でも使った様な甘みがあった。
パンにはバターやジャムは付いていなく、素で食べるのだと思っていたがムーは、パンをスープに浸して食べていた。
こちらではそう食べるのか。そう言うことならとパンをスープに浸して食べると、目を輝かせたくなるくらいに美味かった。
「ムー、これ美味い。すごく美味い」
興奮したあまり咄嗟に声が出たが、ムーはすごく喜んでくれていた。
言ったばかりの時は恥ずかしさが込み上げていたが、蕩けそうな笑顔を見ているとそんなものは知らぬ間に消え去っていた。
朝食を終えるとムーは、洗い物をしてこの別荘を後にした。
俺も早速、服の皺を手で伸ばし広げ、村長の所へ向かう準備をした。
相変わらず何も持っていないから、手荷物はなしで身体1つだけしか用意するものはないけど、身だしなみを整えるのは社会人の基本。
髪は寝癖をある程度は整えて、髭は剃る方法がないから口周りが青いがそのままで、靴は山道を歩いたせいで泥汚れがこれも致し方ない。
中途半端だけど準備は整った。
後は村長の家へと向かうだけだったのだが、よく考えてみろ、俺は昨日フラフラの状態で松明の明かりを頼りに山道を歩いて来た。
即ち、道が分からん。
頼れるのはムーしかいないが、村には入れない。村長息子が近くを通ればいいが、結構な距離があったからその可能性は低い。
詰んだ。この状況完全に詰んでいる。
そうだ! 俺にはもう1人頼れるかは微妙だけど、役には立つかも知れないのがいる。
「おーい! 神! 聞こえているか? 聞こえているなら姿を見せてくれ!」
叫んでも心の中で呟くだけでも変わらない筈だけど、大きな声を出す方が神の心には届く気がした。
「うるさいわ! そんなに大きな声を出さんでも全部聞こえておるわ!」
神は、背後に生えていた大きな木の枝に座っていた。
やっぱり大きな声の方が神様には届く様だ。
「そんなもん変わりある訳ないじゃろう。願いなど神に祈るのではなくて、自分で叶えるものじゃぞ!」
何で信仰の対象とされる神に俺は諭されているのだ?
まぁ、神の言っていることが正論だ。
「そんなことより、お願いがあるんだ。村長の家までの道のりを教えてくれ」
神は睨む様な目をした後に外方を向いた。
「神様、お願いします。村長の家までの道のりを教えてください」
土下座まではしたくなかったから深々とお辞儀をすると、神は上機嫌になっていた。
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