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第1章

7話

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こう言う時はどう話しかけたらいいんだ?
「ありがとう、神。お陰で助かったよ」とか言って歩き去るのが1番か?

そう思っていた時、神の方から話が飛んできた。

「あれ? 私、何でこんな所にいるんだろう? あれ? さっき会った吉野川学さん。どうしてここに居るのですか?」

この反応はムーだ。神は本当に気まぐれだ。せめてムーだけでも元の位置に戻すなり対応してくれてもよかっただろうに。
急に違う所へ来ていたのなら驚くよな。
俺も急にこっちへ飛ばされて、もう頭張り裂けそうなくらい悩んだよ。
と、共感している場合ではない。
ムーにどう言う状況か説明せねばならない。

「実は……。俺が迷子になってしまって、その、ムーさんがた助けに来てくれたんだよ」

何も上手いことは言えていない。ただ、途中までの事実を述べただけだった。

「……そう、なんですね! 最近よくあるのです。気が付いたら違う場所にいたり、変な作業をしていたり。えへへ、私ってやっぱり変なんですかね」

顔は笑っていたけど、本人も相当悩んでいる様だな。だけど、神の存在なんて言っていいものか? 知らぬが仏と言う言葉がある様に知らない方が得なこともある。今回だけは黙っておこう。

それから俺は、ムーに別れを告げて今度こそ真っ直ぐに道を進んで、(ムーに正確な方向を指差して貰った)村を目指した。
だけど、矢張り人には出会わない。民家らしき人工物も見えない。
また俺は、何処かで道を間違えたのだろうか。
ここまでして貰って間違てるなんて、人間失格だ。間違いだらけの人生を歩んで来た罰だな。

マイナス思考が脳を埋め尽くして行く途中に、漸く初めての民家が現れた。
嬉しさの余り、子供の様に走り出したけど、その家は蔓の長い植物に半分以上覆われていて、至る所に蜘蛛の巣が張ってあった。
どっからどう見ても人は住んでいなさそうだ。
だけど、収穫もある。人が住んでいた跡があると言う事は集落がある可能性が高まったと言うことだ。
道はまだ続いている。この先に集落があることを願って進むしかない。

と言う訳で大草原を1人歩き出した。と、言いたいところだけど、民家の先が丘になっていた。しかも、丘と呼ぶには少し高い、ほぼ山の様な丘だった。だけど、ここまで来たのだから登るしかない!
俺は丘のてっぺんで大の字になって横たわった。横たわった理由としては、丘を越えた先に確かにあったのだ、神に連れられて崖から眺めていた時の村が!
安心の余り涙が出そうになるが、汗も出ない程身体から水分が失われていた。脱水状態がこれ以上進めば活動力の低下だけではなく、会話はおろか、声を出すことも不可能になる。
そうなってしまう前に村に行かなくては。

草原の丘の頂上から転げ落ちる様に坂道を下った。その先には日本の一軒家でよく見かける様な石の塀で囲まれた村があった。
表札に当たる所には見たこともない文字が書いてある。ここに来る前に見た謎の門とはまた違う文字。
村の名前ムーに訊いておくべきだったな。

今度こそは神の言っていた村まで本当に到着した。ここまで本当に長かった。
では、早速村に入ってみよう。と、思う所だけど、門の目の前に槍を片手に持った中世ヨーロッパでよく見かける金属の鎧を着た兵士が2人、こちらを睨みつけていた。
1歩、また1歩恐る恐る近づいて、兵士の前まで行くと、お決まりの様にお二方がそれぞれ片手を横に張り、門の前で槍をクロスさせ×印の様なものを作った。

「止まれ! 何用か!」

さっきは管理体制ガバガバなんて言ってすみませんでした。管理体制完璧です。悪い奴は入れないです。
と、落ち込むのはこのくらいにして、「何用か!」の返事を考えねば。
用事といわれても神のお告げでここに来た何て言えないしな。
だけど、他の理由が何も思い付かない。
商人なら何か物を持っていないとおかしい。この時代に旅行なんて言葉があるかも分からない状態で「旅の者です」は怪しいと思う。
でも、もう、何も思い付かない。
ここはもう勝負に出る!

「神からここの村に行けと言われた旅の者です。特に何も持っていないのでこれからどうするかは決めていませんが……」

安直に事実を述べてしまった。この返答どう考えても怪しい。怪しすぎるからだろうか、徐々に兵士の顔も険しくなっている様な気がする。
俺は、ここに入ることができなければもう野垂れ死ぬしかない。どうしても入りたい所だけど……どうかな~。

俺から見て右側に立っていた兵士が張っていた手を緩め、門に槍を立てかけて、兜を脱ぎ始めた。顔からして中年。40代から50代くらいの年齢。口には黒い髭を短く生やして、右頬には剣で切られた様な傷があった。

「いやぁ~、旅の者でしたか。さぞお疲れでしょう。ゆっくりしていってくださいな。あぁ、それと、何も持っていないのなら1度村長の所へ行かれるといいですよ」

めっちゃ優しいこの人。さっきとはまるで別人。

その様子を見て、左側に立ってた人も腕を緩めて、槍を壁に立て掛けた。

遂に道は開かれた。村へと進む道が。
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