公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

文字の大きさ
13 / 52
chapter2__城、始動

馬の耳に嵐(1)

しおりを挟む


「ジャンヌ! 今日も美しく、凛々しく、猛々しいほど麗しい。あなたの輝きの前では、太陽すら恥じ入って光を失いますね」

(おう。いきなりタラシモード全開)

 ザラとエンドレの前には、簡素な玄関ドアを開けて佇む、背の高い娘がいる。
 栗色の髪を高い位置でキリリと一つにまとめた、そばかすは多いが整った、精悍な印象の顔立ち。なかなか迫力のある美人だ。

 腕組みして仁王立ちするジャンヌが、エンドレを一瞥すると、

「なんだ。クソ貴族か」
(ヒエッ……!?)

 冷たく吐き捨て、ザラが思わず怯む。
 エンドレがきょとんとしてから、めげずに微笑みを浮かべた。

「美しい唇に汚い言葉は似合いませんよ」
「はん。田舎娘の口が悪くて何が悪い。性根の汚れた色情狂にとやかく言われる筋合いないよ、ゴミカス貴族」
「ヒエッ……」
「ジャンヌ? あなたのきらめく瞳は、そんなふうにすさんだ色ではなかった。一体どうしたんですか」

 怪訝に問い返すエンドレを睨むと。ジャンヌがハスキーな声を一段低くした。

「こないだ遊びに来てた村娘。あんたがうちで買った馬のエサ代を支払いに来た日にいた子、覚えてるだろ」
「ああ、えぇと……ララでしたか」
「ココだ。あんたの歯が浮きまくって総入れ歯になりそーな言葉を真に受けて、あの子、幼馴染との婚約を破棄するって言いだしたんだよ!!」
「ヒエェ……!?」

「ど、どういうことです??」
「どーもこーもあるか! ココはすっかりその気になって、あんたと結婚するつもりなのさ! あんたらの近所に住んでるってだけでデニー、婚約者側からなぜか文句を言われるし。こっちは大迷惑だ!」
「そんなバカな。ココさんには『福福しい健康美の、愛らしい方ですね』って挨拶しかした覚えありませんよ!?」
「田舎娘にはその挨拶がじゅーぶん殺し文句になんのっ!! 田舎男子の朴念仁っぷりナメんなっ!!」

 怒りの形相で叫んでから、スッと顔を冷ややかなものに戻す。周囲の仮想体感温度がツンドラ並みになった。

「どんな話か知らないけどね。らんちき騒ぎしか能のない、疫病神のあんたらのお願いを聞いてやるほど、こっちは暇じゃないんだよ」
「ジャンヌ! 待っ……!」

 バタン。

「……都会者への過剰反応というべき冷たい態度。田舎のよくない面です」
「冷たくされた理由は都会者のせいじゃないでしょ」

 閉じられたドアの前で肩を落とすエンドレへ、ザラが冷ややかに返した。


   凹凹†凹凹


 トロット一家。丘のふもとにある、馬小屋を営む家族だ。

「こちらの敷地内の厩舎きゅうしゃを改装して、きちんとした馬車の駅を設置したいの。馬の変更とトイレ休憩だけでもいいから、まずは城に来てもらわないと。そこでトロット家を雇い、駅の運営を任せたいと思っているのよ」

 朝食後、そのまま食卓で会議をはじめる。ザラの計画に皆がそれぞれ反応した。

「なるほど。今までなら下で引き返してしまっていた相手に、この城の存在をアピールするんですね」
「専門家を取りこむのは悪くない案だが。わざわざ丘の上で営業することに利を感じさせるには、それなりの報酬が必要になるだろう。たとえば歩合制ではなく、一定額の時間給を保証するなどだ」
「もちろん、そのつもり」
「え~~。うちにそんな余裕あんのかよ?」
「そこはこれからの皆さんのがんばり次第でもあるので」
「とりあえず厩舎をもっとデカく、立派なものに作り直せばいいんだな」
「馬っていきなり蹴ったりするよね……」

「それじゃまずは厩舎の改装ね。あたしが交渉に行っている間、ユージンを中心に、皆で協力して作業お願いします。ヘルムートは余裕があれば、一家の給与形態のアイディアを考えてみてください。アシュレイは馬の背後に絶対立たないように」

 だいたいの方針がまとまり指示を出すなか、エンドレが笑顔で挙手した。

「あの家の中心人物は、実は娘のジャンヌなんです。彼女さえ承諾すれば勝ったも同然。ジャンヌとは良好な関係を築けています、交渉は僕に任せてください」


(――とか豪語するから連れていったのに。めっちゃ戦犯だった。)


 すごすご城に戻り、エンドレには一日限定のトイレ掃除を命じて。
 たとえ水一杯を提供するだけだとしても、いつでも使用できるように。厩舎は男性陣に任せ、メインホールの掃除をしながらザラはため息を吐いた。

(まーね。『あなたには特別な魅力が~』なんて美形男子にまじめな顔で囁かれて。情報社会で生きた前世持ちでも、うっかり真に受けそうになりましたけどねー)
(……はあ。“疫病神”かぁ……)

 ジャンヌの怒りの直接的な原因は、友人をたぶらかした(ことになっている)エンドレだろう。
 だがこれまでのザラの行いをだいたい把握していて、反感を抱いているのは間違いなさそうだった。

「ザラ。戻っていたのか」
「ヘルムート」

 入口を開け放して掃除中のところを、こまごました工具や建築書などを抱えたヘルムートが通りかかった。うなだれるザラを見て傍まで歩み寄る。

「どうした」
「実は……、」

 ジャンヌとのやり取りを話すと、片手でこめかみのあたりを押さえる。 

「戦いの前線となる城塞で傭兵を募る際、多くの城主は彼らにさまざまな特権を与えたそうだ」
「特権、かぁ」
「わかりやすく高額報酬にできるなら話は早いが。なんらか相手の望むものや、特別な地位などで釣るのが常套手段だ。……とはいえ今回の場合、障害の要因を取り除くのが先だろうな」
「ココとデニーの婚約破棄を阻止するのが先決、ってことね」
「その件に関しては私の能力を超えている。君たちで解決してくれ」
(うん。痴情のもつれ案件とか、なんか苦手そう)

 彼に女癖の悪さがなさそうなのは幸いだった。口説かれた女の本気度が、エンドレの数倍危険な水域に達しそうで恐ろしい。

 助言を終え厩舎へ戻っていくヘルムートを見送り、ザラが気合いを入れ直す。

「田舎者だろうと都会者だろうと。シンデレラコンプレックスに戦いを挑むのなら、それ相応の覚悟が必要よ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...