Daddy Killer

リョウタ

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第二十話 「悔いの残らない人生」

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ハアハア。

やっぱり少し息が切れる。

動揺してる?

僕もどこにでもいるただの人だっててことなのかな?

とりあえず、井戸沢を殺すことには成功した。

あとは冷静にこの場から離れるのみ。

家も燃やしたし、井戸沢が死んだことは間違いない。

現場に戻ってはいけない。

放火犯は現場に戻るとお父さんが言っていた。

だから、ゆっくり静かにこの場から離れるんだ。

電車に乗って、河原町まで行こう。

電車で大阪に帰れるが、今日は帰らない。

交通公共機関には常に防犯カメラが作動している。

今日はマンガ喫茶に泊まろう。

明日以降、ゆっくり家に帰ろう。

僕は河原町のマンガ喫茶に入った。

個室にしてもらい、一晩眠ろうと思う。

あれだけのことをしたんだ。

疲れていないわけがない。

でも普通の神経じゃ興奮し過ぎて寝れないんじゃないか?

てか人を一人殺しといて、穏やかに眠れるものなのか?

とかなんとか考えているうちにいつの間にか眠ってしまっていた。

一つ目的を達成したことによる満足感なのだろうか。

夢の中。

人を殺すと罪悪感から一生うなされるという。

僕はどうなのか。

人の影が見える。

誰かな?

恰幅の良い体格。

優しい顔。

大きい目。

濁った目をした。

井戸沢だ。

夢の中で化けて出やがったのか!!

違う。

井戸沢が誰かとやっている。

僕とは違う。

若い男とだ!!

とても気持ち良さそうに。

激しく。

ついたり。

なめたり。

二人は愛し合っていた。
「うわっ。」

僕は堪らず、目を覚ました。

朝か。

寝れたけど、嫌な夢だな。

井戸沢本人を殺したのに、こんな夢をみるってどうなんだ?

井戸沢の呪い?

いや。

僕の嫉妬がまだ抜けていない。

本人がいないからどうしようもないのに。

スッキリしたのは、昨日の井戸沢を殺したときだけ?

井戸沢が僕を嘲笑って、他の男の子とやりまくっていたと思うと、もっと惨殺してやれば良かった。

いやいや。

それはダメだ。

証拠が残り過ぎる。

今回の井戸沢の殺人は完全犯罪にする。

家族に迷惑をかけるわけにはいかないからだ。

昨日、すぐに大阪に帰らなかったのは、防犯カメラにうつる僕を警察に見せたくなかったからだ。
だから、今日はゆっくり大阪に帰る。

まず、タクシーで高槻まで行く。

そこから、僕の住んでいる大阪市まで歩く。

何となく、それがいいと思っている。

明日は仕事だから、夜までに着けばいい。

今後について、いろいろ考えなければならないことが山のようにある。

それを長い時間かけて、歩きながら考えればいい。

まずは井戸沢から唯一奪ってきたスマホ。

井戸沢のスマホを現場に残すのは絶対ダメ。

電源入れるのもダメ。

GPSで探索されちゃうから。

このスマホの処分の仕方だ。

どこに捨てようか。

コンビニのゴミ箱に捨ててもバレないと思うけど、なんでだろう?

こわくてできない。

どっか遠くに行って捨てたいな。

僕は朝の9時まで、マンガ喫茶にいた。

今からタクシーで高槻に向かおうと思った。

でも、調べてみた。

高槻から大阪市まで歩いて何分かかるかを。

4時間~5時間ほどしかかからなかった。

これでは早く帰れてしまい過ぎると思った僕は、もういっそのこと歩いて大阪に帰ることにした。
大阪の標識を目指して歩き始めた。

「出発!!あっ。なんか楽しい。冒険みたいで。」

ホントに僕はサイコパスだ。

人一人殺しているのに、なんかピクニックしているみたいに楽しんでいる。

僕の手は汚れてしまった。

犯罪者だ。

なのに、前向きだ。

変だ。

今、一生懸命、人生をどう生きようか考えている。

考えながら、歩いている。

僕はどうすべきか。

そして、また頭に浮かんだ。

井戸沢さんが。

僕は井戸沢さんがたくさんの若い男の子を相手にするのが嫌だった。

だから聞いたことがあったんだ。

「井戸沢さんはどうしてたくさんの特定の男の子と付き合うの?一人じゃダメなの?」

「え~。若い男の子は次から次へと出てくるでしょ?その子たちと楽しいことができないなんて、もったいないよ~。」

「一人だけ愛することはできないの?」

「飽きちゃうもん。やっぱりいろんな若い子としたいよね。人生一度きりなんだから、楽しまなくちゃ。悔いの残らない人生を送ろうよ。」

そうだ。

井戸沢のこの言葉は好きかもしれない。

だから、僕は今回覚悟を決めた。

自分を後悔させないように。

精いっぱいやった結果だ。

後悔してはいけない。

これで良かったんだ。

僕か井戸沢が死ぬかどちらかの二択だったんだ。

自殺者になるか殺人者になるか。

よく考えたら、僕以外にも辛い思いをしている若い子たちがたくさんいるんだろうな。

おじさんから誘ってきたのに、捨てられる若い子たち。

これは男女関係ないんじゃないか?

お金目当てだったら話は違うと思うけど。

あっ。

お金。

そうか。

最初からパパ活だったら、こんなことにならなかったのかな。

パパを愛するんじゃなくて、お金を愛していれば。

僕にはできなかったかな。

結局、パパを愛して捨てられてしまうのかな。

なんて悲しいんだろう。

なんて虚しいんだろう。

憎むべきは誰なんだろう?

お金で好き勝手してるやつら?

井戸沢もやや小金持ち。

金を持っているジジイどもは敵かもしれない。

そうだ。

制裁を加えるべきだ。

調子にのって若い者たちをおもちゃのように弄ぶ外道どもに。

僕が制裁を加える。

井戸沢のようなやつらを殺す!!

本当の「Daddy Killer」になる。

地獄を見せてやるんだ。

ああ。

いい目的ができた。

近いうちに会社は辞めよう。

僕の職業は「Daddy Killer」だ。

そうこうと自分の今後のあり方を考えていたら、10時間くらい歩き続けていた。

京都から大阪市内の僕のアパートまでたどり着いた。

ふぅー。疲れた。

ポストに手紙が入っている。

愛加からだ。

「良太へ。良太に身に何が起こったかだいたいわかっている。良太の心に大きな傷を抱えていることもわかってる。今じゃなくていい。落ち着いたら、連絡ください。私、待ってるから。愛加。」

違うんだ。

愛加。

もう、僕は一人で考えたいんだ。

どうすべきか。

誰にも頼りたくない。

次郎にも井戸沢にも誰にも依存したくなかったんだ。

依存したから、関わったからこういうことになったんだ。

僕のような人間は誰にも関わっちゃいけない。

特に善良な方々とは。

もう悪を討つしかないんだ。

蛇の道は蛇。

井戸沢のようなやつらを討つのが、僕のさだめなんだ。

だから、愛加。

お別れだ。

僕なんかに気をかけてくれてありがとう。

幸せになってください。

僕は僕の道に行きます。

さようなら。

つづく。
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