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第十五話 「別れ」
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井戸沢さんとの沖縄旅行最後の夜。
いつもと同じ展開。
僕も心の片隅では客観的にみている。
同じことをやっているだけなのに、人間って何でこれをそんなにしたがるのだろう。
性欲ってのは、子孫を残すためにすること。
僕と井戸沢さんの行為って全くそんなことじゃない。
快楽。
快楽なのか。
おじさんと青年ってやっぱりおかしいよ。
おかしいって。
そんなことばっかり言って、言い訳みたいなことを問いかけ続けているから、余計に僕自身が盛り上がってしまうんじゃないか。
そうかも。
自分自身で、興奮を高めているのかも。
ホント馬鹿だ。
明日のお別れのことなんか考えたくない。
僕は変わっているのか。
否定的な考えや嫉妬心がある方が、いつも以上に井戸沢さんを求めてしまう傾向があるようだ。
だからこの旅行中、僕と井戸沢さんは嫉妬や喧嘩などで平常ではなかった。
それが糧となり、僕は旅行中、常に一緒にいるのに、井戸沢さんの全てを欲し続けた。
今も変わらない。
もうすぐ、朝になる。
嫌だ。
帰りたくない。
このままずっと井戸沢さんといたい。
朝になった。
「おはよう。眠れた?」
「ちょっとは寝た。」
「旅行中、全然寝れなかったね。今日、関西帰るし、帰ったらたっぷり寝るよ。」
「僕もそうする。明日は会社あるし、帰ったら休む。」
「たぶん関西帰ったら寒いよ。」
「こっちあったかいもんね。」
僕と井戸沢さんはどうでもいい会話をしながら、帰る支度を始めた。
飛行機の時間は13時30分。
時間はまだあるので、国際通りのお土産屋さんでお土産を買うことにした。
「井戸沢さんは誰にお土産買うの?」
「事務所で働いているパートさんたちと会社の人たちにテキトーに買っていくよ。」
「えっ。彼氏には買って帰らないの?」
「え~。うん。買うよ。近々会う子にはね。名古屋の子と東京の子と広島の子かな。」
「じゃあ僕、若いの気持ちになって選ぶの協力するわ。」
「うん。ありがとう。鈴木君は誰に買うの?」
「僕も会社の人たちと同僚の宮本と取引先の仲の良い人にも買おうと思ってるんだ。やっぱちんすこうかな?」
「沖縄のお土産はもっといろいろあるよ。鈴木君、教えてあげるよ。」
「わーい。」
表面的には、僕と井戸沢さんがこの旅行期間中で一番仲が良く見えそうな雰囲気だった。
でも、お互いの考えていることを深掘りしてはいけない。
そんな感じもあった。
僕と井戸沢さんはお土産をたくさん買って、那覇空港に向かった。
時計を見ると、12時だったので、那覇空港で昼ご飯を食べることになった。
井戸沢さんと沖縄での最後のご飯だ。
しっかり噛み締めよう。
僕は本当に井戸沢さんとお別れができるのだろうか。
別れる、別れないの話をこの旅行中に井戸沢さんとしていない。
だって、二ヶ月前にその話は終わったのだから。
井戸沢さんも内心、めんどくさい僕とすんなり別れることができて安心しているはずだ。
旅行初日の井戸沢さんはホントに怒っていた。
これ以上、井戸沢さんと関わったらとんでもないことになる気がするんだ。
これはお互いのためなんだ。
平和的な解決のため。
いい思い出として、人生の中に残しておけばいいじゃないか。
そうしようよ。
また、新しい出会いがあるさ。
新しい恋も。
僕がおじさんが好きなのかどうかはわからないけど、良い人がこんな広い世界なんだからいるに決まっている。
井戸沢さんだけじゃない。
素晴らしい人はきっといるんだよ。
ポジティブな言葉を自分に言い聞かせた。
穏やかに優しく、感謝して井戸沢さんとお別れをするために。
井戸沢さんは本当にいい人だったじゃないか。
優しくて一生懸命で、力強くて、男らしくて、本当に愛していたんだな。
こんな激しい愛。
本当にあるのかな。
残りの人生の中。
みんなに聞いてみたい。
ありましたか~?
こんな恋愛。
こんな激情。
こんな欲情。
みんなに聞きたい。
とかなんとか考えているうちに飛行機が那覇空港から出ちゃったよ。
考え事をしすぎたから、飛ぶ瞬間怖い飛行機のことも忘れてた。
良かった。
バイバイ沖縄。
もうすぐ隣にいるあなたもバイバイだね。
あっ。
寝てる。
イビキをかいている。
呑気に。
このジジイ。
たぶん頭の中、すっからかんだわ。
若い男の子としか頭にない。
別にいいけど。
もうすぐ関係なくなるし。
そんなわけで関空に着いた。
井戸沢さんは僕と一緒に電車で帰るのかと思っていたら、リムジンバスで帰るとのこと。
僕は電車で帰る。
だから、空港で二人はお別れだ。
「僕、こっちの電車で帰るから。気をつけて帰ってね。」
井戸沢さんは強く両手で握手してきた。
ガシッ。
「鈴木君。本当に数日間ありがとうね。僕は鈴木君から元気をもらったよ。本当にありがとう。元気でね。」
別れの言葉だった。
「僕こそ、ありがとう。井戸沢さんと楽しく過ごせたこの数ヶ月間、本当に楽しかったよ。元気で。」
僕はその場から去った。
でも、井戸沢さんと会ったときに言われたことをした。
後ろを振り返った。
井戸沢さんはずっとこっちをみてた。
僕も井戸沢さんをみた。
手を振った。
また去った。
ちょっと離れてもう一回、振り向いた。
まだいた。
手を振った。
二人が見えなくなるまで振り向いて、手を振り続けた。
こんな単純なことなのに、なんだろう。
この切ないような悲しいような気持ちは。
寂しいってことなんだろうな。
好きな人と別れて。
ああ。
ごちゃごちゃ考えるのもめんどくさい。
新しい気持ちになろうぜ。
僕は足早に電車に乗った。
でも密かに期待している。
いつもの井戸沢さんだったら、別れた後にすぐにメッセージが届くからだ。
スマホをみてみた。
予想通り、メッセージがこない。
心がじわじわと締め付けられる。
苦しい。
でも耐えないと。
これに耐えないと、前には進めないんだよ。
この痛みが失恋なんだ。
この失恋を乗り越えて、みんな強くなるんだよ。
関空を出て、一時間ほどがたち、僕の住んでいる大阪市内のアパートに戻ってきた。
部屋に戻ると散らかしっぱなしだった。
あれ?
沖縄行く前、何してたんだっけ?
あっ。
前日まで、あんなことやこんなことをしていた。
思い返せば、恥ずかしい。
勢いでやったとはいえ、もうちょっと考えて行動すれば良かった。
とりあえず、旅行の荷物を片付けて、明日の仕事の準備をしよう。
キャリーケースを開け、着替えを取り出し、全部洗濯機に直行させた。
中の荷物を全て取り出すと、明らかに僕のものではないハンカチが入っていた。
色が渋めの焦げ茶色のハンカチ。
絶対に井戸沢さんのだ。
なんで?
ハンカチだけ?
もし間違えるんだったら、他の物も入っててもおかしくないはず。
でもそれよりも、このハンカチが本当に井戸沢さんかどうか。
少しハンカチのニオイを嗅いでみた。
井戸沢さんの服からする洗剤のニオイ。
柔軟剤のニオイ。
優しいニオイがした。
もうそのニオイを嗅いでしまったら、理性がとんでしまっていた。
勝手に手がスマホを触っていた。
電話をしていた。
僕が愛し過ぎて求めていたどうしようもないけだものに。
少し考えたら、これが策略だと読めたはずなのに。
僕は嬉しくなって、嬉しくなって、声を聞かずにはいられなくなっていた。
「井戸沢さん!!」
「鈴木君。どうしたの。」
「ハンカチ入ってたけど。井戸沢さんのだよね。」
「あらら。間違えちゃったのかな。」
「・・・。」
「・・・。」
「井戸沢さん。会いたい。今すぐにでも。」
「僕もだよ。明日会おう。仕事、何時に終わる?」
地獄へようこそ。
つづく。
いつもと同じ展開。
僕も心の片隅では客観的にみている。
同じことをやっているだけなのに、人間って何でこれをそんなにしたがるのだろう。
性欲ってのは、子孫を残すためにすること。
僕と井戸沢さんの行為って全くそんなことじゃない。
快楽。
快楽なのか。
おじさんと青年ってやっぱりおかしいよ。
おかしいって。
そんなことばっかり言って、言い訳みたいなことを問いかけ続けているから、余計に僕自身が盛り上がってしまうんじゃないか。
そうかも。
自分自身で、興奮を高めているのかも。
ホント馬鹿だ。
明日のお別れのことなんか考えたくない。
僕は変わっているのか。
否定的な考えや嫉妬心がある方が、いつも以上に井戸沢さんを求めてしまう傾向があるようだ。
だからこの旅行中、僕と井戸沢さんは嫉妬や喧嘩などで平常ではなかった。
それが糧となり、僕は旅行中、常に一緒にいるのに、井戸沢さんの全てを欲し続けた。
今も変わらない。
もうすぐ、朝になる。
嫌だ。
帰りたくない。
このままずっと井戸沢さんといたい。
朝になった。
「おはよう。眠れた?」
「ちょっとは寝た。」
「旅行中、全然寝れなかったね。今日、関西帰るし、帰ったらたっぷり寝るよ。」
「僕もそうする。明日は会社あるし、帰ったら休む。」
「たぶん関西帰ったら寒いよ。」
「こっちあったかいもんね。」
僕と井戸沢さんはどうでもいい会話をしながら、帰る支度を始めた。
飛行機の時間は13時30分。
時間はまだあるので、国際通りのお土産屋さんでお土産を買うことにした。
「井戸沢さんは誰にお土産買うの?」
「事務所で働いているパートさんたちと会社の人たちにテキトーに買っていくよ。」
「えっ。彼氏には買って帰らないの?」
「え~。うん。買うよ。近々会う子にはね。名古屋の子と東京の子と広島の子かな。」
「じゃあ僕、若いの気持ちになって選ぶの協力するわ。」
「うん。ありがとう。鈴木君は誰に買うの?」
「僕も会社の人たちと同僚の宮本と取引先の仲の良い人にも買おうと思ってるんだ。やっぱちんすこうかな?」
「沖縄のお土産はもっといろいろあるよ。鈴木君、教えてあげるよ。」
「わーい。」
表面的には、僕と井戸沢さんがこの旅行期間中で一番仲が良く見えそうな雰囲気だった。
でも、お互いの考えていることを深掘りしてはいけない。
そんな感じもあった。
僕と井戸沢さんはお土産をたくさん買って、那覇空港に向かった。
時計を見ると、12時だったので、那覇空港で昼ご飯を食べることになった。
井戸沢さんと沖縄での最後のご飯だ。
しっかり噛み締めよう。
僕は本当に井戸沢さんとお別れができるのだろうか。
別れる、別れないの話をこの旅行中に井戸沢さんとしていない。
だって、二ヶ月前にその話は終わったのだから。
井戸沢さんも内心、めんどくさい僕とすんなり別れることができて安心しているはずだ。
旅行初日の井戸沢さんはホントに怒っていた。
これ以上、井戸沢さんと関わったらとんでもないことになる気がするんだ。
これはお互いのためなんだ。
平和的な解決のため。
いい思い出として、人生の中に残しておけばいいじゃないか。
そうしようよ。
また、新しい出会いがあるさ。
新しい恋も。
僕がおじさんが好きなのかどうかはわからないけど、良い人がこんな広い世界なんだからいるに決まっている。
井戸沢さんだけじゃない。
素晴らしい人はきっといるんだよ。
ポジティブな言葉を自分に言い聞かせた。
穏やかに優しく、感謝して井戸沢さんとお別れをするために。
井戸沢さんは本当にいい人だったじゃないか。
優しくて一生懸命で、力強くて、男らしくて、本当に愛していたんだな。
こんな激しい愛。
本当にあるのかな。
残りの人生の中。
みんなに聞いてみたい。
ありましたか~?
こんな恋愛。
こんな激情。
こんな欲情。
みんなに聞きたい。
とかなんとか考えているうちに飛行機が那覇空港から出ちゃったよ。
考え事をしすぎたから、飛ぶ瞬間怖い飛行機のことも忘れてた。
良かった。
バイバイ沖縄。
もうすぐ隣にいるあなたもバイバイだね。
あっ。
寝てる。
イビキをかいている。
呑気に。
このジジイ。
たぶん頭の中、すっからかんだわ。
若い男の子としか頭にない。
別にいいけど。
もうすぐ関係なくなるし。
そんなわけで関空に着いた。
井戸沢さんは僕と一緒に電車で帰るのかと思っていたら、リムジンバスで帰るとのこと。
僕は電車で帰る。
だから、空港で二人はお別れだ。
「僕、こっちの電車で帰るから。気をつけて帰ってね。」
井戸沢さんは強く両手で握手してきた。
ガシッ。
「鈴木君。本当に数日間ありがとうね。僕は鈴木君から元気をもらったよ。本当にありがとう。元気でね。」
別れの言葉だった。
「僕こそ、ありがとう。井戸沢さんと楽しく過ごせたこの数ヶ月間、本当に楽しかったよ。元気で。」
僕はその場から去った。
でも、井戸沢さんと会ったときに言われたことをした。
後ろを振り返った。
井戸沢さんはずっとこっちをみてた。
僕も井戸沢さんをみた。
手を振った。
また去った。
ちょっと離れてもう一回、振り向いた。
まだいた。
手を振った。
二人が見えなくなるまで振り向いて、手を振り続けた。
こんな単純なことなのに、なんだろう。
この切ないような悲しいような気持ちは。
寂しいってことなんだろうな。
好きな人と別れて。
ああ。
ごちゃごちゃ考えるのもめんどくさい。
新しい気持ちになろうぜ。
僕は足早に電車に乗った。
でも密かに期待している。
いつもの井戸沢さんだったら、別れた後にすぐにメッセージが届くからだ。
スマホをみてみた。
予想通り、メッセージがこない。
心がじわじわと締め付けられる。
苦しい。
でも耐えないと。
これに耐えないと、前には進めないんだよ。
この痛みが失恋なんだ。
この失恋を乗り越えて、みんな強くなるんだよ。
関空を出て、一時間ほどがたち、僕の住んでいる大阪市内のアパートに戻ってきた。
部屋に戻ると散らかしっぱなしだった。
あれ?
沖縄行く前、何してたんだっけ?
あっ。
前日まで、あんなことやこんなことをしていた。
思い返せば、恥ずかしい。
勢いでやったとはいえ、もうちょっと考えて行動すれば良かった。
とりあえず、旅行の荷物を片付けて、明日の仕事の準備をしよう。
キャリーケースを開け、着替えを取り出し、全部洗濯機に直行させた。
中の荷物を全て取り出すと、明らかに僕のものではないハンカチが入っていた。
色が渋めの焦げ茶色のハンカチ。
絶対に井戸沢さんのだ。
なんで?
ハンカチだけ?
もし間違えるんだったら、他の物も入っててもおかしくないはず。
でもそれよりも、このハンカチが本当に井戸沢さんかどうか。
少しハンカチのニオイを嗅いでみた。
井戸沢さんの服からする洗剤のニオイ。
柔軟剤のニオイ。
優しいニオイがした。
もうそのニオイを嗅いでしまったら、理性がとんでしまっていた。
勝手に手がスマホを触っていた。
電話をしていた。
僕が愛し過ぎて求めていたどうしようもないけだものに。
少し考えたら、これが策略だと読めたはずなのに。
僕は嬉しくなって、嬉しくなって、声を聞かずにはいられなくなっていた。
「井戸沢さん!!」
「鈴木君。どうしたの。」
「ハンカチ入ってたけど。井戸沢さんのだよね。」
「あらら。間違えちゃったのかな。」
「・・・。」
「・・・。」
「井戸沢さん。会いたい。今すぐにでも。」
「僕もだよ。明日会おう。仕事、何時に終わる?」
地獄へようこそ。
つづく。
応援ありがとうございます!
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