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第10章
午後2時10分 (首相官邸 内閣閣議室)
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午後12時40分に召集された緊急閣議は、その内容を次第に緊急防災会議の形に変えながら、大臣や閣僚だけではなく、考えられる関係部署の担当者を会議の場に呼び込みながら対応策を模索し、前代未聞の災害に直面して論議はますます白熱していく様相を見せていた。
この議論の中で、最も大きな懸念は何と言っても大規模な停電が発生する事への危惧で、本当に、日本国内で大停電が発生したとき、何が起こるのか、考えられる最悪の事態はどのような物なのか? そしてどのような対応ができるのかという点に意見が集中し、その対処法として政府としてはどのようなことをすべきなのかという課題に、会議は深い暗闇の中に引き込まれたような状態になりつつあった。
2018年の9月に北海道を襲った地震では震源地に近い発電所の緊急停止と、その発電システムをカバーするはずの送電システムの問題によって 大都市の札幌を始め北海道全体が大停電に襲われて、『ブラックアウト』という言葉に注目が集まることとなった。
しかし この北海道での大停電事故を前にしても 他の電力会社各社は『ブラックアウト』の事態を引き起こすことはありえないと国民に豪語して見せていたのだ。
会議には 電力関係の要でもある関東電力から最高責任者の立場で副社長の本石 徹が会議の席に呼ばれていた。社長が海外へ出張中であったため副社長の本石が国内の10の電力会社関係者の代表として意見を求められることとなったのだが、その発言には大きな責任が課せられていた。
太陽フレアの発生による影響を受ける事態の深刻さは 非常に難しい局面に追い込まれることがが予想され、関東電力自身にとっても2011年の東日本大震災の時の原発事故に匹敵するか あるいはそれ以上の危険性が迫っていることを予感させるものだった。福島の原子力発電所の全電源喪失と言う事態に直面して、大事故の教訓はなんとしても原発の非常電源は守り抜き、安全を確保したいという思いにつき寄せられていた。
地震対策や台風などによって引き起こされる水害の被害対策については、各発電所や変電所などでは考えられる多くの対応策を考えて来たとの自負を持っていたし、多くの電力関係の施設においても災害時の復旧体制も各方面から検討し、多くの対応方法を構築してきたとの思いもあった。 原子力発電所の安全対策も2011年の原子力発電所の事故以来、多くの検討を重ねて、考えられる地震対策や津波対策、そして非常用電源の確保の方法など多くの対策を施してきた。その成果もあり、東日本大震災から9年の歳月を経る中で、九州や四国、福井県などに位置する原子力発電所は政府の定めた安全基準をクリアし再稼働をしてきた原発も少なからず出始めていた。
しかし、太陽フレアによる太陽嵐などという 事態に直面した時の想定など考えていた電力関係者や経済産業省の担当者にとっては またしても想定外の出来事だった。
2011年の東日本大震災の時。政府発表では盛んに「想定外」という言葉が繰り出され、原発に対しての安全対策の脆弱さが問われることとなったのだが、電力会社や政府はまたしても「想定外」という言葉を使わなければならない事態に言葉を失っていた。
こうした中で、関東電力で 唯一、磁気嵐に対しての研究をしていたと言う 技術部の石倉弘明が呼び出され会議に参加し助言の発言をすることとなった。
石倉は太陽嵐の研究者ではなく 核実験によるEMPと言われる電磁波パルスによる電力への影響を研究してきた技術者だった。
1962年にアメリカ合衆国がドミニク作戦の名前の元で南太平洋で行った核実験では強い電磁波が発生して 実験場から1000km以上離れたハワイ諸島で 電気製品のヒューズが飛んで停電を引き起こしたり、無線通信に影響が出た事故が起きたことがあった。 この核実験の影響では大気圏内の核実験で 電磁パルスが発生し、重大な事故が起きうることが確認されたのだった。 この核実験による電磁パルス(EMP)の被害の懸念は 某国の核兵器保有問題でもその可能性が指摘されたこともあり、関東電力では石倉が中心となって 電磁波被害が発生した時の対処法を研究してきたのだった。
それまで防災会議の議論の進行を部屋の片隅で聞いていた石倉が、副社長の本石に耳打ちした後 挙手をして閣議での発言が許された。
「関東電力の石倉と申します。」
石倉は資料を持った手には汗が染みだし、膝はがくがくと震えているのが自分でもわかるほど緊張していたが、ズボンのポケットからハンカチを取り出し、額に浮かんだ汗を拭うと改めて今回の事態に対しての電力関係者としての実情を話し始めた。
「発言のご許しを頂き恐縮です。」
「私は関東電力内で今回の事態のような、大きな規模の電磁パルス被害が発生した時の対処方法を研究してきました。まさか、現実に今回の様な事態が発生しうるとは思いもしませんでしたので、正直、大きな戸惑いもあります。」
「太陽フレア発生による太陽嵐の影響については5年ほど前に アメリカ政府から警戒情報が発せられ、その時の問題意識の共有から全国の電力会社からメンバーが集められて研究チームが作られ現在に至っております。今日も午前10時30分に宇宙天気予報を通じて太陽フレアの警戒情報が発せられましたので、研究チームのメンバーと連絡を取りあう中で 現在も対応策を検討しているところです。」
「しかしながら、正直なところ今回発生した太陽フレアの規模は私たちが研究し想定していたものとは大きく異なり、まさに想定外の規模の物で最悪の状況であると言わねばなりません。」
「自分たち電力会社が想定していた事態は1989年にカナダで発生した「ケベック嵐」と呼ばれている都市での大停電の経験を基にしたシュミレーションでした。この時の太陽フレアの規模はX17からX25クラスの規模であったといわれていますので、今回発生したX62と言われる 太陽フレアは比較にならない規模のもので、もし被害がもたらされるとしたら日本全体、あるいはアジア全体といった地球規模の大停電が引き起こされる可能性がでてきました。」
「1989年3月13日に発生した太陽フレアによる磁気嵐においては、カナダのハイドロ・ケベック電力公社の送電線電力網が破壊され深刻な被害が引き起こされました。その被害は州内にある変電所などを中心に被害が発生し雷に被雷した時の様な急激な過電流の発生によって、変電所や送電施設で多くの発火現象が起こり、それが施設の火災につながり停電を引き起こしました。」
「報告ではケベック州内で複数の発火現象と火災が発生し その消火活動に長い時間が必要となったことで、電力施設の修復に8時間近い時間を要することとなり社会に大きな影響を与えたと言われています。」
石倉は手にしたカナダでの太陽嵐による大停電の資料を元に、その影響の実態を説明して行った。
「カナダの大停電から30年近くたっていますが電力会社では 正直なところその対策はほとんどされていないと言うのが実情です。」
「我が国の電力施設では雷の被雷に対しては多くの対策が取られてきました。 しかしながら、今回の事態の中で警戒される 各地の発電施設、変電所をはじめ 高圧電線などの電力送信網全体が安全に確実に過電流に耐えることができるかどうかは全く判りません。」
「雷の発生時のように、あらかじめ被害が起こりうる地域や発生場所が気象情報などで予測できれば停電が発生しても対応策や機材の準備ができるのですが、今回の事態においては どの場所で大きな被害が出るかが全く予想すらできないのです。」
「皆さんは変電所と言えば、大きな施設によって管理されている場所をイメージされるかもしれませんが、変電施設はマンションや商業施設、オフィスビル、地域の公園の地下など多くの場所にあります。送電鉄塔や電柱の脇にも小規模な変電施設は置かれて、それは無数ともいえるほど存在しています。 鉄道の運行施設をはじめ道路の信号機や表示施設などにも小さな変電板が付けられていたり、この首相官邸や国会議事堂にも小規模な変電施設はあります。それらの電気の通り道、変電施設が押し寄せる地磁気の誘導電流を受けて、落雷を受けたように過剰電流が流れ、それが元となり火災が引き起こされたりして停電が発生する可能性があるのです。」
「小さなものでは 今、皆さんがご使用中のスマートフォンなどの電気製品そのものが起点となって、誘導電流を導いて発火現象を引き起こすかもしれません。」
「えっ!!!」
「スマートフォンが火を上げるのか・・・」
会議参加者の間で これまでになかったどよめきが起こった。
石倉は説明を続けた。
「ちょっと 驚かせてしまいましたが、磁気嵐の発生による誘導電流で危惧されることは、電力会社の施設だけにとどまりません。 電子機器全般に影響が及ぶ事でしょう。 身近なところでは、スマートフォンやテレビ、パソコンなどの電子機器から、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジなどの家庭用電気製品などすべての電気製品が過電流によって熱を発したり 発火現象の元となる可能性もあります。」
「最も影響が懸念されるのは 自動車などが走行不能になることです。現在の自動車はエンジン制御から空調制御、ライトの点滅や照明、窓の開け閉めまで、マイコンチップによる電子機器の制御によって動いていますので、多くの車が走行不能になってしまうのです。」
石倉の説明を聞いていた 国立天文台の渡辺が プロジェクターのスクリーンを通して内容をフォローし始めた。
「大きく危惧されることは、今、石倉さんが説明されたように、自動車そのものが 太陽嵐の影響を受けて走行不能になることです。自動車に限らず、航空機や船舶なども同じように影響を受けると思われます。」
「数年前にNASAが報告した太陽フレアによって引き起こされる驚愕とも思える被害の想定では、大停電の発生と共に 電子機器の多くが障害を受け、有線電話をはじめ、携帯電話や無線通信、あるいはテレビ放送やラジオ放送などが停波し、情報伝達の手段が寸断されることは、社会の中で何が起きているのかを把握でき無くなる最悪の状況に人々を引き込みます。」
「情報伝達が停まることが、現代社会においてどれほど恐ろしく、危険な事なのかは想像すらできないのではないでしょうか・・・・」
「テレビやラジオなどのマスメディアを通じての情報発信も止まってしまいますので、人々は周りで何が起きているのかも把握することができずに社会全体が大混乱に落ちいることが予想されます。 そして、この情報伝達の遮断と共に、電気のほか、水道、ガス、下水道など社会のライフラインが機能停止に追い込まれる可能性が高く、市民生活そのものが大混乱に陥る可能性が高いのです。それはこれまでのどんな災害の発生時以上に生命維持に対しての危機をもたらすことになります。」
首相の大泉は 石倉や渡辺の太陽フレアによって起こりうる被害の想定を聞く中で、言葉も出ない様な感覚に陥った、それはこの会議に出席している 大臣も警察や消防、自衛隊などの防災担当者たちも言葉を失うような恐怖の想定でもあった。今後起こり得る事態の深刻さに次第に胸を締め付けられるような思いに駆られるのだった。
会議出席者の中に動揺が広まる中で、渡辺は畳みかけるようにより一層最悪の想定を話し始めた。
「これまでお話しした事態の想定は 考えられる最悪のシナリオであるわけですが、実はNASAの研究者は こうした事態以上にもっと深刻な想定被害を予測しています。」
「太陽フレアによる太陽磁気嵐と膨大なエネルギーの襲来により高度に電子化された現代文明は一夜にして中世の江戸時代など 電気がなかった文明開化以前の社会に引き戻される可能性があるのです。そして、自動車なども、動かなくなりますので、パトカーや救急車、消防車など緊急車両も例外ではなく、停電の復旧対応のための緊急の作業車も動かなくなります。」
「言い換えるならば、停電の事態が引き起こされたとき、事故の修復や復旧、再興に対して手段の道が断たれるという事です。」
大泉は大きくざわめいている会議の場を鎮めるように 務めて冷静に口を開いた。
「皆さんにも 今回の太陽フレア発生の事案が 我が国にとって、いや地球の全人類にとって未曽有の災害となりうる危機であるという認識を持っていただいたと思います。われわれ政府としては、今回の危機が何も起こらず、無事通り過ぎて行ってくれることを願う限りですが、日本の政府において何が出来るかを冷静に考え、最大限の力を合わせて難局を乗り越えていかねばなりません。」
「まだまだ、理解できないことも多いと思いますが、我々にできることは何があるのでしょうか? 午後3時から、国民に向けての今回の事態に対しての記者会見を開く予定ですが、残された時間は決して多くありません。どのように国民に向けて警告、警戒情報を発してよい物か 改めて皆さんのご意見を伺いたいと思います。」
「対応策を講じるとしたら何を最優先すべきなのでしょうか?」
大泉の発言を受けて 官房長官の乾が参加者への意見を促した。
日本では、地震発生時における政府内の緊急対応マニュアルとして、あの2011年の東日本大震災を契機として、多くの想定集が作られ、研究もなされてきた。 建物や構造物の耐震対策をはじめ、緊急警報の発し方や、地震災害発生時の緊急支援の形などを多くの事例や体験から学んできたという国としての自負があった。
地震と言う災害に対してはおそらく世界でも最先端を走っていることは間違いないだろう。 発生が懸念される東海、東南海、南海などの大地震の到来に対しての予測や警戒想定においても多くの場所や機関で研究がされ、その対応方法が検討されてきた。 火山大国と言われる日本においては地震の研究、対策と共に火山災害についても対策を講じてきた歴史もある。 火山噴火時の避難マニュアルをはじめ 噴火予知の為のマグマの動向を観測したり、山体のふくらみを調査していく中でその噴火時期を予知する方法も考えてきた。 風水害の対策も気象庁を中心にして、これまでの台風被害や突発的な集中豪雨の発生から緊急想定マニュアルが作られ災害発生時の対応策や防災会議の招集などの方針は定められている。 たとえ風速100mのスーパー台風の襲来があったとしても ある程度の対応は可能であろうと思われて来た。 気象衛星のデータを駆使して雨雲の状況をとら
え、Xバンドレーダーや最新の雨量測定予報体制を作り上げる中で、その被害を可能な限り食い止める手段を考え、大量の雨量を観測した時には河川への流入量を予測して洪水対策が取れるような体制も作り上げてきた。
人災ともいえるミサイルなどの攻撃に対しても それを探知した場合には「Jアラート」という緊急警報を発信する方法を作り上げ、国民への避難体制を構築してきた。
しかし、今回の太陽フレア、太陽嵐という事態に対しては、話題に上がったことも無かったし、宇宙からもたらされる災害など 隕石の地球への衝突と同じで、SFの未来物語のような感覚の中で考えられていたところは否定できなかった。
移動中のハイヤーの中からインターネット回線を通じてこの防災会議の様子を見ていた、国土交通大臣の大林が話しかけてきた。
「大林です。車の中から今回の非常時の会議に参加させていただいていますが、副大臣、政務官、事務次官を通じて国内の交通機関に起きまして災害用対策用の第一次体制を取るように指示を出しました。 国内の航空機の離発着を制限するともに、現在飛行中の航空機に対しては早急に近くの空港に下りるように指示しました。また 記者会見後の午後4時を目処にして国内の高速道を災害対策用の車両中心に走行できるようにして、一般車の通行を規制することとします。」
時間を前後して 財務大臣の黒屋の元に事務次官から伝言が届けられたのは 中国の株価市場と香港、シンガポールの金融市場が停止させられたというニュースが飛び込んで来たのだ。 黒屋は東京証券取引所と外為市場に対して すぐに取引を停止するように指示を出し、国内の証券と金融市場をストップさせることの指示を出した。
自衛隊統合司令部の前田富雄幕僚長が挙手をして日本の防衛体制に対しての状況を説明し始めた。
「大泉首相、自衛隊におきましては、EMPパルス攻撃という電磁波による電子戦に対しまして、電磁波防御のための車両や、防御態勢を取れるように体制を整えるように指示を出しました。 海上自衛隊の艦船をはじめとして、航空自衛隊の戦闘機、偵察機などを含め、陸上自衛隊の陸上車両におきましても可能な限り電磁波に対応した車両の確保に努めています。」
「在日米軍とも連絡を取る中で、今回の事態に対して最大の防衛警戒態勢と災害発生時の迅速な対応を取れるように指示を出しました。」
警察組織や消防などの組織においては 機能不全に陥る可能性が強く感じられた、 市民からの110番の通報や119番通報が機能するかも判らないし、機能したとしてもパトカーが動かなくなれば警官たちが急行できるとも思えない。消防や救急などの組織も正常に機能するかどうかも全く判らない。社会全体が太陽嵐の状況下において混乱に陥った場合、復旧作業に必要な車両を確保することの困難さが想像できるものだった。
今回の事態の中では世界各国が同じ状況に直面しており、この状況の中に置いて特定の国が軍事行動を起こすことは予想しがたい事でもあったが、日本が混乱に陥った場合、他国でも多かれ少なかれ同様の事態に追い込まれていることが考えられ、他地域や他国からの援助なども相当な時間が必要とされることが考えられた。
全世界的な停電、『ブラックアウト』が懸念される中で、 関東電力の石倉がこれまで電力マンとしては苦渋な思い出はあったものの、考えられる対応策を提案した。
「非常に難しい 今回の事態に対しての対応策なのですが、可能であるのなら、計画停電を実行し 発電所や変電所を一時的に停止させることが最も大きな対応策ではないかと考えます。」
大泉は石倉からの提案を聞く中で、即座に質問をかえした。
「計画停電の実行ですか、それにより日本の電力危機は回避できるのでしょうか?」
石倉は 想定される事態に対して 電力会社が取りうる対策として唯一の対応策が計画停電の実行ではないかと考え始めていた。
「今回の太陽嵐の事態に対して その被害を最小限にとどめる方法は、誘導電流の発生しやすい 発電所や変電所、あるいは送電施設においての電気の帯電を無くして 誘導電流が発生しにくい環境を整える事だと思います。 過電流として通電するリスクを最小限に抑える事が出来れば、被害も小さくできるのではないかと考えています。」
「通電の電気を止めるだけではなく、制御用のコンピュータなどを守るためには 電子機器そのものも停止し、またバックアップ体制が可能な手段を講じる事も必要だと思われます。計画停電によって変電所などでの火災事故は大きく減少させることが可能となると信じています。」
石倉の電力会社の提案を聞いたのち 国立天文台の渡辺から 太陽嵐に対しての一般的な対応策についてのNASAがかって示したマニュアルの説明を始めた。
「誘導電流に対しての電子部品の被害を守る手法としては 電子部品を電磁波の影響から守るためのシールドが必要だと思います。 簡単な方法としては 電子部品をアルミ箔などで巻いたり、ジュラルミンケースのような金属の箱の中にしまったり、あるいは 復旧に対応するための自動車などの車両は地下駐車場の中に退避させたり 鉄製のガレージ車庫の中に駐車する方法が考えられます。手に入れば金網やアルミのなどのシートを車両に被せることも有効な手段となるように思います。」
首相の大泉はあらためて 渡辺に質問をした。
「我々に残された時間はどのくらいあるのですか? 」
太陽フレアの発生の報告から4時間余りの時間が過ぎる中で、対応の為に使える残された時間のカウントダウンが最も気になるところだった。
「太陽フレアの発生による地球への影響がどの程度で強く出始めるかの予測は非常に難しいのですが、1859年の例では太陽でのフレア発生から 17時間後には各地の電力施設で影響が出始めたと記録があります。 また1989年のカナダで発生した ケベック嵐と呼ばれている事態の時にも太陽フレアの発生から20時間ほどで影響を受け停電が発生していますので、最短で太陽フレアの発生から15時間から20時間ほどが、一つの目安だと考えられます。」
「遅くとも48時間以内には何らかの現象が見られる可能性が高い物と考えています。この時間内に大きな事態が発生しなければ、幸いにも磁気嵐のエネルギーが地球を直撃しなかったと考えられます。」
「太陽フレアの発生から15時間から20時間ですか・・・・と言う事は 早ければ今晩の深夜 午前1時ころから、朝方にかけてが一つの目処と言う事になりますね?」
大泉はため息をつきながら腕時計の時間を確認した。
この議論の中で、最も大きな懸念は何と言っても大規模な停電が発生する事への危惧で、本当に、日本国内で大停電が発生したとき、何が起こるのか、考えられる最悪の事態はどのような物なのか? そしてどのような対応ができるのかという点に意見が集中し、その対処法として政府としてはどのようなことをすべきなのかという課題に、会議は深い暗闇の中に引き込まれたような状態になりつつあった。
2018年の9月に北海道を襲った地震では震源地に近い発電所の緊急停止と、その発電システムをカバーするはずの送電システムの問題によって 大都市の札幌を始め北海道全体が大停電に襲われて、『ブラックアウト』という言葉に注目が集まることとなった。
しかし この北海道での大停電事故を前にしても 他の電力会社各社は『ブラックアウト』の事態を引き起こすことはありえないと国民に豪語して見せていたのだ。
会議には 電力関係の要でもある関東電力から最高責任者の立場で副社長の本石 徹が会議の席に呼ばれていた。社長が海外へ出張中であったため副社長の本石が国内の10の電力会社関係者の代表として意見を求められることとなったのだが、その発言には大きな責任が課せられていた。
太陽フレアの発生による影響を受ける事態の深刻さは 非常に難しい局面に追い込まれることがが予想され、関東電力自身にとっても2011年の東日本大震災の時の原発事故に匹敵するか あるいはそれ以上の危険性が迫っていることを予感させるものだった。福島の原子力発電所の全電源喪失と言う事態に直面して、大事故の教訓はなんとしても原発の非常電源は守り抜き、安全を確保したいという思いにつき寄せられていた。
地震対策や台風などによって引き起こされる水害の被害対策については、各発電所や変電所などでは考えられる多くの対応策を考えて来たとの自負を持っていたし、多くの電力関係の施設においても災害時の復旧体制も各方面から検討し、多くの対応方法を構築してきたとの思いもあった。 原子力発電所の安全対策も2011年の原子力発電所の事故以来、多くの検討を重ねて、考えられる地震対策や津波対策、そして非常用電源の確保の方法など多くの対策を施してきた。その成果もあり、東日本大震災から9年の歳月を経る中で、九州や四国、福井県などに位置する原子力発電所は政府の定めた安全基準をクリアし再稼働をしてきた原発も少なからず出始めていた。
しかし、太陽フレアによる太陽嵐などという 事態に直面した時の想定など考えていた電力関係者や経済産業省の担当者にとっては またしても想定外の出来事だった。
2011年の東日本大震災の時。政府発表では盛んに「想定外」という言葉が繰り出され、原発に対しての安全対策の脆弱さが問われることとなったのだが、電力会社や政府はまたしても「想定外」という言葉を使わなければならない事態に言葉を失っていた。
こうした中で、関東電力で 唯一、磁気嵐に対しての研究をしていたと言う 技術部の石倉弘明が呼び出され会議に参加し助言の発言をすることとなった。
石倉は太陽嵐の研究者ではなく 核実験によるEMPと言われる電磁波パルスによる電力への影響を研究してきた技術者だった。
1962年にアメリカ合衆国がドミニク作戦の名前の元で南太平洋で行った核実験では強い電磁波が発生して 実験場から1000km以上離れたハワイ諸島で 電気製品のヒューズが飛んで停電を引き起こしたり、無線通信に影響が出た事故が起きたことがあった。 この核実験の影響では大気圏内の核実験で 電磁パルスが発生し、重大な事故が起きうることが確認されたのだった。 この核実験による電磁パルス(EMP)の被害の懸念は 某国の核兵器保有問題でもその可能性が指摘されたこともあり、関東電力では石倉が中心となって 電磁波被害が発生した時の対処法を研究してきたのだった。
それまで防災会議の議論の進行を部屋の片隅で聞いていた石倉が、副社長の本石に耳打ちした後 挙手をして閣議での発言が許された。
「関東電力の石倉と申します。」
石倉は資料を持った手には汗が染みだし、膝はがくがくと震えているのが自分でもわかるほど緊張していたが、ズボンのポケットからハンカチを取り出し、額に浮かんだ汗を拭うと改めて今回の事態に対しての電力関係者としての実情を話し始めた。
「発言のご許しを頂き恐縮です。」
「私は関東電力内で今回の事態のような、大きな規模の電磁パルス被害が発生した時の対処方法を研究してきました。まさか、現実に今回の様な事態が発生しうるとは思いもしませんでしたので、正直、大きな戸惑いもあります。」
「太陽フレア発生による太陽嵐の影響については5年ほど前に アメリカ政府から警戒情報が発せられ、その時の問題意識の共有から全国の電力会社からメンバーが集められて研究チームが作られ現在に至っております。今日も午前10時30分に宇宙天気予報を通じて太陽フレアの警戒情報が発せられましたので、研究チームのメンバーと連絡を取りあう中で 現在も対応策を検討しているところです。」
「しかしながら、正直なところ今回発生した太陽フレアの規模は私たちが研究し想定していたものとは大きく異なり、まさに想定外の規模の物で最悪の状況であると言わねばなりません。」
「自分たち電力会社が想定していた事態は1989年にカナダで発生した「ケベック嵐」と呼ばれている都市での大停電の経験を基にしたシュミレーションでした。この時の太陽フレアの規模はX17からX25クラスの規模であったといわれていますので、今回発生したX62と言われる 太陽フレアは比較にならない規模のもので、もし被害がもたらされるとしたら日本全体、あるいはアジア全体といった地球規模の大停電が引き起こされる可能性がでてきました。」
「1989年3月13日に発生した太陽フレアによる磁気嵐においては、カナダのハイドロ・ケベック電力公社の送電線電力網が破壊され深刻な被害が引き起こされました。その被害は州内にある変電所などを中心に被害が発生し雷に被雷した時の様な急激な過電流の発生によって、変電所や送電施設で多くの発火現象が起こり、それが施設の火災につながり停電を引き起こしました。」
「報告ではケベック州内で複数の発火現象と火災が発生し その消火活動に長い時間が必要となったことで、電力施設の修復に8時間近い時間を要することとなり社会に大きな影響を与えたと言われています。」
石倉は手にしたカナダでの太陽嵐による大停電の資料を元に、その影響の実態を説明して行った。
「カナダの大停電から30年近くたっていますが電力会社では 正直なところその対策はほとんどされていないと言うのが実情です。」
「我が国の電力施設では雷の被雷に対しては多くの対策が取られてきました。 しかしながら、今回の事態の中で警戒される 各地の発電施設、変電所をはじめ 高圧電線などの電力送信網全体が安全に確実に過電流に耐えることができるかどうかは全く判りません。」
「雷の発生時のように、あらかじめ被害が起こりうる地域や発生場所が気象情報などで予測できれば停電が発生しても対応策や機材の準備ができるのですが、今回の事態においては どの場所で大きな被害が出るかが全く予想すらできないのです。」
「皆さんは変電所と言えば、大きな施設によって管理されている場所をイメージされるかもしれませんが、変電施設はマンションや商業施設、オフィスビル、地域の公園の地下など多くの場所にあります。送電鉄塔や電柱の脇にも小規模な変電施設は置かれて、それは無数ともいえるほど存在しています。 鉄道の運行施設をはじめ道路の信号機や表示施設などにも小さな変電板が付けられていたり、この首相官邸や国会議事堂にも小規模な変電施設はあります。それらの電気の通り道、変電施設が押し寄せる地磁気の誘導電流を受けて、落雷を受けたように過剰電流が流れ、それが元となり火災が引き起こされたりして停電が発生する可能性があるのです。」
「小さなものでは 今、皆さんがご使用中のスマートフォンなどの電気製品そのものが起点となって、誘導電流を導いて発火現象を引き起こすかもしれません。」
「えっ!!!」
「スマートフォンが火を上げるのか・・・」
会議参加者の間で これまでになかったどよめきが起こった。
石倉は説明を続けた。
「ちょっと 驚かせてしまいましたが、磁気嵐の発生による誘導電流で危惧されることは、電力会社の施設だけにとどまりません。 電子機器全般に影響が及ぶ事でしょう。 身近なところでは、スマートフォンやテレビ、パソコンなどの電子機器から、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジなどの家庭用電気製品などすべての電気製品が過電流によって熱を発したり 発火現象の元となる可能性もあります。」
「最も影響が懸念されるのは 自動車などが走行不能になることです。現在の自動車はエンジン制御から空調制御、ライトの点滅や照明、窓の開け閉めまで、マイコンチップによる電子機器の制御によって動いていますので、多くの車が走行不能になってしまうのです。」
石倉の説明を聞いていた 国立天文台の渡辺が プロジェクターのスクリーンを通して内容をフォローし始めた。
「大きく危惧されることは、今、石倉さんが説明されたように、自動車そのものが 太陽嵐の影響を受けて走行不能になることです。自動車に限らず、航空機や船舶なども同じように影響を受けると思われます。」
「数年前にNASAが報告した太陽フレアによって引き起こされる驚愕とも思える被害の想定では、大停電の発生と共に 電子機器の多くが障害を受け、有線電話をはじめ、携帯電話や無線通信、あるいはテレビ放送やラジオ放送などが停波し、情報伝達の手段が寸断されることは、社会の中で何が起きているのかを把握でき無くなる最悪の状況に人々を引き込みます。」
「情報伝達が停まることが、現代社会においてどれほど恐ろしく、危険な事なのかは想像すらできないのではないでしょうか・・・・」
「テレビやラジオなどのマスメディアを通じての情報発信も止まってしまいますので、人々は周りで何が起きているのかも把握することができずに社会全体が大混乱に落ちいることが予想されます。 そして、この情報伝達の遮断と共に、電気のほか、水道、ガス、下水道など社会のライフラインが機能停止に追い込まれる可能性が高く、市民生活そのものが大混乱に陥る可能性が高いのです。それはこれまでのどんな災害の発生時以上に生命維持に対しての危機をもたらすことになります。」
首相の大泉は 石倉や渡辺の太陽フレアによって起こりうる被害の想定を聞く中で、言葉も出ない様な感覚に陥った、それはこの会議に出席している 大臣も警察や消防、自衛隊などの防災担当者たちも言葉を失うような恐怖の想定でもあった。今後起こり得る事態の深刻さに次第に胸を締め付けられるような思いに駆られるのだった。
会議出席者の中に動揺が広まる中で、渡辺は畳みかけるようにより一層最悪の想定を話し始めた。
「これまでお話しした事態の想定は 考えられる最悪のシナリオであるわけですが、実はNASAの研究者は こうした事態以上にもっと深刻な想定被害を予測しています。」
「太陽フレアによる太陽磁気嵐と膨大なエネルギーの襲来により高度に電子化された現代文明は一夜にして中世の江戸時代など 電気がなかった文明開化以前の社会に引き戻される可能性があるのです。そして、自動車なども、動かなくなりますので、パトカーや救急車、消防車など緊急車両も例外ではなく、停電の復旧対応のための緊急の作業車も動かなくなります。」
「言い換えるならば、停電の事態が引き起こされたとき、事故の修復や復旧、再興に対して手段の道が断たれるという事です。」
大泉は大きくざわめいている会議の場を鎮めるように 務めて冷静に口を開いた。
「皆さんにも 今回の太陽フレア発生の事案が 我が国にとって、いや地球の全人類にとって未曽有の災害となりうる危機であるという認識を持っていただいたと思います。われわれ政府としては、今回の危機が何も起こらず、無事通り過ぎて行ってくれることを願う限りですが、日本の政府において何が出来るかを冷静に考え、最大限の力を合わせて難局を乗り越えていかねばなりません。」
「まだまだ、理解できないことも多いと思いますが、我々にできることは何があるのでしょうか? 午後3時から、国民に向けての今回の事態に対しての記者会見を開く予定ですが、残された時間は決して多くありません。どのように国民に向けて警告、警戒情報を発してよい物か 改めて皆さんのご意見を伺いたいと思います。」
「対応策を講じるとしたら何を最優先すべきなのでしょうか?」
大泉の発言を受けて 官房長官の乾が参加者への意見を促した。
日本では、地震発生時における政府内の緊急対応マニュアルとして、あの2011年の東日本大震災を契機として、多くの想定集が作られ、研究もなされてきた。 建物や構造物の耐震対策をはじめ、緊急警報の発し方や、地震災害発生時の緊急支援の形などを多くの事例や体験から学んできたという国としての自負があった。
地震と言う災害に対してはおそらく世界でも最先端を走っていることは間違いないだろう。 発生が懸念される東海、東南海、南海などの大地震の到来に対しての予測や警戒想定においても多くの場所や機関で研究がされ、その対応方法が検討されてきた。 火山大国と言われる日本においては地震の研究、対策と共に火山災害についても対策を講じてきた歴史もある。 火山噴火時の避難マニュアルをはじめ 噴火予知の為のマグマの動向を観測したり、山体のふくらみを調査していく中でその噴火時期を予知する方法も考えてきた。 風水害の対策も気象庁を中心にして、これまでの台風被害や突発的な集中豪雨の発生から緊急想定マニュアルが作られ災害発生時の対応策や防災会議の招集などの方針は定められている。 たとえ風速100mのスーパー台風の襲来があったとしても ある程度の対応は可能であろうと思われて来た。 気象衛星のデータを駆使して雨雲の状況をとら
え、Xバンドレーダーや最新の雨量測定予報体制を作り上げる中で、その被害を可能な限り食い止める手段を考え、大量の雨量を観測した時には河川への流入量を予測して洪水対策が取れるような体制も作り上げてきた。
人災ともいえるミサイルなどの攻撃に対しても それを探知した場合には「Jアラート」という緊急警報を発信する方法を作り上げ、国民への避難体制を構築してきた。
しかし、今回の太陽フレア、太陽嵐という事態に対しては、話題に上がったことも無かったし、宇宙からもたらされる災害など 隕石の地球への衝突と同じで、SFの未来物語のような感覚の中で考えられていたところは否定できなかった。
移動中のハイヤーの中からインターネット回線を通じてこの防災会議の様子を見ていた、国土交通大臣の大林が話しかけてきた。
「大林です。車の中から今回の非常時の会議に参加させていただいていますが、副大臣、政務官、事務次官を通じて国内の交通機関に起きまして災害用対策用の第一次体制を取るように指示を出しました。 国内の航空機の離発着を制限するともに、現在飛行中の航空機に対しては早急に近くの空港に下りるように指示しました。また 記者会見後の午後4時を目処にして国内の高速道を災害対策用の車両中心に走行できるようにして、一般車の通行を規制することとします。」
時間を前後して 財務大臣の黒屋の元に事務次官から伝言が届けられたのは 中国の株価市場と香港、シンガポールの金融市場が停止させられたというニュースが飛び込んで来たのだ。 黒屋は東京証券取引所と外為市場に対して すぐに取引を停止するように指示を出し、国内の証券と金融市場をストップさせることの指示を出した。
自衛隊統合司令部の前田富雄幕僚長が挙手をして日本の防衛体制に対しての状況を説明し始めた。
「大泉首相、自衛隊におきましては、EMPパルス攻撃という電磁波による電子戦に対しまして、電磁波防御のための車両や、防御態勢を取れるように体制を整えるように指示を出しました。 海上自衛隊の艦船をはじめとして、航空自衛隊の戦闘機、偵察機などを含め、陸上自衛隊の陸上車両におきましても可能な限り電磁波に対応した車両の確保に努めています。」
「在日米軍とも連絡を取る中で、今回の事態に対して最大の防衛警戒態勢と災害発生時の迅速な対応を取れるように指示を出しました。」
警察組織や消防などの組織においては 機能不全に陥る可能性が強く感じられた、 市民からの110番の通報や119番通報が機能するかも判らないし、機能したとしてもパトカーが動かなくなれば警官たちが急行できるとも思えない。消防や救急などの組織も正常に機能するかどうかも全く判らない。社会全体が太陽嵐の状況下において混乱に陥った場合、復旧作業に必要な車両を確保することの困難さが想像できるものだった。
今回の事態の中では世界各国が同じ状況に直面しており、この状況の中に置いて特定の国が軍事行動を起こすことは予想しがたい事でもあったが、日本が混乱に陥った場合、他国でも多かれ少なかれ同様の事態に追い込まれていることが考えられ、他地域や他国からの援助なども相当な時間が必要とされることが考えられた。
全世界的な停電、『ブラックアウト』が懸念される中で、 関東電力の石倉がこれまで電力マンとしては苦渋な思い出はあったものの、考えられる対応策を提案した。
「非常に難しい 今回の事態に対しての対応策なのですが、可能であるのなら、計画停電を実行し 発電所や変電所を一時的に停止させることが最も大きな対応策ではないかと考えます。」
大泉は石倉からの提案を聞く中で、即座に質問をかえした。
「計画停電の実行ですか、それにより日本の電力危機は回避できるのでしょうか?」
石倉は 想定される事態に対して 電力会社が取りうる対策として唯一の対応策が計画停電の実行ではないかと考え始めていた。
「今回の太陽嵐の事態に対して その被害を最小限にとどめる方法は、誘導電流の発生しやすい 発電所や変電所、あるいは送電施設においての電気の帯電を無くして 誘導電流が発生しにくい環境を整える事だと思います。 過電流として通電するリスクを最小限に抑える事が出来れば、被害も小さくできるのではないかと考えています。」
「通電の電気を止めるだけではなく、制御用のコンピュータなどを守るためには 電子機器そのものも停止し、またバックアップ体制が可能な手段を講じる事も必要だと思われます。計画停電によって変電所などでの火災事故は大きく減少させることが可能となると信じています。」
石倉の電力会社の提案を聞いたのち 国立天文台の渡辺から 太陽嵐に対しての一般的な対応策についてのNASAがかって示したマニュアルの説明を始めた。
「誘導電流に対しての電子部品の被害を守る手法としては 電子部品を電磁波の影響から守るためのシールドが必要だと思います。 簡単な方法としては 電子部品をアルミ箔などで巻いたり、ジュラルミンケースのような金属の箱の中にしまったり、あるいは 復旧に対応するための自動車などの車両は地下駐車場の中に退避させたり 鉄製のガレージ車庫の中に駐車する方法が考えられます。手に入れば金網やアルミのなどのシートを車両に被せることも有効な手段となるように思います。」
首相の大泉はあらためて 渡辺に質問をした。
「我々に残された時間はどのくらいあるのですか? 」
太陽フレアの発生の報告から4時間余りの時間が過ぎる中で、対応の為に使える残された時間のカウントダウンが最も気になるところだった。
「太陽フレアの発生による地球への影響がどの程度で強く出始めるかの予測は非常に難しいのですが、1859年の例では太陽でのフレア発生から 17時間後には各地の電力施設で影響が出始めたと記録があります。 また1989年のカナダで発生した ケベック嵐と呼ばれている事態の時にも太陽フレアの発生から20時間ほどで影響を受け停電が発生していますので、最短で太陽フレアの発生から15時間から20時間ほどが、一つの目安だと考えられます。」
「遅くとも48時間以内には何らかの現象が見られる可能性が高い物と考えています。この時間内に大きな事態が発生しなければ、幸いにも磁気嵐のエネルギーが地球を直撃しなかったと考えられます。」
「太陽フレアの発生から15時間から20時間ですか・・・・と言う事は 早ければ今晩の深夜 午前1時ころから、朝方にかけてが一つの目処と言う事になりますね?」
大泉はため息をつきながら腕時計の時間を確認した。
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