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3話 正当な初面談

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入り口にケーキが並んだショーケースがあり、
その隣にレジがあり、セルフタイプのカフェであった。

「わあ、これめっちゃ美味しそう。」

さちこはしっとりとしたチョコレートクリームに覆われたケーキに
目を奪われて思わず言った。

「美味しそうだね。食べる?食べていいよ。」
「え、いいよ。食べる?」
「えっちゃんが食べるなら俺も食べる。」
「じゃあ食べようかな。」

彼は先にチョコレートケーキとドリンクを注文した。

「お会計ご一緒にされますか?」

店員が聞いた。
さちこは何となく
「あ、別でいいです。」
と言ったが、彼が
「いいよ。言って。」
と促した。
さちこの分も注文し、彼が会計したので
さちこは1000円札を差し出した。

「あ、いいよ。」
「いいの?ありがとう」

会社員ということだし、どんな職業かは詳しく聞いてないが
リモートワーク中にあれだけサボってラインする暇があるのだから
そんなに収入の高そうな職業に思えなかった。
だから何となく奢ってもらうのに遠慮してしまった。

席についてマスクを外した。

彼もマスクを外した。
彼は写真よりも若々しく硬派な顔立ちのイケメンだった。

声も話し方も落ち着いていて心地よかった。

ラインでは少しセックスの価値観についても語っていたが、
この日は一切しもい話をすることなく、真面目な話をしていた。

彼はさちこの話を楽しそうに聞いていた。
あっという間に3時間経ち、さちこはずっとトイレを我慢していたが
いよいよ膀胱が破裂しそうなぐらいになったので言った。

「トイレに行きたい。もう仕事戻る?」
「うん、じゃあそろそろ。」

店を出てフロアのトイレに行き、駅に戻った。

手ごたえはあったと思ったが、
手を繋いでこようとしないので不思議に思った。

(やっぱり私は彼にとってイメージと違ったのかな。
ちょっと喋りすぎたかな。
まあそれならそれで仕方ない。)

そう思っていると
 彼は自分の乗る沿線を通り越してさちこを元の改札口まで送って行った。

「あら送ってくれるの?ありがとう。優しいね。」
「今度カラオケ行こうよ。」
「うん、行こう!じゃあまた予定連絡するね。」
「うん。」

(なんだ。やっぱ釣れてたではないか。
ただのまともな人ということだったのか。)

帰り際に手を繋いでこない男は久々だったので紳士的で好感度が上がった。

別れ際、さちこは思わず握手を求めた。
彼はさちこの手を握り返した。

顔がタイプの男に対しては身体が自然と反応するさちこであった。

ただ握手した瞬間、彼の手はとても冷たく厚みもなく貧相な感触だった。

「あ、手すごい冷たいね。」
「そう?」
「うん。今日は忙しいところありがとね。ごちそうさまでした。またね。」
「うん、またね。」

さちこは改札口を通り5歩ほど歩いて振り返ると
彼はこっちを向いて手を振っていた。

(やはり男はこうでなくっちゃ。)

待ち合わせにも10分前に着いていたし紳士的な彼に好意を寄せた。

帰りの電車からまたラインのやりとりが始まった。

彼はきっとセックスが丁寧なはず。
何となくそう思うさちこであった。
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