上 下
11 / 23

11話 ピロートーク

しおりを挟む
「すごいな~。なんか龍の目玉が可愛いね。痛くなかった?」
「めっちゃ痛かった。これ和彫やから。だから色までは無理やった。」
「和彫?あ、タトウーと違うってこと?どう違うの?」
「そう、和彫の針は太さがめっちゃ太いねん。
タトウーの針は細いし浅いからそこまで痛くないねん。
でも俺は本格的な職人の人に頼んだから。」
「へー。そんなに違うんやね。すごい勇気やね。
いつ頃入れたの?」
「19歳ぐらいの時。」
「なんで入れようと思ったん?
反社会的組織の人だったからじゃないんやろ?」
「ちゃうちゃう。バンドやってたから。
上半身抜いだ時に見えたらかっこええかと思って。」
「えー?バンドが理由で?
じゃあメンバー全員入れたの?」
「いや、俺だけ。」
「そーなん?!しかも和柄やし、ロックバンドやんねえ?
曲の感じと違うくない?洋柄にしようとは思わんかったん?」
「まあ職人におまかせにしたから。」
「そりゃあ、職人さんは大体需要が和柄だから得意な和柄にするよな。笑
でもお気に入りなんやね。すごい綺麗な絵やと思う。
ただそんな大変な思いして入れたのに自分で見れないところが残念やね。」
「そう、だから後で腕にも入れてん。」
「なるほど~。これは色入ってるやん。痛かったでしょ?」
「うん。でもまだちっちゃいからめっちゃ痛かったけど我慢した。
わかる?人は痛い時は体が震えるねんで。」
「わかる。私もこないだ親知らず抜いたところだし、
痛すぎると体が勝手に震えて止まらんよな。
麻酔しててそれやから刺青は麻酔なしなんやろ?!
考えただけで無理やわ。」
「そうそう。」
「で、なんで隠そうとしてたの?」
「こんなん背中に入ってたらびっくりするやろ?」
「まあ普通はねえ。でももう入ってるんだし、いずれわかるし仕方ないやん。
でも今は消したいと思ったら消せるんちゃうん?」
「消したいと思ってるよ。海とか温泉とかも行かれへんし。
背中の毛穴が一切なくなってるから体温調節が難しいねん。
背中は汗かけないし。だからいっつもこれ着とかなあかんねん。」
「ふーん、大変やねえ。あ、ほんとだ。ツルツル。」
「でも和彫は無理やねん。完全には消されへん。
あれ消せるって言ってるのはタトウーの方だけや。」
「へーそうなんや。」
「だからめっちゃ後悔してんねん。」
「若気の至りやね。」
「あの頃の俺に言ってあげたいわ。
こんなん入ってるからまともに就職も出来へんかったし。」
「え?でも普通のサラリーマンとかやったら服脱がないしバレへんやろ?」
「でも腕にも入ってるし。」
「あー、この薔薇ね。」
「そう、これは気に入ってるねん。ええやろ?」
「うん。こっちは洋テイストやね。」

その柄の統一感の無さがバンドのレベルを物語っている気がした。

「腕まくったりして見えたらあかんし。」
「上腕だからそこまで腕まくりするかなあ?
まあ半袖のワイシャツやったら見えるかなあ?」

彼の人間味あふれる話を聞いてどこか安心した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

満智子の愉しみ

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:19

社長突然訪問なんてなんでですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

悪役は静かに退場したい

BL / 完結 24h.ポイント:532pt お気に入り:5,343

本屋にオアシスもとめて

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ドア開けたら戦国時代!?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:86

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:2,515

処理中です...