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23話 最後の晩餐
しおりを挟む彼は時間がないと言う割には
今回はタクシーで駅に戻らず、
店を探しながらしばらく歩いた。
さちこは彼の手を繋ぐ気にもならないし
横に並んで歩くのさえ気乗りせず、
彼の後ろをとぼとぼついて行った。
すると焼肉の看板が目に飛び込んできた。
「あ、焼肉食べたいな。この辺ないかなあ?」
「焼肉かあ。。。」
彼は思い当たる店を考えながら歩き、
少し方向転換した。
さちこはその後ろを黙ってついて行った。
(これってデートではないよな。)
しばらく歩くと彼が飲食店が集まるビルの前で
立ち止まった。
「確かこのビルにあったと思うんだけど。。。」
「あ、ここじゃない?看板あるよ。」
「行ったことないけど系列店には行ったことあるから。」
「うん。」
「ここでいい?多分大丈夫だと思うけど。」
「うんいいよ。」
エレベーターで焼肉店のフロアに上がると
ちょうど昼休みが終わる時間帯で
次から次へとレジで会計をする客が出てきて
狭い入り口がごった返していた。
「お席を用意いたしますので
そこにお掛けになってお待ちください。」
何度も店員にそう言われても
彼はレジ前の椅子に座ろうとはせず
急かすように店を覗き込んで立って待っていた。
「間に合うかなあ。」
「何時に出なきゃいけないの?」
「14時半。」
「え、あと50分じゃん。」
「いっぺんに焼いたら食べれるかな。」
「うん、まあ大丈夫じゃない?」
店員に席に通された後、すぐに注文し、
焼肉ランチが2人前運ばれてきた。
「じゃあそれぞれで焼こう。」
「うん。」
彼は肉を何度もひっくり返して網に這わせていた。
「それ何やってるの?肉の油を網に塗ってるの?」
「こうやったら肉が網に引っ付かないから。」
「へえそうなんだ。さすがだね。私もやろっと。」
「いや、別に当たり前のことやってるだけですけど。
要はすぐにひっくり返してたらくっつかないでしょ。」
「まあね。」
さちこはその言い方に少々イラッとしたので
話題を変えた。
「ねえ、紅葉とか一緒に観に行くことはできるの?」
「うん、まあ。。。」
「いつも時間なさそうだから
そういうデートはできるのかなと思って。」
「そういうスケジュールを組めば可能でしょ。」
「そうなんだ。」
(だからそういうスケジュールを組んでまで
私と紅葉見に行きたいかってことを聞いてんだよ。
お前とのセックスにはもう期待できないからさ。
まあ今の態度で乗り気じゃないことは
よくわかったし、私もおめえとどこ行っても
楽しめないことは想像できたから安心しろ。
もう誘わねえよ。)
話が続かないのでまた話題を変えた。
「ねえ、ラインのアイコン、なんであの名前なの?」
「昔、仕事で使ってたから。」
「仕事で使ってたってハンドルネームみたいなもの?」
「うん、まあそんな感じ。」
「へえ、じゃあプログラミングとかもできるんだね。」
「さっきの質問とその質問が
どう繋がるのかはよくわからないけど
まあプログラミングもできることはできる。」
「ふーん。」
さちこはもう何故か泣きそうになった。
先ほどからの彼のぶっきらぼうな言動のジャブが
効いていたようだった。
さちこ的には
ハンドルネームでITの仕事をするというのは
ハッカーのようなイメージがあり、
よってプログラミングもできることと繋がっていたのだが
その解釈を聞こうともせず
頭ごなしにバカにされたような気分になって
もう笑顔で話しかける気にはならなくなった。
(私はただ肉を堪能するためにここに来たんだ。
ここの肉は美味しい。それだけが救いだ!
だから私は今から全力集中して焼肉を楽しむ!)
さちこはもう自分から彼に話しかけることはやめて
頭を切り替えて黙々と一人焼肉の気分で楽しんでいた。
もちろん彼が話題を提供することもなく
二人は静かに食べ終わって店を出た。
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