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6話(最終話) やりもくの手口

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最後の5巡目のグループが席についた。
反社会的勢力の人は参加できないはずなのに
明らかに堅気でないような風貌のおじさんが2人いた。

聞けば1人は映画関係の仕事をしている
ということでどこに行けば芸能人が出没するかを
教えてくれた。

恋人候補ではなくても
知らない世界の話をしてくれる男性はありがたい。
圧が強めだったが、それなりに楽しく
左隣の女子と3人で話していた。

すると隣に移動した有吉似が
さっきとは打って変わり
テンションマックスでうるさかった。

あまりにうるさいのでそのおじさんも左隣の女子も
同時にチラッとそっちを見た。

有吉似は身を乗り出して
ヒアルロン酸パンパンギャルと話しかけていた。

(まさに今日お持ち帰り出来そうな女を
見つけたんだな。わかりやす。笑
ほんと有吉にそっくりってだけで
有吉の好感度ダダ下げだな。笑
かわいそう。有吉。笑)

ところでさちこは2次会は行かないと決めていた。

なぜなら参加前の下調べで
こんな記事を読んでいたからである。

<男が高い参加費を払ってくるのは
女をお持ち帰りすることが目的に他ならない。
2次会は負け組が行くところ。
だから1次会では好みのタイプを探すのではなく
やれそうな女を探す。>

男性目線で男性向けのアドバイスとして
書かれた記事であったが、裏を返せば、
<2次会は1次会でお持ち帰りの目的を
果たせなかった男しかいない。>
とも取れる。
モテる男はヤリモクであろうがなかろうが
1次会の30分間でターゲットと連絡先を交換し
確信を得て帰るのだろう。
2次会にいるのは
妥協して相手を探している男が
多いのかもしれない。

さちこはそう考えて、
左隣の女性と
茶をしばいて帰ろうという話になった。



彼女とトイレを済ませて
エレベーターホールに行くと
有吉似とさっきのヒアルロン酸パンパンギャルがいた。

まさに
「今からホテル行きますんで」オーラ満載だった。

(はいはい、お似合いだね~。笑
やれそうな女釣れてよかったね~。)

ただのレストランフロアの
エレベーターホールなのに
まるでラブホテルでカップルが鉢合わせしたような
気まずい空気感を醸し出していた。

彼らはエレベーターが来たのに乗らなかったので
後から来たさちこ達が先に乗った。

婚外活動の経験を積んでくると
2人組の男女を見るだけで
恋愛カップルなのか
ビジネスカップルなのか
ヤリモクカップルなのかは
なんとなく雰囲気でわかるようになる。

そんな輩にやり目的の男にロックオンされず、
食事を味わい、
同性の気の合う友達ができたさちこ。

その方が断然勝ち組かもしれない。

彼女と1階のカフェで3時間ほど話しこんでいた。
その間にパーティーでライン交換した男達全員から
メッセージがきていた。

さちこは帰宅後、
アイコンの名前を見て顔を思い出せない人は
有無を言わさずそのままブロックして削除し、
顔を思い出した人は
「あー、あいつか。」
と呟きながらブロックして削除していった。



そして楽しかった2巡目グループの2人にだけ
それぞれ返信した。

そういえば
住んでいる地域以外、
年齢さえも聞いていなかったことに気づいた。

「今度食事に行きませんか?」
「阪神ファンではないですが、機会があれば~。笑」

向かい席だった男は
食い下がるように日程を詰めてきた。
好きな食べ物、苦手な食べ物を聞くところも
常識ある人物だと思った。
おそらく有吉似のようなイキった男よりも
彼の方が大人であり、仕事ができると思った。

ただパーティーで
席を立った後の後ろ姿を見た時、
相方との身長差が著しかったので
おそらく170cmはないだろうと印象に残っていた。

まあ付き合うことはないだろうが
話は楽しそうなのでランチの誘いは承諾した。

とはいえ、問題が一つあった。
彼とランチの約束をした後、相方からも連絡が来た。

彼らは女性の好みが全く違うと言っていたのに
どういうことなのだろうか?

こういう情報は男同士でシェアしないのか?

どちらかといえばさちこの好みは
高身長である相方の方である。
まあまあ可愛らしい顔で
母性をくすぐる天然ぽい愛嬌に好感が持てた。

彼とはライン交換の時以外はあまり話せなかったが
さちこがトイレに行くときに
ばったり店の出口ですれ違って
彼の方から話しかけてきた。

「さっきはありがとう。メッセージ送ったよ。」
「うん、見たよ。ちゃんと届いてたよ。
ありがとう。」

ただ明らかに
自分をロックオンしていた向かい席の男が
「俺と相方は女の好みが全然違う。
被ったことがない。」
と断言していたことで、
自分は彼のタイプではないのではないか?
という疑念が残って積極的になれずにいた。

そしてあまりにも皺だらけだったリネンシャツも
気になっていた。

家庭がうまく行っていないのは
それをみれば一目瞭然だが
身だしなみがきちんとできない男が
セックスを丁寧にできるのか?
いささか疑問である。

「お友達ともランチの約束したけど大丈夫?」
この段階で相方に聞くべきか聞かざるべきか
機会を伺いながら当たり障りのない返信をしていると
彼はポジティブにランチに誘ってきた。

とりあえず、どちらとも会ってみなければ
関係が進展するかわからないのだから
ここは平等に機会を与えることとし、
何も告げず、二人ともとランチに行くことにした。

別にどちらもまだ本命ではないし、
まとめて3人でランチしてから
3pでもいいのだが。笑
というような気楽な気分で臨むことにした。


たまには運試しや自分の市場価値を知るために
既婚者パーティーに行ってみるのも面白いが、
パーティーでの面談はあっという間で
その場で相手の情報はほとんど手に入らない。
面接みたいにいちいち条件を質問するのも
場の雰囲気を悪くしそうであるし、
まさにお互いに印象勝負である。

そしてこの出会いが後に大きな転機になることは
まださちこは想像していなかった。
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