2 / 24
2.ライン
しおりを挟む 王都の大門まで来ると、先に来ていたライオット達が何やら揉めている。
「シルフィード、声を届けてちょーらいにゃっ!」
"はいはい~!"
「……だからさっきから言ってるだろぉ~? 僕の護衛のスカーレットが魔王だったから、責任を取って魔族領への旅に同行してやるってさぁ~」
「…あいつは…」
ティリオンの嫌そうな声。
そ、その間延びしたイラつく言葉づかいと股間剣は!
「だからお前の同行は迷惑だとさっきから言っているだろう、ヒュペルト!」
その頭のカール、旅に出るとは思えない豪奢な貴族服――ヒュペルト様だ!
「そんな訳にはいかないんだよね~。僕も魔族領に行かないとギュンター公爵家があぶないんだよ~。お父様は魔王を雇っていたって陛下から詮議を受けてね~。疑いを晴らすために一人息子の僕が魔族領へ行くことになったのさ~」
ライオットの迷惑そうなお断りにもめげず、ヒュペルト様はイケメンポーズを決めて憂い顔をしている。
あれからちょっぴり心配していたけれど、元気そうで何よりだ。
"実はあいつ、自分では気付いてないけどあのタヌキオヤジに贖罪の生贄にされてるのよー。後、オヤジに隙を見てニャンコを殺して鈴を奪うように言い含められてるから、気を付けた方がいいわー"
……何ですと?
自分の実の息子でさえ差し出し利用するギュンター公爵恐るべし!
旅の間、奴には近づかない方が良いってことか。
「『ヒュペルトが私を殺そうとする時、必ず邪魔が入る事になる』にゃ」
とりあえず呪文を働かせておく。転ばぬ先の杖だ。
鈴は呪いがかかっているから大丈夫だろう。
"わしらもおりますじゃー"
"いざとなったら燃やしてやるから安心しろよ!"
"水場では私にまかせて欲しいですわね"
鈴から聞こえる精霊達の声に安心する。頼もしい限りである。
「行くならお前ひとりで行け。俺達はお前と道連れになる気はさらさらない」
「それがダメなんだよね~。ほら、これ。陛下の命令書~」
すげなく言うライオットに、ヒュペルト様は胸元から小さな巻物を取り出して突きつけるように広げてみせた。
ライオットはそれを読むと、悔しそうに顔を顰める。
「ぐっ…」
「『ヒュペルト=ギュンターは魔族領の調査団に同行し、彼らを援ける事を命ず』!? ――しかも、これ本物じゃない!」
驚くスィルにヒュペルト様は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「そういうことさ~。僕は戦えないからよろしく頼むよ~」
しかも、いきなり戦力外宣言である!
ティリオンとスィルが同時に頭痛を堪えるように片手を額に当てた。
エルフ同士だからなのか、二人は結構似た者同士だと思う。
***
同行者に移動術を使える者がいるというのは、長距離の移動を必要とする旅には大きなモチベーションであると思う。
私達はティリオンの地の精霊術で一気に飛び、魔族領より一番近い人間の街に到着していた。
ここは城壁で覆われた要塞都市と言った風情の場所だった。
街を行きかう人々を見ても、屈強な人間ばかり。魔族領より一番近いという理由もあるのだろう。
城壁の上に据え付けられた大きなカタパルトやバリスタが物々しい。
今まで見てきた街や村とは雰囲気がだいぶ違っていた。
こんな有様を見ていると、よほど準備周到でなければ命を落としかねない――皆の意見が一致したところで、まずは情報収集をするために酒場に入った。
酒場にも屈強な男たちばかりが屯している。
私はとりあえず一見獣人の子供に見えるよう、フードを深く被った。
「凄いわね。A級、S級…高位冒険者ばかりだわ……」
「……俺、生きて帰れるだろうか」
スィルはA級だが、ライオット達はB級だそうだ。
不安そうなライオットの肩を、サミュエルが握る。
「純粋な戦う力だけが戦力ではありませんよ。私達の実力で、確実に生きて行って帰ってこれる方法を探さなければならない――そうですね」
「私も彼の言う通りだと思います、ライオット」
マリーシャが頷く。
ライオットは少し表情を和らげた。
「そうだな。サミュ、マリーシャ」
「なんてむさくるしく下品な場所なんだ~。僕のいるべき場所じゃないよね~」
…蛇足だが、ヒュペルト様は冒険者ですらないので無級である。
ヒュペルト様の股間剣はこちらでも好評なようで、あちこちから嘲笑の声が聞こえてくる。
しかも貴族服である。
向こうのテーブルの方で素行の良くなさそうな男たちがこちらを見ながら立ち上がるのが見えた。
ティリオンがさりげなく私の隣に立つ。
「おう、ここらでは見ねぇ顔だな」
と、不意に声を掛けられる。
そちらを向くと、見上げるような厳つい筋肉隆々の大男がそこに居た。
「シルフィード、声を届けてちょーらいにゃっ!」
"はいはい~!"
「……だからさっきから言ってるだろぉ~? 僕の護衛のスカーレットが魔王だったから、責任を取って魔族領への旅に同行してやるってさぁ~」
「…あいつは…」
ティリオンの嫌そうな声。
そ、その間延びしたイラつく言葉づかいと股間剣は!
「だからお前の同行は迷惑だとさっきから言っているだろう、ヒュペルト!」
その頭のカール、旅に出るとは思えない豪奢な貴族服――ヒュペルト様だ!
「そんな訳にはいかないんだよね~。僕も魔族領に行かないとギュンター公爵家があぶないんだよ~。お父様は魔王を雇っていたって陛下から詮議を受けてね~。疑いを晴らすために一人息子の僕が魔族領へ行くことになったのさ~」
ライオットの迷惑そうなお断りにもめげず、ヒュペルト様はイケメンポーズを決めて憂い顔をしている。
あれからちょっぴり心配していたけれど、元気そうで何よりだ。
"実はあいつ、自分では気付いてないけどあのタヌキオヤジに贖罪の生贄にされてるのよー。後、オヤジに隙を見てニャンコを殺して鈴を奪うように言い含められてるから、気を付けた方がいいわー"
……何ですと?
自分の実の息子でさえ差し出し利用するギュンター公爵恐るべし!
旅の間、奴には近づかない方が良いってことか。
「『ヒュペルトが私を殺そうとする時、必ず邪魔が入る事になる』にゃ」
とりあえず呪文を働かせておく。転ばぬ先の杖だ。
鈴は呪いがかかっているから大丈夫だろう。
"わしらもおりますじゃー"
"いざとなったら燃やしてやるから安心しろよ!"
"水場では私にまかせて欲しいですわね"
鈴から聞こえる精霊達の声に安心する。頼もしい限りである。
「行くならお前ひとりで行け。俺達はお前と道連れになる気はさらさらない」
「それがダメなんだよね~。ほら、これ。陛下の命令書~」
すげなく言うライオットに、ヒュペルト様は胸元から小さな巻物を取り出して突きつけるように広げてみせた。
ライオットはそれを読むと、悔しそうに顔を顰める。
「ぐっ…」
「『ヒュペルト=ギュンターは魔族領の調査団に同行し、彼らを援ける事を命ず』!? ――しかも、これ本物じゃない!」
驚くスィルにヒュペルト様は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「そういうことさ~。僕は戦えないからよろしく頼むよ~」
しかも、いきなり戦力外宣言である!
ティリオンとスィルが同時に頭痛を堪えるように片手を額に当てた。
エルフ同士だからなのか、二人は結構似た者同士だと思う。
***
同行者に移動術を使える者がいるというのは、長距離の移動を必要とする旅には大きなモチベーションであると思う。
私達はティリオンの地の精霊術で一気に飛び、魔族領より一番近い人間の街に到着していた。
ここは城壁で覆われた要塞都市と言った風情の場所だった。
街を行きかう人々を見ても、屈強な人間ばかり。魔族領より一番近いという理由もあるのだろう。
城壁の上に据え付けられた大きなカタパルトやバリスタが物々しい。
今まで見てきた街や村とは雰囲気がだいぶ違っていた。
こんな有様を見ていると、よほど準備周到でなければ命を落としかねない――皆の意見が一致したところで、まずは情報収集をするために酒場に入った。
酒場にも屈強な男たちばかりが屯している。
私はとりあえず一見獣人の子供に見えるよう、フードを深く被った。
「凄いわね。A級、S級…高位冒険者ばかりだわ……」
「……俺、生きて帰れるだろうか」
スィルはA級だが、ライオット達はB級だそうだ。
不安そうなライオットの肩を、サミュエルが握る。
「純粋な戦う力だけが戦力ではありませんよ。私達の実力で、確実に生きて行って帰ってこれる方法を探さなければならない――そうですね」
「私も彼の言う通りだと思います、ライオット」
マリーシャが頷く。
ライオットは少し表情を和らげた。
「そうだな。サミュ、マリーシャ」
「なんてむさくるしく下品な場所なんだ~。僕のいるべき場所じゃないよね~」
…蛇足だが、ヒュペルト様は冒険者ですらないので無級である。
ヒュペルト様の股間剣はこちらでも好評なようで、あちこちから嘲笑の声が聞こえてくる。
しかも貴族服である。
向こうのテーブルの方で素行の良くなさそうな男たちがこちらを見ながら立ち上がるのが見えた。
ティリオンがさりげなく私の隣に立つ。
「おう、ここらでは見ねぇ顔だな」
と、不意に声を掛けられる。
そちらを向くと、見上げるような厳つい筋肉隆々の大男がそこに居た。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
先生と生徒のいかがわしいシリーズ
夏緒
恋愛
①先生とイケナイ授業、する?
保健室の先生と男子生徒です。
②生徒会長さまの思惑
生徒会長と新任女性教師です。
③悪い先生だな、あんた
体育教師と男子生徒です。これはBLです。
どんな理由があろうが学校でいかがわしいことをしてはいけませんよ〜!
これ全部、やったらダメですからねっ!
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる