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20話『魔法学校の入学に向けて』
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謎の男の襲撃があった日からおよそ一ヶ月くらいが過ぎた。
ネアの話によると謎の男の目撃情報は未だに無いが、子供のみを襲う事件の噂は途絶えたらしい。
あの男が子供だけを襲う魔獣だと、あの実力からは到底思い難いけど。
しかもあの男の行方が分からない上に、犯行内容も動機も不明とあっては、ネアのような強い魔法使いが仮にあいつを見つけても太刀打ちできるかすら予想できない。
――実際に俺は殺されかけた。
あくまで俺は十五歳の少年。エンリア家の落ちこぼれと噂されている上に、天職《ギフテッドワークス》も非戦闘系で話は通っている。殺されかけたところで魔法使いなら誰でも勝てる、なんて言われるほどだったらしいけど……。
とはいえ、ネアの報告は王族にも通じたらしく、今王都周辺では騎士団を配備して警戒を始めているらしい。
慌ただしく時が流れる街の情報が耳に入ってくる今日この頃。その事件の被害者である俺はというと――、
「サボってんじゃねェよクソ雑魚がァ!」
「メノ様! アルト様にそんな汚い言葉を吐くのはやめてくださいと言っているでしょう! メノ様みたいに成長したらどうするんですか!」
「あァ!? てめェがいつまでも甘ったれた授業なんかしてッから、こいつは一生雑魚のまんまなんだよクソがッ!」
「次言ったらシーナさんに報告します! いいですか!」
「知らねェよ、別にあいつは俺様に指図できるほどエラくはねェよ!」
この言い合いを横目に、一人で付与術の特訓をしている最中であった。
あの事件の後。
スパルタだったレナードの授業に、メノも参加するようになった。
理由は定かじゃないけど、メノのことだからアルトが心配で仕方がないのだと思う。
実際に今も俺が弱いのはレナードのせいだと、責任転嫁しているところ。
ここ一ヶ月、こんな調子である。
前から二人の授業はそれぞれうるさかったし、元から厳しかった。それが合わさってさらに地獄となっただけ。そんなに変化はない。強いて言えば俺の寿命が日々削られているような感覚があるくらいだろうか。
そんな変わらない日々に、一つ変わったことがある。
それは一週間ほど前から、庭の端っこに一人の男が座っていることだ。
「ほんと相性最悪だね、君たち~」
あれはエンリア家の次男、ネクアだ。
俺が王都近辺の村で殺されかけた話を聞いて、少し俺に興味を持ったのか、こうして呑気に椅子に座りながらからかうように野次を飛ばしてくる。
白い髪を靡かせ、前髪を掻き上げる。
あれは俗に言うナルシストキャラだと、俺は初対面で理解した。
「ほら、あの黒いやつ出せ。黒いやつ。今から俺様が強度テストをしてやるよ」
「今日の授業は付与術です! 私はお金をもらってこの仕事をしているのでメノ様は邪魔しないでください!」
「あァ? じゃあ金がありゃ別にこの授業やる必要はねェなァ?」
「それはどういう意味でしょう?」
「――ここ最近レナードは張り切って授業をしている。昇給したらどうですか? って提案を父上に話してやらんこともないぜ?」
「ほんとですか!? では私は一切口出ししません! どうぞ!」
俺の前でなんて話をしているんだ。
というか、授業する権利を簡単に渡すなよ、こいつほんとに俺の家庭教師か?
まぁ正直今はメノの授業の方が、俺にとっては成長に繋がっている。
レナードの授業ももちろん大事だが、付与術にも限界はあるし、教える方は特に難しい。
俺が今レナードから教わっているのは俺が編み出した無機物に対する付与術。それはレナードが知っている知識を超えているから、それに関してレナードが教えることは限りがある。
レナードの今できる授業は、せいぜい付与術の基礎の再確認と、魔力量を増やす訓練をすることくらいだ。
それに対してメノは俺との数回の模擬試合で《無からの覚醒》の特徴を怖いくらいに、ほとんど把握している。
動きの制限も、魔力の消耗速度も、俺より理解しているかもしれない。
「じゃあ来い、アルト」
「では、メノ兄さんお願いします」
あの事件を経て、俺はこの一ヶ月間で急成長したと言ってもいい。
《収納》を駆使して武器や遠距離攻撃用の投擲物の出し入れの精度や速さも格段と上がった。
《無からの覚醒》の同時に出せる数も増えたし、魔力消耗速度を落とすことに成功した。仮にレッドウルフが殺されても、すぐに再召喚も可能となった。魔力には限りはあるが、それさえどうにかすれば実質無限の兵士というわけだ。
あとは俺の――正確にはアルトの最初の天職である《付与術師》の能力『魔力付与』。
付与する魔力量を正確に調整できるようになったし、必要に応じて無機物に付与する内容を判断できるように脳が慣れた。
とはいえ、今からあの謎の男と戦えと言われたらまだまだ足りないと思う。
だからこそ、他の戦闘系天職に《転職》をしたいと思っている。……中々あの声は響かないけど。
「俺様には防御魔法がかかっているからなァ。殺す気で来い。俺様のこんな低級の防御魔法すら破れないようなら魔法学校に入学するなんて、到底無理だと思っとけ」
そう。そしてもう一つ。
俺には明確な目標ができた。もはや今はそれに向けて修行をしているようなもの。
――魔法学校の入学。
レナードによると魔法学校の入学試験は三ヶ月後にあるらしい。
俺はそれまでにメノを倒せるくらいには強くならなければならない。
「――こむぎ、行くぞ」
いや、三ヶ月後にはあの謎の男に勝てるビジョンが浮かぶくらいに強くならなくてはいけない。
謎の男の襲撃があった日からおよそ一ヶ月くらいが過ぎた。
ネアの話によると謎の男の目撃情報は未だに無いが、子供のみを襲う事件の噂は途絶えたらしい。
あの男が子供だけを襲う魔獣だと、あの実力からは到底思い難いけど。
しかもあの男の行方が分からない上に、犯行内容も動機も不明とあっては、ネアのような強い魔法使いが仮にあいつを見つけても太刀打ちできるかすら予想できない。
――実際に俺は殺されかけた。
あくまで俺は十五歳の少年。エンリア家の落ちこぼれと噂されている上に、天職《ギフテッドワークス》も非戦闘系で話は通っている。殺されかけたところで魔法使いなら誰でも勝てる、なんて言われるほどだったらしいけど……。
とはいえ、ネアの報告は王族にも通じたらしく、今王都周辺では騎士団を配備して警戒を始めているらしい。
慌ただしく時が流れる街の情報が耳に入ってくる今日この頃。その事件の被害者である俺はというと――、
「サボってんじゃねェよクソ雑魚がァ!」
「メノ様! アルト様にそんな汚い言葉を吐くのはやめてくださいと言っているでしょう! メノ様みたいに成長したらどうするんですか!」
「あァ!? てめェがいつまでも甘ったれた授業なんかしてッから、こいつは一生雑魚のまんまなんだよクソがッ!」
「次言ったらシーナさんに報告します! いいですか!」
「知らねェよ、別にあいつは俺様に指図できるほどエラくはねェよ!」
この言い合いを横目に、一人で付与術の特訓をしている最中であった。
あの事件の後。
スパルタだったレナードの授業に、メノも参加するようになった。
理由は定かじゃないけど、メノのことだからアルトが心配で仕方がないのだと思う。
実際に今も俺が弱いのはレナードのせいだと、責任転嫁しているところ。
ここ一ヶ月、こんな調子である。
前から二人の授業はそれぞれうるさかったし、元から厳しかった。それが合わさってさらに地獄となっただけ。そんなに変化はない。強いて言えば俺の寿命が日々削られているような感覚があるくらいだろうか。
そんな変わらない日々に、一つ変わったことがある。
それは一週間ほど前から、庭の端っこに一人の男が座っていることだ。
「ほんと相性最悪だね、君たち~」
あれはエンリア家の次男、ネクアだ。
俺が王都近辺の村で殺されかけた話を聞いて、少し俺に興味を持ったのか、こうして呑気に椅子に座りながらからかうように野次を飛ばしてくる。
白い髪を靡かせ、前髪を掻き上げる。
あれは俗に言うナルシストキャラだと、俺は初対面で理解した。
「ほら、あの黒いやつ出せ。黒いやつ。今から俺様が強度テストをしてやるよ」
「今日の授業は付与術です! 私はお金をもらってこの仕事をしているのでメノ様は邪魔しないでください!」
「あァ? じゃあ金がありゃ別にこの授業やる必要はねェなァ?」
「それはどういう意味でしょう?」
「――ここ最近レナードは張り切って授業をしている。昇給したらどうですか? って提案を父上に話してやらんこともないぜ?」
「ほんとですか!? では私は一切口出ししません! どうぞ!」
俺の前でなんて話をしているんだ。
というか、授業する権利を簡単に渡すなよ、こいつほんとに俺の家庭教師か?
まぁ正直今はメノの授業の方が、俺にとっては成長に繋がっている。
レナードの授業ももちろん大事だが、付与術にも限界はあるし、教える方は特に難しい。
俺が今レナードから教わっているのは俺が編み出した無機物に対する付与術。それはレナードが知っている知識を超えているから、それに関してレナードが教えることは限りがある。
レナードの今できる授業は、せいぜい付与術の基礎の再確認と、魔力量を増やす訓練をすることくらいだ。
それに対してメノは俺との数回の模擬試合で《無からの覚醒》の特徴を怖いくらいに、ほとんど把握している。
動きの制限も、魔力の消耗速度も、俺より理解しているかもしれない。
「じゃあ来い、アルト」
「では、メノ兄さんお願いします」
あの事件を経て、俺はこの一ヶ月間で急成長したと言ってもいい。
《収納》を駆使して武器や遠距離攻撃用の投擲物の出し入れの精度や速さも格段と上がった。
《無からの覚醒》の同時に出せる数も増えたし、魔力消耗速度を落とすことに成功した。仮にレッドウルフが殺されても、すぐに再召喚も可能となった。魔力には限りはあるが、それさえどうにかすれば実質無限の兵士というわけだ。
あとは俺の――正確にはアルトの最初の天職である《付与術師》の能力『魔力付与』。
付与する魔力量を正確に調整できるようになったし、必要に応じて無機物に付与する内容を判断できるように脳が慣れた。
とはいえ、今からあの謎の男と戦えと言われたらまだまだ足りないと思う。
だからこそ、他の戦闘系天職に《転職》をしたいと思っている。……中々あの声は響かないけど。
「俺様には防御魔法がかかっているからなァ。殺す気で来い。俺様のこんな低級の防御魔法すら破れないようなら魔法学校に入学するなんて、到底無理だと思っとけ」
そう。そしてもう一つ。
俺には明確な目標ができた。もはや今はそれに向けて修行をしているようなもの。
――魔法学校の入学。
レナードによると魔法学校の入学試験は三ヶ月後にあるらしい。
俺はそれまでにメノを倒せるくらいには強くならなければならない。
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