幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花

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第三章 『溜め込んだ魔力でスローライフを』

第三章13 誤解は再び

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「ぎゃあぁぁぁぁあああ――」

 肩に痛みが走る。女の子の握力とはいえ、相手が魔法使いなら別だ。
 そこに魔力を上乗せされたら『女の子』と呼べる力じゃなくなる。そうだな、ネムのようなやつは女の子とは到底呼べないほどの力を有している。

 そんな魔力の込められた手で握られ、俺の肩は悲鳴を上げた。
 おそらく、口から漏れた悲鳴は一階まで届いていたのだろう。

 その声に違和感を持った誰かが二階へ上がってきている。
『魔力感知』から察するにこれは――アイラだ。


「レイ。あなた朝から何をしてる、の……」

 アイラの目に俺はこう映っているだろう。
 女の子の下で寝そべっている変態がいる、と。

 これは不可抗力というやつだ。
 決して邪な考えを持ってなどいない。ただ氷を避けるため体勢を変えたらたまたまこうなったのだ。変態ではないぞ!

 まぁそんな考えがアイラに伝わるわけもなく、俺は感じないはずの寒さをアイラの視線から感じた。姫様も俺の上に座っているのもやっとのようで、そのまま下敷きになっている俺の体の上に寝そべった。

「もう無理……」
「どういう状況なの? レイ」

 姫様は俺の上に体を落とすと、無理という言葉を吐き捨てた。
 無理なのは俺の方だ。この状況を説明しろと言われてるんだぞ!

 冷たい視線は依然、俺に突き刺さっている。

「えーと、これはですねアイラさん。姫様を起こしに来たら部屋がこんな状態になってて……。それで姫様をおんぶしたんですが……」
「胸が小さいやら、こんな感触じゃないやら……」
「ちょっと姫様!? 最初の言葉は言ってないですよね!?」

 言い訳をしようと、視線をアイラの方にずらすと、アイラは自分の胸の方を一瞥して言った。

「変態」
「まっ!」

 扉は強く閉められた。今まで聞いたことのない声音で放たれた変態という言葉は、俺の言い訳に聞く耳すら持たなかった。

 はぁ……俺まだ朝ご飯食べてないんですけど。朝ご飯抜きと死にますよ、俺成長期真っ盛りなんですから……。

「姫様、このまま寝られると、僕は永遠眠ることになってしまうんですけど」
「それは困るわね」
「分かってもらえて感謝します。じゃあ一瞬だけでもいいので体を起こしてください」

 本当に一瞬だけ体を起こした姫様の両肩を支え、どうにか自分の体を持ち上げる。
 一度ベッドに姫様乗せ、俺は首を鳴らした。

 朝から疲れる。メイドとかいたら苦労しそう、だな……。
 待てよ。ここは異世界だ。本物のメイドがいる可能性がっ!
 そんな期待を込め、俺は今にも眠りにつきそうな姫様に問う。

「姫様のお屋敷にはメイドさんとか雇ってるんですか?」
「もちろん。他に誰を雇うの?」
「さすが姫様、誰か雇うこと前提……。でもいると決まれば話は早い」

 だがその前に。アイラの誤解を解かないといけない。
 下に行ったらみんな俺に白い眼を向けたりするのか……怖いな。

「姫様、行きますか」
「ええ。早くしないと寝てしまいそう」

 姫様は俺の背中に体を預ける。
   俺はそのまま姫様をおんぶして部屋を出た。

「そういえば、姫様って寒くないんですか?」
「私の魔力で生成した氷で、私が寒さを感じてどうするの」

 確かに姫様の言う通りだな。
 俺も炎魔法使ってて熱いと感じたことはないが、あれはスキルのおかげかと思っていた。

「あ、そういえばさっきシリウスさんが分からないって言ってたんですけど、どうやって帰るんですか? エゼルガルドまで」
「私が来いと念じるだけでアレクは現れるの」
「なんて便利な……」
「嘘に決まってるでしょ」

 嘘だったのか、本気で信じ切っていた。

「嘘だとしたら、本当にどう帰るか考えてなかったんですか?」
「待っていれば来るわ。二日も私が不在だとあっちも色々と困るから」

 毎日日替わりで護衛している七大聖騎士たちは、今頃何をしているのだろうか。


 そんな俺とは無縁なことを考えてる間に、俺と姫様は一階に着いていた。

「遅かったな。さっき叫び声が聞こえてきたが大丈夫だったのか?」
「……は、はい!」

 降りると、一番手前に座っているラグナさんが心配したのか声を掛けてくれた。
   思っていたよりも普通の反応に、俺は一瞬返事が遅れた。
 
 ラグナさん同様、ステラさんたちも至って平然としている。
 だがアイラは別だ。アイラと目が合った途端、アイラはぷいっと視線をずらした。
   ラグナさんたちには話してないみたいだ。 

   とりあえず姫様をシリウスの横の椅子に座らせる。
   笑顔を保ったまま、シリウスは俺の方見て小さく手を振った。

「話すタイミングはレイくんに任せるよ」
「はぁ、分かりました」

 姫様を説得するために俺は、昨日シリウスと二人で話し合った。
 二人しか知らない、もちろんリィラも知らない。

 そんな何も知らないリィラは俺の方を見ながら、怪訝な表情を浮かべた。
 シリウスに倣って、俺も笑顔を作り、小さく手を振る。

 違和感ありありで、かなり気持ちが悪いと自覚している。
 だからアイラよ、そんな目で見ないでくれ。

 真横から感じる視線は、アイラからのもので間違いない。
 そうだ。姫様の前にアイラの誤解を解かなければいけないんだった……。
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