幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花

文字の大きさ
上 下
32 / 34
第三章 『溜め込んだ魔力でスローライフを』

第三章11 E・M・S

しおりを挟む
「お前、この森に棲んでるのか?」
「キュン!」

 これは肯定という意味で捉えていいのか?
 キュンしか言わないから、何を考えているのか分からない。
 怪我をしているが、一人で歩けるみたいだ。

 なんか犬の散歩をしている気分だ。したことないけど。


「その傷モンスターとかにやられたのか?」
「キュン?」

 いや、こいつもモンスターか。
 こいつの正体が未だ判明しないんだが、やっぱりモンスターなのだろうか。

 俺はそんな謎の生き物を連れ、村の家まで向かった。
 いきなりモンスターを拾ってくるとか、どんだけ厚かましいんだよって話だよな。

「無理って言われたらごめんな。そういえば」

 こいつに名前つけてなかったな。
 でもこういうのって名前を付けると、かえって愛着湧くんだよな。

「お前、名前ほしいか?」
「キュンキュン!」

 嬉しそうに鳴く。
 俺も名前なんて付けたことがないから、内心ワクワクしてる。

「名前か……キュンは?」

 我ながら安直なネーミングだと思う。
 こいつも心なしか、嫌そうな顔をしている。
 いや、名前決めるとか難しいから! 普通に!

「うーん……」

 モフモフしているからモフ太? あれ、こいつオスか?

「お前はオスか?」
 
 ぷるぷると首を横に振った。
 ほんと、犬みたいで可愛い。

 メスか。じゃあモフ子とかどうだ?
 ……安直すぎるな。とはいえ、特徴という特徴もないし。

「モフ子……?」
「キュンッ!」

 うれしそうだし決まりだな。
 お前の名前はモフ子だ。

 名前が決まり、モフ子との話題が切れかけたころ、俺たちは村に到着した。

「さて、これからが本題だ。モフ子、大人しくしておけよ。噛みついたりしたらお別れだからな」
「キューン……?」
「今から会う人に噛みつかなければいんだ、簡単だろ?」
「キュン!」

 よし、家の中に入るか。
 
「ただいま戻りました」
「あ、レイくん。ちょうど朝ご飯ができたところですよ」

 出迎えたのは、食器を出している棚から出しているリィラ。
 奥には定位置に座るラグナさんたちの姿が見える。


「朝からどこ行ってたの? そのまま帰ってこなければよかったのに」
「すみませんね!」
「ふっ……」

 朝から相変わらず辛辣だな、アイラ。
 と、そんな会話より先にモフ子のことを……って

「可愛いー! なにこのモンスター! レイくんが拾ってきたのー!?」
「――っ! いつの間に!」

 瞬間移動のようなスピードで、一番奥の席から俺の足元にいるモフ子に駆け寄ったシイラ。
 モフ子を見て目を輝かせる。
 
「えっと、森で見つけまして。怪我したところを包帯で巻いてやったら懐いちゃったみたいで……」
「ほう、魔獣を手懐けるとは」

 え? これ魔獣なの?
 モンスターかでさえ怪しかったのに。

 平然とした口ぶりで、モフ子の正体を明かしたラグナさん。
 こんな可愛くても魔獣なんだな。って、危なくないのか?

「危険とかって……」
「その懐きようは大丈夫だ」

 俺の後ろに隠れるモフ子。どうやらシイラから逃げているようだ。
 これ、懐いてるっていうの? シイラに怯えているだけじゃ……。

「ここで飼ってもいいですか? しっかり面倒見るので……」
「別に構わないが」
「ありがとうございます!」

 魔獣とはいえ、可愛い生き物だ。異世界にモフモフは付き物だ。
 俺の異世界に求める三つの条件――EMS。
 E――エルフ。M――モフモフ。S――スローライフ。

 今のところはスローライフとモフモフ。残すところ、エルフだけだ。

「あれ、そういえば姫様とシリウスさんは?」
「まだ上にいるんじゃないか? レイ、呼んできてやれ」

 ラグナさんにそう言われ、俺はモフ子と二階へ向かった。
 モフ子、小型犬みたいな大きさなのに、階段を上れるみたいだ。
 怪我をしてるんだから無理はするなよ、ほんと。


「先にシリウスのやつを起こすか。――入りますよー」

 ドアの前に立ち、ノックする。
 ドアを開けると、中には気持ちよさそうに眠るシリウスの姿があった。
 そんな睡眠を邪魔するように、俺は窓のカーテンを全開にした。外からはこれでもかというほど、太陽の光が差し込んできた。

「ん……」
「シリウスさん、朝ご飯ですよ」

 というか、こいつ学校だろ?
 さっきシイラが「テスト嫌だー!」って叫んでたぞ。

「あ、レイくん。おはよう」

 ちっ、寝起きもイケメンとか……。

「今日普通に学校ですよね。遅刻しちゃいますよ」
「あー、イクシードまで遠いから今日は休むことにしたんだ」
「そうですか……」

 まぁ、シリウスがいなきゃ姫様を追い返す作戦もできないからな。
 そういや、こいつと姫様ってアレクの瞬間転移でここまで来たんだよな。帰るときどうするんだ? 村にアレクがいるわけじゃないよな。……じゃないよな?

「シリウスさんたちってどう帰るつもりですか?」
「うーん、どう帰るんだろうね」

 もうどうでもよくなってきた。
 とりあえず今は姫様をエゼルガルドに帰すことだけ考えよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

処理中です...