幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花

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第三章 『溜め込んだ魔力でスローライフを』

第三章6 水魔法は使えないようです。

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「フリューゲルッ――」

 おそらく下位魔法だろうか。ファーリスと似ていて、詠唱が短い。ユルシリアが使っていた魔法の詠唱はかなり長かった。

 掌の前には魔法陣が展開される。
   この魔法陣、いつ見ても神秘的だ。

 そんな神秘的な魔法陣から一直線に、台風並みの風を放たれる。風を切る音を一帯に響かせながら。


「……風魔法」


 この威力だと、洗濯物も飛んでいきそうだな。
   スローライフには必要ない属性だ。

 炎魔法はファーリスで十分だな。
   あとは……。

「水魔法を教えてください!」
「残念だったな。俺は水魔法の適正はもってねぇんだ」

 ラグナさんでも持ってない適正あるんだ……いや、それが普通か。

「リィラさんは?」
「私も水魔法の適正は……」

 あれ、もしかして持ってる方が珍しいとか?

「残念だが、一番適正者が少ないのが水魔法。千人に一人ぐらいの割合だ」

 せ、千人に一人って確率低すぎだろ。
 一番水魔法はスローライフにとって大事な属性じゃないか?


 待て。まだ焦るんじゃない。俺にもチャンスはある。


「水魔法の詠唱だけでも教えていただけませんか?」
「メイルトだ」


 俺はスローライフのためにこの世界に来たんだ。
 この俺が水魔法の適正を持っていないわけがない。

 俺はラグナさんに教えてもらった詠唱を口にした。

「メイルトッ!」
 
   …………

 ………

 ……
 
 あれ、おかしいな。何も起きないぞ?
 ま、また魔力が不安定になってるんだ。それしかない。

「明日もう一回やりま」
「残念だったな」

 あぁあああああああ! 俺のスローライフを謳歌するための水魔法がっ! 
 水魔法が使えるのと使えないとでは、快適さが雲泥の差だろ!

「僕には水魔法の適正が……」
「なかったみたいだな」

 ラグナさんははっきりとそう言った。もう少しオブラートに包んでほしかった。

 
 ラグナさんの家に住んでいる間は別に魔法なんて不必要だ。
 だが、ラグナさんの家に長居するわけにはいかない。せっかく魔法の世界に来たんだ。魔法を使ってスローライフをしないと意味がない。

   そのためにも、適性がある魔法だけでも覚えないとな。


「そろそろ俺は家に戻るがお前らはどうする?」
「僕はもうちょっとここにいます」

 風魔法も適正があるか調べたいし。

「私も戻ります。ちょっと頭痛が……」
「リィラ、大丈夫?」
「寝たら治ると思うので……」

 リィラはラグナさんと家に帰った。

 無理してここまでついてなくてよかったのに。興味本位で行動するところあるからな、リィラは。

 俺はここでもう少し魔法を練習しよう。 


「それにしてもこの木、見た目は普通の木だよな……」

 触り心地も、表面の硬さも、普通の木と変わらない。
 魔力とかついてたり……。

 あー、『魔力感知』ないといろいろ不便だ。
 こういう魔法の世界で『魔力感知』は結構チートな気がする。
 こいつは危ない、強敵だ! とか分かるでしょ?  噛ませ犬にならなくて済みそうだ。


 さっき教えてもらった風魔法を詠唱してみる。


「フリューゲル」

 おおっ! 風が出てきた!
 まだ威力が強いな。

 風魔法の適正は持っていたみたいだ。光魔法と闇魔法、そして氷魔法は試してないが、正直必要ない。
 とりあえず炎魔法と風魔法で十分だ。


「お金を自分で稼げるようにならないといけないよな……」

 こういう世界でメジャーな商売は、やはりポーションとかか?
 スキル『調合』とか持ってたらよかったんだけど。

 そういえば、
 ――オープン。

「迷宮にあったこの薬草。これでポーションとかできないかな?」

 いや、考えても分からないけどさ。
 まぁポーション販売は視野に入れておくか。結構ポーション販売は楽にできそうだ。ポーションが作れたらの話だがな!
 
 ――クローズ。


 エルフの森とか、この世界で探せばあるかもな。ドラゴンもいるとか言ってたしな。一人で探してみるか。
   
   これ以上リィラを振り回すわけにはいかない。

「リィラとはこの村でお別れかな」

 ――バサッ。

 後ろからなんか聞こえたんだけど! もしかしてイノシシか!?
 いや、まずこの世界にイノシシはいないか。

 じゃあなんだ?  後ろ見ても何もいない。


「そろそろ俺も家に戻るか」

 ふと思ったんだが、ラグナさんってニート……?
 元騎士だから貯金とかはたんまり持ってそうだけど……って、どうでもいいか。


 なっ、魔力を感じる。
 なんだ? 今更『魔力感知』が動き始めたのか?


「村の方向、とは真逆だな」


 面倒くさいけど、この距離だとあとあとお世話になりそうだ。
 ラグナさんに任せれば済みそうだけど、借りもあるし、ここは俺が出向いた方がいいな。

「せっかくだ。ここ最近で覚えた魔法も使ってみるか」

 森の中へと入って行く。
 また森かよ。なんでモンスターはそんなに森を好むんだ? 俺はもう嫌いになった。


 まだ昼間。森の中全然明るい。
 ここらへんは何も魔力を感じない。だが、さっきから奥の方で魔力の存在が消えない。
 森の中をかき分けながら進む。


「にゃっ!?」

 にゃあ? 変な鳴き声の生き物、かっ!?

「アイラさん。こんなところで何をしていらっしゃるんですか」
「そんな目で見ないで、変態野郎」
「ふーん、学校サボってこんなところで魔導書を読んでる……ラグナさんに言っても?」
「ダメ! それだけはやめて!」

 ふっ、これは俺の勝ちだな。これから俺に逆らえないようにしてや――

「って、なにっ!?」

 いきなり俺に水魔法を放ってくる辛辣妹。その魔法をギリギリで交わす。
 え? 水……?

「お前なんで!」
「記憶を消してやる! 今見たこと全部忘れろー!」
「違う! なんでお前が水魔法持ってるか訊いてんだ!?」

 アイラを抑えて、もう一度問う。

「なんでアイラが水魔法を……?」
「て、天才だからに決まってるでしょ。というか、今私のこと『お前』って言ってなかった?」

 いや、ちょっと水魔法を見てテンションが上がったと言いますか。なんと言いますか。

 こんな近くに千人に一人の逸材がいたとは驚きだ。
 でもこいつとスローライフは過ごせないな……。

「すみません。あと、このことは誰にも言う気はありませんから」

 引きこもりの俺が、サボらず学校行け! なんて言えるはずないよね。

「あ、そう。じゃあ命だけは助けてあげるわ」
「それで?  ここで何してたんですか?」
「無視……まぁいいわ。何って魔法の勉強だけど?」

 なんか姫様とアイラ似てる気がする。この高圧的な態度……。

「魔法の勉強って、学校で習うでしょ?」
「学校行っても水魔法は教えてもらえない。まず適正を持ってる人がいないから」

 そら千人に一人だもんな。
 その一人のために授業するのは……。

「だから授業を抜け出して独学で?」
「うん、悪い?」

 これに関しては仕方がない気もする。
 とはいえ、自分とは無関係の授業を受けるのはきついだろうな。
 こうやって授業抜け出してるから成績が悪いのかもな、アイラ。

「いや、それでいいと思う。逃げたかったら逃げればいい」

 でも逃げ続けてたら、前世の俺みたいになる。

「学校行くか行かないか、僕が口出すことじゃない。でも逃げた先で諦めたらダメ」

 人生は諦めてしまったら終わりだからな。
 って、なんか意味分からない方向に話が広がってるような……。

「ふっ」

 またこいつ鼻で笑いやがったな。

「なんでわらっ――」
「ありがと」

 アイラは満面の笑みを浮かべてそう言った。

   でも、とおまけ付きで。
 
「学校に行けもしない年下に言われても、なんにも心に響かない。これだから変態は」
「変態じゃないけどね。帰る?」
「ううん。今からでも学校行ってくる」
「そっか」

 俺が来た道とは逆の道を抜けた場所に魔法学校があるらしい。俺はアイラを見送った。


 なんだ、モンスターじゃなかったのか。
 魔法を試せなかったのはあれだけど、危険なものじゃなくてよかった。

 学校か。行くかどうか問われたら即答できる――行かない、って。
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