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第二章 『神の印』

第二章13 出発

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「これが竜……」

 竜と言っても翼はなく、四足歩行で走るみたいだ。
 これに乗って村まで半日か。

 リィラの家の事情もあったが、出発は翌日の朝になってしまった。
 それも、最近エゼルガルドとフェーメル村の間の道に霧が立ち込めているらしいのだ。


「早く行っておかないと姫様にバレるよ」とシリウスに言われ、悩んだ末、今日に行くことにした。
 シリウスの口車に乗ってしまった気もするが、霧のことは本当らしく、さらに濃くなれば当分竜車は動かないらしい。


「お待たせしました」

 竜車の代金を払いに行っていたリィラが戻ってきた。
 宿代もそうだが、全部払ってもらっている。早く返さないとな……。

 それにしても、本当にリィラは村に行っていいのか?
 昨日決めたことだと言うのに、アレクはともかく、両親は許可を出したとは思えない。

「ほんとに大丈夫ですか? 無理して僕についてくる必要ないですよ?」
「いえ、これは私が決めたことです。……いつまでも兄様の後ろを追いかけるにはいかないので」

 心配になって聞いたが、それなら大丈夫な気がする。後半何言ってるか聞こえなかったが。

 とはいえ、リィラは魔法学校を卒業しているんだ。魔王軍幹部は無理だとしても普通の魔獣くらいなら倒せるはずだ。

「じゃあ行きましょうか。これからよろしくお願いしますね!」
「はい!  よろしくお願いします!」

 改めて言うと、なんか照れくさいな。
 
 俺とリィラは竜車の後ろに乗り込む。
 車内は四人掛けで、俺とリィラが乗る分には余裕がある。

「とりあえず半日分の食料は用意しておきました。あと毛布も。これで快適に睡眠できます!」

   用意周到だな……。
 睡眠って、日が沈むまでにはフェーメル村着くんだよね……寝る?

「あ、ありがとうございます……」

 必要かなー、と毛布を見るが、やはりいらない気がする。
 とりあえずお礼は言っておく。

「もうちょっとで御者の人が来ると思いますので」


 なんだろう。気まずいな。
 前世の二十年間、女子と話した経験と言えば母を除けばコンビニ店員くらいだ。
 どんな話題を振ればいいか、まったく分からない。


「あ、名前。僕年下なのにリィラさんからさん付けで呼ばれてるので。普通にレイだけでいいですよ」
「それだったら私もリィラだけがいいです」

 ここはわかったと言うべきか……。
 
「わ、わかった、リィラ……」
「はい……」

 もっと気まずくなったわ!
 タメ口はまずいかな。でもさん付けしないで敬語というのもおかしい気がする。

「やっぱ敬語使った方がいいですよね、はは」
「いえ! 私は今の方が、敬語より自然で好きです!」
「そ、そうですか」

 これって俺が女子に慣れていないから気まずいだけ!? 
 いや、リィラも気まずそうだな。


「すみません遅くなっちゃって~」
「いえいえ、私たちも今来たところですから」

   やってきたのは身長160cmくらいの黒髪の青年だ。

 この人が御者か。なんかめっちゃ寝たそうですけど。居眠り運転とかしそうで怖いんですけど。

「僕ライルっていいます~。じゃあ早速出発しますね~」
 
 俺たちの名前は聞かないんだな。別にいいけど。

 竜車の前に座ると、ライルは竜の背中に手を伸ばした。
 鞭とじゃないのか? 

「進め……」

 テレパシーのようなものか? なんかああいうのにも憧れる。
 ライルの言葉で竜は歩き始めた。
 
 門を抜けた竜は徐々に速度を上げていく。森の間にある道を、風のように駆けていく。
 このスピードで半日だとかなり遠いかもな。

 かなりのスピードが出ているにも関わらず、音は静かで揺れは小さい。新幹線に乗っているような感覚だ。
 ライルはこの速度で息できるのだろうか。

「リィラさ……リィラはフェーメル村に行ったことあるの?」
「ないです。でも兄様は防衛の仕事で行ったって言ってました」

 防衛って魔獣が村に攻めてきたとか?

「フェーメル村に何かあったんですか?」
「魔精霊の出たと報告を受けたみたいで。結局兄様が行っても現れなかったらしいですけど」
「魔精霊……」

 魔精霊って何度も耳にするけど、俺が倒したアルノアも魔精霊なんだよな。
 もしかしてアルノアみたいなやつが何人もいるのか?

 アルノアはベルガレートと契約したからスキル『略奪』を持ってた。つまり、もし他に魔精霊と契約したやつがいるとすれば、そいつらは『略奪』みたいなチートスキルを持ってるってわけか。

 俺は魔精霊ベルガレートを倒したから、契約する必要もなく『略奪』を手に入れた。でもスキル『略奪』は奪うことに意味がある。
 モンスターがスローライフに役立つスキル持ってるわけもなく……いらないチートスキルだな。


『気配遮断』とかスローライフに必要か? いや、全くもって必要がない。
 もっとこう……『無限魔力』みたいなのが欲しかった。そしたら迷宮での四年間も苦労せずに済んだ。

「今更ベルガレートに文句言っても仕方がないけど……」
「どうしたんですか、レイ」
「あ、いや、別に何もないです……」

 不満が口に出ていたようだ……。
 でも不思議だ。リィラも街の人も魔精霊の名前を知らないみたいだ。
『ベルガレートの森』と親切に名前を公表しているというのに。


「もう少しで森を出ますよ~」

 ライルの声が車内に届くと、一瞬で窓から光が差し込んできた。
 木が無くなったせいで、日が差してくるようだ。

 竜車は止まることなく走り続ける。
 左の窓からは、超巨大な樹が見えた。だがかなり遠い。
 その巨大さが近くにあると錯覚させているみたいだ。


「あれは『加護の天使』ドミニオン様が植えたとされる世界樹ユグドラシルですよ」

 ド、ドミ……?
   リィラは樹の方を見ながら、俺に説明をしてくれた。そして気になる言葉がその中にはあった。

「ドミニオンって……?」
「聖天戦争を止めたとされる天使ですよ? レイは知らないんですか?」
 
 戦争を止めた天使が、ドミニオン……へ?
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