幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花

文字の大きさ
上 下
19 / 34
第二章 『神の印』

第二章12 下級魔法も使えません

しおりを挟む
 シリウスが俺の耳元に顔を近付けてくる。

「姫様は君を信頼しているんだよ。無様な姿は見せないようにね」

 逆に挑発されてる気がするんだが。

「まず魔法を教えるね。魔法に必要な三つとはなーんだ。はい、レイくん!」

 俺こいつに名前教えたっけ? 
 とりあえず考えてみる。魔法に必要な三つ、か。

「詠唱と魔力と――」
「違う違う。答えは元気だよ」
「……えっと、あと二つは?」
「つまりさぁ、レイくん。元気がなかったら魔法は使えないってことだよ」

 こいつこんなウザキャラだったっけ。
 というか、あと二つは! 必要なあと二つを教えろよ!

「す、すみません……」

 意味わからないが、謝った方が良さそうだ。

   ほんと調子狂うな。でもこれでいい。
 パターンB――頭が悪い子供を演じること。
 魔法も覚えられない子供を演じれば、姫様のことだ、「あなたほんとに使えないわね」みたいな流れになるはずだ。

 
「魔法を使えるようになるには、体の中にある魔力を扱えるようにならないといけない」

 それは四年過ごした迷宮でコツを掴んできた。
 スキル『瞬間身体強化』は魔力の量で強化値が決まるからな。使い続けてたら自然とその強化値も変えれるようになっていた。
   
   つまり魔力の量を調節できるようになっていたってわけだ。

「それはどうするんですか?」

 だが今は分からないふりをしておく。

「そんなの僕に聞かれても分からないよ。その人の感覚によるからかな」
「なるほど」

 確かに俺は感覚で覚えたけどさ。

 
「君魔力持ってるらしいね。だったら適当にやっても魔法は発動するはずだよ」

 そういうもんなのか?
 シリウスは両目を閉じると、何やら小さな声で短い詠唱を口にした。

「……ファーリス」

 シリウスの指先からビー玉サイズの炎が出てきた。

「これは炎の下級魔法。詠唱さえ間違わなければ、誰でも使える魔法だよ」

 魔力を抑えて、詠唱……。
 でも待てよ。これで使えたら意味がない。使えないふりをしておく。
 魔力を使わずに――

「ファーリス。あれ?」
「君、下級魔法も使えないわけ? まぁまだ十二歳だから仕方がないかな」

 姫様も呆れたようにこちらを見ている。
 いいぞ、作戦通りだ。

「やっぱり姫様の専属騎士は向いてないかもしれませんね」
「僕もそう思うよ。姫様、一度考え直した方がいいんじゃない?」

 ナイス、シリウス。その調子でもっと姫様を説得しろ。

「少し考えさせてもらうわね」
「それがいいかと」

 シリウスは姫様の言葉を肯定すると、俺の方を向きウインクした。
 これだからイケメンは。でもそのイケメンも頼りになったな。

「シリウス、あとは適当にやっておいて」

 無責任な。お前が言い出したんだから、最後まで見ておけよ。
 姫様はそのまま白い家の中へと入って行った。


「邪魔者はいなくなったね。で、君はなんで魔法使えないふりしてるの?」

 げっ、こいつ最初から知ってたのかよ。
 本当に心が読めるとか言わないよな……。

「いや、別に使えないふりなんてしてませんけど……」
「あ、本当のこと言ってくれたら君の願いを一つ叶えてあげよう」

 何を企んでんだこいつ。
 善意で話してるとは思えないけど……。

「本当に僕の願いを叶えてくれるんですか?」
「もちろんだよ。僕は君の隠してることが知れて、君はやりたいことができる。お互い利益はあるでしょ?」

 弱み握られるみたいで嫌だけど……はぁ、言うか。
 村で暮らすためにも、こいつの手を借りた方が何かと助かりそうだ。

「わかった……」

 リィラは奥で何かしている。多分距離的に俺たちの声は聞こえない。
 って、リィラは一体何してんだ? なんか、地面を眺めて……。

 まぁリィラは一先ず置いておいて。
 姫様が帰ってこないうちに、シリウスに話しておこう。


「へ~、そんなこと考えてたんだ。まぁいきなり決められたら無理もないけど」
「ですよね……」

 俺が姫様の専属騎士になれない理由をシリウスに話した。
 そして村に行きたい理由も、少し内容を変えて話した。

 内容を変えたって言っても、フェーメル村に両親がいるってことを付け足しただけだ。
 決して同情を引こうなんてしないから。決してだ。


「君が村に行きたいことは分かった。リィラはどうするの? 短い間だったけど、ずっと一緒にいたわけでしょ?」
「リィラさんを村に連れていくわけにはいかないですよ」

 リィラはああ見えても貴族だし。
 確かにいた方が、魔法学校も卒業してるから、色々教えてもらえて楽だけど。

「本人が行きたいって言ったらどうするの?」
「言わないですよ、多分」

 シリウスは手に顎を乗せて、考えているようなポーズをした。
 
「直接本人に聞いた方がいいんじゃないかな?」
「え」
「リィラちゃーん、レイくん村に行くみたいだけどどうするの~!」

 声のボリューム考えろよ! 確かに距離は遠いけど、その大きさだと家の中にいる姫様にまで聞こえるだろ!

 リィラはその場で立つと、聞こえなかったのか、俺たちのそばまで歩いてきた。

「村って……?」
「あー、うん。レイくんが村に行きたいって今言っててね」
「それだったら村に私もお供もしますっ!」
「ダメです」

 思わず否定してしまった。
 でも本当にダメだと思っている。

「リィラさんは貴族でしょ? 両親やアレクさんだって……」
「両親にとって私はいない方がいい存在なんです。それに兄様は私のこと嫌ってますし……」

 俯くリィラの横で、シリウスが得意げに言った。

「ほら、誘いなよぉ」

 こいつ、コロコロ性格変わりやがる……。
 とはいえ、俺が連れて行くって勝手に決めていいわけないよな。

 どうしたものか。

「本当に僕でいいんですか?」
「はい……。私じゃ嫌ですか……?」

 嫌ってわけじゃない。
 別に旅をするわけじゃないからな。断る理由もないけど……。

「嫌ってわけじゃないですけど」
「決まりだね。姫様には僕がどうにか誤魔化しておくよ。朝の竜車に乗れば、暗くなるまでには村に着くと思うけど」

 変なこと企んでいないだろうなこいつ。
 でもこれでやっとスローライフを過ごせる。

 魔王軍やら、魔女やらで街に来てからも苦労したが、これからはのんびり自由気ままな生活が送れる。
 女の子が付いてくるのは予想外だけど、ラノベ展開でちょっとワクワクしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

処理中です...