幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花

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第二章 『神の印』

第二章11 シリウスの嘲笑

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「……てください。レイさん、起きてください!」
「リィラ、さん……?」
「早く支度して、姫様のお屋敷に行かないと」

 姫様……ああ、俺やっと次の日に来れたのか。
 魔女の呪いは解けたってことだよな……。


「リィラさん、ちょっとリィラさん!  僕起きましたよ。もう体揺らさなくても大丈夫です!」
「あ、つい……ごめんなさい」

 起きてる人の体をつい揺さぶるってどういうことだよ。別にいいけど。

「下で待ってますので、着替えたら降りてきてください」
「わかりました」

 リィラは一人で先に一階へ降りて行った。
 渡された服、どうやら制服のようなもの。胸の辺りには星の形をした校章がついている。

「これ制服だよな」

 まさか、魔法学校に入らされるのか……。
 とりあえず渡された服に着替える。

 少し大きめのサイズだが、不自由無く動ける。


「よし、これでいいかな」

 制服に着替えて俺は部屋を出た。普通のドアが重く感じる。
 あぁ、やだなぁ。これからボコボコにされないといけないのか。
 姫様の専属騎士にならないためにも覚悟決めないとな。

 俺はドアを開け、下で待っているリィラの元へと向う。


「すみません、着替えるのに時間掛かっちゃいまして」
「いえいえ」
「ちなみにこの服って……」
「兄様が魔法学校に通っていたときのものです」

 つまりこれ、アレクのお下がりってことか!?

「そんなの持ち出してアレクさんから何も言われなかったんですか?」
「姫様に頼まれたんです……同じ制服の方が雰囲気出るでしょ、って」

 雰囲気を出すために俺はアレクのお下がりを……。
 面倒くさいことに付き合わせて、あまつさえアレクのお下がりを。こっちの身にもなってほしい。

「はぁ、じゃあ行きましょうか」


 今日が成功すれば、もう姫様と会う必要もなくなる。
 今日を耐えれば、村でのスローライフが……。


「どうしたんですか? レイさん」
「いや、なんでもないです」

 ボーッとしてしまった。

 姫様の屋敷がどこにあるか分からないため、リィラに道案内をしてもらうことになった。
 

「この街から一番近い村ってどこか分かります?」
「エゼルガルドからだと、メーフェル村が近いと思います。えっと、一番早い竜車で半日くらいです」

 第一候補はメーフェル村ってところでいいかな。竜車で半日……遠い方なのか? 速度が分からないから検討もつかないが。

 異世界で旅とか冒険とかしたいわけでもないし、一番街から近い村に住めばいい気がする。

 今日が成功したら、近いうちにこの街を出よう。
 また魔王軍なんて現れたら面倒だ。

 とはいえ、行くとしてもこの街で最低限の魔法を覚えてからだな。
 魔法で火とか水とか操れたら、かなり楽して暮らせそうだ。

「どうして急に村のことを聞いたんですか?」
「この街を――」

 って、あんまり言わない方がいいか。専属騎士として、今から姫様に会うんだしな。
 街を出るなんて、万が一姫様の耳に入ったら……想像しただけで背筋が凍る。

「な、なんとなくです……」

 今は誤魔化しておくか。でも街を出るときはちゃんと話さないとな。
 お世話になったリィラに黙って街を出るわけにはいかない。

 姫様には……世話になってないし、秘密にして街を出よう。

 
 それにしてもかなり歩いた気がする。
 どうやら姫様の屋敷は昨日行った高台とは真逆の方向みたいだ。

「もうちょっとで姫様の屋敷に着くと思います」

 リィラは右手に持った紙をチラチラ見てる。屋敷に行くのは初めてなのか?

 
「あそこですね!」

 紙を確認していたリィラがいきなり顔上げ、真っ直ぐの方向を指さした。
 指の先には、姫様が不機嫌そうに仁王立ちをしている。

「あれ、絶対怒ってますよね……」
「すみません……私のせいで道に迷ってしまって」

 右とか左とか、あれ迷ってたのか……。
 やっぱり初めてなのかな? 屋敷に行くの。

「とりあえず先に行って謝ってきますね。多分まだ僕たちのことは気付いてなさそうですし」

 俺はゆっくりと仁王立ちする姫様のところへ向かった。

 姫様は俺の存在に気付いた。


「私を待たせてどういうつもりなのかしら? リィラはどこに行ったの? あの子に道案内を任せたのだけれど?」
「もうちょっとで来ると思いますよ」

 俺はリィラのいる方へ振り返り、小さく手招きした。
 するとリィラは怒られる直前の子犬みたいに、首をすくめてやってきた。

 なにあれ、可愛い……。


「リィラ。あなたに道案内任せたわよね」
「はい……」

 なんか見てるだけで可哀想だ。
 実際起きるのが遅かった俺が悪いわけであってリィラは悪くない。

「姫様、悪いのは僕なんでリィラさんを責めるのは」
「別に責めてないわ」

 そういえば、姫様よりリィラの方が歳上なんだよな。リィラはこう見えても魔法学校の卒業生なんだし。
 
 よく歳上を説教できるよな。さすが姫。

「もういいわ。早く入って」


 大きな門を抜けると、そこには一面緑の広大な庭が広がっていた。

 ちょっと待て。あそこで優雅に座ってお茶を飲んでるやつ……。
 金髪で見たことのある髪型。

「紹介するわね。こいつがアルカナの言ってたイクシードの魔法使いよ」
「こいつとはひどいなぁ、姫様」

 こいつやっぱり昨日会った金髪少年じゃねーかっ! 
 笑みを浮かべ、少年は俺の方を向いた。

「僕はシリウス・メルディ。初めまして」
「は、初めまして」

 初めてじゃないだろ。昨日会ったわ!
 こいつわざとらしいな。

「ふーん、この子が姫様専属の騎士かぁ」

 俺の周りをゆっくりと歩きながら、シリウスは嫌味たしく笑う。

「はは、弱そうだね」

 こいつ! 完全に俺のこと馬鹿にしてやがる……。
 でも待てよ。このまま俺が負けて、ボコボコになってる姿を見せれば。

「じゃあ一回僕と戦ってみますか? 僕強いですよ」

 これは挑発だ。この挑発にシリウスが乗れば――

「やめておこうかな。僕は姫様に魔法を教えるよう頼まれてるんだ。喧嘩しにここへ来たわけじゃない」

 あれだけ俺のこと煽っておいて、ムカつくなこいつ。
 想像以上にうざいやつだ。

 対決をしないとなると、ボコボコにされる作戦は中止だな。
 じゃあパターンBで行くとしよう。

 久々にやる気が出てきた。
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