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第二章 『神の印』
第二章8 踊り子
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『光の街』エゼルガルド――街というより国みたいだ。
街自体はかなり大きく、中心にある巨大な城は街の中でも一際目立っている。
日本では絶対に見ることのできない光景が、俺の視界を埋め尽くす。
高台まで歩いてきた俺は、眼前に広がる街の景色に言葉を無くした。
こんな景色が死ぬまでに見られるなんて、引きこもってパソコン眺めていた頃の俺じゃ想像もつかなかったな。
「『光の街』エゼルガルドか。村でスローライフ始めても、たまにはここへ来るのいいかもしれない」
元いた世界で二十年も生きていて、俺は一度も外国へ行ったことがない。
だからこそ、この光景を見て言葉を失ったのだ。
それにしても、異世界だというのにエルフや他の種族が見当たらない。
そういうもんなのか?
「でもゴブリンオークと続いたら、やっぱエルフだよな……」
周りを見渡すと、やはりここは人気の観光スポットみたいで人が多い。
この高台から見て、真っ直ぐの場所にお城がある。つまりあそこが中心ということだ。
行ってみるか。ずっとここにいてもあれだからな。
「あんな子いたっけ?」
さっき通った場所に紫色の髪をした少女が、道の端で笛のようなものを吹きながら踊っている。その華麗な踊りと滑らかな笛の音色は、帰路についた観光客の足を止めていた。
そして事実、俺も無意識に足を止めてしまっていた。
少女からは一切の魔力を感じない。儀式を行っていないってことだろうな。
つまり十四歳以下か? そうなるよな。でも俺より頭一つ分くらい身長が高い。おそらくリィラよりも高いな。
確かに綺麗な踊りと音色だ。それは素人の俺にでもわかる。
でも、一つ気になることがある。
その少女は全身に白い包帯を巻いていた。その実、見た目は周りの人たちと比べても異様なものだった。
「火傷でもしたのか……?」
俺は小さな声でそう呟いた。もしそうだとしても、全身火傷じゃ踊れないだろ……。
そんなことを考えている間に、人はどんどん集まってくる。
地面に向けた顔を少女の方へ戻すと、タイミングがよかったのか俺は少女と目が合った。
少女は包帯の間から青い右目を覗かせる。心なしか、口元が笑ったように見えた。
楽器を吹いているからそう見えただけかもしれないな。
俺は人混みの中をかき分け、やっとの思いでその場から離れた。
「にしても超人気だな。ご当地アイドルみたいなもんか?」
なるほど。そういうことか。包帯を巻いているのはそのためか。
つまりはあれだろ。おしゃれってやつ。中二病キャラみたいな。
まぁまたいつかここに来ると思うし、その時会ったら話しかけてみよう。
俺は城を目指して歩いた。
もちろんのことながら、中心に行くほど人は多くなっている。
出店も数多く並んでおり、いろんな食材が台の上に並べられている。
この人の量と出店の数。まるでお祭りに来たみたいだ。行ったことないけど。
「結構中心に来たんじゃないか?」
やはりエルフは見当たらない……。この世界、ゴブリンとオークはいるのに、エルフいないのか!?
とりあえず街の中心についたようだ。
人混みを抜けると、噴水のある広場が目の前にあった。
眼前にそびえ立つ石でできた城の壮観さに、俺は息を呑んだ。
「す、すごい……」
「だろ、兄ちゃん」
後ろから城を眺めながら話しかけてきたのは、見知らぬおじさん。
というか、俺まだ兄ちゃんって呼ばれる歳じゃなくないか? 別にどうでもいいか。兄ちゃんの方がしっくり来る。
「おじさんは?」
「この城を見張りをしてる騎士だ」
「誰も住んでない……?」
「知らねぇのか、兄ちゃん」
つまり廃城ってことか?
「なんで誰も住まないんですか?」
「ここは汚染されてんだ」
「汚染、ですか?」
何かあったのか。周りの人は城の周りを平然と歩いてるけど、そんな汚染された場所の周りって危なくないのか?
「兄ちゃん、ほんとになんにも知らねぇな」
「この街に最近来たところで……」
「そうかそうか、そりゃ悪かった」
結構優しそうな人だな。
それにしても汚染された城を放置するってのは大丈夫なのか?
「その、汚染とかって危なくないんですか?」
「それなら心配いらねぇ。七大聖騎士様の一人が強力な結界を張ってくれてんだ。中に入らない限り害はないさ」
七大聖騎士が結界を張っているとはいえ、街の人はよく普通に周り歩けるよな。
でも逆に言えば、それほど七大聖騎士は信頼されてるってことだろうな。
「すまんな、兄ちゃん。仕事に戻るわ。くれぐれも城には入らないようにな」
「あ、はい。お仕事頑張ってください」
「おうよ」と短く返事すると、おじさんは人混みの中へと消えていった。
誰も住んでない城の見張りって、誰かが侵入しないようにってことか?
騎士も大変そうだ……。
明日は俺にとって、かなり重要な日になるだろう。多少の痛みは覚悟の上。
どうにかして、姫様の専属騎士は避けなえればならない。
――スローライフのために。
街自体はかなり大きく、中心にある巨大な城は街の中でも一際目立っている。
日本では絶対に見ることのできない光景が、俺の視界を埋め尽くす。
高台まで歩いてきた俺は、眼前に広がる街の景色に言葉を無くした。
こんな景色が死ぬまでに見られるなんて、引きこもってパソコン眺めていた頃の俺じゃ想像もつかなかったな。
「『光の街』エゼルガルドか。村でスローライフ始めても、たまにはここへ来るのいいかもしれない」
元いた世界で二十年も生きていて、俺は一度も外国へ行ったことがない。
だからこそ、この光景を見て言葉を失ったのだ。
それにしても、異世界だというのにエルフや他の種族が見当たらない。
そういうもんなのか?
「でもゴブリンオークと続いたら、やっぱエルフだよな……」
周りを見渡すと、やはりここは人気の観光スポットみたいで人が多い。
この高台から見て、真っ直ぐの場所にお城がある。つまりあそこが中心ということだ。
行ってみるか。ずっとここにいてもあれだからな。
「あんな子いたっけ?」
さっき通った場所に紫色の髪をした少女が、道の端で笛のようなものを吹きながら踊っている。その華麗な踊りと滑らかな笛の音色は、帰路についた観光客の足を止めていた。
そして事実、俺も無意識に足を止めてしまっていた。
少女からは一切の魔力を感じない。儀式を行っていないってことだろうな。
つまり十四歳以下か? そうなるよな。でも俺より頭一つ分くらい身長が高い。おそらくリィラよりも高いな。
確かに綺麗な踊りと音色だ。それは素人の俺にでもわかる。
でも、一つ気になることがある。
その少女は全身に白い包帯を巻いていた。その実、見た目は周りの人たちと比べても異様なものだった。
「火傷でもしたのか……?」
俺は小さな声でそう呟いた。もしそうだとしても、全身火傷じゃ踊れないだろ……。
そんなことを考えている間に、人はどんどん集まってくる。
地面に向けた顔を少女の方へ戻すと、タイミングがよかったのか俺は少女と目が合った。
少女は包帯の間から青い右目を覗かせる。心なしか、口元が笑ったように見えた。
楽器を吹いているからそう見えただけかもしれないな。
俺は人混みの中をかき分け、やっとの思いでその場から離れた。
「にしても超人気だな。ご当地アイドルみたいなもんか?」
なるほど。そういうことか。包帯を巻いているのはそのためか。
つまりはあれだろ。おしゃれってやつ。中二病キャラみたいな。
まぁまたいつかここに来ると思うし、その時会ったら話しかけてみよう。
俺は城を目指して歩いた。
もちろんのことながら、中心に行くほど人は多くなっている。
出店も数多く並んでおり、いろんな食材が台の上に並べられている。
この人の量と出店の数。まるでお祭りに来たみたいだ。行ったことないけど。
「結構中心に来たんじゃないか?」
やはりエルフは見当たらない……。この世界、ゴブリンとオークはいるのに、エルフいないのか!?
とりあえず街の中心についたようだ。
人混みを抜けると、噴水のある広場が目の前にあった。
眼前にそびえ立つ石でできた城の壮観さに、俺は息を呑んだ。
「す、すごい……」
「だろ、兄ちゃん」
後ろから城を眺めながら話しかけてきたのは、見知らぬおじさん。
というか、俺まだ兄ちゃんって呼ばれる歳じゃなくないか? 別にどうでもいいか。兄ちゃんの方がしっくり来る。
「おじさんは?」
「この城を見張りをしてる騎士だ」
「誰も住んでない……?」
「知らねぇのか、兄ちゃん」
つまり廃城ってことか?
「なんで誰も住まないんですか?」
「ここは汚染されてんだ」
「汚染、ですか?」
何かあったのか。周りの人は城の周りを平然と歩いてるけど、そんな汚染された場所の周りって危なくないのか?
「兄ちゃん、ほんとになんにも知らねぇな」
「この街に最近来たところで……」
「そうかそうか、そりゃ悪かった」
結構優しそうな人だな。
それにしても汚染された城を放置するってのは大丈夫なのか?
「その、汚染とかって危なくないんですか?」
「それなら心配いらねぇ。七大聖騎士様の一人が強力な結界を張ってくれてんだ。中に入らない限り害はないさ」
七大聖騎士が結界を張っているとはいえ、街の人はよく普通に周り歩けるよな。
でも逆に言えば、それほど七大聖騎士は信頼されてるってことだろうな。
「すまんな、兄ちゃん。仕事に戻るわ。くれぐれも城には入らないようにな」
「あ、はい。お仕事頑張ってください」
「おうよ」と短く返事すると、おじさんは人混みの中へと消えていった。
誰も住んでない城の見張りって、誰かが侵入しないようにってことか?
騎士も大変そうだ……。
明日は俺にとって、かなり重要な日になるだろう。多少の痛みは覚悟の上。
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