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第二章 『神の印』
第二章6 この街の騎士と姫はおかしいようだ。
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ギルドの中は昼前だというのに、思っていたよりも賑わっている。
前ハーヴェイさんと来た時はこんなに人いなかったのにな。
「あれぇえ、こんなところに姫様ぁ! どうしっ、たんですかぁ!」
こいつ昼前から飲んでんのか? 酒の匂いめっちゃするし。
姫様がこの人に喧嘩売らないか心配なんだけど……、
「貴様、今姫様に触れようとしただろ……。話しかけた挙句、その汚い手で……」
姫様の口が開く刹那、絡んできた男は右の壁へ派手に蹴り飛ばされた。
え、どうしたの? 早すぎて全然見えなかったんだけど。
姫様の隣からネムの姿が消えている……。
「さっさと答えろ。今触れようとしたよなぁ?」
「し、しました! 申し訳ありません! 一生姫様には近付かないのでっ!」
「いいや、死をもって償え。愚民がっ!」
え、いやだれ? いきなり人が変わったようだ。
というか、この人殺すって言ったよ? 止めないとほんとに殺しちゃう雰囲気だよ!?
「ネム――」
そうだ、姫様。蹴り飛ばされる前に止めてやってほしかった気もするが、これに関しては姫様に絡んできた男の自業自得だ。
これで反省し――
「やりなさい」
「いや、ちょっとっ!」
「何、ネムに触れていいのは姫様だけ。もしかしてこの変態野郎は自殺志願者?」
ちげぇーよ。
俺はフォークを構えたネムの右手を掴んだ。
「ネムさん、騎士ですよね。冒険者を殺すとか、絶対ダメですって」
「ネムは姫様のために騎士になったの。他は必要ない」
「だからってダメだって。この人たちだって街の人たち守ってるんだから!」
「昼から酒飲んでる人たちが街の人を守ってるって、本気で思ってるの?」
い、言われてみれば確かに。この件に関しては、こいつらが悪い……。
「生活するために魔獣を倒してるだけ。自分のことしか考えてない連中なんだよ」
「そうだとしても、人殺しはダメだ」
この子力強いんだけどっ! 魔力を使って強化しないと、きつそう……。
「そうよ、レイの言う通り。人殺しなんていけないわ。自重を覚えなさい、ネム」
こいつっ!
お前が意味分からないところで許可だすからこうなってんだろ!
「すみませんです……。お怪我はありませんか、姫様ぁ!」
戻った……。疲れたよ、まったく。
「私は大丈夫よ。そこのぐみ……人は大丈夫なの?」
今こいつ愚民って呼ぼうとしたよな。
俺は酔った男の手を取り、その場で立たせる。まだ少しふらふらしているようだ。補助なしで立てるみたいだ。
人が集まってきた。ここにいてはネムがまた暴れ始めるかもしれない。
一旦ここから離れることにしよう。
「ネムさんも姫様も、一度ここを離れましょう」
さっきまでわいわいしていたギルド内も、ネムを見て一斉に静まり返った。
あんな正論言われたらな、反論したくてもできないだろうな。
というか、俺にもなんか視線が当たるんですけど……。
「姫様、わざわざこんなところに何を……」
現れたのは昨日初めて会った、ギルドマスターのアルカナ・メーベルン。
ギルドの二階にある部屋の一つに、俺たち四人は案内された。
「アルカナ、単刀直入に言うわ。あなたの知ってる中で、一番優秀な魔法使いを教えて」
「なるほど。姫様が直接会いたいと聞いてびっくりしましたよ」
わざわざ俺とリィラを連れてきて、何を言うかと思えば。
魔法使いって、まさかな。嫌な予感がするけど……。
「えっと、姫様。魔法使いって……?」
「あなたは見込みがあるわ。だから私の専属の騎士に任命することにしたの」
どうやら俺の思考は正常に働かなくなってしまったようだ。
今頃、俺の頭の上にはクエスチョンマークがいくつもあるんだろうな。
「そのためにはまず、魔法を覚えないといけないわ」
「いや、待ってください姫様。僕、村に帰らないと」
勝手に話進めるなよ! 俺のスローライフはどうなるんだよ!
迷宮で魔力を溜めてきたのは、こんなわがまま姫の騎士をするためじゃないぞ。
自由気ままなスローライフをするためだ!
困惑を隠せない俺に、姫様は作り笑顔を浮かべて言った。
「レイ、どこの村に住んでたの? 私に気になるわ」
「それは……。僕、本当は記憶喪失なんです……」
「はい、嘘。私の騎士になってもらうわ」
スキルを使うのは反則……。
って、ちょっと? 姫様の隣にいるネムさんがめっちゃ震えてますけど? ほっといて大丈夫?
リィラの方を見ると、目が死んだ魚みたいになってしまっていた。
「れ、レイさんが、ひ、姫様のせ、専属、騎士……」
「り、リィラさん! しっかりしてください! 姫様の悪い冗談ですって!」
「冗談じゃないわ。私は本気よ」
「ほ、ほんきぃ~」
リィラがどんどん壊れていく。やめろ! 追い打ちかけるのはやめろ!
「もうやってられない……」
ついに動き始めたぞ! 一番やばいやつが動き始めたぞ!
アルカナに関しては、甥っ子を見るような温かい眼差しで俺を見ている。
「こいつを殺してネムも死ぬ……姫様、元気でいてくださいね」
殺意剥き出しの目を向けられても、決めたの全部姫様だから! しかも半ば強制的に。
それでいつまでアルカナは俺を笑顔で見てんだっ! そろそろ止めろよ!
前ハーヴェイさんと来た時はこんなに人いなかったのにな。
「あれぇえ、こんなところに姫様ぁ! どうしっ、たんですかぁ!」
こいつ昼前から飲んでんのか? 酒の匂いめっちゃするし。
姫様がこの人に喧嘩売らないか心配なんだけど……、
「貴様、今姫様に触れようとしただろ……。話しかけた挙句、その汚い手で……」
姫様の口が開く刹那、絡んできた男は右の壁へ派手に蹴り飛ばされた。
え、どうしたの? 早すぎて全然見えなかったんだけど。
姫様の隣からネムの姿が消えている……。
「さっさと答えろ。今触れようとしたよなぁ?」
「し、しました! 申し訳ありません! 一生姫様には近付かないのでっ!」
「いいや、死をもって償え。愚民がっ!」
え、いやだれ? いきなり人が変わったようだ。
というか、この人殺すって言ったよ? 止めないとほんとに殺しちゃう雰囲気だよ!?
「ネム――」
そうだ、姫様。蹴り飛ばされる前に止めてやってほしかった気もするが、これに関しては姫様に絡んできた男の自業自得だ。
これで反省し――
「やりなさい」
「いや、ちょっとっ!」
「何、ネムに触れていいのは姫様だけ。もしかしてこの変態野郎は自殺志願者?」
ちげぇーよ。
俺はフォークを構えたネムの右手を掴んだ。
「ネムさん、騎士ですよね。冒険者を殺すとか、絶対ダメですって」
「ネムは姫様のために騎士になったの。他は必要ない」
「だからってダメだって。この人たちだって街の人たち守ってるんだから!」
「昼から酒飲んでる人たちが街の人を守ってるって、本気で思ってるの?」
い、言われてみれば確かに。この件に関しては、こいつらが悪い……。
「生活するために魔獣を倒してるだけ。自分のことしか考えてない連中なんだよ」
「そうだとしても、人殺しはダメだ」
この子力強いんだけどっ! 魔力を使って強化しないと、きつそう……。
「そうよ、レイの言う通り。人殺しなんていけないわ。自重を覚えなさい、ネム」
こいつっ!
お前が意味分からないところで許可だすからこうなってんだろ!
「すみませんです……。お怪我はありませんか、姫様ぁ!」
戻った……。疲れたよ、まったく。
「私は大丈夫よ。そこのぐみ……人は大丈夫なの?」
今こいつ愚民って呼ぼうとしたよな。
俺は酔った男の手を取り、その場で立たせる。まだ少しふらふらしているようだ。補助なしで立てるみたいだ。
人が集まってきた。ここにいてはネムがまた暴れ始めるかもしれない。
一旦ここから離れることにしよう。
「ネムさんも姫様も、一度ここを離れましょう」
さっきまでわいわいしていたギルド内も、ネムを見て一斉に静まり返った。
あんな正論言われたらな、反論したくてもできないだろうな。
というか、俺にもなんか視線が当たるんですけど……。
「姫様、わざわざこんなところに何を……」
現れたのは昨日初めて会った、ギルドマスターのアルカナ・メーベルン。
ギルドの二階にある部屋の一つに、俺たち四人は案内された。
「アルカナ、単刀直入に言うわ。あなたの知ってる中で、一番優秀な魔法使いを教えて」
「なるほど。姫様が直接会いたいと聞いてびっくりしましたよ」
わざわざ俺とリィラを連れてきて、何を言うかと思えば。
魔法使いって、まさかな。嫌な予感がするけど……。
「えっと、姫様。魔法使いって……?」
「あなたは見込みがあるわ。だから私の専属の騎士に任命することにしたの」
どうやら俺の思考は正常に働かなくなってしまったようだ。
今頃、俺の頭の上にはクエスチョンマークがいくつもあるんだろうな。
「そのためにはまず、魔法を覚えないといけないわ」
「いや、待ってください姫様。僕、村に帰らないと」
勝手に話進めるなよ! 俺のスローライフはどうなるんだよ!
迷宮で魔力を溜めてきたのは、こんなわがまま姫の騎士をするためじゃないぞ。
自由気ままなスローライフをするためだ!
困惑を隠せない俺に、姫様は作り笑顔を浮かべて言った。
「レイ、どこの村に住んでたの? 私に気になるわ」
「それは……。僕、本当は記憶喪失なんです……」
「はい、嘘。私の騎士になってもらうわ」
スキルを使うのは反則……。
って、ちょっと? 姫様の隣にいるネムさんがめっちゃ震えてますけど? ほっといて大丈夫?
リィラの方を見ると、目が死んだ魚みたいになってしまっていた。
「れ、レイさんが、ひ、姫様のせ、専属、騎士……」
「り、リィラさん! しっかりしてください! 姫様の悪い冗談ですって!」
「冗談じゃないわ。私は本気よ」
「ほ、ほんきぃ~」
リィラがどんどん壊れていく。やめろ! 追い打ちかけるのはやめろ!
「もうやってられない……」
ついに動き始めたぞ! 一番やばいやつが動き始めたぞ!
アルカナに関しては、甥っ子を見るような温かい眼差しで俺を見ている。
「こいつを殺してネムも死ぬ……姫様、元気でいてくださいね」
殺意剥き出しの目を向けられても、決めたの全部姫様だから! しかも半ば強制的に。
それでいつまでアルカナは俺を笑顔で見てんだっ! そろそろ止めろよ!
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