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第二章 『神の印』
第二章1 七大聖騎士との邂逅
しおりを挟む レナエルは、長剣の男を相手になす術がなかった昨晩のことを、まざまざと思い出した。
しかし、ここで屈することはできない。
あのとき、自分を襲った二人の男を軽々と倒した、騎士の名を持つ男が相手だとしても。
「それは昨晩、嫌という程思い知らされたわよ。だけど……これなら、どう?」
相手に向けていた切っ先を、ゆっくりと自分の喉に向けると、さすがに、ジュールの表情が変わった。
「あんただって、あたしが死んだら困るでしょ? あたしが死んだら、あの能力は使えないもんね。せっかく捕まえたジジの利用価値だってなくなる。あんたの思い通りになるくらいなら、死んでやるっ!」
レナエルが決死の啖呵を切ると、緊迫した沈黙が落ちた。
睨み合う二人。
しかし、しばらくすると、ジュールは視線をそらして俯き、こらえきれないように、くくっと喉を鳴らした。
笑って……る?
「なに笑ってるのよ!」
「そうだな。確かにあんたに死なれたら、俺の首はないかもしれんな」
そう言って視線をレナエルに戻すと、にやりと片方の口角を上げた。
レナエルはごくりと唾を飲み込むと、緊張のあまり汗で滑りそうになった短剣の柄を、しっかりと握り直した。
「やっぱり、そうなのね! 何を企んでるの。白状しなさい!」
「ふん。そう簡単に、白状する訳にはいかないな」
ジュールがふてぶてしい態度で、また一歩踏み出した。
昨晩の悪人どもとは、格が違いすぎる。
比べ物にならないくらいの凶悪さを、全身にまとっている。
「近づかないで!」
握りしめた短剣を、さらに喉に近づけて叫んでも、彼は止まろうとはしない。
いたぶるように、じりじりと近づいてくる。
レナエルはそこから動くことができず、短剣を自分に向けたまま、大木に貼り付いていた。
長剣を抜けば届く距離にまで詰めたとき、ジュールははっとしたように、右手の茂みに視線を滑らせた。
とたん、全身からぶわりと放たれる強烈な殺気。
「なに?」
レナエルもとっさに同じ方向を見た。
新たな敵の出現を予感し、身構える。
次の瞬間。
レナエルの短剣を握った両手は、強い力に捕らえられた。
両手首をまとめて拘束する、男の大きな左手。
ぎりぎりと締め付ける握力と、抵抗を寄せ付けない腕力で、レナエルの両手は、頭上にまで持ち上げられた。
「くっ……」
あっという間に力が入らなくなった手から、あっさりと短剣を奪い取られた。
ジュールは短剣を草の上に投げ捨てると、ぐっと顔を近づけてきた。
「甘いな」
歪んだ口元からせせら笑うように発せられた一言に、先ほどの殺気が自分を陥れるためのものだったことに、ようやく気づいた。
「なっ……! 騙したわね」
怒りにわなわなと身体が震えてくるが、相手は怒りを逆なでする涼しい顔だ。
「騙したつもりはない。俺はちょっとよそ見をしただけだ」
「放してっ!」
レナエルは、両手を頭の上で捕らえられたまま必死に身をよじり、相手に蹴りを食らわせた。
しかし、渾身の一撃は、あっさりとかわされ、レナエルは体制を崩して、彼の手にぶら下げられたような状態になる。
不自然に腕がねじれ、激痛が走る。
「い……っ、たたたた……」
「自業自得だ。さて、この生意気な小娘をどうしてくれようか」
ジュールは嗜虐的な笑みを見せると、レナエルの両手をぐいと引っ張って、自分と立ち位置を入れ替えた。
大木に背にした彼が、左手でレナエルを捕らえたまま、右手で腰の長剣をすらりと抜いた。
しかし、ここで屈することはできない。
あのとき、自分を襲った二人の男を軽々と倒した、騎士の名を持つ男が相手だとしても。
「それは昨晩、嫌という程思い知らされたわよ。だけど……これなら、どう?」
相手に向けていた切っ先を、ゆっくりと自分の喉に向けると、さすがに、ジュールの表情が変わった。
「あんただって、あたしが死んだら困るでしょ? あたしが死んだら、あの能力は使えないもんね。せっかく捕まえたジジの利用価値だってなくなる。あんたの思い通りになるくらいなら、死んでやるっ!」
レナエルが決死の啖呵を切ると、緊迫した沈黙が落ちた。
睨み合う二人。
しかし、しばらくすると、ジュールは視線をそらして俯き、こらえきれないように、くくっと喉を鳴らした。
笑って……る?
「なに笑ってるのよ!」
「そうだな。確かにあんたに死なれたら、俺の首はないかもしれんな」
そう言って視線をレナエルに戻すと、にやりと片方の口角を上げた。
レナエルはごくりと唾を飲み込むと、緊張のあまり汗で滑りそうになった短剣の柄を、しっかりと握り直した。
「やっぱり、そうなのね! 何を企んでるの。白状しなさい!」
「ふん。そう簡単に、白状する訳にはいかないな」
ジュールがふてぶてしい態度で、また一歩踏み出した。
昨晩の悪人どもとは、格が違いすぎる。
比べ物にならないくらいの凶悪さを、全身にまとっている。
「近づかないで!」
握りしめた短剣を、さらに喉に近づけて叫んでも、彼は止まろうとはしない。
いたぶるように、じりじりと近づいてくる。
レナエルはそこから動くことができず、短剣を自分に向けたまま、大木に貼り付いていた。
長剣を抜けば届く距離にまで詰めたとき、ジュールははっとしたように、右手の茂みに視線を滑らせた。
とたん、全身からぶわりと放たれる強烈な殺気。
「なに?」
レナエルもとっさに同じ方向を見た。
新たな敵の出現を予感し、身構える。
次の瞬間。
レナエルの短剣を握った両手は、強い力に捕らえられた。
両手首をまとめて拘束する、男の大きな左手。
ぎりぎりと締め付ける握力と、抵抗を寄せ付けない腕力で、レナエルの両手は、頭上にまで持ち上げられた。
「くっ……」
あっという間に力が入らなくなった手から、あっさりと短剣を奪い取られた。
ジュールは短剣を草の上に投げ捨てると、ぐっと顔を近づけてきた。
「甘いな」
歪んだ口元からせせら笑うように発せられた一言に、先ほどの殺気が自分を陥れるためのものだったことに、ようやく気づいた。
「なっ……! 騙したわね」
怒りにわなわなと身体が震えてくるが、相手は怒りを逆なでする涼しい顔だ。
「騙したつもりはない。俺はちょっとよそ見をしただけだ」
「放してっ!」
レナエルは、両手を頭の上で捕らえられたまま必死に身をよじり、相手に蹴りを食らわせた。
しかし、渾身の一撃は、あっさりとかわされ、レナエルは体制を崩して、彼の手にぶら下げられたような状態になる。
不自然に腕がねじれ、激痛が走る。
「い……っ、たたたた……」
「自業自得だ。さて、この生意気な小娘をどうしてくれようか」
ジュールは嗜虐的な笑みを見せると、レナエルの両手をぐいと引っ張って、自分と立ち位置を入れ替えた。
大木に背にした彼が、左手でレナエルを捕らえたまま、右手で腰の長剣をすらりと抜いた。
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