幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花

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第一章 『ベルガレートの迷宮』

第一章2 ベルガレートの森の迷子〈1〉

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    ……ここは、森林か?
 日本、ではないだろうな。やっぱ異世界転生ってやつ?
 殺したのドミニオンだけど。
 
 そうだ、もらったスキル試してみるか。
 とはいえ、収納するものないな。
   とりあえず何かしら試してみることにしよう。

「オープン――お、なんか開いた」

 見たところ、ステータスのようなものだ。
 こういう展開はラノベを読んで慣れた。

「それにしても、体が軽いような……」

 地面が近い。身長が縮んだのか。
 あ、ステータスのところに歳が書いてある。なになに? 八歳……

「一回り若くなってんじゃねーかっ!」

 あっちの世界では二十歳だったからな。
 それにしても腕も足も細いな。

「おーい、ドミニオンー」

 もちろん返事はなしか。
 お決まりの展開とはいえ、ここまでくると不安だ。

 金さえあればと思っていたが、金はどこにあるんだ……。
 金が収納できても、収納する金がねぇーじゃねーか!
 中卒だからかっ!? 俺がここまで馬鹿だとは知らなかった。

「とりあえずスキルを試してみるか」

 あと、このステータスどうやったら消えるんだ! 
 オープンの反対は、

「クローズ――おお、消えた」

 危うく、ずっとステータス表示しながら旅するところだった。
 俺のステータスは攻撃力が少なかった。その代わり、魔力が攻撃力数値の四倍近くあったのだ。

 攻撃が2、そして魔力が8。この数字が小さいかも大きいかも分からない。
 
「スキル試してみるか。詠唱とかしないといけないのか――なんて言えばいいんだ……」

 収納といえば、タンスか。いや、タンスなんてダサいし、詠唱したくない。それに絶対違うしな。

「しゅ、収納」

 落ちてる枝に向けて短い言葉を放った。
 だが、それが正解なのか、枝を中心に魔法陣が地面に描かれ、その光は森一帯を赤く照らした。
 数秒もしないうちに、枝は魔法陣の中へと消えていった。

「お、合ってた。よかった、タンスとか言わなくて」

 もう一度ステータスを開くと、そこには『枝』とだけ書かれていた。
 おいおい、ちょっと雑すぎないか?

「もう一本入れてやる」

 さっきと同じ方法で枝を、『倉庫』に収納する。
 よし、確認してみるか。

 ――『枝(二本目)』
 これなんか酷くない!? 別にいいけど……。
 ついでに出す方法も覚えておこう。

「えっと……」

 こういうのって頭の中で念じればいいんだよな。
 じゃあ『枝(二本目)』を、

「は、発射」

 突き出した掌から円形の小さな魔法陣が現れると、それと同時に風を切る音がはっきりと耳に届いた。
 今のかなり強い気が……。奥を見ると、手前の木に枝が突き刺さってる。

「普通に物は出せないのか?」

 さっきは『発射』だったから威力が出たのだろう。
 次は『枝(一本目)』で試してみる。

「うーん、出てこい」

 いいのが思いつかなかった。あとで考えればいいことだろう。
 それに『枝(一本目)』は出てきた。成功だ。

   枝は上を向いた掌からゆっくりと現れた。

「これは便利だ」

 あっちの世界で使えたら、万引きとかで悪用できそうだな。

「使い方はこれでわかった。とりあえず勇者以外の仕事を見つけよう」

 俺が歩き始めた瞬間、まったく逆の方向からガサッという音が聞こえた。
 こういうときに『気配遮断』とか役に立つんだけど。

 「魔法の使い方もわからない俺にモンスターとか早いぜ……」

 後方にある枝を数本、倉庫に収納しておく。
 魔法が使えなくても、『発射』さえ使えれば……。

「ガルルルゥゥーー」
「おいおい、いきなりボスみたいなやつがお出ましかよ。発射」

 勢いよく俺から発射された細い枝は、巨大な犬みたいなモンスターに狙いを定める。
 モンスターに触れた瞬間、細い枝は簡単に折れた。

 いや、折れるなよ!

「やばい、どうする……」

 こんな細い枝、何本飛ばしたところで意味ないよな……。
 
「リアリルト・アス・サーガ」

 詠唱のような声が後ろから聞こえてきた。
 一振りさえも肉眼で追えないくらいのスピードで、巨大な犬を斬撃したのは、

「ぼく、大丈夫かい?」

 青髪をした青年だった。白い衣装に身を包んでいる青年は、剣を腰に仕舞うと俺の方を見てそう言った。

「こういう時は普通、可愛い女の子が現れる展開だろ……」

 つい不満を口走ってしまった。
 一応見た目は子供だからな。ふりだけでもしておかないと。

「お兄さんありがと! さっきの剣さばきすごかったね!」
「あれは僕の力じゃない。この剣にそういう力があるだけさ」

 剣に力……? 剣装備スキルのようなものか?

「その剣は僕にも使えるの?」
「いいや。この剣はサルトーガ家に伝わる剣でね。今だと僕しか扱えないんだ」

 見たところ騎士か。
 この人についていけば街まで帰れそうだな。

「それで君名前は? ベルガレートの森に迷い込んだのかい?」

 この森はベルガレートの森というのか。
 
「僕はレイ・アキシノ。なんか気付いたらここにいて」
「そうか。……君のような子はあまりここに近づかない方がいいんだけど」

 小さくて何言ってるのか聞こえない。
 まぁ独り言だろうから、詮索する気はないけど。

「あなたは?」
「あ、失礼。騎士たる者が名前を……僕は国家騎士の一人で、七大聖騎士のユルシリア・ノア・サルトーガだ。怠惰の騎士とも呼ばれている」

 怠惰って……めっちゃ仕事してそうなのに。 

「ここらへんに魔精霊が現れたらしくて、今探してるんだ」
「魔精霊?」
「魔精霊というのは……」

 この雰囲気。訊くのまずかったかも。

「別にこれは仕事じゃない。誰かに頼まれたわけでもないんだ。ただ……」
「ごめんなさい。話したくないなら無理に話さなくても大丈夫ですよ」
「すまない。一先ず、君をベルガレートの森から出すよ」

 転生早々、殺されても困るからな。
 ふと、さっきユルシリアが斬ったモンスターの場所が視界に映り込んできた。
 黒紫に光る石。魔石のようなものか?

「――収納」

 あの小さな石を倉庫に入れるくらい、バレないだろう。
 この石をステータスで確認っと。

 そんな俺の方を向き、ユルシリアは笑顔を崩して言った。

「君、今なにをした」
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