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第三章 アップデートしてゆこう
第20話 潮見表(代)をザゼンで〈ハッチャケタ〉
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まずめに釣果が上がる理屈について知った後で、仁海は、閉店間際にやって来た前橋の客が話題にしていた潮見表に記載されている、潮の満ち引きについて、眠くなるまで独りで勉強する事にした。
「知りたいお客さんが来たら、わたし、どうしたらよいのかしら?」
今は置いてありません、と無下に応じてしまった事に仁海は口惜しさを覚えていた。
しかし、紙媒体の潮見表を作っていない今現在、この日のように、潮見表が在るかどうかを客から問われたり、大洗の潮の満ち引きの時刻について知りたい、そんな客が来た場合には、いかにすべきか、仁海は途方に暮れていたのである。
そういえば、書斎にいた父は何かに考えあぐねた時、いきなり、目を閉じたかと思うと、突然、逆立ちやブリッジ、あるいは胡坐をかいて、何かを呟き続け、それから、独り言を止めるや、カッと目を見開いて、「ひらめいたっ!」とか「はっちゃけたっ!」と叫び、その直後、机に戻って、猛烈にキーボードを叩き始めていたものだ。そんな父の様子を、仁海は何度も目にしていたのである。
逆立ちやブリッジと着想の因果関係に関して、仁海はまったく解明できていない。これは、おそらく、ジンクスというか、何かを発想する際の父のルーチンのようなものである、と仁海は理解していた。
そこで、この日の仁海は、父の発想法を真似てみる気になったのである。
だが、仁海以外の誰もいない、他者の目が無い家の中とはいえども、逆立ちやブリッジをするのは、女子高生的には、はしたない行為のように思え、胡坐をかいてみる事にしたのである。
そういえば、高校の先生が、授業の時間的余裕がある時の雑談で、坐禅をする時に、曹洞宗では壁に向かって自己と向かい合う、と語っていたのが急に思い出され、仁海は、曹洞宗流で、壁に向かって胡坐をかいてみる事にした。
……………………………………!
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっちゃけたっ!」
そうだっ!
肝要なのは、紙媒体の潮見表の代わりを新たに用意する事ではなく、書かれている潮の満ち引きの情報それ自体なのだ。
これが、昭和や平成の初めだったならば、干潮の情報は、祖父の店で無料配布していた潮見表頼りだったのかもしれないが、ネット時代である昨今、干潮に関する情報を知る事は比較的容易いはずだ。
そう思って、仁海は、パソコンのブラウザの検索窓に「大洗 干潮」と打ち込んでみた。
!!
ビンゴである。
しかも、日本や茨城県といった広範囲ではなく、大洗というピンポイントの干満の情報を提供しているサイトが幾つかヒットしたのだ。
例えば、『国土交通省・気象庁』が提供している「潮位 大洗」というページには、検索した日を基準に、その後二週間の、一日二回の干潮と満潮の時刻と潮位が記載されていた。
この気象庁のサイトは、場所を変えることもできるし、表示する日付を変えれば、過去のデータを参照する事もでき、表示可能な期間は最大三十五日間という仕様であった。
そういえば、地学の授業で学んだ事なのだが、潮位は、月の満ち欠けと関係があり、朔、新月の時と、望、満月の時に、満潮時と干潮時の潮位の差が最も開く。これが、いわゆる〈大潮〉で、その逆に、干満時の潮位の差が最も狭くなるのが、半月、つまり上弦の月や下弦の月の前後数日で、それが〈小潮〉である。
そこで、仁海は、日付の設定を八月二十七日から九月三十日にしてみた。
この期間の新月は八月二十七日で、満潮の時刻は三時十九分、潮位は一三七センチメートル、干潮は十時十三分で潮位は二十四センチ、計算してみると、その差、百十三センチであった。
そして満月は、満潮が三時二分で、潮位は一五〇センチ、干潮は九時五十七分で、潮位は二十三センチ、差は百二十七センチであった。
その次の新月が九月二十六日で、満潮が三時五十四分で、潮位は一四六センチ、干潮は十時十四分、潮位は四十二センチ、差は百四センチであった。
ここに、新月・満月・上弦の月・下弦の月といった月齢のアイコンが付いて、この表を実に分かり易くしていた。
それから、仁海は、別のページ、『Surf life(サーフ・ライフ)』というサイトも見てみた。
この名称が示唆しているように、このサイトは、サーファー向けのページであるようだ。
このサイトでは、検索日に設定した日の、日別の潮位と波の高さの推移が折れ線グラフになっていて、これが非常に見やすかった。
そして、『気象庁』のページと同じように、設定した期間の情報を参照できるのだが、ここに、月齢の情報はなかった。
このサーファー向けのサイトには、満潮と干潮の時刻と潮位が示されているのは気象庁のページと同じだったのだが、日付の下に、大潮・中潮・小潮・長潮・若潮といった情報が付されており、これは、例えば、大潮の時に釣りに行こうか、と考えている釣り人には必要な情報となろう。
さらに、日の出と日の入の時刻も示されているので、これがあれば、自動的に、朝まずめと夕まずめの時間帯も分かるので、このページは、サーファーのみならず、アングラー、釣り人にも非常に役に立つサイトであるように、仁海には思われた。
この二つのサイトを参照すれば、満潮干潮の時刻や潮位、月齢、潮名、日の出・日の入の時刻など、いつ釣りに行くべきか、を計画する上で、必要にして十分な情報を得る事ができそうだ。
そう思った仁海は、『国土交通省・気象庁』、および、『Surf life』における「大洗」のページをブック・マークし、その後、「河倉漁具店・大洗店」の店用のツイッターのアカウントを作った。そして、毎朝、モエビの水替えを終えた後に、その日の日の出・日の入の〈まずめ〉や、潮名、干満の時刻といった情報をツイートする事にしたのである。
しかし、だ。
祖母のお店の常連客は、御年をめした方がかなり多いので、たとえ、スマフォを持っていたとしても、デジタルな情報ソースにアクセスしたり、ツイッターで店の情報を見る可能性は低いだろう。
だが、毎朝、仁海自身が情報を確認してさえいれば、潮見表の有無を問われた時に、今では存在しない潮見表を渡す事はできなくても、その代わりに、問われた情報を伝える事ができるように仁海には思えた。
そうだ、潮の干満の情報を整理するために店のツイッターを始めよう、これこそが、壁に向かって坐禅をしていた時に仁海が閃いた、その着想内容だったのである。
「知りたいお客さんが来たら、わたし、どうしたらよいのかしら?」
今は置いてありません、と無下に応じてしまった事に仁海は口惜しさを覚えていた。
しかし、紙媒体の潮見表を作っていない今現在、この日のように、潮見表が在るかどうかを客から問われたり、大洗の潮の満ち引きの時刻について知りたい、そんな客が来た場合には、いかにすべきか、仁海は途方に暮れていたのである。
そういえば、書斎にいた父は何かに考えあぐねた時、いきなり、目を閉じたかと思うと、突然、逆立ちやブリッジ、あるいは胡坐をかいて、何かを呟き続け、それから、独り言を止めるや、カッと目を見開いて、「ひらめいたっ!」とか「はっちゃけたっ!」と叫び、その直後、机に戻って、猛烈にキーボードを叩き始めていたものだ。そんな父の様子を、仁海は何度も目にしていたのである。
逆立ちやブリッジと着想の因果関係に関して、仁海はまったく解明できていない。これは、おそらく、ジンクスというか、何かを発想する際の父のルーチンのようなものである、と仁海は理解していた。
そこで、この日の仁海は、父の発想法を真似てみる気になったのである。
だが、仁海以外の誰もいない、他者の目が無い家の中とはいえども、逆立ちやブリッジをするのは、女子高生的には、はしたない行為のように思え、胡坐をかいてみる事にしたのである。
そういえば、高校の先生が、授業の時間的余裕がある時の雑談で、坐禅をする時に、曹洞宗では壁に向かって自己と向かい合う、と語っていたのが急に思い出され、仁海は、曹洞宗流で、壁に向かって胡坐をかいてみる事にした。
……………………………………!
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっちゃけたっ!」
そうだっ!
肝要なのは、紙媒体の潮見表の代わりを新たに用意する事ではなく、書かれている潮の満ち引きの情報それ自体なのだ。
これが、昭和や平成の初めだったならば、干潮の情報は、祖父の店で無料配布していた潮見表頼りだったのかもしれないが、ネット時代である昨今、干潮に関する情報を知る事は比較的容易いはずだ。
そう思って、仁海は、パソコンのブラウザの検索窓に「大洗 干潮」と打ち込んでみた。
!!
ビンゴである。
しかも、日本や茨城県といった広範囲ではなく、大洗というピンポイントの干満の情報を提供しているサイトが幾つかヒットしたのだ。
例えば、『国土交通省・気象庁』が提供している「潮位 大洗」というページには、検索した日を基準に、その後二週間の、一日二回の干潮と満潮の時刻と潮位が記載されていた。
この気象庁のサイトは、場所を変えることもできるし、表示する日付を変えれば、過去のデータを参照する事もでき、表示可能な期間は最大三十五日間という仕様であった。
そういえば、地学の授業で学んだ事なのだが、潮位は、月の満ち欠けと関係があり、朔、新月の時と、望、満月の時に、満潮時と干潮時の潮位の差が最も開く。これが、いわゆる〈大潮〉で、その逆に、干満時の潮位の差が最も狭くなるのが、半月、つまり上弦の月や下弦の月の前後数日で、それが〈小潮〉である。
そこで、仁海は、日付の設定を八月二十七日から九月三十日にしてみた。
この期間の新月は八月二十七日で、満潮の時刻は三時十九分、潮位は一三七センチメートル、干潮は十時十三分で潮位は二十四センチ、計算してみると、その差、百十三センチであった。
そして満月は、満潮が三時二分で、潮位は一五〇センチ、干潮は九時五十七分で、潮位は二十三センチ、差は百二十七センチであった。
その次の新月が九月二十六日で、満潮が三時五十四分で、潮位は一四六センチ、干潮は十時十四分、潮位は四十二センチ、差は百四センチであった。
ここに、新月・満月・上弦の月・下弦の月といった月齢のアイコンが付いて、この表を実に分かり易くしていた。
それから、仁海は、別のページ、『Surf life(サーフ・ライフ)』というサイトも見てみた。
この名称が示唆しているように、このサイトは、サーファー向けのページであるようだ。
このサイトでは、検索日に設定した日の、日別の潮位と波の高さの推移が折れ線グラフになっていて、これが非常に見やすかった。
そして、『気象庁』のページと同じように、設定した期間の情報を参照できるのだが、ここに、月齢の情報はなかった。
このサーファー向けのサイトには、満潮と干潮の時刻と潮位が示されているのは気象庁のページと同じだったのだが、日付の下に、大潮・中潮・小潮・長潮・若潮といった情報が付されており、これは、例えば、大潮の時に釣りに行こうか、と考えている釣り人には必要な情報となろう。
さらに、日の出と日の入の時刻も示されているので、これがあれば、自動的に、朝まずめと夕まずめの時間帯も分かるので、このページは、サーファーのみならず、アングラー、釣り人にも非常に役に立つサイトであるように、仁海には思われた。
この二つのサイトを参照すれば、満潮干潮の時刻や潮位、月齢、潮名、日の出・日の入の時刻など、いつ釣りに行くべきか、を計画する上で、必要にして十分な情報を得る事ができそうだ。
そう思った仁海は、『国土交通省・気象庁』、および、『Surf life』における「大洗」のページをブック・マークし、その後、「河倉漁具店・大洗店」の店用のツイッターのアカウントを作った。そして、毎朝、モエビの水替えを終えた後に、その日の日の出・日の入の〈まずめ〉や、潮名、干満の時刻といった情報をツイートする事にしたのである。
しかし、だ。
祖母のお店の常連客は、御年をめした方がかなり多いので、たとえ、スマフォを持っていたとしても、デジタルな情報ソースにアクセスしたり、ツイッターで店の情報を見る可能性は低いだろう。
だが、毎朝、仁海自身が情報を確認してさえいれば、潮見表の有無を問われた時に、今では存在しない潮見表を渡す事はできなくても、その代わりに、問われた情報を伝える事ができるように仁海には思えた。
そうだ、潮の干満の情報を整理するために店のツイッターを始めよう、これこそが、壁に向かって坐禅をしていた時に仁海が閃いた、その着想内容だったのである。
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