144 / 221
一巡目(二〇二二)
第124匙 やかれたりんご:スマトラカレー共栄堂(D25)
しおりを挟む
神保町駅の〈A5〉から出て、靖国通りの左側を、神田・秋葉原方面に向かって歩いて数分、洋食店にしてビヤホールである「ランチョン」を過ぎたところで、地下へと続く階段を下りると、そこに在るのが、この日の書き手の目的地、「共栄堂」である。
この店こそを、書き手は、今回の「神田カレー街食べ歩きスタンプラリー2022」における一二四店目、すなわち、最後の店に選んだのであった。
カレー街としての神保町には、昭和六十三年創業の「エチオピア」、昭和六十年の「マンダラ」、昭和五十七年の「ガヴィアル」、昭和四十八年の「ボンディ」といった、創業が昭和時代の老舗のカレー店が集まっている。
そして「共栄堂」にいたっては、その創業は大正十三年、西暦に直すと一九二四年と、他の老舗に対して、年号は一つ前の大正で、年数にいたっては五十年、半世紀以上もの開きがあり、すなわち、〈カレーの街〉として名高い神保町界隈における最古の店、老舗中の老舗こそが「共栄堂」なのだ。
そして共栄堂が誇っているのは、その創業の古さだけではなく、他に類をみない、インドネシアのスマトラ島のカレーをベースにした品で、ちなみに、「ベース」といった書き方をしたのは、共栄堂のカレーが、スマトラ島のカレーを日本人の口に合うようにアレンジしているからである。
とまれ、こういった事情を鑑みて、書き手は、ナンバーワンの歴史を持ち、スマトラ・カレーというオンリー・ワンな料理を提供している、大正時代創業の共栄堂こそを、最後の訪問店にしようと、スタンプラリーを始めた当初から考えていたのだ。
この日の書き手は、「エビカレー」を注文し、そしてさらに、〈デセール(食後の品)〉として、これも共栄堂だけの、オンリー・メニューな「焼きリンゴ」を注文する事も忘れなかった。
たしかに、「スタンプラリー2022」は、神田・神保町のカレーの食べ歩き企画で、この随筆の主題も〈カレー〉を主旨としているので、カレー料理とそれに付随する事象以外のデザート、すなわち、食後の品に着目することは、〈蛇足〉であるようにも思われる。
しかしながら、秋から春先にかけての「共栄堂」に関して言及する上で、我々は、一定期間のみ数量限定で注文可能な「焼きりんご」の存在を無視する事はできない。
実は、この「焼きりんご」が食べられるのは、十月から四月の約半年だけなのだ。
おそらくそれは、林檎の収穫時期が、一般的に、八月から十一月だからで、共栄堂の「焼きりんご」の提供時期も必然、秋以降になるのだろう。
年度後半に共栄堂を訪れて、この「焼きりんご」を注文しない事は、『徒然草』にある「仁和寺のある法師」のようなものだろう。
読み手の方々には実際に食べた時に驚いていただきたいので、この場では、敢えて味に関する言及は差し控えさせていただくが、共栄堂の「焼きりんご」を口にすれば、焼き林檎一般、というか、林檎それ自体における味の概念が覆るにちがいない。
つまり、共栄堂の「焼きりんご」は、その提供シーズンが始まったら、必ず「共栄堂」を訪れよう、という決意をさせてくれる、そんな美味さの品なのである。
〈訪問データ〉
スマトラカレー共栄堂;神保町
D25(*Dコース・コンプリート、全店訪店達成)
十二月十四日・水・十八時四十五分
エビカレー(一五〇〇);焼きりんご(六〇〇);二一〇〇円(現金)
〈参考資料〉
「スマトラカレー共栄堂」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、六十三ページ。
〈WEB〉
『スマトラカレー共栄堂』、二〇二三年八月三十一日閲覧。
『カレーなる日々』〈了〉
追記
「スタンプラリー2023」を題材にした『カレイなる日々・二巡目(二〇二三)』の連載も既に開始しています。
続編の方もお読みいただけたら幸いです。
https://kakuyomu.jp/works/16817330660580653938
この店こそを、書き手は、今回の「神田カレー街食べ歩きスタンプラリー2022」における一二四店目、すなわち、最後の店に選んだのであった。
カレー街としての神保町には、昭和六十三年創業の「エチオピア」、昭和六十年の「マンダラ」、昭和五十七年の「ガヴィアル」、昭和四十八年の「ボンディ」といった、創業が昭和時代の老舗のカレー店が集まっている。
そして「共栄堂」にいたっては、その創業は大正十三年、西暦に直すと一九二四年と、他の老舗に対して、年号は一つ前の大正で、年数にいたっては五十年、半世紀以上もの開きがあり、すなわち、〈カレーの街〉として名高い神保町界隈における最古の店、老舗中の老舗こそが「共栄堂」なのだ。
そして共栄堂が誇っているのは、その創業の古さだけではなく、他に類をみない、インドネシアのスマトラ島のカレーをベースにした品で、ちなみに、「ベース」といった書き方をしたのは、共栄堂のカレーが、スマトラ島のカレーを日本人の口に合うようにアレンジしているからである。
とまれ、こういった事情を鑑みて、書き手は、ナンバーワンの歴史を持ち、スマトラ・カレーというオンリー・ワンな料理を提供している、大正時代創業の共栄堂こそを、最後の訪問店にしようと、スタンプラリーを始めた当初から考えていたのだ。
この日の書き手は、「エビカレー」を注文し、そしてさらに、〈デセール(食後の品)〉として、これも共栄堂だけの、オンリー・メニューな「焼きリンゴ」を注文する事も忘れなかった。
たしかに、「スタンプラリー2022」は、神田・神保町のカレーの食べ歩き企画で、この随筆の主題も〈カレー〉を主旨としているので、カレー料理とそれに付随する事象以外のデザート、すなわち、食後の品に着目することは、〈蛇足〉であるようにも思われる。
しかしながら、秋から春先にかけての「共栄堂」に関して言及する上で、我々は、一定期間のみ数量限定で注文可能な「焼きりんご」の存在を無視する事はできない。
実は、この「焼きりんご」が食べられるのは、十月から四月の約半年だけなのだ。
おそらくそれは、林檎の収穫時期が、一般的に、八月から十一月だからで、共栄堂の「焼きりんご」の提供時期も必然、秋以降になるのだろう。
年度後半に共栄堂を訪れて、この「焼きりんご」を注文しない事は、『徒然草』にある「仁和寺のある法師」のようなものだろう。
読み手の方々には実際に食べた時に驚いていただきたいので、この場では、敢えて味に関する言及は差し控えさせていただくが、共栄堂の「焼きりんご」を口にすれば、焼き林檎一般、というか、林檎それ自体における味の概念が覆るにちがいない。
つまり、共栄堂の「焼きりんご」は、その提供シーズンが始まったら、必ず「共栄堂」を訪れよう、という決意をさせてくれる、そんな美味さの品なのである。
〈訪問データ〉
スマトラカレー共栄堂;神保町
D25(*Dコース・コンプリート、全店訪店達成)
十二月十四日・水・十八時四十五分
エビカレー(一五〇〇);焼きりんご(六〇〇);二一〇〇円(現金)
〈参考資料〉
「スマトラカレー共栄堂」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、六十三ページ。
〈WEB〉
『スマトラカレー共栄堂』、二〇二三年八月三十一日閲覧。
『カレーなる日々』〈了〉
追記
「スタンプラリー2023」を題材にした『カレイなる日々・二巡目(二〇二三)』の連載も既に開始しています。
続編の方もお読みいただけたら幸いです。
https://kakuyomu.jp/works/16817330660580653938
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる