カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第124匙 やかれたりんご:スマトラカレー共栄堂(D25)

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 神保町駅の〈A5〉から出て、靖国通りの左側を、神田・秋葉原方面に向かって歩いて数分、洋食店にしてビヤホールである「ランチョン」を過ぎたところで、地下へと続く階段を下りると、そこに在るのが、この日の書き手の目的地、「共栄堂」である。
 この店こそを、書き手は、今回の「神田カレー街食べ歩きスタンプラリー2022」における一二四店目、すなわち、最後の店に選んだのであった。

 カレー街としての神保町には、昭和六十三年創業の「エチオピア」、昭和六十年の「マンダラ」、昭和五十七年の「ガヴィアル」、昭和四十八年の「ボンディ」といった、創業が昭和時代の老舗のカレー店が集まっている。
 そして「共栄堂」にいたっては、その創業は大正十三年、西暦に直すと一九二四年と、他の老舗に対して、年号は一つ前の大正で、年数にいたっては五十年、半世紀以上もの開きがあり、すなわち、〈カレーの街〉として名高い神保町界隈における最古の店、老舗中の老舗こそが「共栄堂」なのだ。
 
 そして共栄堂が誇っているのは、その創業の古さだけではなく、他に類をみない、インドネシアのスマトラ島のカレーをベースにした品で、ちなみに、「ベース」といった書き方をしたのは、共栄堂のカレーが、スマトラ島のカレーを日本人の口に合うようにアレンジしているからである。

 とまれ、こういった事情を鑑みて、書き手は、ナンバーワンの歴史を持ち、スマトラ・カレーというオンリー・ワンな料理を提供している、大正時代創業の共栄堂こそを、最後の訪問店にしようと、スタンプラリーを始めた当初から考えていたのだ。

 この日の書き手は、「エビカレー」を注文し、そしてさらに、〈デセール(食後の品)〉として、これも共栄堂だけの、オンリー・メニューな「焼きリンゴ」を注文する事も忘れなかった。

 たしかに、「スタンプラリー2022」は、神田・神保町のカレーの食べ歩き企画で、この随筆の主題も〈カレー〉を主旨としているので、カレー料理とそれに付随する事象以外のデザート、すなわち、食後の品に着目することは、〈蛇足〉であるようにも思われる。
 しかしながら、秋から春先にかけての「共栄堂」に関して言及する上で、我々は、一定期間のみ数量限定で注文可能な「焼きりんご」の存在を無視する事はできない。

 実は、この「焼きりんご」が食べられるのは、十月から四月の約半年だけなのだ。
 おそらくそれは、林檎の収穫時期が、一般的に、八月から十一月だからで、共栄堂の「焼きりんご」の提供時期も必然、秋以降になるのだろう。

 年度後半に共栄堂を訪れて、この「焼きりんご」を注文しない事は、『徒然草』にある「仁和寺のある法師」のようなものだろう。

 読み手の方々には実際に食べた時に驚いていただきたいので、この場では、敢えて味に関する言及は差し控えさせていただくが、共栄堂の「焼きりんご」を口にすれば、焼き林檎一般、というか、林檎それ自体における味の概念が覆るにちがいない。
 つまり、共栄堂の「焼きりんご」は、その提供シーズンが始まったら、必ず「共栄堂」を訪れよう、という決意をさせてくれる、そんな美味さの品なのである。

〈訪問データ〉
 スマトラカレー共栄堂;神保町
 D25(*Dコース・コンプリート、全店訪店達成)
 十二月十四日・水・十八時四十五分
 エビカレー(一五〇〇);焼きりんご(六〇〇);二一〇〇円(現金)

〈参考資料〉
 「スマトラカレー共栄堂」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、六十三ページ。 
〈WEB〉
 『スマトラカレー共栄堂』、二〇二三年八月三十一日閲覧。



                 『カレーなる日々』〈了〉

追記
 「スタンプラリー2023」を題材にした『カレイなる日々・二巡目(二〇二三)』の連載も既に開始しています。
 続編の方もお読みいただけたら幸いです。

https://kakuyomu.jp/works/16817330660580653938
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