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一巡目(二〇二二)
第121匙 Aジアン・カレーの差異と特徴その5 南インド・ハイデラバード:南インド料理アーンドラ・ダバ(D24)
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二〇二二年現在、インドを構成している、二十九の州、七つの連邦直轄領(UT)、一つの首都圏(NCT)のうち、〈南インド〉に属しているのは、〈タミルナドゥ〉〈カルナタカ〉〈アーンドラ・プラデシュ〉〈テランガーナ〉〈ケララ〉という五つの州、および、〈ポンディシェリ〉〈アンダマン・ニコバル諸島〉という二つの連邦直轄領である。
例えば、同じ九州地方に属しているのは確かだとしても、長崎と沖縄の郷土料理を、〈九州料理〉として一括りにしてしまったとしたら、それは、日本人一般の感覚としては、あまりにも乱暴な分け方だという誹りを免れる事はできないであろう。
これと同じロジックで考えてみると、なるほど確かに、日本では多くの場合、〈南インド料理〉という区分が用いられてはいるものの、その〈七つ〉の州や直轄領の料理がそれぞれ違っているのは当然であろう。
*
南インドの一つの州である、〈ケララ〉の料理を提供している「三燈舎(さんとうしゃ)」を訪れた、その翌日の土曜日の夜、書き手は、神田駅の西口のすぐ近くに在る「アーンドラ・ダバ」を訪れたのであった。
その店名の 「アーンドラ・ダバ(Andhra Dhaba)」における、後半の「ダバ」とは〈(大衆)食堂〉といった意味である。
一方、前半の「アーンドラ」は、インドの南東部に位置し、ベンガル湾に面している「アーンドラ・プラデシュ」という州名から来ている。
現代史的な観点から言うと、実は、インド南東部の〈アーンドラ・プラデシュ州〉と、インド中南部の〈テランガーナ州〉は、十年前まで同じ州だったのだ。
そのアーンドラ・プラデシュ州の創立は一九五六年なのだが、二〇一四年六月二日に、従来のアーンドラ・プラデシュ州の内陸部のテランガーナ地域が分割され、新たに、インド第二十九番目の州として、〈テランガーナ州〉が設立されたのである。
ここで興味深い点があって、新設されたテランガーナ州の州都は、〈テランガーナ州・ハイデラバード県〉の都市である〈ハイデラバード〉に置かれたのだが、この都市は、二〇二二年現在、アーンドラ・プラデシュ州の州都も兼ねているのだ。
元々、分割前のアーンドラ・プラデシュ州の州都はハイデラバードだったのだが、分割後もハイデラバードは州都のままとなっている。ただし、ハイデラバードが、アーンドラ・プラデシュの州都であるのは二〇二四年までで、それ以降は、〈アマラーヴァティー〉に移される事になっている。
つまるところ、テランガーナ州内に位置しているハイデラバードが、アーンドラ・プラデシュの州都であるのは、分割後の移行措置、というか、こう言ってよければ、十年の猶予期間なのである。
しかし翻ってみると、分割後即座に州都を移せないのは、それだけ、ハイデラバードが、アーンドラ・プラデシュにとって重要な都市であったという事の証左なのかもしれない。
さて、書き手は、土曜日のディナータイムに「アーンドラ・ダバ」を訪れたのだが、先に触れた、州分割の話は、卓上に置かれていた説明書きにも記されていた。
その説明の下に、店の幾つかのオススメ・メニューも提示されていたのだが、この中で書き手の注意を最も引いたのが、「土曜日ディナーメニュー」である「ハイデラバード・チキン・ダル・ビリヤーニ」であった。
この品は〈要予約〉だったのだが、スタッフに注文が可能かどうかを確認したところ、大丈夫との返答を得たので、書き手は、二つの州都名を冠した品を頼む事にしたのである。
注文後、説明書をもう少し読み込む事にしたのだが、このスペシャルなメニューは、アーンドラ地方出身の料理人が現地のレシピで作っている品で、「スパイスでマリネし長時間煮込んだチキンと共に炊き上げたパスマティライスに、マサラの香りが広がる」料理であるらしい。
やがて、その南インド・ハイデラバード風の炊き込みご飯が提供されたのだが、なんと、パッと見、肝心のチキンが見当たらないのだ。
これは一体どうした事かと思いながら、米に匙を差し入れたところ、なんと、米の上に置かれているはずと思い込んでいたお肉は、ライスの中に挟み込まれていたのである。
そして、香辛料の効き方も尋常ではなかった。
というのも、神田のアーンドラ・ダバでハイデラバードのビリヤーニを食べた後、書き手は、実家に帰省したのだが、家に着くや否や、身体から漂う香辛料の強い匂いゆえに、妹や甥っ子達に渋い顔をされてしまったからである。
神田の南インド料理店の「マサラの香り」は書き手の実家においてさえ広がってしまったのだ。
だから思ったのだ。
本場のレシピで調理された南インドのビリヤーニを食べる日は、その後のスケジュールも込みで考えねばならないな、と。
〈訪問データ〉
南インド料理アーンドラ・ダバ:神田駅西口
D24
十二月十日・土・十九時
ハイデラバート・チキン・ダム・ビリヤーニー(土曜ディナーメニュー);一六五〇円(QR)
〈参考資料〉
「南インド料理アーンドラ・ダバ」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十三ページ。
〈WEB〉
『[公式] 南インド料理 アーンドラ・ダバ』、二〇二三年八月二十九日閲覧。
例えば、同じ九州地方に属しているのは確かだとしても、長崎と沖縄の郷土料理を、〈九州料理〉として一括りにしてしまったとしたら、それは、日本人一般の感覚としては、あまりにも乱暴な分け方だという誹りを免れる事はできないであろう。
これと同じロジックで考えてみると、なるほど確かに、日本では多くの場合、〈南インド料理〉という区分が用いられてはいるものの、その〈七つ〉の州や直轄領の料理がそれぞれ違っているのは当然であろう。
*
南インドの一つの州である、〈ケララ〉の料理を提供している「三燈舎(さんとうしゃ)」を訪れた、その翌日の土曜日の夜、書き手は、神田駅の西口のすぐ近くに在る「アーンドラ・ダバ」を訪れたのであった。
その店名の 「アーンドラ・ダバ(Andhra Dhaba)」における、後半の「ダバ」とは〈(大衆)食堂〉といった意味である。
一方、前半の「アーンドラ」は、インドの南東部に位置し、ベンガル湾に面している「アーンドラ・プラデシュ」という州名から来ている。
現代史的な観点から言うと、実は、インド南東部の〈アーンドラ・プラデシュ州〉と、インド中南部の〈テランガーナ州〉は、十年前まで同じ州だったのだ。
そのアーンドラ・プラデシュ州の創立は一九五六年なのだが、二〇一四年六月二日に、従来のアーンドラ・プラデシュ州の内陸部のテランガーナ地域が分割され、新たに、インド第二十九番目の州として、〈テランガーナ州〉が設立されたのである。
ここで興味深い点があって、新設されたテランガーナ州の州都は、〈テランガーナ州・ハイデラバード県〉の都市である〈ハイデラバード〉に置かれたのだが、この都市は、二〇二二年現在、アーンドラ・プラデシュ州の州都も兼ねているのだ。
元々、分割前のアーンドラ・プラデシュ州の州都はハイデラバードだったのだが、分割後もハイデラバードは州都のままとなっている。ただし、ハイデラバードが、アーンドラ・プラデシュの州都であるのは二〇二四年までで、それ以降は、〈アマラーヴァティー〉に移される事になっている。
つまるところ、テランガーナ州内に位置しているハイデラバードが、アーンドラ・プラデシュの州都であるのは、分割後の移行措置、というか、こう言ってよければ、十年の猶予期間なのである。
しかし翻ってみると、分割後即座に州都を移せないのは、それだけ、ハイデラバードが、アーンドラ・プラデシュにとって重要な都市であったという事の証左なのかもしれない。
さて、書き手は、土曜日のディナータイムに「アーンドラ・ダバ」を訪れたのだが、先に触れた、州分割の話は、卓上に置かれていた説明書きにも記されていた。
その説明の下に、店の幾つかのオススメ・メニューも提示されていたのだが、この中で書き手の注意を最も引いたのが、「土曜日ディナーメニュー」である「ハイデラバード・チキン・ダル・ビリヤーニ」であった。
この品は〈要予約〉だったのだが、スタッフに注文が可能かどうかを確認したところ、大丈夫との返答を得たので、書き手は、二つの州都名を冠した品を頼む事にしたのである。
注文後、説明書をもう少し読み込む事にしたのだが、このスペシャルなメニューは、アーンドラ地方出身の料理人が現地のレシピで作っている品で、「スパイスでマリネし長時間煮込んだチキンと共に炊き上げたパスマティライスに、マサラの香りが広がる」料理であるらしい。
やがて、その南インド・ハイデラバード風の炊き込みご飯が提供されたのだが、なんと、パッと見、肝心のチキンが見当たらないのだ。
これは一体どうした事かと思いながら、米に匙を差し入れたところ、なんと、米の上に置かれているはずと思い込んでいたお肉は、ライスの中に挟み込まれていたのである。
そして、香辛料の効き方も尋常ではなかった。
というのも、神田のアーンドラ・ダバでハイデラバードのビリヤーニを食べた後、書き手は、実家に帰省したのだが、家に着くや否や、身体から漂う香辛料の強い匂いゆえに、妹や甥っ子達に渋い顔をされてしまったからである。
神田の南インド料理店の「マサラの香り」は書き手の実家においてさえ広がってしまったのだ。
だから思ったのだ。
本場のレシピで調理された南インドのビリヤーニを食べる日は、その後のスケジュールも込みで考えねばならないな、と。
〈訪問データ〉
南インド料理アーンドラ・ダバ:神田駅西口
D24
十二月十日・土・十九時
ハイデラバート・チキン・ダム・ビリヤーニー(土曜ディナーメニュー);一六五〇円(QR)
〈参考資料〉
「南インド料理アーンドラ・ダバ」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十三ページ。
〈WEB〉
『[公式] 南インド料理 アーンドラ・ダバ』、二〇二三年八月二十九日閲覧。
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