カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第107匙 炭水化物カレーの究極形:麺匠釜善(E21)

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 十一月最後の平日の夜、書き手は、淡路町駅で東京メトロの丸ノ内線から降りると、そのまま〈神田一八通り〉に入り、その細い路地を進んでいった。
 この時の書き手の目的地こそが「麺匠釜善(めんしょう・かまよし)」である。

 WEB版の『ガイドブック』によると、二〇二二年時点における閉店時刻は二〇時半だったのだが、書き手の店着は、ラスト・オーダー一時間前の十九時頃であった。そして、書き手は、〈運良く〉待たずに入店する事ができたのである。

 ここで、書き手が「運よく」と強調した事には理由がある。

 二〇一六年の十月に開店した「釜善」さんは、そもそも座席が、カウンター六席、テーブル四卓、合計十四席の然して大きくはない店なのだが、そういった店の規模を括弧に入れたとしても、客が行列を為す〈超〉人気店で、二〇二〇年には「うどんTOKYO百名店」に選出されさえしている。

 この「釜善」のうどんの特徴とは、端的に言うと、讃岐うどんと博多うどんの融合なのだ。
 麺に関しては、「都内最強クラスのコシ」とさえ評されている、しっかりしたコシの強い〈讃岐うどん〉の太めの麺を使っているそうだ。その麺は、香川県産の小麦を独自配合した自家製麺で、「前の晩に打って練った上で一晩寝かせ、その日の朝に再度練ることで、見事なコシ」を生じさせているそうだ。ちなみに、ご店主は、香川県に在る、一日に四千人が行列をつくるという讃岐うどんの老舗、「うどん本陣 山田家」で修業なされたそうである。
 その一方で、出汁に関しては、魚介の旨味がしっかりしていて、「アゴ(とびうお)を中心に昆布やかつおなどでとっている」、博多うどんの〈黄金出汁〉であるらしい。これは、店主が福岡県大牟田市出身である事が影響していよう。ちなみに、トッピングに、ごぼう天があるのも、福岡出身ゆえの事であろう。

 とまれかくまれ、このような讃岐と博多の融合という特徴的なうどんを提供している人気店なので、ラスト・オーダーの一時間前においても、入店は閉店ぎりぎりになるのではないか、そんな覚悟を抱きながら、書き手は淡路町駅を降りたのである。

 さらに、「運よく」と強調したのは、列に並ばずに済んだ、というだけではなく、うどんそのものが無くなってはいなかった事もその理由である。
 
 「釜善」さんは、ツイッターやフェイス・ブックなどのSNSもやっているのだが、仮に、提供すべきうどんが無くなり、閉店せざるを得なくなった場合には、これらにおいて、〈うどん枯れ〉の情報を出してくれるのだ。そして、そのような自体は、決して珍しくない事なのである。

 店は、入店前に先ず券売機で希望する品の食券を事前購入するスタイルなのだが、カレー関連メニューに関しては、「32.カレーうどん」、「33,カレーつけ麺」、「34.カレーライスうどん」の三種類であった。
 この訪店時の店のメニュー表記によると、二〇二二年十一月末の時点においては、全メニューの中で二番人気なのが「カレーうどん」で、その特徴は、『ガイドブック』の店紹介ページによると、カレーうどんは、店主が「試行錯誤の末に辿り着いた」一品であるそうだ。そして、その特徴とは、「うどん屋ならではの厳選した素材を使用した出汁をベースに、深いコクと旨みをたっぷり詰め込んだ」、そんな「旨みたっぷりの出汁」が効いた濃厚なカレーうどん、との事であった。とまれ、この日の書き手は、カレーうどんに、ご飯がプラスされた、「カレーライスうどん」を迷わずに注文したのであった。
 そして、量に関しては、「特盛(500g)」にした。ちなみに、うどんのサイズは「小盛(200g)」、「中盛(300g)」、「大盛(400g)」、「特盛(500g)」まであって、「特盛」までが無料なのである。

 食券を店のスタッフに渡した際に、「カレーライスうどん(特盛)」は量が多いけれど大丈夫かどうか尋ねられたのだが、書き手は、普段から、それなりの量を食べているので、そのまま「特盛」でお願いしたのであった。

 やがて間もなく、注文した「カレーライスうどん(特盛)」が提供された。
 白地に藍色の模様の器が提供されたのだが、書き手の目に見えているのは、表面のカレーと真ん中のネギだけであった。箸を入れてみると、太い麺の讃岐うどんは、そのカレーの下に沈んでいたのだ。
 あれっ! ところで、お米は?
 書き手は、別椀に入ったご飯が提供されると思っていたのだが、そうではなかった。
 実は、お米は、器の底面、うどんの下に敷き詰められていたのである。

 ここまでカレー提供店を巡ってきて、汁気が多めのカレーは、結局、最後にお米を入れて、おじや風、あるいは、リゾット風にして食べるのが至高という結論に書き手は達していた。それは、カレー汁を余すことなく食べ切るには、ごはんでカレーを吸い取るのがベターだし、また、カレーを染み込ませたご飯が実に美味いと感じていたからである。
 だからこそ、書き手は、「カレーライスうどん」を注文した次第なのだが、カレー汁にごはんを漬ける、そのような食べ方に達したのが、当然、書き手だけであろうはずがない。
 だから、「釜善」では、器の底に敷き詰められたご飯の上のうどん、その二種の炭水化物がカレーに漬け込まれているような、ある意味、カレー料理の究極系になっているのであろう。
 つまり、ご飯を、最後の最後に汁に入れるのではなく、最初からカレー汁に入れておいた方が、米に汁が十分に染み込むのは、当たり前といえば当たり前の事なのである。

 かくして、書き手は、カレーうどんを食した後に、ライスカレーを食べ、うどんと米という炭水化物のダブルヘッダーを、「カレーライスうどん」一食で味わったのである。
 ちなみに、事実上、特盛のカレーうどんの後にライスカレーを食べる分けだから、店員さんに大丈夫かどうか先ず尋ねられるのは当然である事も、ここに書き添えておく事にしよう。

〈訪問データ〉
 麺匠釜善;淡路町・神田
 E21
 十一月三十日・水・十九時十五分
 カレーライスうどん;一一〇〇円(現金)

〈参考資料〉
 「麺匠釜善」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、五十二ページ。 
 〈WEB〉 
 「麺匠釜善」、『東京うどん日和』、テーブルマーク株式会社、二〇二三年七月十六日閲覧。
 『うどん本陣 山田家』、二〇二三年七月十六日閲覧。
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