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一巡目(二〇二二)
第106匙 プぺ・で・キュリー:プペ(B25)
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十一月の最終日の水曜日の早朝の事であった。
書き手は、いつもよりも早い時刻に家を出て、東京メトロを利用し、東西線の竹橋駅で下車すると、その駅に近接している喫茶店「プペ」に向かったのであった。
この喫茶店は、二〇二二年のスタンプラリー開催期間において、平日に関しては、朝の七時から夕方の十六時(ラスト・オーダー)まで営業されているのだが、七時から九時(L.O.)までのモーニング、十一時半から十四時(L.O.)までのランチ、そして、十四時から十六時(L.O.)までの間、別の言い方をすると、〈九時から十一時半〉の時間帯以外は、カレー・メニューが提供されているからである。
つまるところ、「プペ」は、朝からカレーを食べる事ができる貴重な店で、書き手が、平日の水曜日に「プペ」を訪れんと欲した場合、九時前のモーニングの時間帯にしか訪店機会がなかった事が、この日の〈朝カレー〉の理由なのであった。
「プペ」は、実にこじんまりした喫茶店で、〈神田警察通り〉と並行して走っている、神田錦町の広くない路地に面しており、そのため、場所は少し分かりにくいのだが、しかしながら、この店に隣接している、パンダの乗り物が目印の〈キンキン広場〉と、店名の由来にもなっており、店のアイコンにもなっている、女給をモチーフにした、独特の絵によって、すぐに見付ける事ができた。
ちなみに、店の看板には、その個性的な女給さんの絵のすぐ側に「POUPÉE」というフランス語の単語が添えられていた。
その「POUPÉE(プペ)」とは、フランス語で〈人形〉を意味している名詞である。
さて、この「プペ」、現在は、二代目の若店主によって経営されているのだが、そもそもは、一九七〇年にまで遡る事ができ、訪店時点において「創業五十二年」を誇っている。
ちなみに、日本人にとって、〈プペ〉と言えば、世界中で大ヒットした、フランスの女性アイドル、フランス・ギャルが歌った「Poupée de cire, poupée de son(プペ・ドゥ・シール、プペ・ドゥ・ソン)」(邦題「夢見るシャンソン人形」)として、半世紀前の日本人には馴染みある単語であるかもしれない。
この「夢見るシャンソン人形」がフランスで発売されたのが〈一九六五年〉、日本でも、同年の八月十日に発売され、一か月半で二十万枚を売り上げる程、大ヒットしたそうだ。そして、その流行ぶりは、数多くの日本人歌手によって、日本語の歌詞版でカヴァーされた事によっても裏打ちされていよう。
とまれかくまれ、「夢見るシャンソン人形」の日本での流行が一九六五年で、「プペ」の創業が一九七〇年という事を鑑みると、もしかしたら、店名の由来は、フランス・ギャルが歌った「プペ・ドゥ・シール、プペ・ドゥ・ソン」である可能性もある。もっとも〈プペ〉は、フランス語の普通名詞なので、ただ単に、〈人形〉という語を、フランス語に置き換えただけかもしれないが。
さて、いつものガイドブックによると、〈人形〉を意味する喫茶店「プペ」では、半世紀以上前の創業当初から、「変わらぬシンプルでありながら手間を惜しまぬ製法」の、プペ「でしか味わえないプペ特製カレー」を提供し続けてきたらしい。
このプぺ特製カレーは、創業時に、ホテルの料理人から伝えられたレシピで作っているカレーで、その創業当時から守り続けている作り方とは、「特注のラードと小麦粉をじっくり炒め」てルーを作り、このルーをベースに、「玉ねぎや大量のリンゴとにんじんのピューレを加え、半日かけて煮込」み、完成までに三日かけているらしい。
「プぺ」が、創業五十二年ということは、その当時に大学一年生、十八歳だった者は、今や七十歳、子供はもちろん孫さえいる年齢になっている事になる分けだから、こう言ってよければ、当人から子、子から孫、家族三代で、プぺの特製カレーを愛し続けている家族も世の中にはいるかもしれない。
だから、プぺを支え続けているのは、創業当時から変わらぬ味の、一族で愛され続け得るカレーと言っても過言ではないかもしれない。
プぺの客席は一階と二階があるのだが、その一階は、半世紀前の創業時と同じ机と椅子を使っているらしい。
実は、書き手は、Bコースの二十五店目、最後の一軒を、この半世紀の歴史ある喫茶店、「プぺ」さんにしようと前々から決めていた。
それは、一九七〇年から使われている机と椅子に身を置き、半世紀以上の歴史を持つカレーに匙を入れながら、その五十二年の歴史それ自体を味合わんと欲していたからなのだ。
〈訪問データ〉
プペ;竹橋
B25
十一月三十日・水・八時四十五分
プぺ特製カレー;一〇〇〇円(現金)
〈参考資料〉
「プペ」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、二十四ページ。
〈楽曲〉
「プぺ・ド・シール・プペ・ド・ソン(邦題:夢見るシャンソン人形)」、フランス・ギャル(歌唱)、セルジュ・ゲンスブール(作詞・作曲)、一九六五年リリース。
〈WEB〉
「絶品ランチで働く人々の胃袋を支える、神田錦町『喫茶プぺ』」、『さんたつ by 散歩の達人』(更新日二〇二一年四月二十八日)、二〇二三年七月十五日閲覧。
書き手は、いつもよりも早い時刻に家を出て、東京メトロを利用し、東西線の竹橋駅で下車すると、その駅に近接している喫茶店「プペ」に向かったのであった。
この喫茶店は、二〇二二年のスタンプラリー開催期間において、平日に関しては、朝の七時から夕方の十六時(ラスト・オーダー)まで営業されているのだが、七時から九時(L.O.)までのモーニング、十一時半から十四時(L.O.)までのランチ、そして、十四時から十六時(L.O.)までの間、別の言い方をすると、〈九時から十一時半〉の時間帯以外は、カレー・メニューが提供されているからである。
つまるところ、「プペ」は、朝からカレーを食べる事ができる貴重な店で、書き手が、平日の水曜日に「プペ」を訪れんと欲した場合、九時前のモーニングの時間帯にしか訪店機会がなかった事が、この日の〈朝カレー〉の理由なのであった。
「プペ」は、実にこじんまりした喫茶店で、〈神田警察通り〉と並行して走っている、神田錦町の広くない路地に面しており、そのため、場所は少し分かりにくいのだが、しかしながら、この店に隣接している、パンダの乗り物が目印の〈キンキン広場〉と、店名の由来にもなっており、店のアイコンにもなっている、女給をモチーフにした、独特の絵によって、すぐに見付ける事ができた。
ちなみに、店の看板には、その個性的な女給さんの絵のすぐ側に「POUPÉE」というフランス語の単語が添えられていた。
その「POUPÉE(プペ)」とは、フランス語で〈人形〉を意味している名詞である。
さて、この「プペ」、現在は、二代目の若店主によって経営されているのだが、そもそもは、一九七〇年にまで遡る事ができ、訪店時点において「創業五十二年」を誇っている。
ちなみに、日本人にとって、〈プペ〉と言えば、世界中で大ヒットした、フランスの女性アイドル、フランス・ギャルが歌った「Poupée de cire, poupée de son(プペ・ドゥ・シール、プペ・ドゥ・ソン)」(邦題「夢見るシャンソン人形」)として、半世紀前の日本人には馴染みある単語であるかもしれない。
この「夢見るシャンソン人形」がフランスで発売されたのが〈一九六五年〉、日本でも、同年の八月十日に発売され、一か月半で二十万枚を売り上げる程、大ヒットしたそうだ。そして、その流行ぶりは、数多くの日本人歌手によって、日本語の歌詞版でカヴァーされた事によっても裏打ちされていよう。
とまれかくまれ、「夢見るシャンソン人形」の日本での流行が一九六五年で、「プペ」の創業が一九七〇年という事を鑑みると、もしかしたら、店名の由来は、フランス・ギャルが歌った「プペ・ドゥ・シール、プペ・ドゥ・ソン」である可能性もある。もっとも〈プペ〉は、フランス語の普通名詞なので、ただ単に、〈人形〉という語を、フランス語に置き換えただけかもしれないが。
さて、いつものガイドブックによると、〈人形〉を意味する喫茶店「プペ」では、半世紀以上前の創業当初から、「変わらぬシンプルでありながら手間を惜しまぬ製法」の、プペ「でしか味わえないプペ特製カレー」を提供し続けてきたらしい。
このプぺ特製カレーは、創業時に、ホテルの料理人から伝えられたレシピで作っているカレーで、その創業当時から守り続けている作り方とは、「特注のラードと小麦粉をじっくり炒め」てルーを作り、このルーをベースに、「玉ねぎや大量のリンゴとにんじんのピューレを加え、半日かけて煮込」み、完成までに三日かけているらしい。
「プぺ」が、創業五十二年ということは、その当時に大学一年生、十八歳だった者は、今や七十歳、子供はもちろん孫さえいる年齢になっている事になる分けだから、こう言ってよければ、当人から子、子から孫、家族三代で、プぺの特製カレーを愛し続けている家族も世の中にはいるかもしれない。
だから、プぺを支え続けているのは、創業当時から変わらぬ味の、一族で愛され続け得るカレーと言っても過言ではないかもしれない。
プぺの客席は一階と二階があるのだが、その一階は、半世紀前の創業時と同じ机と椅子を使っているらしい。
実は、書き手は、Bコースの二十五店目、最後の一軒を、この半世紀の歴史ある喫茶店、「プぺ」さんにしようと前々から決めていた。
それは、一九七〇年から使われている机と椅子に身を置き、半世紀以上の歴史を持つカレーに匙を入れながら、その五十二年の歴史それ自体を味合わんと欲していたからなのだ。
〈訪問データ〉
プペ;竹橋
B25
十一月三十日・水・八時四十五分
プぺ特製カレー;一〇〇〇円(現金)
〈参考資料〉
「プペ」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、二十四ページ。
〈楽曲〉
「プぺ・ド・シール・プペ・ド・ソン(邦題:夢見るシャンソン人形)」、フランス・ギャル(歌唱)、セルジュ・ゲンスブール(作詞・作曲)、一九六五年リリース。
〈WEB〉
「絶品ランチで働く人々の胃袋を支える、神田錦町『喫茶プぺ』」、『さんたつ by 散歩の達人』(更新日二〇二一年四月二十八日)、二〇二三年七月十五日閲覧。
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