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一巡目(二〇二二)
第99匙 日本人の料理人が作るケララのカレー:Spice Box(B22)
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土曜日の書き手は、メトロの神保町駅で途中下車した後、「神田警察通り」を神田駅方面に向かって、ひたすら真っ直ぐに進んだ。それから、「千代田通り」を渡り、さらに、都道403号、いわゆる「本郷通り」を過ぎた後の、神田警察通りの右側に位置しているのが、この日の目当てのカレー専門店、「Spice Box(スパイス・ボックス)」である。
スパイス・ボックスが位置している神田警察通りは、たしかに、狭い道ではないものの、このエリアの目抜通りである靖国通りに比べると、交通量は決して多い分けではなく、どちらかというと、〈裏の大通り〉といった印象の道である。こう言ってよければ、スパイス・ボックスは、歩いていたら、たまたま看板を見かけ、気になったのでパッと入ってみた、といったタイプの店ではなく、敢えて、この店のカレーを食べるためにわざわざ足を運ぶ、そんな感じの店なのだ。
事実、スパイス・ボックスは、『神田カレーグランプリ2018』の際に、第三位と、スタンプラリーを回っているカレー・ラヴァーが選ぶ、「神田カレーマイスター賞」を受賞した店であり、さらに、オフィス街というこのエリアにあって、土曜日のランチタイムにさえ混雑ぶりを見せている。ちなみに、土曜日の店の前には、来店者の物と思しき高級車が停車しており、こうした事実は、スパイス・ボックスのカレーを好むカレー・ラヴァーが数多く存在している事を示唆していよう。
件のカレー・ガイドブックによると、スパイス・ボックスは、南インド料理店で、「ケララ州の5ツ星ホテルで腕を磨いたシェフが、日本人の舌にもなじむ南インド料理を化学調味料や添加物を使わずに丹精込めて作」っているのだそうだ。
つまり、この店は、インドで修業した日本人の料理人が運営するレストランなのだが、実際に、店を訪れてみて興味深かった点があった。
これまで書き手が訪れたアジア系のレストランでは、料理人もスタッフも全員が外国人であったり、料理人が外国人で、スタッフの中に日本人がいたりする店が多かったのだが、スパイス・ボックスでは、南インド料理を作っている料理人が日本人であるのに対して、注文を取りにきたり、皿を供するスタッフの方が外国人なのである。
これまで、この点に関して、特に意識してはこなかったのだが、例えば、日本におけるアジアン・レストランで、料理人が日本人、スタッフは外国人という逆転現象が起こっている場合、一体その背景にはどのような理由があるのか思考を巡らせてみるのも一興だ、と書き手は思ったのであった。
さて、スパイス・ボックスが提供しているランチ・メニューには「1種のカレー(一〇〇〇円)」と「2種のカレー(一五〇〇円)」があって、五種類あるカレーのうちからチョイスする、というスタイルになっている。
選択肢は、チキンカレー(甘口)、チキンカレー(辛口)、野菜とダル(豆)のカレー(中辛)、フィッシュカレー、そして本日のカレーの五種類で、ちなみに、「フィッシュ」選択の場合は、プラス二〇〇円(2種のカレーの時には、プラス一〇〇円)、「本日のカレー」を選ぶ場合には、カレーの内容に応じて価格が変動する、との事であった。
初来店の店でのカレーの選択は、いつも悩みどころで、書き手は、ガイドブックで〈推〉されていたカレーを選ぶ事が多いのだが、しかし、ガイドブックのおススメは「2種のカレー」というランチ・メニューのタイプで、具体的なカレーではなかった。
しかし来店した際に、店内の黒板に手書きで書かれていた、本日のカレー、「スパイシーホルモン」の文字が目に入った瞬間、書き手のカレーの選択の懊悩は、一瞬で消え去ってしまったのであった。
もはや、これ以外に選択肢はない。
この日のカレーの「スパイシーホルモン」は「やや辛口」で、「ホルモンがクセになる」が売り文句になっていた。
注文後の待ち時間のあいだ、書き手の期待度がどんどん高まっていった。
やがて、白い皿の上に島状のライス、さらに、その皿の上に、カレーが入った舟形の白い器が置かれた、カレー・ライスが提供された。
ライスとカレーが別々の容器になっているのは確かなのだが、カレーの器が、白米が載っている大きな平皿の上に置かれて、結果、ワンプレートのようになっているのは、実に面白い趣向であるように思えた。
銀の皿ではないが、ターリーに近いイメージなのであろうか?
とまれかくまれ、容器に関心を示すのは程々にして、目の前のカレーを食す事に心を移そう。
!
焦茶色のやや辛めのカレーソースは、スパイスが割とはっきりと主張しているような印象だったのだが、それが、具材となったコリッコリのホルモンと絶妙にマッチしていて、これは、売り文句通りに、やみつきになりかねない食感であった。
このホルモンカレーは「本日のカレー」なので、急に食べたくなったとしても、次いつ出逢えるか分からない品なのだが、再訪した時に、「本日」が「スパイシーホルモン」だったら、書き手は、きっと「スパイシーホルモン」を注文するに違いない、間違いない。
〈追記〉
二〇二三年の四月になって、書き手は、約五か月ぶりにスパイス・ボックスを訪れた。
この再訪時に書き手が注文したのは「野菜とダルのカレー」である。
書き手は、インド・カレー店では、ベジタリアン系のカレーを注文する事が多いのだが、店のメニューによると、ここのカレーは、「一日の野菜摂取量3/2(約230g)が一度に摂れる体に優しくもスパイシーなカレー。たっぷりの野菜とムングダル(緑豆)が入っています。キリッとした辛みがあります」が売り文句になっていた。
注文してほとんど待つ事なく、皿が提供されたのだが、前回同様に、島状のライスとカレーが入った舟形の容器が置かれた大きな白い平皿が提供されたのであった。
この日、改めて気付いたのは、なんと、ライスと、カレーが入った器の大きさが、殆ど同じだった点だ。
こういった事に、面白さを覚える書き手であった。
〈訪問データ〉
Spice Box;神田・小川町
B22
十一月二十六日・土・十三時半
スパイシーホルモンカレー :一三〇〇円(現金)
〈再訪〉
二〇二三年四月十一日・火・十一時十五分
野菜とダル(豆)のカレー(1種のカレーセット):一〇〇〇円(現金)
〈参考資料〉
「Spice Box」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十一ページ。
スパイス・ボックスが位置している神田警察通りは、たしかに、狭い道ではないものの、このエリアの目抜通りである靖国通りに比べると、交通量は決して多い分けではなく、どちらかというと、〈裏の大通り〉といった印象の道である。こう言ってよければ、スパイス・ボックスは、歩いていたら、たまたま看板を見かけ、気になったのでパッと入ってみた、といったタイプの店ではなく、敢えて、この店のカレーを食べるためにわざわざ足を運ぶ、そんな感じの店なのだ。
事実、スパイス・ボックスは、『神田カレーグランプリ2018』の際に、第三位と、スタンプラリーを回っているカレー・ラヴァーが選ぶ、「神田カレーマイスター賞」を受賞した店であり、さらに、オフィス街というこのエリアにあって、土曜日のランチタイムにさえ混雑ぶりを見せている。ちなみに、土曜日の店の前には、来店者の物と思しき高級車が停車しており、こうした事実は、スパイス・ボックスのカレーを好むカレー・ラヴァーが数多く存在している事を示唆していよう。
件のカレー・ガイドブックによると、スパイス・ボックスは、南インド料理店で、「ケララ州の5ツ星ホテルで腕を磨いたシェフが、日本人の舌にもなじむ南インド料理を化学調味料や添加物を使わずに丹精込めて作」っているのだそうだ。
つまり、この店は、インドで修業した日本人の料理人が運営するレストランなのだが、実際に、店を訪れてみて興味深かった点があった。
これまで書き手が訪れたアジア系のレストランでは、料理人もスタッフも全員が外国人であったり、料理人が外国人で、スタッフの中に日本人がいたりする店が多かったのだが、スパイス・ボックスでは、南インド料理を作っている料理人が日本人であるのに対して、注文を取りにきたり、皿を供するスタッフの方が外国人なのである。
これまで、この点に関して、特に意識してはこなかったのだが、例えば、日本におけるアジアン・レストランで、料理人が日本人、スタッフは外国人という逆転現象が起こっている場合、一体その背景にはどのような理由があるのか思考を巡らせてみるのも一興だ、と書き手は思ったのであった。
さて、スパイス・ボックスが提供しているランチ・メニューには「1種のカレー(一〇〇〇円)」と「2種のカレー(一五〇〇円)」があって、五種類あるカレーのうちからチョイスする、というスタイルになっている。
選択肢は、チキンカレー(甘口)、チキンカレー(辛口)、野菜とダル(豆)のカレー(中辛)、フィッシュカレー、そして本日のカレーの五種類で、ちなみに、「フィッシュ」選択の場合は、プラス二〇〇円(2種のカレーの時には、プラス一〇〇円)、「本日のカレー」を選ぶ場合には、カレーの内容に応じて価格が変動する、との事であった。
初来店の店でのカレーの選択は、いつも悩みどころで、書き手は、ガイドブックで〈推〉されていたカレーを選ぶ事が多いのだが、しかし、ガイドブックのおススメは「2種のカレー」というランチ・メニューのタイプで、具体的なカレーではなかった。
しかし来店した際に、店内の黒板に手書きで書かれていた、本日のカレー、「スパイシーホルモン」の文字が目に入った瞬間、書き手のカレーの選択の懊悩は、一瞬で消え去ってしまったのであった。
もはや、これ以外に選択肢はない。
この日のカレーの「スパイシーホルモン」は「やや辛口」で、「ホルモンがクセになる」が売り文句になっていた。
注文後の待ち時間のあいだ、書き手の期待度がどんどん高まっていった。
やがて、白い皿の上に島状のライス、さらに、その皿の上に、カレーが入った舟形の白い器が置かれた、カレー・ライスが提供された。
ライスとカレーが別々の容器になっているのは確かなのだが、カレーの器が、白米が載っている大きな平皿の上に置かれて、結果、ワンプレートのようになっているのは、実に面白い趣向であるように思えた。
銀の皿ではないが、ターリーに近いイメージなのであろうか?
とまれかくまれ、容器に関心を示すのは程々にして、目の前のカレーを食す事に心を移そう。
!
焦茶色のやや辛めのカレーソースは、スパイスが割とはっきりと主張しているような印象だったのだが、それが、具材となったコリッコリのホルモンと絶妙にマッチしていて、これは、売り文句通りに、やみつきになりかねない食感であった。
このホルモンカレーは「本日のカレー」なので、急に食べたくなったとしても、次いつ出逢えるか分からない品なのだが、再訪した時に、「本日」が「スパイシーホルモン」だったら、書き手は、きっと「スパイシーホルモン」を注文するに違いない、間違いない。
〈追記〉
二〇二三年の四月になって、書き手は、約五か月ぶりにスパイス・ボックスを訪れた。
この再訪時に書き手が注文したのは「野菜とダルのカレー」である。
書き手は、インド・カレー店では、ベジタリアン系のカレーを注文する事が多いのだが、店のメニューによると、ここのカレーは、「一日の野菜摂取量3/2(約230g)が一度に摂れる体に優しくもスパイシーなカレー。たっぷりの野菜とムングダル(緑豆)が入っています。キリッとした辛みがあります」が売り文句になっていた。
注文してほとんど待つ事なく、皿が提供されたのだが、前回同様に、島状のライスとカレーが入った舟形の容器が置かれた大きな白い平皿が提供されたのであった。
この日、改めて気付いたのは、なんと、ライスと、カレーが入った器の大きさが、殆ど同じだった点だ。
こういった事に、面白さを覚える書き手であった。
〈訪問データ〉
Spice Box;神田・小川町
B22
十一月二十六日・土・十三時半
スパイシーホルモンカレー :一三〇〇円(現金)
〈再訪〉
二〇二三年四月十一日・火・十一時十五分
野菜とダル(豆)のカレー(1種のカレーセット):一〇〇〇円(現金)
〈参考資料〉
「Spice Box」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十一ページ。
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