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一巡目(二〇二二)
第94匙 馬鈴薯と香辛料:エチオピア神田神保町本店(E18)
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二十一時に缶詰状況から解放された後に、書き手が一路向かったのは、件の神保町のデルタゾーンで、靖国通りを底辺に見立てた場合、その右辺に当たる坂道を登った先にあるのが、「カリーライス専門店エチオピア」である。
それにしても、だ。
この店は、インド風カリー提供店であるにもかかわらず、何故に、アフリカの国名が店名になっているのか?
この疑問に対する店側の回答が、『エチオピア』のホームページの「会社概要」において為されていた。
創業が昭和六十三年四月、今から約三十五年前の一九八八年、ソウルオリンピックの年にまで遡る事ができる「エチオピア」は、その開店時においては、カリーのみならずコーヒーの専門店でもあって、つまるところ、店名は、エチオピアのカリーではなく、エチオピアの〈コーヒー〉に由来しているそうなのだ。
そして、カリーとコーヒーの店であった事の痕跡は、創業当初から掲げられている看板の中に残っている「自家焙煎珈琲」という文字によって示唆されている分けだ。
書き手は、エチオピアへの来店が初だったので、御多分に洩れず、インド風カリー提供店という実態と「エチオピア」という店名のギャップに疑問を抱いたのだが、かくの如き説明で疑問は氷解した。そして同時に思ったのは、書き手と同じような疑問を抱く訪問者も多いのだな、という感想であった。
さて、この日の書き手が注文したのは、ガイドブックにおいて推されていた「野菜豆カリー」であった。
店内には、一品ずつ調理しているので提供まで時間がかかる場合がある、という掲示がある。
エチオピアでは、注文後に外国人のスタッフが、前菜の如き〈じゃがいも〉を出してくれる。つまり、客は、このじゃがいもを食べながら、料理の提供を待つ事になる。
書き手は、皮を剥いて、塩やスパイスソルトを振り掛けて、じゃがいもをパクついた。このじゃがいもは、無料でお代わり可能なのだが、書き手は、カリーの前に満腹にならないように、出された二個だけで我慢したのであった。
ちなみに、じゃがいもの提供の前、つまり、食券を渡す際に、スタッフから、カリーの辛さを訊かれる。
エチオピアのカリーの辛さは、〇から七〇まである。つまり、辛さのレベルがは七十一段階になっている分けだ。こう見ると、一桁の辛さは大して辛くないように思えてしまうのだが、実際問題、例えば、適当に〈五〉で頼んでしまうと、エライ事になりかねない。
これは、入り口や店内の掲示物にも書かれているのだが、エチオピアでは、〈〇〉が通常の中辛、〈三〉が辛口、〈十二〉が大辛で、つまり、エチオピアは、甘口が存在しない、辛口カリー店と言って良いかもしれない。
店の入り口には、エチオピアのカリーに使われている香辛料が、その効能と共に記載されていて、その掲示物によると、それらは、カルダモン、コリアンダー、生姜、唐辛子、シナモン、キャラウエイ、フェンネル、クミンシード、ターメリック、胡椒、にんにく、クローブなどである。
やがて提供された野菜豆カリーは、ライスとカリーがセパレートになっていた。
書き手は、まず、野菜と豆がたっぷり入ったカリーを口に運んだ。
掲示物には豆カレーは辛さ〈三〉からとあったので、〈三〉で頼んだのだが、三は通常の辛口なので、やはり相当辛く感じた。
そして、味を確かめてから、ライスにカリーをかけながら、ただひたすら、匙で米とカリーを口に運び続けた。
食べ進めているうちに、発汗作用のある唐辛子とシナモンが効いてきたのか、身体の中から熱くなってきて、やがて、顔や頭の先から、尋常ではない量の汗が吹き出す、そのような皮膚感覚に襲われたのであった。
当然、口の中もヒリヒリである。
かなりの辛さを覚えた書き手は、ヒリヒリ感をライスで抑えようと、後半に多めの白米を残す戦術を採ったのだが、完食し、皿の上の「エチオピア」の文字が見えてしばらく経っても、辛さのせいでヒリっとした感覚はしばらく口内に残り続けたのであった。
次回は、ライスを大盛りにするべきかもしれない。
〈追記〉
書き手は、翌年の三月二十五日の夜に、エチオピアの神保町本店を再訪した。
二回目の訪問の際に、書き手は「エビカリー」を辛さ〈二〉で注文した。
今後、辛さに関しては、耐えられるレヴェルまで、訪店回数と辛さを対応させよう、と考えている。
さて、二度目の訪店は土曜日という事もあってか、東京以外から来ている人や初めてのお客が多い印象を受けた。というのも、辛さやじゃがいもの食べ方について、スタッフに質問している方が多く見られたからである。
辛さに関しては、掲示もあったので書き手は既にある程度理解していたのだが、じゃがいもに関しては、新たな知見が二つもあった。
まず一つ目は、書き手は、じゃがいもを皮を剥いてから食べていたのだが、初来店らしき方が、スタッフに「これって、このまま食べていいんすか?」と尋ねていたのだ。
スタッフ曰く、皮を剥かなくても無問題らしい。
実は、書き手は、皮を剥くと爪にじゃがいもが入るし、ちょっとめんどいなと思っていたので、〈皮ごと〉は驚きであった。
そしてさらに、第二のじゃがいもに関する衝撃は、カリーを食べ進めてから、じゃがいものお代わりを注文する常連客が何人もいた事である。
書き手は、じゃがいもは、メインのカリーの前菜として捉えていたため、カリーを食べている最中に、じゃがいもをお代わりをする、という発想がなかったのだ。
ここで思い付いたのは、いかなるタイミングにおいても、じゃがいものお代わりが可能ならば、辛いカリーの完食後、お口の中に残った香辛料の辛さを、お代わりした馬鈴薯でリフレッシュすれば良いのではないか、という発想であった。
かくして、この日の書き手は、カリーの完食後にじゃがいもを頼み、ライスだけでは拭いされなかった口内の残辛を、何も付けない〈皮付き〉のじゃがいもで取り去ったのである。
〈訪問データ〉
エチオピア神田神保町本店;神保町・お茶の水
E18
十一月二十二日・火・二十一時半
野菜豆カリー:一〇二〇円(現金)
〈再訪〉
二〇二三年三月二十五日・土・二十一時
エビカリー:一〇八〇円(現金)
〈参考資料〉
「カリーライス専門店エチオピア」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、五十七ページ。
〈WEB〉
「会社概要」、『カリーライス専門店エチオピア』、二〇二三年三月二十六日閲覧。
それにしても、だ。
この店は、インド風カリー提供店であるにもかかわらず、何故に、アフリカの国名が店名になっているのか?
この疑問に対する店側の回答が、『エチオピア』のホームページの「会社概要」において為されていた。
創業が昭和六十三年四月、今から約三十五年前の一九八八年、ソウルオリンピックの年にまで遡る事ができる「エチオピア」は、その開店時においては、カリーのみならずコーヒーの専門店でもあって、つまるところ、店名は、エチオピアのカリーではなく、エチオピアの〈コーヒー〉に由来しているそうなのだ。
そして、カリーとコーヒーの店であった事の痕跡は、創業当初から掲げられている看板の中に残っている「自家焙煎珈琲」という文字によって示唆されている分けだ。
書き手は、エチオピアへの来店が初だったので、御多分に洩れず、インド風カリー提供店という実態と「エチオピア」という店名のギャップに疑問を抱いたのだが、かくの如き説明で疑問は氷解した。そして同時に思ったのは、書き手と同じような疑問を抱く訪問者も多いのだな、という感想であった。
さて、この日の書き手が注文したのは、ガイドブックにおいて推されていた「野菜豆カリー」であった。
店内には、一品ずつ調理しているので提供まで時間がかかる場合がある、という掲示がある。
エチオピアでは、注文後に外国人のスタッフが、前菜の如き〈じゃがいも〉を出してくれる。つまり、客は、このじゃがいもを食べながら、料理の提供を待つ事になる。
書き手は、皮を剥いて、塩やスパイスソルトを振り掛けて、じゃがいもをパクついた。このじゃがいもは、無料でお代わり可能なのだが、書き手は、カリーの前に満腹にならないように、出された二個だけで我慢したのであった。
ちなみに、じゃがいもの提供の前、つまり、食券を渡す際に、スタッフから、カリーの辛さを訊かれる。
エチオピアのカリーの辛さは、〇から七〇まである。つまり、辛さのレベルがは七十一段階になっている分けだ。こう見ると、一桁の辛さは大して辛くないように思えてしまうのだが、実際問題、例えば、適当に〈五〉で頼んでしまうと、エライ事になりかねない。
これは、入り口や店内の掲示物にも書かれているのだが、エチオピアでは、〈〇〉が通常の中辛、〈三〉が辛口、〈十二〉が大辛で、つまり、エチオピアは、甘口が存在しない、辛口カリー店と言って良いかもしれない。
店の入り口には、エチオピアのカリーに使われている香辛料が、その効能と共に記載されていて、その掲示物によると、それらは、カルダモン、コリアンダー、生姜、唐辛子、シナモン、キャラウエイ、フェンネル、クミンシード、ターメリック、胡椒、にんにく、クローブなどである。
やがて提供された野菜豆カリーは、ライスとカリーがセパレートになっていた。
書き手は、まず、野菜と豆がたっぷり入ったカリーを口に運んだ。
掲示物には豆カレーは辛さ〈三〉からとあったので、〈三〉で頼んだのだが、三は通常の辛口なので、やはり相当辛く感じた。
そして、味を確かめてから、ライスにカリーをかけながら、ただひたすら、匙で米とカリーを口に運び続けた。
食べ進めているうちに、発汗作用のある唐辛子とシナモンが効いてきたのか、身体の中から熱くなってきて、やがて、顔や頭の先から、尋常ではない量の汗が吹き出す、そのような皮膚感覚に襲われたのであった。
当然、口の中もヒリヒリである。
かなりの辛さを覚えた書き手は、ヒリヒリ感をライスで抑えようと、後半に多めの白米を残す戦術を採ったのだが、完食し、皿の上の「エチオピア」の文字が見えてしばらく経っても、辛さのせいでヒリっとした感覚はしばらく口内に残り続けたのであった。
次回は、ライスを大盛りにするべきかもしれない。
〈追記〉
書き手は、翌年の三月二十五日の夜に、エチオピアの神保町本店を再訪した。
二回目の訪問の際に、書き手は「エビカリー」を辛さ〈二〉で注文した。
今後、辛さに関しては、耐えられるレヴェルまで、訪店回数と辛さを対応させよう、と考えている。
さて、二度目の訪店は土曜日という事もあってか、東京以外から来ている人や初めてのお客が多い印象を受けた。というのも、辛さやじゃがいもの食べ方について、スタッフに質問している方が多く見られたからである。
辛さに関しては、掲示もあったので書き手は既にある程度理解していたのだが、じゃがいもに関しては、新たな知見が二つもあった。
まず一つ目は、書き手は、じゃがいもを皮を剥いてから食べていたのだが、初来店らしき方が、スタッフに「これって、このまま食べていいんすか?」と尋ねていたのだ。
スタッフ曰く、皮を剥かなくても無問題らしい。
実は、書き手は、皮を剥くと爪にじゃがいもが入るし、ちょっとめんどいなと思っていたので、〈皮ごと〉は驚きであった。
そしてさらに、第二のじゃがいもに関する衝撃は、カリーを食べ進めてから、じゃがいものお代わりを注文する常連客が何人もいた事である。
書き手は、じゃがいもは、メインのカリーの前菜として捉えていたため、カリーを食べている最中に、じゃがいもをお代わりをする、という発想がなかったのだ。
ここで思い付いたのは、いかなるタイミングにおいても、じゃがいものお代わりが可能ならば、辛いカリーの完食後、お口の中に残った香辛料の辛さを、お代わりした馬鈴薯でリフレッシュすれば良いのではないか、という発想であった。
かくして、この日の書き手は、カリーの完食後にじゃがいもを頼み、ライスだけでは拭いされなかった口内の残辛を、何も付けない〈皮付き〉のじゃがいもで取り去ったのである。
〈訪問データ〉
エチオピア神田神保町本店;神保町・お茶の水
E18
十一月二十二日・火・二十一時半
野菜豆カリー:一〇二〇円(現金)
〈再訪〉
二〇二三年三月二十五日・土・二十一時
エビカリー:一〇八〇円(現金)
〈参考資料〉
「カリーライス専門店エチオピア」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、五十七ページ。
〈WEB〉
「会社概要」、『カリーライス専門店エチオピア』、二〇二三年三月二十六日閲覧。
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