カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第93匙 スリランカのおふくろの味:スパイシービストロ タップロボーン神保町店(E17)

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 「タップロボーン」は、二〇二二年十一月現在、南青山、門前仲町、神保町と、都内に三店舗あるのだが、この日の昼に書き手が訪れたのは、三号店である神保町店であった。

 急ぎの用事があった書き手は、メニューにさっと目を走らせて「Bランチ」を注文した。
 そのBランチは、好みのカレー一品と、ロティ、イエローライス、ナンから主食を選ぶというもので、書き手は、フィッシュカレーと、ココナッツミルクで炊いたイエローライスを大盛りで注文した。
 そして、注文後、店内の様子を見ていると、多くの先客の前に、緑の葉っぱが置かれているのに気が付いたのだ。

 実は、それこそが、タップロボーンの代表メニューで、バナナの葉っぱを、包と皿にした「スリランカ式お弁当」たる「ランプライス」であった。
 もはや、注文を終えている為、今更なので、次回の訪店の際には、「ランプライス」にしよう、と固く誓った書き手であった。

 注文品の提供までの間、書き手は、いつものように、カレー・ガイドブックや、店内の書き物を読んで、待ち時間を過ごしていた。

 ガイドブックによれば、この店、「タップロボーン」は、「スリランカアーユルヴェーダ料理」をキャッチコピーにしている。
 この語は、小川町の「Gravy」を題材にした「第047食 エリア小川町のアーユル・ヴェーダの野菜ダルバート」においても既に言及した概念である。
 繰り返しとなるが、〈アーユル・ヴェーダ〉は、紀元前五・六世紀には体系化されたインド大陸の伝統的な医学・哲学で、直訳してみると、〈ライフ・サイエンス〉や〈生命学〉に相当し、つまり、食による、病気の予防や、身体作り、健康の維持に重きを置く考え方である。

 十月の初めに訪れた「Gravy(グレビー)」は、「ダルバート」を提供しているネパール料理店だったのだが、この「タップロボーン」は、スリランカ料理店である。
 両国共に南アジアの国で、その地理的位置は、ざっくり言うと、ネパールがインドの北東部の内陸国、これに対して、スリランカは、インドの南東にある島国である。
 要するに、インド発の〈食概念〉が、隣接している国であるネパールにも、スリランカにも伝播している分けである。

 ガイドブックやサイトを参照してみると、この店のオーナーの「カピラさん」は、既に日本国籍も取得しているそうなのだが、もちろん、スリランカ出身で、この店の料理に使っているスパイスは全てスリランカの自家製であるらしい。

 「自家製」? 
 日本にいて、スリランカの自家製って、スリランカ産の香辛料を取り寄せて、自宅で調合している、という意味なのかしら?
 このような疑問を抱いたのだが、どうやらそうではないらしい。

 店内にあった書き物で真相を知って、書き手は、その衝撃の事実に驚愕した。

 なんと、店で使っている全てのスパイスは、オーナーさんのスリランカの実家において、お母さまが、材料を選んで、独自の調合をして、「三週間に一回のペース」で日本に送ってくださっている、まさに、本場、スリランカのスパイスであるそうなのだ。

 やがて、灰色のプラスチックのトレイに置かれて提供された、黄色のフィッシュカレーと黄色のココナッツライスを食べながら、このフィッシュカレーに使われているスパイスも、オーナーさんのお母さまの手によって作られた、文字通りの意味の、スリランカのおふくろの味か、と書き手は考えていた。

 そして同時に——
「お母さん……」
 カレーを口に運びながら、実家の母の事を思う書き手であった。 

〈訪問データ〉
 スパイシービストロ タップロボーン神保町店;神保町・神保町
 E17
 十一月二十二日・火・十三時
 Bランチ(フィッシュカレー):九八〇円(現金)

〈参考資料〉
 「スパイシービストロ タップロボーン神保町店」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、六十二ページ。
〈WEB〉
 『タップロボーン』、二〇二三年三月二十四日閲覧。
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